真夢がいない中すし源へ向かう途中。
「おい、やっぱりお前らだけ行っててくれ」
俺の言葉に源三達が振り返る。
「え?どうしたんだ、弾」
「俺はやっぱり真夢を探して真夢と食う。あいつ何かおかしかったろ。俺と真夢のことは気にせず皆んなで食ってきてくれ!ワリィな!」
「なら、真夢に連絡するからちょっと待って、弾……あ、弾!!」
ミカが何か言おうとしてたけど、それどころじゃねえ。
真夢は何か変だった。
いつもなら多少得意じゃないもんでも笑顔で「うん行く!」と言う真夢が、どうしても行きたくないと言った。
弁当だって、前に女子会だかに急に誘われて持て余した時、喜んで俺にくれたし、それが美味すぎてそう伝えたら、すげえ嬉しそうにしてくれていた。
何が気に入らなかったのか、どうして嫌なのか、それは分からねえ。でも、明らかに様子がおかしい。だから探さなきゃ、1人になんてしておけねえよ。
そんな遠くに行ってねえよな、あいつ足遅いもんな。美人で胸がデカくていい匂いがして仕事ができて最高にいい女だけど、運動神経系は詰んでるんだよなあいつ。
あちこち探しているうちに、見覚えのあるいい女の姿を目の端に捉えた。
あれは、間違いなく真夢だ。誰かといんのか?ダチか何かかな。
「おい、まく……」
声をかけようとしたら
「うわあああん……!」
真夢が小さい女に縋り付いて泣き始めた。
よく見りゃあれは鬼頭組の重機の女じゃねえか……凪だっけか、真夢の親友だとかって言ってたな。
するとデカい男が真夢の姿を隠し、もう1人の男が真夢の手を引いて連れていく。あれは、嵐と颯だ。
何だ……?どういうことだ?
真夢は弁当持ってたんじゃねえのか、いやそれはどうでもいいか、何で鬼頭組の奴らが……いやそれもどうでもいい。
何で、真夢が泣いてるんだ。
そして、何でそれを颯達が連れて行くんだ。
『おい、待ってくれ、そいつに触るんじゃねェ!!』
そう叫んで追いかけたいのに、あまりの展開に行動がついて行かず、遂に真夢は連れていかれちまった。
「何だ……どうなってる」
俺はしばらくその場から動くことが出来なかった。
そうこうしているうちに昼休みが終わっちまいそうだったので、俺は慌てて適当にコンビニ飯をかきこんで事務所に戻った。
真夢はもう戻ってるのか?
見渡していてもまだ姿はない。
すると、休みが終わるギリギリに真夢は事務所に慌てて戻ってきた。はあはあ息を切らして、ギリギリになってすみません!と謝っている。
泣いていたせいだろうか、目が少し腫れているように見える。
俺が真夢を見ていると、ふいに目が合った。
いつもならニコッと気絶しそうな可愛い笑顔を向けてくれる真夢が、今日は気まずそうに目を逸らした。
何だ……?俺の事が嫌いになったのか? いや、多分違う。
何となくだけど、わかる気がする。
何だよ、何があったんだよ。
俺は、お前が泣くような事は絶対しねぇって約束できるのに、お前のそばにいるのは俺だけにしたいと思ってんのに。お前が他の男といるだけでこんなに苦しいんだぞ。
お前もそうなんだったら、俺が絶対に幸せにしてやるから、俺にしろよ。真夢。
でも、この日は何度も目を逸らされた。
やっぱり嫌われてるのとは違う気はするけど、一体何なんだ?
まあこれだけ好きなのは俺だけだろうが、流石に何度も避けられるとキツいな……
モヤモヤしてイラついてる所に、休憩室でミカと真夢が話してるのが見えてしまった。
ミカが何やら話しかけていて、真夢は目を丸くしたり、首を横に振ったり縦に振りながら返事をしていた。
何を話しているのかは聞こえねえが、その様子に、何故か胸騒ぎを覚える。
……もしかして、俺がなんかしちまったのかな。それとももっとシンプルに俺と飯が食いたくなかったのか……?
どんどんネガティブな考えが止まらなくなってくる。
俺は真夢のことが好きだから、どうしても一緒に居たいと思っちまって、それであいつを傷つけてんならどうしようもなく辛い。
俺はあいつと一緒に居る時は、本当に心の底から楽しいんだ。あいつと一緒に笑ってる時間が好きで好きで堪らないんだ。だから、あいつにも同じように思ってもらいてえんだ。
でも、どうすればいいんだ。
そんな事を考えて突っ立っていたら、二人がこちらに気付いた。真夢はハッとして俺を見る。
何だ、その顔は。困ったような、泣きたいような顔……
「弾くん、あの……」
真夢が話しかけてきたのを遮る。
「鬼頭組と食った飯は美味かったか」
「え……」
あれ、俺、今なんて……
ネガティブなことばっか考えてたら、思ってもねえ、いや思ってなくもねえけどそうであって欲しくねえなという事を、すげえ嫌味ったらしく言っちまった。
「ちょっと弾、そりゃないだろ」
ミカの声で我に帰る。
そうだよな、ちょっと言い過ぎたな。頭では分かってるのに、どうしても感情を抑えきれなかった。
「……悪ィ。そんな事言うつもりじゃなくてさ、ただ……」
ただ、何だ。
何を言いたかったんだろうな、俺は。
「……何でもねえ。とにかく、あんまりあいつらとは関わんな。ライバル会社なんだし」
「関わんなって、仕事が関係なきゃあいつらは真夢にとっては友達なんだからさ。真夢が仕事の事バラしたりしないの分かってるだろ」
そうだ。それも分かってる。
俺と真夢とミカは桐島組より前の黒木組からの付き合いだ。
真夢は派遣だから黒木組にも鬼頭組にもいた事はあるが、その内容をどこにいた時も漏らしたりする事はなかった。
それが故に仕事の腕を買われ、今でも鬼頭組の奴らが真夢を引き戻そうと狙っている。
それは分かっているのだが……
俺の気持ちは、きっと伝わっていない。
真夢は泣きそうな顔で俺を見ている。
こんな顔をさせたいわけじゃない。いつもみたいに笑顔でいて欲しいのに。
「……分かったよ」
「よし。とりあえずこの話は終わり!ほら、真夢行こう」
ミカが真夢を連れていこうとする。
「じゃあ、何で泣いてたんだよ」
思わず口をついて出ちまった。
しまったと思った時にはもう遅かった。
「え……」
真夢が目を大きく見開いて驚いている。
「泣いてたよな、真夢」
ああ、くそ。最悪だ。何やってんだ俺は。蒸し返してどうすんだ。
「弾くん、そこまで見てたの……?」
動揺した真夢の様子に、俺の心の中の何かが切れそうになる。
「悪いか。お前が心配だったからだよ」
ダメだ、止まらねえ。
後になって全てを知ったら何で真夢が言いにくそうにしてたかも納得がいくが、何も知らない俺は勝手に追い詰められ
「それとも、俺には言えねえのか」
そう言った瞬間、自分の中の何かがプツンと切れる音が聞こえた気がする。
「弾くん……!違……」
「弾、ちょっと落ちついて、あのね真夢は……」
真夢とミカが何か言おうとしてるのを遮る。
「そうかよ。俺には言えなくて、鬼頭組の奴らには泣きつくくらい信用してるなら、次の更新で鬼頭組に行ったらいいじゃねえか」
何言ってんだ、俺。
自分で自分に驚く程、冷たい声が出てるのが分かる。
「……っ!」
ハッとした真夢の顔を見て、胸がズキンと痛む。でも、これ以上の言葉を紡ぐのは無理だ。
「ちょっと弾!!あんたなんて事言うの!!?」
ミカも怒っている。当然だよな。
「真夢、気にしなくていいよ。こいつ頭に血が昇ってるだけだか……」
言いかけたミカが言葉を詰まらせる。俺とミカは真夢の顔を見て言葉を失った。
ボロボロと涙を流すその表情は、怒りとか悲しみではなくて、ただひたすら絶望感に打ちひしがれていたからだ。
「真夢……!泣かないで、大丈夫だから。違うから、本心じゃないよ。ね。弾!あんたも何か言いな!」
「……ごめん、言い過ぎた。頼むから泣くなよ」
慌てて謝るが、真夢は首を横に振るだけで、一向に泣き止んでくれない。
どうしたらいいんだ。こんなつもりじゃなかった。
俺のせいで泣かせてしまった。
「何であんなこと……!バカじゃないの!?」
ミカが俺を罵るが
「違う、弾くんは何も悪くない。私が……私が悪いの。本当にごめ……」
真夢は俺を庇っている。
クソッ!何なんだよ! 真夢にこんな顔させて、俺は何がしたいんだよ。
「……弾くんは、私に鬼頭組に行って欲しいの?」
真夢が泣きながら問いかけてくる。
そんな事あるはずがない。
ないのに、上手く言いたい事が言えない。
「そんなわけないだろ!俺はお前がいないと……」
そうだ、お前がいなくなるなんて考えた事もねぇよ。絶対に嫌なのに。
「じゃあどうしてそんなこと言うの?それとも……行き先は別に鬼頭組じゃなくても、ここからいなくなって欲しいって事?」
「え……?」
どういう意味だ。俺が、真夢がいなくなれって思ってるって思われてるのか……?
「真夢、落ち着いて。あんたまで熱くなったらますます拗れちゃうよ」
「俺はただ……」
「それとも、ただ、私の事嫌いになった……?」
「違う、そうじゃねえよ!!」
「そうだよ!誰も真夢に鬼頭組にもどこにも行って欲しくないし、弾、あんたが真夢の事どう思っているかもちゃんと言ってあげなってば!」
ミカが焦れて俺を責め立てる。
そうだよな、俺がちゃんと言わなきゃダメだ。でも何をどう言えば……上手く言葉が出てこない。
「だから、俺は……!」
「もういいよ……心配かけちゃってごめんね。お昼を台無しにしちゃってごめん。追いかけさせちゃってごめん。私のことなんてほっといて、可愛い看板娘さんと楽しくお話ししながら美味しいお寿司食べればよかったのに!さっきのが弾くんの本心なんでしょ……!」
なんだそれ!?どういうことだ!?
だが、考える間もなく真夢は泣きながら仕事に戻る!と部屋を出て行ってしまった。
「ちょ、真夢待って!弾!追っかけて!」
「え、ああ……」
ミカに言われて我に帰る。
「早く行きなよ!」
「お、おう……」
ミカに押されるようにして真夢を追い掛ける。
「何やってんのよ、あんたは……!馬鹿じゃないの!?真夢はあんたにお昼のことを謝ってお礼を言おうとしてたのに!」
ミカに罵倒されるが、返す言葉もない。
「悪い……でも、どうすりゃいいか分かんねえんだ」
真夢を傷つけた。泣かせた。それだけは間違いねえんだ。絶対泣かせるような事はしないって思ってたのに。
「どうすればいいか分かんないなら追い掛けなさいよ!!真夢だって同じ気持ちなんだから!!!」
「同じ気持ち……?」
「今のあんたと同じ気持ちだよ。アタシからはこれ以上言えない。本人に聞きな!」
そうだ。真夢に聞かなきゃな。
きっと傷つけた。
このまま終わらせたくない。
「……行ってくる!」
真夢を追って駆け出した。
