sweet jealousy 中編

「あ、真夢!!」
「良かったぜ、来てくれたんだな!」

 待ち合わせ場所に行くと、そこには既にみんな集まっていて、私を見つけるなり駆け寄ってきてくれる。
「ごめんね、みんな!心配かけて……もう、全然平気だからね!」
精一杯明るく振る舞う。
 でも、弾くんがいない……何で……まさか……
心配そうにしているのが伝わったのか、
「おお、その様子じゃ、大丈夫そうだな。弾は今、間が悪くて便所行ったとこでぃ」
そう言って源さんが笑う。それを聞いて私もホッとする。
「そうなんだ。うん、ありがとう。みんなに心配かけちゃってごめんね。あ、ミカちゃん、カンナちゃん、浴衣可愛いね!!」
「あ、ありがとう……でも真夢、アンタそれ……」
ミカちゃんカンナちゃんは約束通り可愛い浴衣を着ている。2人ともすごく似合ってる。この2人に好かれている源さんは本当にすごいなあ、と改めて思う。
そして、私は……
「ごめんね、約束してたのに……」
ワンピースを着ていた。どうしても、浴衣を着てお祭り!というまでにはなれなくて。
「いいよ、別に!すっごい可愛いワンピースじゃないか」
「そうそう!何なら明日もまた来ちゃえばいいんだし!」
ミカちゃん、カンナちゃんがフォローしてくれて、私は嬉しくなった。
「2人ともありが……」
「あーーーーーーーーーーーっ!!!!!」
2人にお礼を言いかけたところで、突然大きな声が聞こえて皆んな飛び上がった。声の主は……
「だ、弾くん……!?」
「真夢、お前……お前……!!!」
わなわなと震えている。トイレから戻ってきたみたい。
「へ??」
「何で浴衣じゃないんだよ!?!?」
漫画で言えば涙目みたいな顔してる。
「え、だって……私も浴衣……着たかったけど……」
「けど、何だ!?」
「そ、それは……」
「何だい弾!!そんな事くらいで大声出して驚かせんじゃないよ!!真夢は何着たって可愛いだろ!!」
ミカちゃんが弾くんに抗議するけど、弾くんは
「そんなのは分かってる、当然だ!!でも、俺は楽しみにしてたんだ!!真夢の浴衣姿見れるって……それなのに、それなのに!!何でなんだよーーッッ……」
と言うなり見るからにしょんぼりしてしまった。
「弾……お前……」
「弾くん……」
弾くんの様子を見て、みんなも呆れているみたいだったけど、私はちょっとだけ拗ねたように言ってみる。
「……これは、いつか『誰か』と、もしもデート♡とか出来たらいいな……と思ってとっておいた、一張羅のワンピースだったんだけど、ダメだったかなあ……」
『誰か』をちょっと含みのあるように強調して言うと、
「うぐっ……!」
と、今度は胸を押さえながら苦しそうにする弾くん。
「そんなの、ダメなわけないだろ……!」
「本当?そうなの?」
「でも……でもよぉ……!!」
まだ何か言いたげにしてる弾くんに
「弾くんが気に入ってくれないなら、着て来なきゃ良かったな……」
涙目上目遣いでそう言ったら、弾くんはもう何も言えずに黙ってしまった。
「うっ……ま、真夢……分かった……俺が悪かった……許してくれ……ぐはぁっ」
そしてしゃがみ込んでしまう。
「キュン死にしてやんの、ざまあ」
「あはは、行こ行こ」
ミカちゃんとカンナちゃんは笑いながら歩き出した。
「さすが真夢だな……あんな手を使うとは……」
源さんが感心したように呟く。
「いや、あれは……ただ、弾くんに気分変えて貰いたくて……」
「それでも充分過ぎるほど効果はあるだろうが。弾のヤツ、今頃心臓バクバクだぞ」
「え?ホント?やったあ!」
「……全く、罪作りな女だぜ」
「はい?」
「いーや、何でもねえよ」
源さんは笑って、こそっと付け加える。
「でもな、本当の本当に、弾は真夢の浴衣を楽しみにしてたんだぜ。うるせえくらいによ。だからよ、気が向いたら明日は着てやれ」
「……うん」
そんな会話をしながら、私たちは祭りの会場へ向かった。
 
 会場に着くと、そこは人でいっぱいで、賑やかな雰囲気で溢れていた。
「お、始まったみてぇだな」
「おお、すげー人」
「わー!屋台がたくさん出てるー!」
「お腹空いたね、何食べようか?」
みんなそれぞれ楽しんでいる。
私も、こんな風にみんなとお祭りに来るのは初めてで、すごく楽しくてワクワクしている。
「弾、真夢がはぐれないよう見てやれよ。オイラはこっちの美人2人で手一杯でい」
「ああ、そうだな」
「ちょ、源さん!?私は子供じゃ……」
「ほら行くぞ、真夢」
私があたふたしている間に、弾くんは私の手を握り、引っ張ってくれる。
弾くんの手は大きくて温かくて、握られると安心する。
「うん……」
 嬉しいな。ドキドキする。
 ……弾くんもそうだったらいいのに。
そう思って弾くんの顔を見ると、弾くんはニヤリとして
「何だよ?……まさか、俺に惚れてくれたのか?」
「え……!?……うん、そうだよ」
私は少し頬を赤らめて答えた。すると弾くんも
「……!?そ、そっか……え!?マジで……!?」
顔を赤くして目を逸らす。

(あーあー、見てみろよアレ)
(ハタから見りゃ、いや普通に見ても普通にカップルだろありゃ)
(何であれであの2人は両想いって気付かないの??)
((さあ……))

 三人が後ろでぼしょぼしょ何か言ってるみたいだけどよく聞こえない。

(真夢、元気そうにはしてるけど、本当はまだダメージあるよね。浴衣着てこなかったし……)
(だろうな。必死に笑顔作って心配かけまいとしてんだろ。弾が知ったらブチ切れんだろうな)
(その人達、今日も来てるの……?)
(ああ、本当しつこいね。あの2人を見てまだどうにかしようとするハートが信じられないよアタシには)
(どんな強心臓なの?ていうかただの図太いKYだよね?)
(おお、カンナ、珍しく毒づくじゃないのさ。本当、その通りだよ)

 3人はチラリと横を見る。
そこには私達の後をつけるように歩いている3人組の姿があった。
私も気付いていた。待ち合わせ場所からずっと近くにいた。しかもキメッキメの浴衣で。美容院でセットしたんじゃ!?ってくらい髪を整えて、化粧もバッチリ決めている。
 ……私だって、本当は浴衣を着たかった。弾くんだって、楽しみにしてくれてたみたいだったのに。
悔しくて少し気分が落ち込むけど、思い直す。
 だから何??
ぎゅっと弾くんの手を握ると、弾くんも強く握り返してくれる。目を合わせて微笑んでくれる。それだけで私は幸せな気持ちになれる。
浴衣じゃないけどこれだって、いつか弾くんとデート出来たらと思って買ってしまった、とっておきのワンピース。これだって、立派なグループデート。前向きに行かなくちゃ……!
「よし、俺らも行こうぜ!」
「おう!」
「うん!」
 私たち5人も屋台を回り始めた。
輪投げ、くじ引き、型抜き……色々回って遊んだ。手伝ってきた山車も見た。とっても華々しくて綺麗で、私がやれたことなんて無いに等しいけど、手伝えて良かったと思えた。
金魚すくいではミカちゃんが沢山掬ったけど、源さんが3匹、弾くんが2匹、カンナちゃんと私は1匹しか取れなくて、事務所で飼う事にした。
みんな楽しそうにしていて、私はそれが嬉しかった。
「真夢、あれ食うか?」
そう言って弾くんが指差したのは……リンゴ飴!
「うん、食べる……あ、でも待って」
「うん?」
「私、やっぱりあっちがいい!」
そう言って私は『ジャンボフランクフルト』とデカデカと書かれた屋台を指差す。
「ええっ!?あれ……か!?」
弾くん源さんの2人の顔が少し赤くなって何だか焦ってる。
「何で?ダメ?」
「いや、別に駄目じゃねぇけどさ……」
「……真夢、ちょっと大胆過ぎやしないかい?」
顔を赤くして狼狽える弾くんと、ミカちゃんまでキョドキョドしてる。
「大胆??よくわかんないけど、ミカちゃんとカンナちゃんも食べようよ」
私が誘うと
「そうだね、じゃあ食べよっかな、お腹空いてるし!」
とカンナちゃんが笑顔でノッてくれる。
「やったー!ミカちゃんは?」
ミカちゃんは「えぇ……アタシは……」と言っていたけど、顔を赤くした源さんを見て
「よし!アタシも食べるよ!!」
と言ってくれた。
「やったー!おじさん!お願いしまーす!」
「あいよ!嬢ちゃん達可愛いからオマケしちゃうぜ!超!のびーるチーズ入りも選べるぜ!」
「やったー!ありがとうございます!チーズ入りが選べるって、どうする?私チーズ入りにする!」
「じゃあ私もチーズ入りにしよ!ミカちゃんは?」
「アタシは普通のでいい!!」
そして女の子みんなでアツアツのフランクを食べる。ミカちゃんだけが照れてるけど何でだろう??
「おいしー!チーズ入り正解!」
「あつーい!!本当、のびるねこのチーズ!」
「ああっ!噛み付いたら汁が飛んじゃったよ!」
その様子を見ているメンズ2人の様子がますますおかしくなる。すれ違う男の人たちもチラチラ見てくる気がするし……
「だあーーーっ!!オメーら三人食い終わるまでそっちで休憩するぞ!」
痺れを切らした源さんが叫ぶ。
「わっ!?どうしたの源さん!?」
私とカンナちゃんが驚くと弾くんも言う。
「源三馬鹿野郎、『休憩』なんて言うんじゃねえ!!思考が持ってかれんだろ!!あとミカ、お前は分かってたっぽかったのに、一番タチ悪かったぞ」
齧って汁を飛ばしてしまったミカちゃんは真っ赤になって「め、面目ない……!」と謝っている。
それから私達は彼らに座れ!と強制的に座らされ、彼ら二人も側に座った。何だか周りの人達も男の人を中心に急に休憩し出した気もする……それを男子2人が散れっ!!と睨みをきかしている。
「すぐ食べ終わるからいいのに……」
「おめーらがよくてもこっちが良くねえんだよ!!すれ違う野郎共の視線が痛えよ!!」
「弾、とりあえず座って落ち着けろ」
真っ赤になって怒っている弾くんと源さん。
「変な2人」
「ねー」
私とカンナちゃんはガツガツ食べる。ミカちゃんは「食べかけで悪いけど」と言って源さんにあげていた。か、間接キスなんてミカちゃんやるう!!
「あーおいしかったね」
「しょっぱいの食べたら甘いの食べたくなってきたなあ……」
「あ!じゃあお祭りの定番でも食べる?」
私がチョコバナナを指さすと、弾くん源さん、今度はミカちゃんまでが
「「「!!?!?」」」と反応した。周りの人達もざわざわしている気がする。
「おい、真夢お前正気か!?」
「ええ!!?何が!?」
「真夢、アンタわざとやってんのかい!?」
源さんミカちゃん2人から同時に責められる。
「ホラ見ろ、弾が暫く立ちあがれなくなっちまったぞ」
見ると弾くんは座ったまま俯いて何かぶつぶつ言っている。
「弾くん!?どしたの、お腹痛い!?」
慌てて弾くんの顔を覗き込むと、
「3.141592…」
「ええ!?円周率!!?」
赤い顔のまま、無表情でひたすら円周率を唱えていた。
「大丈夫だ真夢、弾は今自分の煩悩と戦ってるだけだから」
「????」
「全く、無自覚に男心を弄ぶとは恐ろしい女だよ、この子は」
「そんな事言われても……」
「ほら、食うんなら早くしろ。これでも食っとけ、可愛いぞ」
「えっ、本当♡」
そう言って渡されたリンゴ飴を女の子三人で食べる。
「残したら食ってやるからな♡」
突然復活したらしい弾くんが目尻を下げて私の隣で笑っていた。
「お、弾。復活したか」
「おう。可愛いは正義だ。ジャスティスだな!」
源さんに聞かれた弾くんが笑顔で答える。
「えー、残したリンゴ飴って結構悲惨だよ?ぺろぺろ舐めてるし、歯型とかあるし、とてもあげられないよそんなの」
私がそう言うと
「今度は色気もへったくれもないこと言ってんぞ。弾、お前も苦労すんなこりゃ……弾?」
「べろべろ舐めて……歯型が……真夢の……」
弾くんがまた俯いてブツブツ言い始めた。
「うおっ、お前、それでやべえのかよ!?それはお前、いよいよやべえぞ」
「弾くん?ホントにどうしたの?どこか具合悪い??」
「ほっといてやれ真夢。拗らせすぎるとこうなんだ。さっさとくっついちまえ」
「!? ななな何を言うの源さん!?」
弾くんは聞いてないみたいだけど、私は慌てる。
あははは、と声高に笑う源さんだったけど、さっきの話を聞いてか聞かずかカンナちゃんが
「ごめんね源さん……お腹いっぱいになっちゃって……私のも食べかけなんだけど、よかったら……」
と恥ずかしそうにリンゴ飴を渡してきたので真っ赤になった。カンナちゃんもやるう!!
「真夢、食い切れなかったら俺が……」
再度復活した弾くんが私に聞いてきてくれるけど
「大丈夫、全部食べたよ」
笑顔で答えると
「そりゃねえよ真夢!!そうだ、お前大食いだったんだ……ひでえよ真夢!!」
弾くんが嘆き出す。
「あーあ真夢悪いんだ」
ミカちゃんも悪戯っぽく笑う。
「ええ!?食べたかったの?じゃあ買ってきてあげるよ」
「違えよ!!」
あははははは、と笑い合う私たち。
こんな楽しい時間がずっと続けばいいのに。
でも私達は皆んな、陰から「ぐぬぬぬぬ……」という感じでこちらを見ている三人娘の視線に気付かないわけにはいかなかった。
 
 そして私達は今、射的屋の前にいる。
弾くんは
「俺はこういうのは得意中の得意だから、景品を根こそぎ奪ってやんぜ!」
と息巻いている。源さんも
「何言ってんでい。オイラの方が上に決まってる!」
とニヤリと挑発的に笑う。
「お!威勢の良い兄ちゃん達だな!よし、オマケしてやろう!」
「マジすか!あざっす!」
おじさんからコルク銃を受け取る弾くんと源さん。2人で対決することになったみたい。
「それでは始め!」
パンッ! おじさんの声と同時に2人が引き金を引く。
しかし弾くんは外してしまい、源さんの方にだけコトン、と景品が落ちた。
「一発で決めてやったぜい」
「へっ、まぐれだぜそんなの。次は外さねえよ!」
それから連続でバンバンと景品を取っていく弾くん。源さんが5発撃つ間に、弾くんは10発くらい撃っているように見える。
「すごいすごーい!!」
「さすが弾くん!」
「源の字!負けんじゃないよ!」
その場は大いに盛り上がる。
弾くんが最後に狙うのは、小さなブタのぬいぐるみ。源さんは玉がなくなったみたい。
「あれが落ちれば俺の勝ちか……!」
「まだあと2回チャンスはあるよ弾くん!」
「あれは絶対欲しい」
そう言う弾くんの表情はとても真剣で、いつも明るい彼からは想像できないほどカッコ良かった。
最後の2発なのに、弾くんは1回目をわざと外した。そして2回目の玉を素早く詰め替える。
「おいおい、どういうつもりだ?まさかわざと負ける気かよ弾?」
「へっ、ちょっと違うな。この勝負、もらったぜ」
弾くんは自信満々だ。周りにはギャラリーができてワイワイ盛り上がっている。
「俺は追い詰められた方が燃えるからな。そんであのブタは絶対頂く」
弾くんが狙いを定める。
「なぜなら」
「なぜなら??」
皆んなが緊張する中、弾くんが言った。
「あのブタは、真夢にちょっと似てるからだ!!!」
「ええええええ!!!?」
パン!!と言う音と同時に、ブタのぬいぐるみが落ちてピー♪と鳴く。
「いよっしゃああああああ!!!」
ガッツポーズをする弾くん。
「やったあ!!弾くんすごーーい!!」
私は思わず弾くんに抱きつき、弾くんも嬉しそうに私の肩をギュッと抱く。
顔を見合わせて笑う私達を、三人やギャラリーの人たちがにやにやと微笑ましいものを見るように見ていることに気付いて、真っ赤になり慌てて離れる。
「ほらよ、取れたのは全部お前にやるよ」
とは言ってもネタもんばっかだけどな、弾くんがそう言って私に景品をくれる。源さんは悔しがりながらミカちゃんとカンナちゃんにあげていた。
「全く、このブタちゃんのどこが私に似てるのよ!?そんな事言われて喜ぶ女子がいる?」
「そうかあ!?可愛いじゃねえかコイツ、目がくりくりしてて……ダメかよ!?」
「んふふ……ここにいるよ。すごい可愛いじゃん、この子。ありがとね」
「真夢〜♡」
周りは呆れている。
「あーあ、結局バカップルはバカップルか」
「まあ良いんじゃないか?幸せそうで」

そんなすごく幸せな空間に。ついに横槍が入ってくる。

「わ〜!!弾くん、すご〜い♡」
「源さんもすごいよお♡」
あの三人組がとうとう痺れを切らしてこっちに来たのだ。
 ついに来たな……私たちの間に緊張感が走る。
いつか入ってくるだろう。多分全員が思っていた。
「ねえ、弾くん、私にもとって?」
上目遣いでAちゃんが弾くんにお願いする。手にはリンゴ飴が握られている。どっから見聞きしてたのよ!!
「悪いな、金切らしちまって」
弾くんはドライに返す。結構私にあれこれ奢ってくれていたけど、多分嘘。
「そうなの?じゃあ自分で出すからぁ。ね、リンゴ飴食べる?」
一口齧ったリンゴ飴を差し出すAちゃんに内心飛び掛かりたい気でいると、弾くんは
「俺、甘いもん好きじゃねえから」
と断った。
 嘘だ。弾くん、嫌いなものそんなにないもん。何でも美味しそうに食べるし、甘いものだって好きだもん。
「ねえ、昨日の話の続きもしたいんだけどな……」
Aちゃんは目一杯瞳をうるうるさせて弾くんに懇願している。
「続きも何もねえよ」
弾くんはキッパリと断る。
「昨日、何かあったの?」
口に出してからハッとする。弾くんも、源さん達も、三人組も皆んなそれぞれ違った気持ちで「!」という表情をし、遅れて私も理解する。
しまった、私は何も知らないことになってたんだ。でも……
「ねえ、弾くん。何があったの?」
私は弾くんにそう聞く。弾くんは一瞬迷ったような顔をしたけど、すぐに優しく笑って、私の頭をポンと撫でてくれた。
「大丈夫だよ、真夢。何にもねえよ」
「……」
 嘘ついた。
弾くんが私に、嘘をついた。
これはきっと優しい嘘なんだろうね。
でも、でも、私は……
傷ついても弾くんの本当が欲しい。
告白現場を見ていたことを悟ったのだろう。三人組が私を睨みつける。
「まくら?さん、昨日は社長さんに会えましたか?」
Aちゃんが私にそう尋ねる。よりによって、騙した本人がこの場で私を試すかのようにそんなことを言ってくる。
身体中の血がザワッと逆流するような感覚を覚える。でもそれは私だけじゃなかったみたいで……
「ちょっとアンタ!!いい加減に……!?」
ミカちゃんが怒りを露わにして声を上げた瞬間、源さんがミカちゃんの腕を掴んで制止した。
「ミカ、やめとけ」
「でも源の字!アイツ!!」
「大丈夫だ、ミカ。真夢がやる」
源さんの優しい制止がミカちゃんを止め、そんな二人が私に勇気をくれる。私はAちゃんをまっすぐ見て口を開く。
「うん、会えたよ。とっても困ったことがあってちょっと具合が悪くなっちゃったんだけど、家まで送ってもらえて、大事な話も沢山できたよ。おかげで今日私はここに来れたんだ。ありがとう」
笑顔で力を込めて答えを突き返すと、Aちゃんは一瞬怯む。私がバラすと思っていたんだろう。そして本当に大龍さんと会えた上、話したりましてや送ってもらえるような間柄だとは思ってなかったんだろう。そしてますます敵対心をむき出しにしてくる。
「どういうことだ?真夢。困ったことって、大龍と大事な話って何だ」
弾くんも表情を曇らせる。昨日だって本当は私が体調不良で帰ったってことに納得してなかったはず。
「あなた、弾くんの何なの?仲は良いみたいだけど、恋人なんですか?」
Aちゃんが私を睨みつけながらそう聞いてくる。
「………」
悔しいけど、恋人では、ない。
言い淀んでいると、
「真夢は俺の大切な人だ。真夢、それ以上は何も言わなくて良い」
弾くんは私の代わりにそう言ってくれた。
「へぇ〜、そうなの?じゃあ私と同じだね。私も弾くんが大好きだから。私の方がずっと好きだけどね」
そう言ってAちゃんは可愛く微笑んだ。
またこっちに来ようとしてくれているミカちゃんを源さんが止める。大丈夫だと、信じてやれと言って。
「同じじゃねえよ」
「え?」
弾くんの言葉にAちゃんがキョトンとする。
「俺の気持ちを置いてくな。真夢はそんな事しねえ。好いて貰うのはありがたいことだが、それをされて嬉しいか、そうじゃないかが決定的な違いだ」
Aちゃんの顔が強張る。でもそれでもなお食い下がり、
「ねえ、あっちで2人で話ししよう?ここじゃラチがあかないよ!」
と言って弾くんの腕に抱きついた。
 さっきよりももっと、ずっと、全身から殺気にも似た感情が溢れる。
 弾くんに、腕とはいえ抱きついた。
 弾くんの腕に……!!
それだけで突き飛ばしてやりたい気持ちでいっぱいだったけど、私の目に映ったのは……
 心底迷惑そうな顔で、それでもAちゃんを振り払うまではしたくても出来ない、強くて優しい、私の大好きな人の姿だった。
いよいよミカちゃん、カンナちゃんまでが飛び掛かろうと、そして源さんも制止をやめようとしたその時。
「やめて!!!」
 私は大声で叫んだ。
あまりの大声に源さんもミカちゃんもカンナちゃんも、周りの人も、Aちゃん達も、そして弾くんまでもが驚いている。驚いて手を緩めたAちゃんから弾くんの腕を力一杯引き剥がし、自由になった腕を今度は私が両手でギュッと強く抱きしめた。
「離して!!弾くんに触らないでよ!!!」
私は叫ぶ。今までに出したことのないような大きな声で。
「真く……」
「真夢!!よく言った!!」
ミカちゃん達は飛び跳ねて喜んで、弾くんは大きく目を見開いている。周りの人達もおお〜!と拍手をしてくれた。
「な、何なのこの人!?」
Aちゃんの狼惑する声が聞こえる。
「行こう!弾くん!!」
私は抱きついた弾くんの腕をぐいっと引っ張ってその場から離れようとする。
「あ!?待ちなさいよ!!」
Aちゃんは再度弾くんの逆側の腕に抱きつこうとする。
 どうしよう!?
私が抱きつく腕を変えるより向こうが抱きつく方がきっと早いけど、もう二度とそんなことさせたくない!!
 すると、弾くんは抱きつかれようとしている腕をふいっと上に上げて、そのまま身体の向きを僅かに変えてAちゃんの動きを受け流した。
「きゃあ!?」
その反動で転びそうになったAちゃんを源さんが受け止める。
「源三、ワリ、助かった」
「いいってことよ」
素直にお礼を言う弾くんと、ニカッと返事をする源さん。
「げ、源さん……?ありがとう!」
源さんにも猫撫で声を出すAちゃんに、源さんは静かに告げる。
「なあ、アンタ。もうやめとけ」
「え?」
「弾の顔見てみろ」
言われて皆んなが弾くんの顔を見ると、軒並みギョッとしている。Aちゃんも言葉を失って、桐島組の皆んなは笑ってさえいる。どんな顔してるの……?
それを確認するより前に、源さんに『行け』と顔で促され、私は弾くんの腕を強く抱きしめたまま
「弾くん、行こう……!」
と声をかけて、その場を離れる。弾くんも黙って着いてきてくれる。
「待ちなさいよ!!アンタ!この!ブス!!」
「何ぃーーッ!?なんて事言うんだこの……!!」
Aちゃん達の罵りにミカちゃんが怒ってくれる。
ありがとうミカちゃん!大丈夫、私も自分で返すから……!!そう思った私は振り返りもせず
「うるせーやい!!」
と大声で啖呵を切った。
すると
「やったーーーー!!真夢ちゃん!!」
「真夢カッコいいーーーッッ!!」
「ねーちゃんやるう!!」
後ろからは源さんの制止の声やミカちゃん達の歓声、三人組からのヤジのような怒号など色々聞こえてくる。でも振り返らずに、私は弾くんの手を引いてずんずん歩いて行った。

 そのまま先に先にいく私にはわからなかったが、三人組は尚も追いかけてこようとしていた。
「やめろ。もう何ともならねえのは明らかだろ」
「あの2人の中に割って入ることが出来ると思う?」
「これ以上しつこくするんならアタシらが相手になるよ」
源さん達がそう言って止めてくれたらしい。
源さんのことがお目当てのBちゃんは悲しそうな顔をしているが、Aちゃんはあまり気にしていなさそうだ。
「うるさいわね!関係ないでしょ!!」
そう叫んでいたから。その声は何となく聞こえた。
「わかった。そんなに思い知りてえんならこの続きを見たらいいぜ」
源さんがふいに三人にそう言う。
「え!?」
言われた三人は意外だったのかあっけに取られる。
「そのかわり、遠くからだ。なあ、この後アイツら多分一回揉めるよな?」
「!?」
三人は何が何だかわからないといった感じだ。
「ああ、多分一度そうなるね。大団円はその後だね」
ミカちゃんカンナちゃんも頷く。
「だよな。じゃあこっちだ」
そう言って6人は私たちから離れた所で様子を見ることになった、と後から知るのだった。

 私と弾くんが会場を出るまでずっと周りから拍手が起こった。まるでドラマのワンシーンみたいだったからだろう。
 しばらく歩いて、周りに誰もいないのを確認してやっと立ち止まる。
「弾くん、急にごめんね……」
振り返って弾くんの顔を見ると、私もギョッとする。
いつもはキリッと上向きの目尻も眉尻もこれでもかと下げて、口元も嬉しそうにニヤついている。
「ど、どしたの……!?弾くん、その顔……!?」
「え?ああ、悪い、つい……」
そう言って慌てて表情を引き締めようとして、またすぐにニヘラッと崩れてしまう。
「……??」
「だって、真夢が俺の腕に抱きついて……それに……胸……が……」
 え!?胸!!?
弾くんにきつく両手で抱きついている腕を見ると、確かに弾くんの腕が私の胸に挟まっている。
 …………
 キャアァァァーーーーー!!!!!
どさくさに紛れて私ったらなんて事!! 恥ずかしくて顔が熱くなる。弾くんも真っ赤になりつつ、目元口元の崩壊が止まっていない。
「ご、ご、ご、ゴメン!!弾くん!!わざとじゃないの!!」
バッ!!!と離れると、弾くんは
「何だ、離れちまうのかよ」
と名残惜しそうな目で見ている。
「……さっき、Aちゃんの胸も感じたのかしら」
ちょっとむくれて聞くと、弾くんは「全く知らねえ、覚えてねえ」とハッキリ断言する。
本当かなあ、全くもう……というやりとりをして、改めて弾くんの方に向き直る。
「ねえ、弾くん。さっき弾くん、私に嘘ついたよね」
「え……」
弾くんの表情が一瞬強張る。
「何の話だ?お前に嘘なんて……」
「昨日。何もなかった、って言ったけど……違うよね」
弾くんは黙って私を見つめる。
「私、見たよ。昨日、弾くんが告白されるところ」
「え!?」
弾くんは目を丸くして驚いている。
「……何で、知っ……いや、見たってどういうことだ?それに、さっきの大龍の話もどういうことだよ?まさか……やっぱり大龍が探してたってのは……」
「それはもういいの」
「良くねえだろ!!なんだよそれ!?クソ……俺は……!」
どうりでミカがすごい剣幕で突っかかってきたわけだ、と弾くんは悔しそうに呟く。
「いいから聞いて」
私はそう言って、弾くんの目を見る。
「だから、それはもういいの。それより何で、弾くんは何もないって嘘ついたの?」
弾くんもまた、まっすぐ私を見て言う。
「俺にとっては何もないのと同じだったからだ」
「同じ?」
「ああ。告白してくれるのはまあ、ありがたいことかもしれねえけど、それで俺の何かが変わる事はなかったからだ」
「あんなに可愛い子に告白されたのに?」
「ああ」
声色や表情から、嘘偽りのない言葉だと言うことがわかる。弾くんは本当に心の底からそう思っているんだろう。
「じゃあ、何で私にだけ黙ってたの?みんなには話したのに、何で私だけ……」
「お前にだけは知られたくなかったからだよ」
「何で?」
「何でって、そんなの……」
「私は、弾くんにだけは嘘つかれたくないよ。本当の事を教えて欲しいのに」
べそをかきながら語調が荒くなる私を、弾くんはじっと見つめる。
「逆ならどう?嘘つかれたら嫌じゃない??」
「そうだな……嫌、だろうな。でも、お前だって昨日の事は何か隠してただろ」
「それは……」
「本当は騙されて部屋追い出されたんだろ」
「……私のことは、別に……!今は弾くんの事を話してるんでしょ!告白されたのを黙ってるなんて」
自分でも、こんな風に言い合いしたい訳じゃないと思うのに、どうしても感情的になってしまう。
すると、弾くんは静かに言う。
「悪かったよ。でも、真夢お前、何でそんなに怒ってんだ?俺が誰に告白されたところでお前にとってはどうってこと……」
 何で怒ってるか、って?
 弾くんが誰に告白されても私にとってはどうってことない、そう言おうとしてたの??
「そんなの、そんなの……弾くんのことが好きだからに決まってるでしょう!!!」
 私は思い切り、そう叫んだ。
そして、私達の間に沈黙が流れる。
弾くんはポカンとした顔で呆気に取られているし、私も自分が何を口走ったのか今更理解して顔が熱くなっている。
「え?真夢……??……好き??誰が?」
「私が、弾くんを」
「……それは、その……ああ、likeってやつか」
「恋愛感情だよ」
「………!?」
弾くんの猫みたいな上がり目が、驚いた猫のようにまんまるに見開かれる。
 何なのよ、この告白は。
邪魔者を退散させてちゃんと告白したあの子とは180度違う、こんなどさくさ紛れの告白。キュンもムードもへったくれもあったもんじゃない。
泣きそうな顔で不貞腐れてるみたいに大声張り上げて「好きに決まってるでしょ!」だなんて……!
「真夢、違ったら本当に申し訳ないんだが」
「何?」
「お前もしかして、妬いてんのか」
弾くんがまさか、という感じで尋ねる。私は更にカッとなって叫ぶ。
「悪い!?好きで好きでしょうがないんだから、ヤキモチだって妬くに決まってるでしょ!!」
それを聞いた弾くんは、急にふっと笑い出す。
「何よ、何がおかしいの」
「いや、すげー嬉しくて」
「嬉しい……?」
聞き返した私の頬を両手で包んで、優しく微笑みかける。
「真夢、可愛い……」
弾くんは、それはもう蕩けるような笑顔で私を見つめる。
弾くんのその顔の方が俄然可愛いでしょ!?と思う間もなく、弾くんの顔が近づいて来て、唇の形が変わるくらいむにゅう、と強く柔らかい感触が伝わる。
 キスされている……
それがわかると、一気に身体中の血が沸騰するような感覚に襲われる。
その瞬間、ヒュルルルルルルー……ドーン!!と花火が上がる。
花火の光がゼロ距離で目を瞑っている弾くんを照らす。
「うおおおおおやったぜ!!」
「きゃあああああ真夢!!」
皆んなの声が聞こえる。
 えっ!?皆んなの声!?てことは、見られてるの!?
慌てて唇を離そうとしても弾くんはがっちりホールドしていて離れられない。
「んむっ、んむむむ、むむんん〜!!」
ちょっと、ねえっ、弾くん!!、そう言っても手も顔も唇も全く離してくれない。
「おい、ちょっ、弾、そんくらいにしてやれ、真夢死んじまう!!」
ミカちゃんに目配せした源さんがそう言うと、ミカちゃんはあいよ、と弾くんの脇腹をくすぐる。
「ぶはあっっ!?」
弾くんが飛び上がった隙に源さんが私を引き剥がす。
「ミカ!何しやがる!源三!!真夢に触るんじゃねえ!!」
「何しやがる、じゃねえ!見ろ、真夢瀕死じゃねえか!」
はー、はー、と肩で息をする私は源さんの元で酸欠状態でぐったりする。
「あっ!?すまねえ、真夢、大丈夫か!?」
弾くんはオロオロしながら素早く源さんから私を回収し抱き起こす。
「だ、だいじょばない……」
「わあぁすまねえ真夢!!」
「おめえが悪いんだろうがよ……」
源さんのツッコミが入る。
「………」
「……弾?」
弾くんは私を抱き抱えたまま、俯いて小さく震えている。そして、顔を上げると
「へへへへへへぇ」
と満面の笑みを浮かべていた。さっきの三倍増しで顔中の尻という尻が蕩けている。
「わっ!?何だこいつ!?」
皆んながギョッとするのを尻目に弾くんはデロデロの笑顔で言う。
「あのな……真夢の好きな相手って、俺らしい」
いつもの男らしい弾くんは見る影もないくらい、えへっと笑いながら出されたその言葉に全員が沈黙する。
しかし、すぐに
「……おう、そうだぞ。よかったな、弾」
「アンタ以外、みーんな知ってたよ」
「ええっ!?そうなのか!!?」
弾くんは驚いて私を見る。
「うん……でも待って、皆んな……」
「何だ?真夢。まだなんかあんのか?」
源さんが不思議そうに聞く。
「私は好き、って言ったけど……まだ答え、聞いてない……」
皆んなは更にしーんとした。
(((いや、キスしてたじゃん!??!)))
皆んなの心の声が届かない私が不安そうに俯いていると、
「弾……」
「アンタ……」
「弾くん……それは……」
桐島組三人が呆れた顔をして弾くんを見つめる。弾くんはハッとして、ガバッ!!と私を抱きあげる。
「ぎゃあ!?」
目を白黒させる私を見てハハハ!と明るく笑った後、
「愛してるぞ、真夢!!」
満面の笑みでそう言い放った。
ヒュルルルー……ドーン!!と花火が上がり、辺り一面が眩い光に包まれる。
「弾くん」
「真夢、愛してる」
「うん!!」
「お前は?俺の??」
「恋人!!!」
「そうだ!!!ははは、やったぜ!!」
弾くんは私を抱き上げたままぐるぐる回りだす。
「今度こそおめでとうだな!!」
皆んなも笑ってる。
「ちょっ、ちょっと弾くん!降ろして!」
「いいじゃねーか、こんな時くらい」
「恥ずかしいよ!皆んな見てるじゃん!」
「見せつけりゃいんだよ」
「そうだぞ!こんな時くらい見てやるよ!」
「今更、だよ真夢〜〜」
弾くんは更に回った後、ぎゅうっと私を抱きしめる。
「苦し……!」
「ああ、ごめん。でも今は離せねえ」
弾くんはそう言うと、またキスしてきた。今度は優しく、触れるだけのキス。
「見せつけんな、いや、もっとやれバーカ!」
「弾のくせに生意気!!でも真夢が幸せなら許す!」
「真夢ちゃーん、ちなみに弾くんが真夢ちゃんのこと好きなのも、真夢ちゃん以外全員知ってたよー!」
「えっ!?そうなの?!」
カンナちゃんの言葉にバッ!と弾くんを見ると、弾くんは満面の笑みを浮かべ私の耳元で囁く。
「ずっと、好きだった」
ヒュルルルー……ドーン!!と花火が上がる。
大団円の花火だね   
        〜fin〜

 ……と括りたいところで
「ちょっと待ちなさいよ!!」
Aちゃんが震えながら叫ぶ。
(あ、まだ居たんだった……)
全員がそう思った気がした。
「何だ、アイツらまだ居たのか」
そして弾くんが言っちゃった。。
「ワリ、弾。オイラが諦めさせようと思って連れて来てたんだった」
源さんが謝り、三人に向かって
「ほらな、もう分かったろ。分かったらもう帰んな」
と言い放つ。
「何ですって……!?」
Aちゃんは怒りに震えたあと、ふっとため息を吐く。
「でもまあ、くっついちゃったものはしかたないもんね」
よかった、これでやっと終われる。全員がそう思い、私も正直胸糞案件だけども、もうこのことは忘れよう、そう思った時。
彼女はとんでもない事を口にした。
「じゃあ、私とも付き合って♡」
ニッコリ微笑んで彼女はそう言った。
「……は?」、そんな言葉さえ出ないほどに全員が絶句しているのを、彼女は首を傾げて続ける。
「何がそんなにおかしいの?別にいいじゃない、彼氏に二人彼女がいたって。本人が納得してるならそれで」
「この女……!」と呟いてミカちゃんは嫌悪感に震え、カンナちゃんも無言でドン引きしていた。私も言葉を失う。
「おめえ、自分が何を言ってるか分かって……」
源さんの言葉を遮るようにAちゃんがまくし立てる。
「だって、私だって好きなのよ。それなのに後から出てきたこの人が横からかっさらっていくなんて、絶対我慢できないわ!!」
「この二人は元々ずっっっと両想いでカップル同然だったんだよ!!バカだから気づかないだけで!!後から来たのはアンタだろ、お呼びでないんだよ、ふざけた事抜かしてないでとっとと消えな!!」
なんだかとんでもない事を言われた気がするけど、ミカちゃんが私の分まで的確にブチギレてくれる。
「そのおでこより私の方が全てにおいて勝ってるのに!!」
更にとんでもないことを言い出す彼女に、おでこ扱いまでされた私はもうどうでもよくなってくる。
「そうだよ!?Aちゃんはこんなに可愛いし、頭だって良くてお嬢様で、モテまくりなんだよ!?」
「ミスコンとか読モとかもしててファンだって沢山いるんだから!!」
BちゃんCちゃんが横から盛大に太鼓を打ち鳴らす。
 すごいなあ、こんなにどうでも良くなってくることってあるんだ。
ミカちゃんも怒りを通り越してもう聞くのをやめたみたい。
(はっっ!?私はこんな内心でも、肝心な弾くんはどう思ってるの!?)
罷り間違って「そうだな、三人で付き合うか!」なんて言い出したら骨さえ拾って貰えないくらい粉々になる自信がある。
弾くんはじっと様子を伺っていたけど、とうとう我慢の限界に達したのか、
「おい、お前らいい加減にしろよ……?」
ドスの効いた声で言い放った。
(あれ、やばい……!?)
そう思った瞬間。
「俺には真夢だけだ!!!」
そう叫んだ弾くんは私を思いっきり抱き寄せ、キスをした。
「「「弾(くん)ーーーッッ!!!」」」
桐島組からスタンディングオベーションが起こる。三人組も目に見えて動揺しているのに、それを認めたくないのか尚も煽るような事を言ってくる。
「そ、そんな子どもみたいなキスじゃね……」
Aちゃんの負け惜しみにも似た挑発に、弾くんはしっかり乗ったのか、ビキビキッという音が聞こえた気がした。
離したばかりの唇をまた私に強く押し付けると、そのまま口を弾くんの唇で開かされる。
「んむぅっ!?」
無理矢理こじ開けられた口の中に弾くんの舌がにゅぷ、と入ってくる。
「ん、んんっ!!んっっ、ふぁっ」
歯列や上顎、舌の裏までも舐められ、息をするのもままならない。
洋画でよく見る激し目のキスシーンみたいな濃厚でしつこいキスをこれでもかとされる。人前でこんなキス、恥ずかしいよぉ……!
それなのに、弾くんは角度を変え、深さを変え、何度も私を求めてくれる。
「やっ、はっ、んんっっ、やあっ」
 ちゅっ、ちゅう、にゅぷ、にゅち、くちゅ、ぴちゃ、にゅる、れちゅ……
キス独特のいやらしい水音が私と弾くんの口元から絶え間なく漏れる。
ミカちゃん、源さんでさえ真っ赤になり、カンナちゃんは顔を手で覆って、でもその指の隙間から見ている。三人組も真っ赤になって、皆んな食い入るように見てる。
「でゃ、んきゅ、んんっ!もう、やめ……!」(弾くん、もうやめて)
唇を塞がれたまま必死に訴えても、その舌を絡め取られる。口を開けては密着させてもぐもぐするように、食べられてるみたい。
酸欠気味になった私は、もう立ってられなくて、弾くんにしがみつく。
「ぷは、は、はあ、はあ」
やっと解放された頃には、腰が砕けて、へたり込んでしまった。
「真夢、わり、大丈夫か??愛してるぜ」
そう言うと弾くんは仕上げのようにチュッと軽くキスをして私を抱き起こす。
「これで満足かよ?」
私に向ける笑顔とは真逆の鋭い表情でキッと3人を睨みつけ、弾くんは低い声で話し始める。
「何が真夢より勝ってるって??俺にとって、女の最上級は真夢だけなんだよ!!それに、昨日やっぱり騙してやがったじゃねえかお前ら、嘘だったら承知しねえって言ったよな!!!」
ギロっと睨みつけると三人はビクっとする。
「しかも、さっき真夢をブスって言ったな。デコ扱いまでして、自分より下だとバカにしたな。ミスコン?読モ?モテモテ?いいこった。だがそれが何だ!!!真夢は全てにおいてお前より上だ!!比べるまでもねえけどな!!!」
 弾くん……!
弾くんは強い視線、口調、意思を持ってハッキリと言う。
「好いてくれたんだ、と思って強くは言えなかったけど、もうそんなのは要らねえな。二度と俺たちの前に現れるんじゃねえぞ!!」
 ドーーーーーン!!!
と最後の花火が上がる。弾くんは私の肩を抱きながら皆んなに向かって、ニカっ!と笑いかけ、宣言する。
「愛してるぜ、真夢!!」
「うん!!ありがとう、弾くん!!」
「やったーーー!!弾、カッコいいじゃん!!初めて思ったよ!!でもキス長すぎ!エロ男!」
「うるせえ!失礼な!!」
「お前、やるときゃやるんだな!初めて思ったぜい!あとキスがくど過ぎ、そのうち真夢に嫌がられんぞ」
「弾くんのスケベー!!」
「お前らぶっ飛ばすぞ!?ほら、もう行こうぜ!」
お祭りのクライマックスとなった桐島組を見て、Aちゃんはヒステリックに叫ぶ。
「何よ!!!!アンタ達なんて、うちのお父さんに潰してもらうんだから!!この町で働けないようにしてやる!!!」
「はあ!?そんなことはさせません!!」
いつもにこやかな社長令嬢のカンナちゃんが叫び、私達はちょっと驚く。
「フン、アンタの弱小会社とは違うのよ」
意地悪く笑うAちゃんの言葉にカンナちゃんは顔を歪ませ、源さんの額に青筋が入る。
「まあ?会社ごと潰すのは難しくても、たかだか派遣のそのおでこを潰すくらい訳ないわ」
「何ぃ……!?」
今度は弾くんの額に青筋が入る。
「弾くん、もういいよ。職失ったら養ってくれる?」
そう聞くと、青筋が秒で消え
「そうだな♡」
とコロッと笑顔になる。
「だ、そうです。では」
頭を下げると、ミカちゃんが大喜びしている。
「今日の真夢、サイッコーだよ!!昨日の私の分までスカッとさせてくれるね!!」
「そうだった。ミカちゃん、昨日もだけど、いつもありがとね」
 真夢〜!!とミカちゃんが抱きつき、離れろ!!と弾くんが怒っている。ワイワイやっていると
「喧しい奴らだな」
聞き覚えのある声が背後から聞こえる。振り向くと、そこには……
「大龍!」
 鬼頭組の皆んなが揃って集まっていた。
颯くんがお気に入りのCちゃんは嬉しそう。何か、BちゃんCちゃんの2人が可哀想になって来た。Cちゃん、颯くんに会えてよかったね。
「全く、揉め事を起こさないといられないのかお前らは。特にそこにいるそっくりなブタを待ったおでこのブス、とやらは」
大龍さんはめんどくさそうに私の方を見る。どこから見てたんですか……
「大龍てめえ!!俺の真夢にブスとは何事だ!!」
怒鳴る弾くんを大龍さんはジロリと睨んで言う。
「やかましい。お前まで騙されなければ月野真夢は泣かずに済んだ。見ろ。いつもより目が腫れていてブスだろう」
何ぃ!!?と弾くんは私の方を勢いよく振り返る。
「え……と、まあ、それはそうだけど、」
弾くんは目に見えてショックを受けているけど
「……でも、前にも進まなかったかもしれないよ」
そう笑いかけると、弾くんはまた弾ける笑顔で「お前は最高だぜ真夢!!」と言って抱きしめてくれる。
「フン。相変わらずの人誑しぶりだ。まあ今後はせいぜい気をつける事だ。ときに、」
大龍さんがAちゃんの方を向くと、彼女はビクッとする。
「興味深い話が聞こえたが。桐島組を潰すだの、そこの人誑しおでこの職を奪うだの。お前の実家はそんな力のある企業なのか?」
「あ……、え……と」
Aちゃんは目に見えて焦り出す。
「ウチの鬼頭組よりも大きい組織なのかと聞いている。そうであれば挨拶に行かねばならないし、そうでないのなら……どうなるだろうな。オレの旧知の人間と元部下をバカにしてくれたみたいだな?」
大龍さんの言葉を聞いてAちゃんは青ざめる。
「どうなんだ」
詰め寄られたAちゃんは涙目で俯く。
「そんなに、このおでこ……の人は、優秀なOLなんですか」
吐き捨てるように、絞り出すように聞かれて大龍さんはフンと鼻を鳴らす。
「いいや。何てことない、一派遣社員だ。しかも元、だ。これより優秀なのは履いて捨てるほどいる」
「うっっっ」
私にまで刺さってます、大龍社長……
ならなんで、そう言うように顔をあげるAちゃんに
「だが、いずれウチで働く社員となる可能性がある。契約期間中オレに意見し、ウチの幹部を丸ごと籠絡し期間満了した女だ。お前ごときが敵うはずがない」
そう言って大龍さんは「行くぞ」と言って鬼頭組の皆んなを引き連れて行った。
「真夢またな〜!」「まくたん、また連絡するねぇ〜♪」「私にも連絡して頂戴」「……またな」
挨拶してくれる幹部の皆んなに手を振る私を、Aちゃんは呆然と見ている。
「そうだ、忘れるところだった。昨日、オレがこのおでこを探していると伝えてくれたらしいな。礼を言う。おかげで興味深い話が色々出来た。だが」
大龍さんの眼光が鋭く刺す。
「次はないと思え。次これが泣いたらその時は別の礼をせねばならん」
そう彼女に言って皆んなを引き連れて帰って行った。
「俺たちも行くか」
源さんの言葉に皆んな頷いてその場を離れようとすると、Aちゃんが「待ちなさいよ!!」と叫ぶけど、もう誰も取り合おうとしない。
味方であるBちゃんCちゃんも「ねえ、もうやめようよ」「そうだよ、Aちゃんにはもっといい人いるって」と失礼なことを言いつつも、もう引き際だと提言している。
引くに引けなくなったAちゃんがヒステリックに叫ぶ。
「何よ、ちょっと可愛い顔していい身体してるから遊んでやろうと思ったのに!!そんなダサタンクトップ野郎なんてもういいわ!!こっちから願い下げよ!!!」
Aちゃんの言葉に弾くんは「何ぃ……!?」と少しだけピクッとしたけど、相手にしなかった。
でも、その代わり何倍ものスピードで私の額に青筋が立った。
「何ですって!!!?アンタ、今なんて言ったの!!?」
Aちゃんよりも大声で叫んだ私に、Aちゃんはビクッとして、弾くんも源さんたちも驚いている。
それでもAちゃんは負けじと言い返してくる。
「あんなダサタンクトップなんていらないっていったのよ!デコ女のアンタとお似合いね!!」
 この人、何を言ってるんだろ。
 許せない。最後の最後で私の地雷を踏んだわね……!?
凄まじい迫力で、眼力で、凄みで、オーラでAちゃんを睨みつける。
「私の事は何とでも好きに言えば。でも、弾くんを悪く言わないでくれる!?!?」
じわじわと近づきながら怒りを言葉に乗せる。Aちゃん達は後退りながらも
「何よ、いい子ぶりっ子?このぶりっ子女!」
と私を罵ってくる。でも、そんなのどうでもいい。
「私の事はどうぞお好きに!!でもね、このタンクトップ姿の良さがわからない奴が弾くんに触れるな!!褒めるな!!惚れるな!!!他の人が着たらダサくても、これは世界でただ1人弾くんだけが着こなせるのよ!!!」
(今真夢(ちゃん)、弾(くん)(俺)のタンクトップ、間接的にダサいって言った!!?)
皆んながそう心で突っ込んでることも気づかずに私は続ける。
「このタンクトップはね、鍛え抜かれた弾くんの肉体美を惜しげもなく披露することで、世界一のものへと変貌を遂げるの!!そしてこの炎柄はね、弾くんの強さと優しさを表しているの!!その良さもわからない奴が何を言うの!?このガントレットもバンダナもバカにしたらぶっ飛ばしてやる!!!」
大啖呵を切りまくる私にAちゃん達は完全に気圧されている。
「弾くんは誰よりも優しくて、強くてカッコいいんだから!!!わかった!!?わかってもわかってなくても、もう三人ともあっち行けーーーーー!!!」
三人組を蹴散らすべく締めくくりにそう叫ぶと三人は
「何こいつ……!!」「もういいわ、行こ!」「ブース!おでこ女!!」
と捨て台詞を吐き、去って行った。
「うっさい!!!おとといきやがれってんだぁーーー!!!」
そう言い切ったところで、私の背後で弾くんが「ぶふっ……」と吹き出したのを皮切りに、弾くん達が笑い出す。
「あははははは!!」
皆んなの笑い声で我に帰ると、弾くんが
「真夢……」
と言って、後ろから抱きしめてくれる。
「お前……マジ最高だぜ!!!」
振り向くと、そこには満面の笑みの弾くんがいる。
「弾くん……私夢中で……!柄悪かったでしょ……ひ、引いた……?」
源さん達も大笑いをしている。
「ま、真夢、アンタ、柄がどうの、とかより、間接的に弾のこと相当disってたよ……!!!」
「えええ!!!?」
「あはははは!!!タンクトップもガントレットもバンダナもくそダセーけど弾は最高って言ってたな!!」
「えええええ!?嘘!!?私そんなこと言ってないよ!!?」
「ごめんね、真夢ちゃん、言ってたよ」
皆んな大爆笑している。
「ウソ……私そんなこと……そんなつもりじゃ……」
狼狽えつつ弾くんの方を見ると……
「大丈夫だ、真夢。ほんの、ほんのちょーーーっとだけ傷付いたけどよ、俺は大丈夫だ」
と言ってくれてるけど、そんな、そんな……!これじゃあの三人(主にAちゃん)と変わんないじゃない!!!
「ごめん、ごめんね弾くん……!そんなつもりで言ったんじゃなくて……!弾くんは素敵だよ!大好きだよ!って言いたかっただけで……頭に血が上ってて……!ごめんなさい……!」
泣きそうになる私を見て弾くんは
「バーカ。言ったろ、お前はマジで最高だって」
ますます強く私を抱きしめる。
「弾くん……!」
「このデコも最高だ」
ちゅ、とおでこにキスしてくれた。
「お前は俺の全てだからな」
「弾くん……!!」
私は嬉しくなって思わず抱きついた。
「うおっ」
「ありがとう……!!本当に嬉しい……!!」
「おう」
弾くんは頭を撫でてくれた。
「おい、見せつけてくれんなあ」
「ホントホント」
「一生離さねえ♡」
「おい、聞いてんのか!?弾!!でもまあ、それがいいや。もう結婚しろお前ら」
「ええ!?早す……」
「「「ぎない!!!」」」
私の言葉に三人が食い気味に被せてきて、私達五人はまた大笑いをした。