お母さんズとの楽しいランチを終えて弾くんの病室に向かうと、美人担当医と鉢合わせた。
何でこんなにこの人と会うのかしら??
「こんにちは、月野さん。足は大丈夫?綺麗なお肌も」
ほら、いい人なのが更に良くないのよ。私の器の小ささが露呈して恥ずかしい…!特に弾くんが関わると本当ダメなんだから、私は!
「大丈夫です。松葉杖ありがとうございました。やっぱり助かりました」
そう言うと先生は笑顔で
「なら良かったわ。あと、八波さんの退院後の通院についてですが、しばらくは退院後も定期的に診察を受けて下さいね。経過観察の為と、今後の生活の為にも」
と教えてくれる。
「わかりました」
「とは言っても、心配も懸念されることもほぼありません。あ、これじゃダメなのか、全くありません、よね。より安心の為に、まずは一週間後、一ヶ月後、半年後、と検診は怠らないようにすれば絶対大丈夫です」
「はい……!でもあの、先生がずっと弾くんの担当されるんですか?」
「まあその予定だけど、お嫌かしら?」
「そんなことは……」
ちょっとあります、と顔が言っていたのだろう。先生はケラケラと笑って
「あなた本当に正直よね!可愛いわあ!大丈夫、あなたが心配?してるような事はありえませんから。どちらかといえば心配しないといけないのは彼の方かもしれないわ?」
そんな返事をする。
「??」
私が?マークを頭上に出していると、ちょうど検査終わりの弾くんがやってきて、わなわなと震えている。
「あ、弾くん、検査終わったの?」
そう聞くより前に、弾くんは
「あーーーーー!やっぱりそういうことか……どおりで真夢に甘いと思ってたんだよな。女相手でも真夢は渡さねえからな!」
と先生に怖い顔をしている。一体どうしたっていうの??
「何?なんの話?」
そう聞いても
「何でもねえ!お前は知らなくていい!でももうちょっと危機感を持て、そして無自覚に人を誑し込むのやめろ!」
なんて怒ってる。
「八波さんたら怖いわねえ……どうしたのかしら。泣かされたらいつでもいらっしゃい?」
笑顔で言ってくる先生に私が返事をする前に
「泣かさねえから安心して下さい!!」
と跳ね返して私を連れて病室に戻って行く。
私は何のことやらさっぱりわからなかったけど、病室に入るとすぐ「お前は誰にも渡さねえ!!」と言って抱きしめてキスしてくれたから、まあいっか!んふふ!
しばらくすると、源さん達がお見舞いにやってきた。
「よう、弾。調子はどうでい」
「ああ、ハナから何でもねえんだよ。すこぶる元気だぜ。検査も問題なかったし」
源さんの問いかけに弾くんはいたって普通!問題なし!と答える。
「そりゃよかった。真夢は?」
「私も大丈夫。傷も残らないって言われてるし、足だけもうちょっとかな」
「早く治るといいね……仕事無理しないでいいからね?」
「そうそう、弾もしばらくは事務所作業みたいだし弾に手伝わせればいいよ」
なんて言って、ミカちゃんやカンナちゃんも心配してくれる。
「あ、そうそう弾くん、お見舞いにカットフルーツとか買ってきたよ。食べていいのかな?」
カンナちゃんがそう言ってお見舞いを渡してくれるので、私は
「勝手に食べて怒られると困るから、私ちょっと聞いてくるよ」
とナースステーションに聞きに行くことにした。
「真夢はすっかりいい奥さんみてえだなあ」
そんなことを言いながらニヤける源さんに、
「おい、変なこと考えるんじゃないぞ?俺の大事な嫁だからな」
と弾くんが食ってかかったり、
「きゃあ!もうお嫁さんだって!」
「こないだまであんなバカみたいな喧嘩してたとは思えないねぇ……まあバカなのはアンタだけか。いいね、真夢を逃すんじゃないよ」
なんてカンナちゃんやミカちゃんに揶揄われたりしてる事なんて知らない私は、OKの返事を貰って病室に戻る。
「大丈夫だって。じゃあみんなで食べようか」
「あ、出来た嫁が戻ってきたぞ。じゃあ食おうぜ」
「何?嫁って……はいこれ、弾くんの分」
そう言って弾くんに器を渡そうとすると弾くんは
「……何だか急にあちこち痛くなってきたような……ちょっと自分で食える気がしないから真夢食わせてくれ♡」
なんて言っている。
「はいはい、全く甘えん坊さんなんだから」
と言いつつ、嬉しくてつい顔が緩んでしまう。昨日は怪我して寝てる上に私を乗っからせて散々えっちなキスをしまくったくせに……!
「あーあ、イチャついちまって……」
「ラブラブですね……」
「バカップルだよ、全く」
外野の声を聞きながらも、私は弾くんにあーん、と促し、弾くんも口を開けて嬉しそうに食べている。
「美味しい?」
「あぁ、最高に。いつもありがとうな」
弾くんが照れ臭そうに言うので、こちらこそありがとう!と返すと、弾くんは満足げに笑った。
「あ〜あ、本当に見せつけちゃってくれるわ。アンタ達何で喧嘩してたわけ?」
「さあな、もう忘れたぜ」
「弾くんが可愛い子の店にお昼を食べに行こうとるんるんだったからです」
「うわぁすげえ飛躍!」
皆んなで笑い合う。
「やっぱお前達はこうじゃねえと。ったく、お前達も辛かったんだろうがこっちも調子狂っちまって大変だったんだからな!」
「そうそう。このイチャイチャバカップルがないと落ち着かないんだよね」
「いいな〜……」
「ん、まあね……」
ミカちゃんカンナちゃんがぽそと呟くと
「何だお前ら、どうしたんでい?」
と源さんがやっぱり何も分かっていない。何でもないよ!と2人に返されて首を傾げている。
「あ、そうだ。お前らに言っとかなきゃならないことがある」
急に弾くんが改まった様子で話し出す。
「何だ一体?」
聞き返してくる源さん達に
「こちら、俺の恋人の月野真夢さんだ。よろしくな!」
と私の肩を抱いてそう宣言した。
「知ってるよバカヤロー!今更何を言ってんだよ」
「もっと早くからそうしてろバカ!末永く爆発しろ!」
なんてやいやい言われて、私はまた幸せな気持ちになった。弾くんもキリッとした猫目をデレデレにして笑ってくれてる。かーわいい♡
「しかし、恋人、恋人か……」
源さんが何かありそうな口調でそう繰り返す。
「何だ源三、文句でもあんのか」
弾くんがそう聞くと
「いや、お前ら見てると今更恋人か?って気がして……いっそ結婚しちまえばいいのによと思ってな」
とニヤリと笑ってみせた。
結婚……
私達は顔を見合わせる。
「それもそうだね。ホントホント」
「もうアンタ達、お互い以外に考えらんないじゃないか。付き合ってなかったけど、はたから見たら充分付き合ってたも同然だしね」
なんてカンナちゃんとミカちゃんにも言われる始末。
「さっきも俺と真夢の母ちゃんがここで鉢合わせたんだけど、2人とも意気投合して出て行っちまったんだよな」
「そうそう、初対面なのにね。弾くんのお見舞いに来たのに。お昼は私も一緒に食べたけど、2人はまだ話し足りないみたいだったよ」
私達の言うことを聞いてみんなは
「何だ!親同士も仲良くなっちまったんならもう決まりじゃねえか」
なんて言ってくる。
「でもまだ一日しか付き合ってな……」
「だからこれまでも十分カップルだったっつーの」
「そうかなあ……」
「そうだよ」
皆んなからそう言われて弾くんを見ると、ちょっと照れたような顔をしている。
「昨夜、真夢と俺の家族が帰ってから、猛プッシュのメッセージがバンバン来てよ……絶対逃すなだの、あんな可愛い子がお前の恋人なんてだの……さっきも解散した母ちゃんから連絡来て、絶対真夢を嫁に貰うって張り切ってたぜ」
そんな事を話してくれた。
「うちの母からもさっき、すごく楽しかった、あそこのお宅に真夢が嫁いでくれればこんな嬉しいことはないって言ってたよ」
「ええ!?マジかよ……」
「大歓迎じゃん!良かったね!」
「おめでとう!弾くん、幸せ者だよ!」
カンナちゃんとミカちゃんにも祝福される。
「そもそもなんでお前ら結婚しないんだ?」
源さんがそう呟くと弾くんも
「そうか……じゃあするか、結婚」
と私を見る。
「ええ!!?」
急すぎない!?
「俺と結婚してくれるか、真夢」
だから急なんだってば……!皆んなも見てるし……でも、答えなんて決まってる。
「勿論だよ、弾くん!」
おお〜!!という歓声が上がった。
弾くんと私は顔を見合わせて笑う。
「とか言って、まだ色々おいおいだけどな」
「まあそうだよね」
「ああ、でもこれでオイラ達も安心できるぜい!長かったーー〜……」
「「え、そうなの(か)?」」
「「「そうだよ!!!」」」
皆んなで笑い合う。
準備はこれからだけど、私たちは恋人であり婚約者ってことになるのかな。何だかすごくあっけなくて実感がわかないけれど、これから一生、ずっと弾くんと一緒にいることが出来るなんて、本当に嬉しくて仕方がない。
「八波さん、退院許可が出ましたよ〜」
いいところでまた弾くんが美人を引き寄せた。
もう何なのよ!!
「わっ!すごい美人!弾の担当医さん?」
「そうなの……嫌でしょう、しかもすごくいい人なの……嫌でしょう??」
「「嫌だねえ」」
女の子達は分かってくれる。源さんは首を傾げているし、弾くんは
「違えよ!!こい……いや、この人は、俺なんか眼中になくて……」
「「当たり前だろ!!」」
話の腰を源さんミカちゃんに折られながらも
「違げえって!!この人は真夢の方が……!」
「え?私?」
「はい、あまり騒ぐと退院させませんよ?」
続けようとした所で美人女医にトドメを刺されてぐうの音も出なくなっている。
「彼女にもお話ししましたが、しばらくは定期的に検診しに来てもらいます。一週間後、一ヶ月後、三ヶ月後、というように。現場は一週間後検診が終わるまでは控えて下さいね。くれぐれも無理は禁物。特に頭には気をつけて下さいね。それさえ守れば大丈夫ですよ」
そう言ってにこやかに微笑む。
「明日退院できるんだな、よかったな」
「おう、サンキューな。現場お前達に迷惑かけちまって悪いけど……」
「今更気にするんじゃないよ!事務所で真夢にしごいてもらいな」
私達の様子を見て先生も
「いいお仲間さんに恵まれてるのね。しかも皆んな可愛いのね……これじゃ月野さんが心配するのもわかるわ」
そんな事を言ってくれるので
「わかります!!?その上担当の先生もすごく美人なんです。分かってくれます?私の胸の内」
そんな冗談を言う。初めて先生と笑って話せた気がする。
「そうね。でも、私は八波さんと同じ意見だわ。だから自信を持ってね。では私はこれで。八波さん、くれぐれも無理は禁物ですからね!」
そう言って出て行った。
「弾くんと同じ意見……」
『一番綺麗な女です』
『俺にとっての美人は真夢だけだ』
顔がぼっと熱くなる。
「何赤くなってんだよ」
「何でもない!」
「もう結婚しちゃったけどな」
「まだでしょ?!」
「始まった始まった」
皆んなが笑う。私も、弾くんも笑っている。
翌日、弾くんは無事退院した。
退院後の通院も真面目に通って、現場にも少しずつ復帰している。
私の足もすっかり良くなってきた。
退院祝いとお礼を兼ねて弾くんのお宅に挨拶に伺うと、それがそのまま顔合わせのようになり、とりあえずは弾くんと一緒に住んでみることになった。
結婚に向けて少しずつ進んでいる、そんな実感が持てる。
弾くんと。
真夢と。
下らないことで。
喧嘩をしてしまった。
だけど、周りの人たちの支えで、乗り切る事が出来た。
──これからも喧嘩することもあるよね?
──ああ、そりゃ長い人生あるだろうよ。でもこんな胸を抉るような喧嘩はもうこりごりだぜ。
──うん。私も……その日のうちに仲直りしようね。
──お前とならどんな事でも耐えられると思う。
──私もだよ。
──だから、一生、俺の隣にいてくれないか?
──勿論、ずっと、一生弾くんの隣にいたい!
──お前を……真夢を、一生離さない。
今はまだ、恋人同士。
でもきっと、すぐに夫婦になる。
だって、もう離ればなれになったりしないから。
そう思うと、嬉しくて嬉しくて仕方がない。
真夢。
弾くん。
「愛してる」
「大好き」
2人で同時に呟いた。
