「弾、これやるぜい」
「あ?何だコレ……映画のチケット?」
現場での休憩中、源三の野郎が映画のペアチケットを俺に差し出してくる。
「ラブストーリーらしいぜい。真夢誘っていってこい!」
源三はニカッと笑って親指をグッと立てた。
「お、おう……でも何でこんなモン俺にくれんだよ?」
俺はそう言いながら源三からチケットを受けとる。
「何か出先でたまたま貰ってよ。恋愛モノだっていうから、お前と真夢のデートにちょうどいいかなと思って……いらねえなら返せ」
「待て待て待て、わかった。ありがたく頂くことにするぜ。ありがとな」
危うく源三からチケットを取られそうになった俺は、慌ててそう言ってチケットをポケットにしまう。
「最初から素直にそう言え!いいか、コレ誘ってバッチリキメるんだぜい!?」
「うっ、うるせー!そう簡単に行くかよ……」
俺はブチブチ言いながら顔を赤らめる。
ラブロマンスものなんて俺の柄じゃねえけど、真夢なら喜んでくれるかな……まぁ真夢に言ってみるか……
…………
………………
そう言って俺たちが休憩から作業へ戻った後。
「……弾、行った?」
ミカが源三の後ろからにゅっと現れそっと聞く。
「ああ、ちゃんと受け取ったぜい。真夢も弾から誘われりゃ絶対オッケー出すしな!」
「映画見たら真夢びっくりするだろうなあ……ちょっとかわいそうな気もするけど……」
ミカがちょっと複雑な表情になる。
「何でだ?弾が真夢とうまくいけば弾も真夢も幸せ、俺たちも幸せ……win-winだろ!」
源三はそう言うとニカッと笑う。
「まぁ弾なら大丈夫か!おにーちゃんの弾を信じてやるか!」
ミカはそう言って親指をグッと立てる。
「おうよ!ったくあいつら、好き同士いつまでもグダグダやりやがって。荒療治が必要なんだよ。あの映画見てさっさとくっつきやがれってんだ!」
源三はそう言ってまた親指をグッと立てた。
そう。このチケット、実は源三とミカが用意したものだったのだ。
しかも内容は………
………
そんなことは全く知らない俺は。
仕事終わりに事務所に顔を出すと、愛しい女の姿を探す。退勤のチャイムはなっちまったがまだそんな経ってねえはずだ……
キョロキョロ事務所の中を見渡すと、すぐに愛しいシルエットを見つける。
ツヤツヤの巻き髪と肌に綺麗なおでこを出した最高の女が書庫の方から戻ってきた。
「真夢!お疲れ!」
「弾くん!お疲れさま!」
真夢は俺に気付くと笑顔で応えてくれる。ああ、その笑顔に癒される……
「あ、あのよ……急なんだけど、今日って暇か?」
「え?今日?うん、暇だよ。どしたの?」
俺はポケットからチケットを二枚取り出して真夢の前に差し出す。
「あのな、コレ……」
「これって……」
真夢が驚いた表情でそれを見て呟く。俺は何だか気恥ずかしくてすぐに目をそらす。
「き、今日源三の野郎から偶然もらったんだ……恋愛映画らしいんだけど、よかったら行かねえか?」
いつものオラオラ!イケイケドンドン!!の自分はすっかりなりを顰めて、まるで中学生のガキみたいにモジモジしながら話す俺。
だって俺はこいつのことが、真夢のことが好きすぎるんだ。
「え……私と……?」
真夢は驚いた表情で俺に聞き返す。俺は恥ずかしくて顔を真っ赤にさせながら「お、おう」と短い返事でコクンとうなずいた。
「あ、あの!嬉しい!行こう!」
そんな俺を可笑しく思ったのか真夢は一瞬吹き出しそうになるもすぐに優しい笑顔で微笑むと、チケットを受け取ってくれたのだった。
いよっしゃああああああOKしてもらえたぜええええ!!
俺は心の中でガッツポーズする。
「じゃあこの後行こうぜ。もう退勤だろ?待ってるよ」
嬉しさを噛み締めながら俺がそう呟くと、真夢も嬉しそうにニコニコしながら答えてくれる。
「うん!……弾くんから誘ってもらえるなんて思ってなかった……」
そう言って頬を赤らめる真夢のあまりの可愛さに俺の頭はまた爆発しそうになる。
もうこいつ可愛すぎてどうにかなっちまいそうだぜ……あああああああ可愛いいいい!!
ああくっそおおおおおお!!!デート楽しみだなあああああああああ!!!!
-—*-—*-—*-—*
そうして程なく退勤した真夢と二人、電車に乗り映画館へ向かう。
「隣の駅じゃないとやってない映画なの?コアなやつだね!」
真夢は嬉しそうに映画の内容を想像しながら笑顔で話す。俺は真夢の可愛さにニヤケそうになるのを必死に堪えてつまんねえ返事をする。
「わざわざ移動めんどくさくてごめんな」
「え!?いいよ、全然!……弾くんと一緒にいられて嬉しいよ」
そう優しい笑顔で目を細める真夢。
ああ俺今日大丈夫か?そんな事言われたら俺もう勘違いしちまいそう。
そんな俺の気持ちも知らず、横を歩く可愛い女は少し不安そうな顔を見せると俺に尋ねる。
「でも、私でいいの?」
「……え?」
あまりに唐突な問いだったんで思わず聞き返すと、真夢は。
「ミカちゃんとか、他の女の子じゃなくてさ……」
「何言ってんだお前!?俺がペアチケット貰ったら誘うのなんて真夢一択だろ!?……あ」
思わず俺はいつも思っている事をそのまま声に出してしまった。真夢相手には本音で話すのが当たり前になりすぎてて、つい……
それを聞いて真夢は顔を赤くして嬉しそうに微笑むと、少し俯きながらボソリと言った。
「そか……んふふ」
……ん?あれ……?何だこの反応!?
もしかして俺今告白しちまったのか!?
え?まさかまさか両想いだったりしたりしなかったり!!??
そんな俺の一瞬の脳内会議などお構いなしに真夢はすぐに顔を上げるが。
やべえ恥ずかし過ぎて直視できねえ!!!
「ほら、始まっちまう!急ごうぜ!」
「え?あ、そうだね!」
どさくさに真夢の手を握って映画館へと急いだ。握ったその手が柔らかくてスベスベしてて、それだけでドキドキしちまう俺は、自分の手が熱くなっていることで真夢の手も熱くなっていることに気づいていなかった。
そうこうしているうちに映画館へと到着し、中に入る。単館上映ってやつなのか?題名もよく知らないものだった。
「恋愛モノなんだっけ?どんなのなんだろうね」
「俺もよくわかんねえんだよ。恋愛映画なんてほとんど見ないからな」
そんなことを話しながら席を探して二人で座る。まだ上映までは時間があるからか、周りには俺たちくらいしかいなかった。
何だ?貸切気分まで味わえちまうのか??どんな特大ボーナスだよ!!こりゃ源三のやつに酒の一杯でも奢ってやらなきゃならねえな。
やがて照明が落とされて辺りが真っ暗になる。いよいよ始まりだ!と俺が少し緊張していると……突然俺の左手の上に暖かい感触を感じ……たかと思うと、柔らかいものが触れる。
「あ、ごめ……!手すりに手置いたら……」
「いや、別に全然!全く問題ないぜ!?」
俺は内心小躍りしそうなほど嬉しい気持ちを抑えながら、引っ込めようとした真夢の右手を逆の手でぽんぽんと叩いた。すると真夢も「そう?じゃお言葉に甘えて」と、俺の手の上に右手をちょこんとのせたままにしたのだった。
ちょっ……!可愛すぎるぜおい!?何コレ!?カップルみてえじゃねえ!!?
そんなこんなをしているうちに上映が始まる。真夢と二人、スクリーンに集中するが……
まだ他の予告画面が映されてるだけだが、はっきり言って内容なんて入ってこねえ。
それより俺は左隣の真夢が気になってしょうがなかったからだ!!
だって俺の左手の上には、真夢の細くて綺麗な右手があるんだぜ!?もうドキドキしてしょうがないに決まってんだろ!!
くそおおおおどんだけ拗らせてんだよ俺えええ!!!
もう焦りまくる俺に、その触れ合った手を通じて「大丈夫?」というメッセージでも送っているかのように優しく握り返してくれる可愛い女……堪んねえ……!
そんな真夢にうっとりしていると、本編が始まった。と、同時に……
『はっ、はあっ、ああっ!』
スクリーンから艶かしい嬌声が流れ始める。
「「!!?」」
俺と真夢はびっくりして画面を見ると、開始ゼロ分から裸の男女が激しく絡み合っていた。慌てて俺は真夢の方を見ると、真っ赤な顔をして俯いている。
そして空いている左手で顔を覆っていた……可愛いが過ぎる!! いや、じゃねえ!!
何なんだこの映画!?源三確か恋愛モノって言ってたよな!?いや確かに恋愛モノには変わりはねえんだろうけど、些かハード過ぎやしねえか!?
そして更に開始10分も経たないうちに画面の中の男女は……その、何だ?合体し続けている。よくわかんねえが俗に言う濡れ場……ってヤツなのだろうか。
何だかんだ言ってしっかり見る俺、マジ我ながらクソ童貞丸出しだな!!
そんなことを考えていると、真夢の手に少し力が入るのがわかった。
あ……コレヤバイんじゃねえか!?と思いチラリと横を見ると……
案の定真っ赤な顔をしたまま口をパクパクさせている可愛い女の姿がそこにはあったのだった。俺は慌てて声をかけることにする。
「ま、真夢、すまねえ……こんな内容って聞いてなくて……!」
「け、結構過激だね……?」
真夢はスクリーンから目をそらしつつ、でもちょっとチラチラ見ながら小さい声で答えてくれた。
「ごめんな……嫌なら出るか?」
源三の野郎!!!こんな映画のチケットよこしやがってどういうことだよ!?せっかくのムードがブチ壊し……
「いいよ。折角貰ったんだもん。最後まで見よ」
真夢は恥ずかしそうに俺の顔は直視できない様子でそう答える。
えっ、無理なんですけど俺、今真夢とこんなクソエロ映画見ながら二人きりなんですけど!?
俺は「そ、そっか」と答えてチラリと横を見ると、スクリーンの明かりに照らされた色白の美しい横顔がそこにある。
もうそれだけでドキドキする!!顔が見れねええ……いや見たいし見てるけど見たら目が離せなくなりそうで怖えぇ!
そんな俺の気持ちも知らず、映画はどんどんエロスを加速させていく。
何だよこの内容はよ!大体濡れ場ばっかじゃねえかおい!? これじゃ恋愛モノじゃなくてポルノの方が的確じゃねえか?
それに、これは非常に良くない。AVさながらのクソエロ映画だけでもヤベェのに、真夢と観にきてる上、手が触れ合って……ヤベ!!意識したら中心部分に血が集まり始めてきちまったじゃねえか!
これはまずい。非常にマズイ。何とかしねえと……ヤベえよコレ、真夢にバレないように鎮めねえと……
真夢の手の下の自分の手がじんわりと汗をかいているのがわかる。俺は自分がこんな感じだから、真夢の手も同じようにじんわり熱くなっているのにまた気が付かなかった。
離すのは忍びねえがこのままだと非常に良くない。映画が終わって立ち上がれなかったらどうすんだ!?別の所が立ち上がり過ぎて。
そう思った俺は飲み物を口に含み、軽くむせたフリをして真夢の手から自分の手を離す。
「弾くん大丈夫?」
真夢は心配そうに俺を覗き込む。
クソッッ!!本当はもっと真夢と触れ合ってたいのに離すハメになるなんて……!!
「……だ、大丈夫だ!ちょっとむせただけ……大丈夫だから……」
ああもう情けねえ!!好きな女が隣にいて手が触れ合っただけでこんなになるとかマジで小学生かよ俺は!?
そんな俺の気持ちを他所に、画面の中ではたまに普通のストーリー場面もあるものの、事あるごとに濡れ場が現れてその度に男女の営みがより激しさを増していくのがわかる。その度にスピーカーから大きな音が鳴り響くと、思わずビクッと反応しちまう。
こんなの真夢おもしろいのか……?
頭の中で円周率を唱えながら煩悩を振り払いつつ、真夢の方をチラッと見てみる。
すると、真っ赤な顔をしてスクリーンを見ながらも目が離せなくなっている様子だった。
え……真夢……ヤバイぜ真夢それはマジでヤベェって……
真夢がこんなクソエロ映画の濡れ場シーンを真っ赤な顔して、でも目が離せないで観てるって。どんなAVよりも効果覿面なんだけど全俺にとって!!?俺の頭から円周率から消え去ろうとしているじゃねえか!!
どうしよう。また手を握りたい。とは言えさっきも触れ合っていただけだけど。
でも、できねえ。だって手を握っちまったらもう暴走しかねねえよ俺は!?映画館で襲うとかありえねえだろ! 我慢するしかねえんだ!!
ああくそおおお!! ああ……柔らかい手だよなあ……温かいよなあああ……
……え?
気付くと俺は自分の意思とは裏腹に、真夢の手をそっと握っていた。
真夢も一瞬ビクッとしたが、その後優しく握り返してくれたのだった……
もう駄目だよコレええ!もう映画どころじゃねえ!! ああこんなん惚れるしかないだろクソおお!!!
「まく……」
いよいよ理性のネジが外れかけた俺が真夢の名前を呼びかけた所で、
「あんっ!!」
スクリーンとは違う場所から女の嬌声が聞こえてきた。
「「!!?」」
俺も真夢もギョッとして声の方を見やると、声を出したであろう女も慌てて口を手で押さえている。
こんな映画なのでほとんど客はいないのだが、それでもポツポツと点在している客はほぼカップルばかりだ。見れば、あちこちでそんなカップル達がスクリーンそっちのけでイチャイチャ……やそれ以上……しているのがわかる。
あっちではスクリーン顔負けのディープキスをしてるし、またあっちでは女の胸に手を置いて揉んでいる。
そしてまた別のカップルでは、女の……スカートの中に手を……!?
聞こえてくる嬌声や息遣いが、スクリーンからだけではないことに気づいた俺と真夢は。
「っ!!」
俺はバッ!!と真夢から手を離す。
マズイ。これ以上握ってたら本当にマズイ。理性も股間もこれ以上は拗らせ童貞の俺はもたねえ。
真夢も顔を赤らめながら慌てて手を引っ込めた。
ああ……折角いい感じだったのに俺の馬鹿野郎おおおお!?
いや、逆に発想の転換でこれ幸いと家にでも誘ってみたらどうよ?もうそんなムードになってるんじゃねえか!?
いやいや待て待て待て!!そんなにがっつくなんて童貞丸出しだろ!もっとこうスマートにだな……!そもそも告白さえまだなんだ、どうやって……
そんなことを考えつつも俺があれこれと頭をフル回転させている間に、映画は終わっていた。
-—*-—*-—*-—*
「すまねえな……こんなモン誘っちまって……」
「そんな事……弾くんが選んだ映画じゃないんだし」
あはは……と赤い顔で優しく笑い返してくれる真夢はマジで天使だと思う。
「でも……すごかったね。映画も、周りも……」
「本当にな……ったく、源三の野郎はどういうつもりでこんなモンよこしたんだ!?」
あいつも貰いもんだって言ってたから内容は知らなかったんだろうか。でも酒を奢るのはやっぱりナシだ!全く、あれこれドギマギして三キロは痩せた気分だぜ。
そんなこんながありながらも映画館を出て帰り道を歩いていく。辺りはもう真っ暗になっていて街灯だけが頼りだ。
そんな中でもハッキリわかるのはお互いの頬が赤いことだけだった……恥ずかしいけど嬉しい気持ちが先行してたからな、ただ二人で歩いているだけなのに楽しいのは、やっぱり真夢とだから……
そんな時、源三の野郎から俺に電話がかかって来る。
『おっ、弾。映画終わったか?』
「終わったか、じゃねえ!!何だあの映画!!」
『あれ、ダメだったか?無事真夢と観に行ったんだろ?濃いめの恋愛モノって聞いてたが違ったか?』
「バカ野郎!!あんなモンを真夢と一緒に観に行かせやがって!!何が恋愛モノだよ、あんなモン……最早ポルノじゃねえか!!」
最後のみ小声でそう源三にドヤす。
『え、そうだったか?いや〜そりゃ参ったなあ?でもよ、いっそその勢いのまま真夢をモノにしちまえ弾!』
「何言ってんだ!何考えてんだお前は!!そんな簡単にいきゃあ苦労はねえ……って、そもそもあんな映画観せたら真夢が怯えて嫌がったかもしれないだろうが!」
俺は小声ながら語気を強める。本当に何言ってくれてやがんだよコイツは!?
『いや、それはないと思うぜい』
「何でだよ!?」
『真夢の顔見てみろ。嫌悪感とかあるか?』
言われて俺は真夢の方をチラッと見てみると、真夢は無言で顔を赤くして目を潤ませている。俺と目が合うと紅潮した顔で微笑んでくれる。
「……嫌悪感……ではねえ、かな……?」
俺は小声で答える。……すると源三が上機嫌で話し出す。
『なっ!?だから頑張れって弾!!』
「うるせえわ!そんな事で電話してきやがったのか!?」
『あ、いやそうだった。肝心な事を忘れるとこだったぜい。弾、お前達今どの辺にいる?』
「あ?えーとだな……」
俺は辺りを見回して大体の場所を告げる。すると源三が
『お、良かったぜい!丁度その辺りに創作料理の店があんだけどよ。映画の半券見せると30%引きになるんでい』
と告げて来る。
「おお!!マジか!?」
そんな上手い話がと一瞬思ったが、まあ源三の奴は顔が恐ろしく広いこの街のヒーローって感じだからな。ってことは本当の事だろう。
『ああ本当だぜい!今から行くなら先に口きいといてやっから。だから真夢に腹一杯食わせてやれよ?せっかくあんなエロ映画まで奢……あ、やべ』
「ん!?お前今なんて!?」
『いや、何もないぜい!とにかく真夢にいーもん食わせてやれ!そんでその後はその真夢を……』
「だーーーっ!!もうわかったから切んぞ!」
俺は半ば強引に通話を終了する。本当にこいつの考えてることはよくわかんねえな……俺をおちょくってるだけか?それとも純粋に友達思いなのか……?
「源さん?何て?」
可愛い声が聞こえてきてハッと我に帰る。
「ああ、何かこの半券持ってくと源三の知り合い?の店が安くしてくれるらしいぜ」
「本当〜!?嬉しいね!!」
真夢は本当に嬉しそうに喜んでくれた。その笑顔はどんなエロ映画よりも……って、何考えてんだ俺は!?落ち着けよ!!さっきもそれで暴走仕掛けただろうが!冷静にだ、冷静に……!!
「ああ本当だ!だからさっさと行こうぜ!」
そんな会話をしながら俺達のデート?はまだ続くのだった……
-—*-—*-—*-—*
数分後。俺と真夢はとある創作料理屋の前に立っていた。
本当に半券を見せたら30%オフになるのか?不安になってきたな……結構洒落た店っぽいし、普段は入らないようなトコだもんな。
「お、お洒落だね……」
「な……ま、入ってみようぜ」
俺も真夢も少しビビりながら扉に手をかける。例えオフにならなくても真夢と美味いもんが食えるんならいいか。何とかなるだろ!
そんな思いで一歩足を踏み入れると……
「いらっしゃ……あら〜?アナタもしかして、弾くん??」
俺や源三も顔負けの、なんなら鬼頭組の嵐くらいにガタイのいい、ムキムキの筋肉質だが上品で小綺麗にしている店のオーナーらしき男性が、俺の方を見てそう話しかけてきた。
「え?あ……ああ、そうです……けど……」
俺はオーナーと思わしき男性に答える。するとその男性は俺を見ながらにこにこ?にやにや?とした笑顔を浮かべながら話し始めた。
「あら〜!やっぱり!源ちゃんから連絡は貰ってるわ。もしかしたらとは思ってたけど!そうかーアナタが弾くんか〜!」
見た目はthe!ゴツイダンディー!って感じだが、立ち居振る舞いや柔らかな口調から所謂オネエの方なのかなと推測する。
「あら!じゃあそっちの可愛子ちゃんがまくらちゃんだ!そうでしょ!?」
オーナーにそう言われた真夢が慌てて挨拶をする。
「違います!?あ、いえ、可愛子ちゃんなんてとんでもないですが、私が真夢です!初めまして、今日はお邪魔させて貰うみたいで……」
真夢はこの大きいオネエさんにも全くたじろぐ事なくにこやかにしている。
……やっぱり真夢ってすごいな、と改めて思う俺だった。
それこそ誰もが驚く大男の嵐にも全くビビる事なく普通に接して秒で籠絡しちまってたもんな。人を見た目だけで判断しない。見た目どうこうじゃなくて、ちゃんとその人自身を見ようとしている。かと言って本当にヤベェような奴にはもちろん近づいたりしねえから、審美眼が本当にしっかりしてるんだろうな。
そしてそんな真夢の事を俺は本当に尊敬しているし、だからこそ守ってやりたいとも思ってるんだ……ああくそ!!何かまた余計な事考えてんな俺!平常心だ!落ち着けよ俺……!
そんな俺の内心を全く知る由もないオーナーが話しかけてくる。
「まあまあ!源ちゃんの言ってた通りね!」
オーナーはクスクス笑いながら真夢に声をかける。
「ええ〜、源さん何て言ってたんでしょ?」
何か怖いな、と真夢も笑顔で返すとオーナーはにっこり笑って返す。
「ふふ、見た目だけじゃなくて、中身もとっても可愛いって」
「何!!!?」
思わず声が出る俺。
源三の野郎、真夢の事をそんな風に!?真夢は確かにハイパー可愛いし俺の天使だが、他の野郎にそんな風に言われんのは気に入らねえな!?
「わああ……。嬉しいですけど照れますねえ……」
叫ぶ俺をよそに、真夢は少し顔を赤くして頬をポリポリと搔きながら呟く。
そんな仕草もいちいち可愛いぜこんちくしょう!!
俺はメラメラと嫉妬の炎を燃え上がらせる。
「でも、よくすぐ弾くんってわかりましたね?」
真夢がそう聞くと、オーナーさんはうふふと笑う。
「すーぐ分かったわ。弾くん、源ちゃんの言う通りだったから……あら、こんな事言ったら怒られるかしら」
「え?俺が?」
俺がそう言うと、オーナーさんはにこやかに話す。
「い〜い男だけどバンダナ巻いた厨二臭い筋肉野郎が美人連れて来るからって」
「…………」
源三の野郎……!!!誰が厨二だ!!?俺だよな!?分かってらあ!!その通り過ぎて言い返せねえわ!!
しかし真夢は納得いかないみたいな顔をしている。
「弾くんはただのハイパーイケメンです!!それで、私はそんなものでは……」
そう言って赤い顔をする真夢。
何だ!?俺はこの場でお縄になってもお前に抱きつけばいいんか!!?
そんな俺に構わずオーナーさんは話を続ける。
「まあーーーー〜……正直女子なんてもう本当専門外だけど、これは、アレねーー〜……お連れさんのイイ女っぷりときたらハンパないわね。苦労するわねアナタ」
と小声で俺にニヤッと笑ってから、真夢を見て今度は少し優しい表情をする。
ああオネエさん相手でも真夢の人誑しは通用するんだな……と俺は苦笑する。当の真夢はあまり聞こえていないのか俺たちの様子をキョロキョロ伺っている。
「まあいいわ!じゃあ一応業務上の確認として半券見せてくれる?」
そう言われ俺と真夢はオーナーさんに半券を差し出す。それを見たオーナーさんは笑顔でオッケーサインを出し、真夢に話しかける。
「オッケーよ!えと、何だっけ、まくらちゃん?」
「はい!」
「ふふ、まくちゃんは何か苦手なモノある?食べられないものとかアレルギーとか」
聞かれた真夢はうーんと考えて遠慮がちに答える。
「アレルギーはありません。本当は何でもとお答えするべきだと思いますが、ごめんなさい、きゅうりだけはどうしても食べられません……あと飲めますが、コーヒーも少し苦手です。気分が悪くなることがあって……あ、生の牛乳も……」
「牛乳はもともと生だろ?」
俺がツッコむと真夢は「あ、そか!?」と赤くなって笑っている。可愛い。今すぐ飛び掛かりたい。
真夢の答えにオーナーさんは笑顔で頷く。
「正直でよろしい。苦手なモノの一つや二つあるわよね。苦手なモノって接してる部分さえ食べられないじゃない?匂いが残って。無理な我慢したり体調崩してまで摂るものなんてないわ」
優しいオーナーさんの返事に真夢もありがとうございますと顔を綻ばせる。
「全く、悔しいけどホント可愛いわね。それでアナタは?何か苦手なモノある?」
「無いっすね。アレルギーも何も無いです」
「でしょうね」
俺の答えに秒でそう答えるオーナーさん。いやまあ確かに俺は好き嫌いが全く無いが……何で即答だよ!?
「じゃあそれでオッケーね!早速準備するわ!」
そう言うと厨房に引っ込んで行ったので、俺と真夢も席に着くことにしたのが、オーナーさんがメニューで話したいことがあるからと俺だけ呼ばれて、真夢は飲み物でも飲んで待っててくれと言われた。
何の疑いもなく真夢は素直に席で待ち、呼ばれた俺は厨房の方へ向かう。
するとオーナーさんは、真夢には見えない角度と聞こえない声量で俺に向かって話し出す。
「あんちゃん、お前、あのねえちゃんにいくらまでなら出せる?」
あまりの変わりように別人に話しかけられたのかと俺はキョロキョロする。
「え!?あの……」
見ると顔つきもさっきまでの優しいオネエさんじゃなく嵐顔負けの迫力になっている。
何なんだこの変わりようは??俺の頭は大混乱だ。
俺がパニックになってるのを全く介さず話を続けるオーナーさんは、
「ああすまねえな。本気の時はどうしてもまだ男が出てきちまうんだよ。本質はさっきの優しいおねえさんだから安心しろ」
と続けるが、いや今そう言われてもはいそうですかとは言えないぜ!?って感じだけどな!?
「源三にはな。本当はあんちゃんのこと、バンダナの童貞厨二って言われてたんだ」
何!!!?あのクソ野郎そんなことを!!?そんで間違ってねえよこん畜生!!!
「そんで、あの超いい女のねえちゃんを心底好きで、どうしても落としたがってるとも」
「……」
そんなことまで……どんなつもりなんだあいつ……!?
でもそれは紛れもない事実でもある。俺は黙ってオーナーさんの言葉に耳を傾ける。
「そんであのねえちゃん、本当にすげえいい女だな」
「……」
俺は無言になるがオーナーさんは構わず続ける。
「俺の見てくれと内面のギャップに大抵の奴は面食らうが、全くそんなそぶり見せなかったな。あんな感じのいい女を落とすのはそりゃ大変だぞ?だから条件次第で俺が手伝ってやるかと思ってな」
「条件?」
オーナーさんは頷く。
「だから、幾らまでなら出せるか聞いた。半券効果はもちろんアリだ。アンタの本気が聞きたくてよ」
俺は考える。何が正解かは分からねえが、とりあえず嘘や取り繕った所でどうしようもないので正直に答えることにした。
「真夢の為なら幾らでも出してやりてえ……ってのが本音だが、それで自滅する訳にもいかねえ……三万……いや、五万……までで何とかして頂けると嬉しい……です……」
クソッッ!!クソカッコ悪ぃ!!
これが大龍なら幾らでも、店ごと買っちまえるんだろうが、俺のような駆け出し大工にそんな金がある訳はねえ。するとオーナーさんはニッと笑って俺の肩をバンっと叩く。
「イッッテ!!?んな……!?」
俺は叩かれた肩をさすりながら思わず声をあげてしまう。超痛え!!!超力強えなこの人!!?
「正直によく言った!!それに十分な金額だ!!あのねえちゃんといい、正直で潔いのが一番だ。金額が全てじゃねえ!!」
俺は目をぱちくりさせてオーナーさんを見る。何だ!?納得してもらえたのか!?
「いいか、あのねえちゃんは絶対に手放さねえほうが良いぞ?ああいう女はいつ誰に横からかっ攫われるかわかんねえからな?可愛い顔、声、いい中身、綺麗な髪や肌、大きな胸まで……俺が欲しいものを全て持ってる……悔しいくらいに!」
オーナーさんは本当に悔しそうに唇を噛んだ後、真剣な目つきで俺を見つめる。
「いいか、じゃあ一万円だけ払ってくれ。それで俺が最高の料理を振る舞ってやるからよ!」
ああ……やっぱりこの人すげえいい人だ……!!俺は思わず頭を下げる。
「ありがとうございます!!よろしくお願いします!!」
そんな俺の頭にまた手を置いてわしゃっと撫でながら言う。
「童貞厨二なのに、あんなクソエロ映画観てきたんだろ?頑張ったな。それであの和やかな雰囲気でこの店に入ってきたんなら、勝ったも同然だ!このアタシに任せなさい♡」
最後には優しいオネエさんに戻ったオーナーさんがウインクして、俺を席に戻して厨房に入っていく。童貞厨二だけは撤回したいが事実なのでどうしようもない俺も、感極まった様子を必死に隠して真夢の待つ席に着く。
「何の話してたの?メニューの相談だっけ?」
真夢が聞いて来るので、俺は笑顔で答える。
「おう!とびきり美味いの作ってくれるみたいだぜ!」
それを聞いた真夢もぱあっと明るい笑顔で
「わあ本当!?嬉しい〜すごい楽しみ!!」
とはしゃいでいる。うん、やっぱり真夢は可愛いなあ……そんなことを思ってる俺はやっぱり心底真夢に狂ってる。二人で楽しく話しているうちにオーナーさんが厨房から顔を出す。
「さあ準備できたわよ!楽しんで!」
俺と真夢の前に並べられたのは……
何だこれ!?すげえ豪華な料理がずらり並んでるじゃねえか!!たまにテレビで見るスペシャルメニューよりはるかに豪華だぞ!?
いやこれ一万円じゃ到底無理なんじゃねえのか……と驚いている俺と、ただただ驚きと感動に目をぱちぱちさせて口をあんぐりさせてしまっている真夢(可愛い)にオーナーさんはニコニコしながら言う。
「どーしたのよ弾くんもまくちゃんも。気に入らなかったかしら」
きゅうりは入れてないわよ、とオーナーさんは冗談を言っているが。
「いえ……どうしたもこうしたも……だってこれ……」
「ね……すご過ぎる……美味しそう……綺麗……!でも、あ、カードとか使えますか!?」
俺も真夢も豪華すぎる料理にビビりまくっている。
「なんだそんなこと!?源ちゃんの紹介と、さっきのメニュー決めで弾くんともお友達になったんだから大丈夫よ〜!安心して食べてちょうだい!」
だから気にしないでくれと言われ、俺と真夢は顔を見合わせる。ここまでしてもらっていいんだろうか……でも遠慮しすぎも良くないと思い直してお礼を言うことにした。
「ええ……凄過ぎてどれから食べればいいかわかんない……」
「な、どれも美味そう……」
「安心して、美味しいわよ」
オーナーさんは相変わらず冗談を言って笑っているが、美味そうなだけじゃなくどれも栄養バランスもよさそうで綺麗だ。食うのが勿体無いくらいに。
「本当に頂いても……?」
「だからいいって言ってるでしょ!?んもう、怒るわよ!?」
言われた真夢は「すみません!?」と慌てた後「いただきます!」と元気よく挨拶してすぐに料理を食べ始めた。いつも通り、美人なのに大口であむっと頬張ってる真夢が可愛くてしょうがない。そして一口食べると感動して興奮気味に俺に言って来る。
「うわ〜美味ひいっっ!!ねえ弾くんこれすごく美味しいよ!?早く食べて!!ほら早く!!」
そう言って真夢はすぐに次の一口を幸せそうに頬張っている。俺も口に運ぶと……
「うお、何だこれ!?」
思わず声が出ちまうくらい美味い。柔らかく煮込まれた肉や野菜の味を生かすようにあっさりとした味付けなのに深みがある。ソースも絶品だ。フルコースみたいな豪華さにも関わらず一つ一つの素材の良さが引き出されていて、食材同士が喧嘩することなく調和しているように見えるから不思議だ。
「本当ーーーーっに美味いな!!?」
「ね!?もう私どうしよう!?」
そんな俺たちの様子を見ていたオーナーさんが口を開く。
「二人……特にまくちゃん、料理の写真とか撮るタイプじゃないのね?」
そう聞かれ、真夢はハッとする。
「あっ!?そうですよね、ごめんなさい!こんなに綺麗なんだから食べる前に写真撮るべきでしたよね……もう本当に美味しそうで、早く食べたくて……食べるのが大好きで……写真忘れてました……!」
ああ可愛いな俺のツレ最高かよ本当に結婚しよ(真顔)じゃなくて、慌てて俺も軽くフォローする。
「だよな真夢、いつも料理の写真撮らねえよな。一秒でも早く食べたいからって」
そんな俺達の様子を見ていたオーナーさんが口を開く。
「……ね」
「「え!?」」
俺達が聞き返すと。
「最っっっ高ね!!!アメージングよ!もうお手上げよアタシの負けだわ本当!!」
「「!!?」」
大声で言うオーナーさんに俺も真夢もびっくりする。周りのお客さんもチラホラいるが、常連さんなのかあまり気にしてなさそうだ。
「ああ〜もう!!料理人冥利に尽きるわよね!写真撮ってくれるのもそりゃ嬉しいけど、一刻も早く食べて欲しいのが本音だもの!あったかい、冷たい、それぞれの最高のタイミングで!」
と叫ぶオーナーさんに俺は慌てて言う。
「いやいやいや、真夢は食いしん坊なだけっすよ!?」
「何ぃ!?でも恥ずかしいけどホントそうですよ!」
すると更に大きな声で叫び返す。
「だからっ!!それが最高だって言ってるのよっっ!!もう!!待ってて、追加のものプレゼントしちゃうわっっ!!」
そんなことを言ってくねくねしてるがオネエさんそれ怖えよ!?真夢は面白そうにあははって笑ってるし!そんな姿を見た俺もつい吹き出してしまうのだった。
「楽しいし美味しいし、弾くんといられるし私幸せ。何?私いぬの?」
「いぬなよ。俺と生きてくれよ。それに安心しろ、俺の方が幸せだから」
(……何でこの二人、これで付き合ってないの??)
オーナーさんがそんな事を思いながら厨房へと向かって行ったなんて事は知るはずもない俺たちは、幸せな食事を続行する。
それからもオーナーさんは続々と綺麗で美味いものを持ってきてくれた。俺も真夢も喜んでモリモリ食べるが、やはり細身の真夢が俺顔負けの食べっぷりなのはどうしたって目立つ。
「よく食べるわねえ……こんなに細いのに、栄養は全部その出っ張りにいってるわけ?」
オーナーさんのぼやきが聞こえるが、うん、俺もいつもそう思ってる。
「おいしー!これ何ですか?」
「うふふ、それはうなぎよ」
「これは?」
「牡蠣とレバーよ」
「全く臭み無くて最高です……!このアボカドもおいし〜……!」
真夢は心から幸せそうに食べているので、見てるこっちも幸せな気分になってくる。何だか滋養強壮に効くようなもんばかりな気がするが気のせいか?
「あれ、これはもしかして……」
「そう、白子よ♡」
「えー〜!?すごい高級食材ですよね!?魚の……どこでしたっけ?」
「タラやふぐの精巣ね。今日は奮発してふぐの白子よ!」
オーナーの発言に俺はブッと口から吹き出しそうになる。そんな高いモン、もう一万円なんかじゃ到底足りねえよな……!?それに……
「あーそうだ、精巣か!すごい……ふぐの精巣なんてバチがあたりそう……!」
とか何とかいいつつ、見た目はグロテスクで部位的にもグロテスクなものを真夢は一口でもぐもぐと幸せそうに頬張っている。
「うふふ……美人が口一杯にパンパンの精巣詰め込んでるなんて背徳的ね……」
真夢の食べる姿を見るオーナーさんの目が怖い。いや、それ俺も思ったけど口に出したら引かれるぞ!?俺が必死で止めさせようとしていると丁度良く追加の小瓶が俺の前にだけ運ばれて来る。
「これは?」
「あ、それは弾くんだけどうぞ。すっぽんのエキスと生き血よ。まくちゃんはこっちのコラーゲンのすっぽんスープ飲んでね♡」
笑顔で真夢にスープを渡して喜ばれているスキに俺の顔をチラッと見て
『グッといけグッと!強烈に精がつくぞ!』と口パクしてくる。いや、あんた何考えてんの!?
俺が驚きと照れであたふたしているとオーナーは怖い顔をしてくるので慌ててグッと飲み干す。
まっっず!……くはないが個性的な味で、本当に何だか精がつきそうな味だ……どうしてくれんだよ!?
「はーい、よくできました♡じゃあデザートワインでお開きね!」
オーナーさんはそう言って俺たちに普通の店じゃ入れてくれないような量をたっぷり入れてワイングラスを二つ俺たちに渡してくる。
「! すごいいっぱい入ってますね!?」
真夢は目を輝かせるが……いやいや、さすがに一万円でこれはやりすぎだろ……?そんな俺の心配をよそにオーナーさんはにっこり笑う。
「アタシの気持ちだから気にしないで」
いや気にするわ!?でもそう言われちゃ引き下がれねえよな……それに俺もすっぽんだか生き血だか知らないが精がつくもんガッツリ食っちまったしよ……!
「ねえ、今日の映画どんなだったの?」
ワインを飲み終わった頃オーナーさんが聞いて来る。いやアンタさっきエロ映画だって知ってたよな!?ん!?そういや何で知ってんだ!!?
聞かれた真夢はぼっ!!と音がするくらいに真っ赤になって慌てている。
「あ……えと、その……」
折角あんなトンデモ映画のことは忘れていい感じで食事してたのに……!
でも俺達の様子を見てすぐに察したオーナーさんはニヤッとして小声で囁く。
「あら〜?まくちゃん真っ赤ね?もしかして少し刺激的だったのかしら?かまやしないわよそんなの!若いんだから!」
「えと……その……そういうもんでしょうか?付き合ってもいない男女が一緒に観ても……?」
真夢は赤い顔をして超特大の刃を俺に突き刺してくる。『付き合ってもいない』、事実だがそりゃねえよ真夢!!!
そんな瀕死の俺の様子を見てオーナーさんもあーあーという表情だ。
「……まくちゃん、アナタだいぶ罪な女ね」
「ええっ!!?」
真夢は多少酔いが回ったのかふわふわした感じであたふたしている。
特大刃が刺さって瀕死の俺を横目で見つつ、オーナーさんは明るく笑う。
「なら付き合っちゃえばいいじゃない、今から!」
「「ええ!!!?」」
いや何言ってんの!?!?真夢も何か反応してんじゃねえか、何口パクパクしてんの?『とんでもない』ってか!?そりゃねえよ!!
「ほら〜♪なんだか二人見てたら付き合っちゃえって感じでさ〜!ほら、ちょっとだけおかわりどうぞ♡」
そんな俺たちの様子を見てオーナーさんは何だかイタズラ心満載の様子でそう言って高いワインを半分ほどついで来る。そして何故か俺の肩を叩くと小声で言う。
(これは貸しだからね?)
はあ??一体何の貸しなんだよ??それで真夢に嫌われたらどうす……はっ、真夢は!?どんな顔してんだ!?!?
そう思って真夢を見ると、超特大刃の傷も癒えるくらい……可愛い笑顔だった。でもこっちを見た瞬間また真っ赤になってあわあわしてるけどよ……!クソっ!可愛いな!!いや違うそうじゃなくて……!!
「あら大変。まくちゃん真っ赤ね。少し飲ませ過ぎちゃったかしら」
「え?普段もっと飲めるよな真夢、大丈夫か?本当に赤いぞ顔」
(それはアンタといるこの流れだからでしょ!?!)
オーナーさんはそう突っ込みたいのを我慢して、俺達にコーヒーではなくシメの紅茶を出してくれる。
「少し休んで行った方がいいかもしれないわね。……あのね、すぐそこの通りに知り合いの店?があるのよ。そこ取っといてあげましょうか」
「ここもう閉店なんすか?もう少しここで休んでいけば……」
俺の言葉にオーナーさんは嵐顔負けの凄みで睨んでくる。怖え!!俺そんな悪い事言ったか!!?
「あーー〜、アタシはこの後ちょっとアレでソレがアレなのよ。だからそっちで、ね?」
「え?どんな店ですか?」
真夢の問いかけにはオーナーさんは優しく答えてくれる。
「行けば分かるわ!いいお部屋よ♪」
部屋!!?!? 部屋ってそりゃまさか……!?
「ちょーーっと、見た目はラブホテル?的かもしれないけどね?まあそんなようでもあり、ないようなもんだから大丈夫よ」
ラ……ラブホテル!?!もう一度言う、ラブホテルだと!!?俺と!?真夢が!!?
「何言ってんすか!?」そう言って止めなきゃなんねえのに、盛大にテンパっちまった俺はそれは凄まじく反応を間違える。
「だってよ、真夢。ははは、行ってみっか?」
あれ。俺、今、何て。
そんで、何で!?何でそんな事言っちまったんだよ俺は!!?
俺が己の失言にしどろもどろになっていると、真夢はまたも顔を真っ赤にしながら満面の笑顔で答えた。
「……うん……」
(え!?!)
(いよっしゃ!まくちゃんナイス!!)
俺とオーナーさんの心の声はそれぞれ違うが。
真夢、お前、今なんて。
うん、そう言ったのか?それは、その、俺と……
「弾くんと、……ううん、弾くんが嫌じゃなければ、行って……みようかな……」
あっ無理です俺は、この可愛さに耐えきれません。
真夢はそんな俺の手を取って自分の頰に押し当てて更に笑って言うのだった。
「やっぱりちょっと酔ってる、かな?私。あっついよね顔」
(行く気か!?)
(行っちまえ!!)
もう俺たちの頭の中は大混乱だ!確かに真夢の頬は熱いけど柔らかくてぷるぷるしてて食っちまいたいうん駄目だ何が何なんだか俺ももう分からない!!!!!
そんな俺たちを見てオーナーさんはスマホでなにやら数秒作業すると「はい完了〜♪いつでも行っていいわよ!」と言ってくれる。
「じゃあ善は急げね!はい行ってらっしゃい!またここにも来てね!」
オーナーさんはそれは綺麗な笑顔で答えてくれるのだった。俺と真夢もそう言われて流れで退店の用意をする。
「ごちそうさまでした!何から何まで、紅茶まで全部!美味しかったです!絶対また来ます!」
真夢はそうキラキラの笑顔でオーナーさんに挨拶をする。
「まあーーー〜どういたしまして!ダメね、何だかアナタ見てるとアタシの中の封印してるパンドラが開きそうよ?」
そうオーナーさんはため息を吐くが、真夢は「?」といった面持ちだが、俺としては待ってくれ。それはつまり男の部分がって事だろ!!?やめろよ!!
そんな俺の内心を知ってかオーナーさんはニヤリと「冗談よ♡」と言って来る。本当に冗談か!?
まあそれはひとまず置いておいて、俺もお礼を言って会計をする。
「本当にありがとうございました。マジでどれも美味かったです。……本当に一万円でいいんすか?」
「女子に二言はないわよ」
色々突っ込みたいけど我慢して、俺はトレーに二万円を置く。
「? 一万円って言ったわよね?」
「だから、一人一万です。これでも本当は足りませんよね?」
「二人で一万円でいいって言ったのよアタシは」
そう言ってオーナーさんは一万円を返してこようとするが、俺は頑として受け取らない。
「ダメっすね。いくらご厚意でもこれくらいは受け取って頂かないと」
「そうだよね、弾くん。私も出す……」
「それもダメだ真夢。これくらいは俺にカッコつけさせてくれよ」
三人の押し問答が続いたが、オーナーさんは根負けしてくれた。
「はあ、わかったわよ。もう……意外と頑固なのね。でもかっこいいわよアンタ。ねえまくちゃん?」
「はい!お二人ともありがとうございます!」
真夢は満面の笑顔でそう言って頭を下げた。
「はーー〜、こりゃダメだ。こっちもソートーイイ女だわ。もうお似合いよ!絶対また一緒に来て!!」
そう言ってくれるオーナーさんの言葉に俺と真夢は顔を見合わせて笑ったのだった。
最後にお礼を言って店の扉を開けると外はすっかり夜になっていたが寒くはなく、むしろどこか心地いい風が吹いていた。俺たちの間に流れるのは少し気恥ずかしい空気だったが、まだもう少しこうしていたいような気持ちのいい時間だと感じ、言われた店へと二人で歩く。
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程なくして言われていた店に到着する。
見た目はそれほどtheラブホテル!という感じでも無く落ち着いた外装で、ちょっと安心したが緊張は免れない。
意を決して中に入ると、受付の人にさっきのオーナーさんの名刺を見せる。
「オーナーから伺っております。こちらのお部屋になりますね」
「え、オーナー??」
俺と真夢が聞き返すと受付の人は落ち着いてにこやかに返してくれる。
「はい。このホテルもあちらのレストランのオーナーのものですので」
何だそりゃ!?あのオネエさんすげえやり手の経営者じゃねえか!!
そんで嘘ついてここに来させやがったな!?マジでもう足向けて寝られないレベルだぜ!
部屋番号を告げられ、カードキーを受け取るとエレベーターで階を上がる。
真夢の顔をチラッと見ると、少し強張った感じがしている。でもきっと俺もそうだ。酔いのせいなのかこんな場所だからなのか頬が赤いが、それもきっと俺もそうだ。
そうしてルームの前に立つと、心臓が高鳴る中ドアの鍵を開けて中に入るのだった。
