メモリアル・ロンリネス① 〜真夢side

 弾くんと。
 真夢と。

 下らないことで。

 喧嘩をしてしまった。

◆◆◆◆◆◆

 お昼休みになり、いつものメンバーで今日は何を食べようか、なんて話していたら
「ねえ、今日はすし源に行かない?」
カンナちゃんがそう言った。
 すし源……正直私の胸はざわついた。そんな私と裏腹に、どうしてまたと聞かれたカンナちゃんは何の他意もなく
「今日はサービスデーなんだって。妹も張り切ってるみたいだから、皆んなと来てって言ってて。ね、どうかな?」
と笑顔で理由を話していた。
 妹さん……更に私のざわつきが増していく。
カンナちゃんの妹さんていったら、すし源の看板娘で、弾くんが……一時期……だめ、これ以上考えられない。
 皆んなは、いいね!じゃあそうしようか?と賛同のムードだったけど私はどうしてもそんな気分になれず、返事をせずにいたら
「真夢もいいだろ?」
と源さんに声をかけられてしまった。
 どうしよう。行きたくない。弾くんとカンナちゃんの妹さんがいる所なんて見たくない。でもそんな事、こっちを見てる弾くんもいるのに言えるわけない。
私が言い淀んでいるとミカちゃんが察してくれたのか
「あ、もしかして真夢、今日お弁当?」
と私にだけ分かるようにウインクして聞いてくれた。
ミカちゃんの好意に感謝して、うん、実はそうなんだよねと答えると
「そっか、じゃあしょうがないよねぇ」
とカンナちゃんにもフォローを入れてくれた。
よかった、誤魔化せた……そう思ったら
「あー、じゃあ真夢、その弁当俺にくれよ。あとで中休憩の時に食いてえな。お前の作る弁当美味いんだよな!」
と弾くんが笑顔で言ってきた。
だから一緒に行こうぜ、と誘ってくれる。
 いつもならこんなに嬉しいことはない。けれど今日は本当はお弁当なんてもっていないし、弾くんがお店に行くのが一番イヤ。
「ちょっと!あんた何勝手なこと言ってんの?!それは真夢の手作りのお弁当だってこと忘れてんじゃないでしょうね!?」
ミカちゃんが慌ててフォローしてくれるけど、
「だからいいんだろうが!お前バカか!?な、真夢、だから一緒に行こうぜ。弁当くれるならその弁当代としてお前の分は俺が払うから」
弾くんが笑顔でそう言ってくれて、ますます断り辛くなってくる。
だけど、だけどやっぱり……!
「ごめんなさい、私やっぱり行けないや……皆んなは気にせず行ってきて!折角誘ってくれたのにごめんねカンナちゃん!」
「あ!真夢!?」
 
 私は思わずその場から逃げ出してしまった。

 どうしよう……超感じ悪かったよね私……
せっかくのカンナちゃんの好意を無碍にして、ミカちゃんも弾くんも気を遣ってくれたのに断っちゃった……どうしようどうしよう……
頭の中で後悔ばかりがグルグルする。
 結局私は街中まで来てしまって、近くの公園に逃げ込んだ。誰もいないことを確認してから、しゃがみ込んでしまう。
「うっ……」
 涙が出てきた。
誰も悪くなんてない。
ただ、私が……弾くんとカンナちゃんの妹さんが同じ空間にいて、それを見るのが耐えられなかっただけ。ただの嫉妬。弾くんが好きすぎて。
私、バカみたい。ううん、普通にバカだよね……泣きながらしばらくボーッとしていると、スマホが通知を知らせる。見ると、ミカちゃんからのメッセージだった。
『大丈夫?とりあえずこっちは適当に誤魔化しておいたから大丈夫だよ。また後で話そ!だからアンタも適当に何か食べるんだよ!』
涙で文面が滲む。ありがとうミカちゃん。
わかったよ、ごめんね、ありがとう、などの感謝のメッセージを返信して、またボーッとしてしまう。
何か食べなきゃ……昼休みも終わっちゃうし、午後の仕事に支障が出ちゃう。何も食べたくないけど、私はゆっくり公園を後にした。
 歩き始めた私は、スマホが鳴っている事に気付かなかった。

 商店街に戻り、途方も無く歩く。コンビニにしようか、どこかに入るか、全部気が向かない。
 今頃皆んなはすし源に行っているのだろうか。いや、そうに決まってる。弾くんも。……弾くんも……
また涙が出そうになる。その時だった。
「あれぇ?まくたん!!」
「あ、ホンマや、真夢やん」
聞き慣れた可愛い声と関西弁。顔を上げると、凪ちゃん、颯くん、嵐さんがいた。
「真夢〜!こんなとこで会うの珍しいやん、どないしてん?」
「仕事中にまくたんに会えるなんて〜!凪ちゃんたちはお昼の買い出しに来たんだよ〜♡」
いつもと変わらない凪ちゃんと颯くん。
「……泣いてる……?」
嵐さんが気付く。嵐さんは身体が大きくて一見コワモテだけど、本当は動物好きの優しい人だからすぐばれてしまった。
「何やて!?」
「本当だ……何があった真夢、まさかバンダナ野郎と何かあったのか!?」
凪ちゃんのぶりっ子モードが攻撃的モードに変わっている。
「ち、違うの、私が、勝手に……」
言いながらバラバラと涙が出てきて、止まらなくなってしまった。
「真夢、お前こっち来い!」
「凪ちゃ、うわああああ……」
「ここじゃ目立つし昼休みとはいえ勤務中ウチの社内はマズいな、その辺適当に入るぞ」
「……俺で周りには見えない。安心しろ」
「颯くん、嵐さん、ありがとう……!!」
凪ちゃん達につられて私はその場を後にした。

 ミカちゃんからの着信にはまた気づかなかった。そして、弾くんからも着信があった事にも。

 皆んながすし源に向かう頃。

「おい、やっぱりお前らだけ行っててくれ」
「え?どうしたんだ、弾」
「俺はやっぱり真夢を探して真夢と食う。あいつ何かおかしかったろ」
「なら、真夢に連絡するからちょっと待って、弾……あ、弾!!」
 
 ミカちゃんの言葉を待たずに、私の事を探しに弾くんがすし源に行かなかったことなんて。
 私が泣きながら鬼頭組の皆んなと一緒に歩き出した所を、丁度弾くんが見つけてくれただなんて。

 私は全く知らなかった。