そんなこんなで会場に戻ると、山車がライトアップされて、昼間とは全く違う雰囲気になっている。
「わあ……綺麗……!!」
「おお、こりゃ見事だ」
「手伝ったかいがあったってもんだな!お!あれが例のお面か!?」
弾くんは山車の上に乗っている鬼の顔に気付くと目を輝かせている。
「あ、そうそう。あれが多分最後にお兄たちが作ったやつだと思う」
「本当か!?」
「幸夢さん達、ホントすげえよな。一日だけなんだろ?あれ作ったのって」
「そうみたい。昨夜帰ってきて、そのまま一晩作業したみたいだからまだ会ってないんだよね」
「そうなのか!へぇ〜、流石宮大工。器用さが違うぜ」
源さんと弾くんが感慨深そうに眺める横で、私も山車を見つめる。
「すごい……。こんなの作っちゃうなんて……」
その言葉を聞いて、弾くんが
「そうだよな。俺たちが手伝ったのなんてほんのわずかだけど、これ見たら少しでも関わることができて良かったって思うぜ」
笑顔の弾くんを見て、私も心から思った。
「うん、そうだね……とか言って、私は何も出来てないけどさ」
そう言って笑うと、弾くんは
「そんなことねえよ。お前やカンナみたいに事務作業してくれる人達がいるから、俺たちは俺たちの作業ができるんだ。皆んなで作ったんだよ、あれは」
そう言ってくれる。
「でも……お前は辛い思いもしたよな」
そう言って顔を曇らせる弾くんに
「もういいんだ。終わったことだし。それに……弾くんとこうなれたんだし。キューピッドだった、って思うことにする。そんで忘れる」
と笑って返すと、弾くんは私の手を握り、指を絡めてくる。
「俺もだ。この先どんなことがあっても、俺がお前を守る。しかし、嫌なキューピッドだよな。俺も忘れよう」
「そうして。弾くんが覚えてる女の子は私だけがいい」
「ああ、お前だけ。好きだ、真夢」
「私も好き……弾くん……」
二人で見つめ合うと、自然に顔が近付くけど、
「おーーーい、後でやれ〜〜」
源さん達に揶揄われてハッとする。
危ない危ない、ホント浮かれ過ぎなのかしら……!?
煌めく山車を皆んなで幸せな気分で見ていると、最後尾の山車の後ろからまだ行列が途切れずに続いてるのが見える。何だろう……?
「山車、終わったのに何だろうね?」
「何かの催し物かな?聞いてみる?」
「ちょっと待って、何か人だかりが見えるね」
その行列が近付いてくると、全貌が明らかになってくる。どうやら先頭の誰かが女の子を中心に引き連れて歩いてるみたいだった。
「……大龍さんかな?」
「いや、違えだろ。あいつならもっと堂々と歩くだろ。幹部も引き連れてねえし、もっと普通?っぽい人に見えるな」
「じゃあ、誰だろ?」
「行ってみっか」
「うん」
弾くん達と一緒に駆け足で近づくと、先頭の人が見えてきた。それは……
スラッとして髪の長い、誰が見ても綺麗だと思う、女の人のような男の人がいた。別に女の子達を引き連れているのではなく、勝手に女の子達がついて行ってるだけみたい。それほどに綺麗な人。でもその人は全くそれを気にしないでごく普通に歩いている。
「誰か探してるんですかあ?」
「彼女ですか!?」
「うん。ちょっと人を探してて。でも彼女じゃないよ」
普通に返しただけなのに「キャアアア!」と歓声が沸いている。
「真夢……あれ……」
「うん……」
私達はその様子を見てすぐにわかった。あの人は……
その人が私たちに気づく。するとニコッとして早歩きで近付いてくると同時に女の子達も早足で突進してくる。こ、怖い……!
よく見るとその女の子軍団の先頭の方にさっきまで執拗に私を責め立てていたAちゃん達の姿がある。
何なのよ!!!!変わり身の速さ、私以上じゃない!!!?ていうか、本当に弾くんのことはどうでも良かったわけ!!?
だとしたら弾くんも私も引っ掻き回されて何だったの……でもいいややめよう、弾くんと恋人同士になれたんだから。この人は嫌だけどキューピッド(含)なんだから。
Aちゃん達も私達に気付き、フン!!と鼻息荒く敵対視してくる。けれど……
先頭の美人男子が私たちの元で足を止めると彼女達はちょっとギョッとした。けれど、やはり一言物申したかったようだ。
「あら、誰かと思ったら。やっぱりガキ同士お似合いね。見切りつけて良かったわあ」
Aちゃんが私と弾くんに向かって吐き捨てるように言う。
それを聞いた美人男子が目を丸くするのを見て途端にきゃるん♡という態度に様変わりする彼女を、私たち五人は最早エンターテインメントとして見ていた。
「何だ、真夢の知り合い?なの?」
美人男子の言葉に三人は「えっ」と反応している。
いよいよだ。この人達を豆にする時がやってきたかもしれない。
私は美人男子に
「さあ、どうかなあ」
と返事をして目配せすると、彼は何かを察したのか余計なことは言わずに私の出方を待ってくれている。
流石。やっぱりこの人は間違えない。いつだってその時の正解をわかってる人。
「ねえ?」
三人に声をかけると、彼女たちは「な、なによ……」と明らかに動揺した様子で答える。
「弾くんに近づかないでくれるなら、この人のこと、紹介しようか」
そう言うと三人は目を丸くして私を見つめ、「え……!?」と声を漏らす。
「ま、まさか……彼氏……!?」
「違うよ。私の彼氏は弾くんだもん。この人はね」
そう言って美人男子の側にいくと、彼は笑顔で私の頭を撫でてくれる。
「ど、どういうこと……?」
「月野幸夢さん、ていうの。あの山車の1番大きなお面を作った人のうちの1人でね、宮大工をしてる。仕事のメドがつくとたまにこの街に帰ってくるの」
彼女たちは黙って話を聞いている。彼も、弾くんも、源さん達も黙って話を聞いてくれてる。
でも彼女達と私達の心持ちは全然違う。ミカちゃん達はもうワクワクして堪らないといった感じで私と彼を交互に見ている。
「すごく優しくて、仕事も出来て、頭が切れて空気もめちゃくちゃ読む。見た目もこれで、パーフェクト男子って感じだよね。とっても家族想いで3つ下の妹がいるんだけど、シスコン気味なのが玉に瑕」
彼女達を見つめながら続ける。
「その妹をいじめる相手には容赦しないんだよ。怒ると怖いの、すごくね」
そこまで聞いて、Aちゃんの顔がみるみると青ざめていくのがわかる。
BちゃんCちゃんも「ひい……」と悲鳴を上げている。まさか……そう思っている彼女達に決定打を差し出す。
「そうだよね、お兄ちゃん!」
ニッコリ笑って兄の方を見ると、彼も綺麗な満面の笑みを浮かべて答える。
「そうだね、真夢」
その一言で、三人は完全に言葉を失ったようだった。
「真夢の勝ちーーーーー!!!」
ミカちゃん達が一斉に飛び跳ねて喜んでる。弾くんと源さんも笑顔で拍手してくれている。
「あ、あんたのお兄さん……ですって!?」
やっと喋ったかと思うと、そんなことを言ってくる。
「うん、血の繋がった実の兄だよ」
「嘘……!こんな完璧な兄がいるなんて信じられない……!あんたみたいな……」
そこまで言ってハッと口に手をやるAちゃん。お兄はニコニコと様子を伺っている。
「どうしたの?さっきみたいに色々言っていいよ。おでこ、とかブス、とかさ」
「やっ、やめ……!」
私の言葉に慌てたAちゃんに、ミカちゃんカンナちゃんも加勢する。
「ブタとも言ってたよね?」
「真夢ちゃんと弾くんを騙して、弾くんをどうにかしようとしてたしね」
それを聞いたお兄の眉尻がピクリと動く。
「うっ……」
何も言えないでいる彼女達を尻目に、お兄がにこやかなまま口を開く。
「ふんふん、つまり君たちは俺の妹を散々馬鹿にしてくれた、と言うわけなのかな」
「いえ、あの……!」
「俺と同じ顔してる真夢の事をブスって言ってくれたって事は、俺もブスって事だよね」
「そ、それは……!」
お兄がニッコリ笑って言うと、周りからギャアアアと悲鳴のような叫び声が起きる。
「アンタ、何様のつもり!?」
「この人がブスなわけないでしょ!?ふざけてんのアンタ!!」
周りの怒りの声にAちゃん達は顔面蒼白でしどろもどろになっている。
「まあ、確かに真夢はおでこだし、このブタちゃんも少し真夢に似てる。でも、」
そこでお兄の声のトーンが変わった。
「弾くんと真夢を騙して、っていうのは頂けねえな。どういう事だ」
声も表情も、いつもの優しいお兄じゃなくて、怖いくらいに真剣な目付きと口調になった。
「真夢はね、人を見る目は確かなんだ。弾くんを選んだのは間違いない。でも、君たちは真夢ばかりか弾くんまでを騙して傷つけた。そういう奴は俺は許さない」
お兄の本気モード(?)を見て私はゾクッとし、慌てて止めに入る。
「お、お兄、もう十分!それ位でやめて……!」
「ご、ごめんなさい……!!」
お兄の様子と周りからのブーイングでAちゃんは涙目になりながら必死になって謝る。
「お願いします、もう二度とやりませんのでどうか許して下さい!!」
BちゃんとCちゃんも泣きながら頭を下げている。ていうかBちゃんとCちゃんはちょっと悪態ついたくらいでほぼ何もしてないし……!
その様子を見た弾くんとお兄は小さくため息をつく。
「ほらな。真夢はそれでもお前達を庇ってやるんだぜ」
弾くんの言葉に、お兄も
「怖がらせちゃってごめんね。分かってくれたなら、もう行きな」
と言って3人を帰らせた。
3人は何度もこちらを振り返りつつ、逃げ去るように去って行った。
「きゃあああああ、今日の月野兄妹はサイッコーーーだね!!優勝だよ、優勝!!!」
「幸夢さんマジでサイッコーだぜぃ!!」
「イケメンお兄さんサイコーー!!」
源さんとミカちゃんが飛び跳ねて、カンナちゃんも拍手して喜んでいる。
「何かよくわかんないけど、真夢と皆んなが満足してくれたなら良かった」
お兄はいつも通りの穏やかで綺麗な顔で笑う。
「もう、やり過ぎだよ……ちょっと可哀想だったかなぁ……」
豆を通り過ぎておからになっちゃったんじゃないかとおろおろする私に、
「アンタって子は……あれだけ泣かされたってのに、ホント甘いんだから!」
ミカちゃんの言葉にお兄も何かを思い出したように言う。
「そうそう!夕べは作業で家には帰れなかったから、さっき一度帰ったら真夢と入れ違いになってさ。母さん達が、夕べ真夢がボロボロで泣いて帰ってきて、弾くん取られそうな大ピンチ!とか言うじゃない。俺、驚いたよ」
そう言ってお兄は私と弾くんを見て微笑む。私は慌てて
「ちょっと!!?余計なこと言わないでくれる!?」
と叫ぶけど、お兄は気にせず続ける。
「でも、この様子だとうまくいったみたいだね。源さんたちも長いことうちの愚妹がヤキモキさせちゃって申し訳なかったよ」
そう言って源さん達に頭を下げ、源さん達はいえいえと笑顔を返し、私と弾くんはえっ!?と目を白黒させる。本当に皆んな、当人同士以外にはずぶずぶだったんだね……
「でも、良かったよ。もし罷り間違って弾くんがあの子達に唆されでもしたら、あの山車のお面は弾くんになるところだったんだから」
ニッコリと恐ろしいことを言うお兄に、弾くんも顔を引きつらせて「そ、それは勘弁……!」と呟く。
お兄は常々真夢を泣かすやつは宮大工の飾り細工にしてやると息巻いているのだ。
「まあ、そんな事にはならないと思ってたけどね。だって真夢の見る目は確かだけど、弾くんもだから」
お兄は私を見つめると、頭を撫でてくれる。
「もう、人前で恥ずかしいでしょ……21にもなって」
口ではそう言っても内心は嬉しくなっちゃう私もやっぱりブラコンなんだと思う。お兄もごめんごめんと笑ってくれる。
「あ、それでと言っちゃなんなんですけど、ちょっといいですか幸夢さん」
弾くんがお兄に話しかける。
「俺に?何?」
お兄が返事をすると、弾くんは私達に
「先に行っててくれ。後から追っかけるから」
と言うので、私たちは「わかった」と素直に先に歩き出す。
これは後から聞いた話。
2人になった弾くんとお兄は話を続ける。
「どうしたの、弾くん」
お兄が尋ねると、弾くんは
「あの……」
と少し言い淀んだ後、顔を上げ、まっすぐお兄を見て言う。
「真夢さんとお付き合いすることになりました」
「うん、そうみたいだね。よかったよ、真夢を宜しく」
笑顔のお兄に弾くんは続ける。
「なので……今夜は真夢さんをお借りしても良いですか」
「………あ?」
弾くんの言葉を聞いた途端、兄から笑顔が消え、さっき三人組を追い払った時よりずっと引い声、険しい顔で弾くんに睨みをきかせる。
「てめぇ……自分が何言ってるか分かってんのか?よりによって兄であるこの俺にそんな事言って、なぁ!?」
もの凄い形相とトーンの兄に、弾くんはたじろぐ事なく告げる。
「勿論です。だからこそ、お願いしてます」
焼き尽くすような兄の視線に負けないくらいの強さを宿して、弾くんは兄を見つめる。
すると、兄はふっと笑って、表情を和らげる。
「……だよね。弾くんにこんな事しても無駄だよなあ」
「……」
「真夢はさ、良い子だよ。俺の自慢の妹。だから俺も、弾くんなら大丈夫だろうと思ったんだ。君ならきっと真夢を大切にしてくれるってね」
「はい」
「でも、これだけは忘れないでくれ」
兄の言葉に弾くんは兄を見つめる。
「真夢を啼かせるのは構わない。だけど、泣かせたらその時は本当に君をお飾りにするからね?」
ニッコリ笑う兄に弾くんは
「分かりました。ありがとうございます」
そう言って頭を下げる。と同時に、がくっと膝をつく。
「あれ?弾くん?」
様子を伺う兄に、弾くんは
「すんません……腰抜けて……」
と俯いて言う。
「え?」
「幸夢さん……本当はめっっっちゃくちゃ怖かったっす……!!」
涙目で兄を見上げながら告白する弾くんに
「ぷっ……はははっ!!マジかよ!あはははは、ごめ、ごめんね弾くん!!」
兄は楽しそうに笑うと、弾くんに謝る。
「やっべえ、これじゃ俺が真夢に怒られちゃうよ。ごめんね、内緒にして??」
「……はい」
「あーーーっひどいんだ!絶対言うじゃんそれえ!」
「真夢に聞かれたら隠せる自信ないっすね」
「あーーははは!!確かにそうだ!やっべ、俺弾くんホント好きだわ」
上機嫌で笑う兄に弾くんは
「本当っすか……?」
と若干疑いの眼差しを向ける。
「本当だよ。これは嘘じゃない。君になら真夢を安心して嫁がすことができる」
「嫁……!?」
真っ赤になる弾くんに兄は手を差し出し
「さっき、もっとすごいこと言ってたのに今赤くなるの?さ、行こう。皆んな待ってるよ」
「はい……あれ?あっ、そっか俺……!?」
弾くんは更に真っ赤になりながらお兄の手を借りて立ち上がると、2人で私たちの待つ元へと向かうのだった。
「2人して何話してたの?」
合流した弾くんとお兄に聞いても2人とも「別に」「真夢には内緒」とはぐらかして教えてくれなかった。何なのよ、もう!
「山車も終わっちゃったし、今日はこれでお祭り終わりなのかな?」
「いや、何か今年は手筒花火が最後にあるらしいよ!」
カンナちゃんの言葉にミカちゃんが答える。
「へぇ、そうなんだ。どんな花火なんだろ」
「それがさあ、ネットにも載ってなくて、地元の人もほとんど知らないらしいんだよねえ。毎年恒例の花火大会とかでもないっぽいしさあ」
「そうなんだ。中央ステージでやるみたいだね、行ってみよう!」
私たちはぞろぞろとステージの方へ向かう。
ステージではスタッフらしき人が最後の打ち合わせをしているところだった。
「何だろ?何にも書いてないけど」
「まだ秘密にしてるのかな?楽しみだね」
私達が楽しみに待っていると程なくして、ステージの幕が開き、照明が灯る。
「さあ、皆さんお待たせしました。これより本日の締めくくりといたしまして手筒花火を開始いたします」
マイクを持った司会者がそう宣言すると、会場からは歓声が上がる。
「では早速、第一陣の登場です!どうぞお楽しみ下さい!」
司会者がそう言うと、職人さん達が手筒花火に一斉に火を点ける。
最初は小さな赤い炎が噴き出した後、すぐに大きな火柱になって空へと舞い上がる。
その美しさに観客たちは感嘆の声を上げる。
「すごいね、綺麗……」
私の呟きに弾くんも同意する。
「ああ……」
源さん達も花火に夢中になっていて、その様子を見ると本当に楽しくて、今日は来て良かったなと心から思う。
「真夢……俺さ」
「ん?」
弾くんが花火を見ながら私にだけ聞こえる声で話しかける。
「俺、さっきのさっきまで、真夢が浴衣じゃない事を嘆いてたんだけど、今となっては良かったぜ」
まだ嘆いてたんだ……!と内心驚きつつ
「そうなの?何で?」
と聞くと、弾くんは二カッと笑って言う。
「だって、浴衣の着付けは俺、出来ねえからさ」
「??? 私出来るよ?自分のだけだけど」
頑張れば友達のもできるかな?なんて言っている私に弾くんは呆れる。
「お前なあ……まあ、そういうとこも好きなんだろうなあ俺は。じゃあそうだな……あのな?」
そう言うと弾くんは今度は私の耳元で囁く。
「浴衣より、このクソ可愛くて似合ってるワンピースの方が、脱がせやすいだろ」
「……!?」
驚いて弾くんを見ると、ニヤリと笑う彼と目が合った。
弾くんは嬉しそうに笑いながら
「でも、そうか。着付け出来るなら、脱がせても構わねえな。なら、明日は着てくれ。あーれー、ってのもやりたいし、何より真夢の浴衣姿が見たい」
「……っ!ば、馬鹿あっ……!」
私が顔を真っ赤にしながら反論しようとすると、弾くんは私の肩を抱き寄せて唇を塞ぐ。
周りの人達に気づかれないように、でも確かにキスをした。
そして、ゆっくりと離れると、彼は言ってくれた。
「好きだよ、真夢。ずっと一緒に居ような」
私は弾くんを見つめて微笑むと、彼の胸に顔を埋めて、小さく、しかしはっきりと返事をする。
「うん、ずっと一緒だよ……大好き」
二人で寄り添いながら、今日最後の花火を見上げた。それはきっと、今まで見たどの花火よりも綺麗で、幸せな光景だった。
「以上で本日の手筒花火を終了致します!なお、こちらの提供、主催は全て鬼頭組によるものであります!」
……やっぱり……!!
派手な演出、スタッフの服装やメイク、よく見れば手筒花火にひとつずつ鬼頭組の印字がしてある。私達は妙に納得したのだった。
「ありがとうございました!本日の祭りはこれにて終了となります!お帰りの際は足元にご注意下さい!また明日、お会いしましょう!!」
司会者の言葉に観客は拍手と歓声を送る。
「じゃあ、帰ろっか」
「そうだな」
私達はお祭りの会場入り口まで一緒に歩き、そこで挨拶を交わし合う。
「今日楽しかったね!」
「真夢、今日は特に!ハイパーイケてたよ!」
「確変状態だったな!」
「もうやめてよミカちゃん、源さん〜〜」
などと言って盛り上がりながら今日のお祭りの熱を冷まして帰る。
「じゃあそろそろ帰ろっか」
「また明日もこよう!」
最後まで皆んな楽しそう。勿論私も。
でも……これで弾くんとも今日はバイバイか。今日は!だけど。後ろ髪を引かれまくって抜けちゃいそう、本当はもっと一緒にいたい。
そう思いつつ、じゃあね、とお兄と一緒に帰ろうとすると
「真夢、お前なーー〜……」
お兄がため息をつきながら言う。
「我が妹ながら呆れるよ。お前はあっち」
「え?」
そう言ってお兄が私を差し出す(?)先には……笑顔の弾くんがいる。
「真夢、お前はこっちだ!」
「頼んだよ、弾くん」
「はい!ありがとうございます!」
「?!?」
感嘆詞が頭上に浮かぶ私を差し置いて、彼らは笑顔で会話を交わす。
源さん達は顔を赤らめつつ大盛り上がりをしている。
「キャーーッ!真夢、やったあ!」
「やったな!弾のバーカ!」
きゃいきゃい喜ぶ彼らの前で私は弾くんの腕の元に収まる。
「じゃな、真夢。父さん達には上手い事言っとくから!ミカちゃんカンナちゃん、名前貸してね〜」
お兄はそう言って笑顔で家の方へと歩き出し、ミカちゃんカンナちゃんの二人は「勿論でーす!」と大喜び。
「ほら、真夢、俺らも行くぞ。じゃな!お前ら、今日は?昨日も?いや、いつもありがとな!また明日、ここで会おうぜ!」
弾くんの笑顔に皆んな手を振って答える。
「おうっ!弾、真夢、また明日な!弾!!手加減してやれよ!?」
「真夢!!今日のアンタはサイッコーにイケてた、特上美人だ!弾!!潰すんじゃないよ、この筋肉ダルマめ!」
「二人ともおめでとう〜!あの、その、頑張れーーー!!」
真っ赤になって言うカンナちゃんに源さんとミカちゃんが「頑張れって!!」と大笑いでツッコミを入れている。
「さ、行こうぜ。夜は長く短いんだ、真夢♡」
「……弾くん??」
「さっき、花火の時話したろ。あーーー、早く脱がしてえ!!」
「弾くーーん!!」
半ば強引に私を引きずっていく弾くんを見ながら源さんミカちゃんカンナちゃんの三人は呟く。
「……大丈夫かな真夢……」
「……多分大丈夫じゃねえだろ……」
「真夢ちゃん、明日は浴衣着れるかな……の前に、来られるかな??」
「うーーーん、……まあ、明日の風は!!」
「「「明日吹くーーーーー」」」
と三人の声が揃ったところで、三人も笑いながら帰って行く。
この二日間で色々な事が起こって、泣いて、怒って、感動して、笑った。まるで映画のヒロインみたいに。
でも私はヒロインなんかじゃない。ごく普通の、なんて事ない派遣社員OL。
それでも私は本当に幸せ者だと思う。
一緒に泣き笑いしてくれる友達がいて、大好きな人がいて、その人たちが側にいてくれて。
私は、そんな人達と出逢えた事を心の底から感謝する。
私は今、とても幸せな気分。
「弾くん」
「なんだ」
「大好き」
「俺もだよ」
昨日は紅茶の缶に八つ当たりしてた私が、今日はこの後、弾くんの為に買ったワンピースを彼の手で脱がされるらしい。
「明日は浴衣〜!」
「何か含みがあるね!?」
「そうかあ?エッロまっくら〜!」
「にゃんだと〜〜!?」
腕にキツく抱きつけば、弾くんは嬉しそうに笑う。
「やっぱ可愛いわ、お前。最高に愛してる」
「んふふっ!やった〜!」
私達は笑い合いながら家路を急いだ。
明日もきっと楽しい一日になる。
だって私にはこんなに素敵な彼氏がいるんだもん。
でもまずはこれから始まる夜を楽しまない、と……ね?
楽しめる……のかな??
「よっしゃ!脱がし合おうぜ、真夢!」
「何言ってんの弾くん!」
私は弾くんの腕の中で、また一つ、小さな幸せを感じたのだった。
これからもずっと、貴方と共に生きて行きます。
お互いそう心に誓った夜だった。
明日も一緒にお祭り、行けますように!(色んな意味で!!)
