生理期間のジェットコースター

 真夢が生理中で苦しんでいる。
 
 痛いとか、しんどいとか、そういう苦痛は本当に気の毒だしかわってやりたいし、少しでも楽にしてやりたいと思うのだが、カリカリして俺に当たりやすくなるのはまた別だ。
特に生理前からそれが酷くなるらしく、真夢はそれを気に病んでいるのだが、俺はそんなことは全く気にしないでいいと思っている。
 だって女の人にしかわからないことだもんな。
男には理解できない苦しみを女は抱えているんだから、それで俺に当たってしまうことがあるならそれは甘んじて受け入れるべきだろう。
 というか、本人に言ったら怒るだろうが、そんな期間の真夢はちょっと可愛いのだ。いつもバカ可愛い真夢だが、もっともっと可愛いのだ。
いつもより少しわがままになったり甘えてきたりすることがあって、そしてその度に申し訳なさそうにする姿がとても愛おしい。
真夢の心と身体の変化に合わせて、俺も出来る限り優しく接するようにしているつもりなのだが……それでもやっぱり当たってしまう時期らしい。
 いつも優しくて明るくて気配りが出来る真夢が、期間限定で俺にだけカリカリしてるなんて、考えただけで可愛い。何なら少し嬉しかったりする。
 いつもあいつは頑張りすぎなんだよ。だからせめてこんな時くらい、俺にだけは素直に甘えてもいいんじゃないかと思うんだけどなぁ……。
「しんどいよぉ〜……」
真夢は俺の膝枕でぐったりしながら呟いた。
「ほれ、薬飲め」
「うぅ……あむっ」
口移しで錠剤を飲ませてやる。
こういう時にしかこんなことは出来ねえから、今のうちに思う存分やらせて貰う。
「んく……ごく……はあ、今月痛い月かぁ……始まる前もしんどかったもんな〜〜……」
「そっか、じゃあお腹さすってやるよ」
「ありがと……」
腹やら腰やらをさすっているうちに眠気が襲ってきたのか、うとうとしてきたようだ。
「はあ……弾くん、かわってえ……」
「いいぜ。じゃあ子宮貸してくれ」
「……変態」
「なんでだよ!?お前が言ったんじゃねーか!」
「冗談だってば〜」
真夢はふわふわした笑顔を浮かべながら俺を見つめていた。
 ……ほらな、クソほど可愛いじゃねえかよ。
言ってきた事にのったらdisられたけど、全然構わねえぜ。
「あ、なんか子ども産むと痛みとか軽くなったりするらしいぜ」
「何それ誰に聞いたの?」
「現場の上の人とかだな。作るか?」
「……」
 ジト目で睨まれた。
「出すだけの人は気楽でいいですねぇ〜」
そう言って膝枕のままそっぽを向いてしまった。
「そりゃねえよ!まあ確かに男が出来る事なんて限られてるけど、俺は本当にだな……俺は真夢との子どもだったらすぐにでも欲しいなって思ってんだからよ」
「え?本当!?」
ガバッと起き上がってきた。食いつき方が尋常じゃない。
「ああ。俺は真夢との子どもなら絶対欲しいと思ってる。でもまあ、確かに大変なのは圧倒的に女の人だよな」
 軽はずみにすんませんでした、と謝ると、真夢は嬉しそうに俺の膝で猫のようにゴロゴロ甘えている。可愛すぎか!!
「意地悪言ってごめんねぇ……ああもうこういう自分が本当イヤ」
「全く問題ねえな。こんな時位、好きなだけ当たれ当たれ!ホルモン相手に生身の人間が敵うわけねえっていつも言ってんだろ」
真夢はじーっと俺の顔を見つめていたが、やがてクスッと笑みをこぼした。
「……やっぱり生理終わったら作ろっかなあ」
「えっ!?マジで!?本当か!?」
「知らなーい」
「えぇ……教えてくれよ〜」
「どうしようかなぁ〜♪」
ニコニコしながら顔を覗き込んでくる。
 くそ、この顔は完全に知ってる顔だぞ……いつの間にそんな駆け引き上手になりやがった。知ってるよ、最初からだよ!!
俺が頭を抱えていると、テレビで恋愛番組のCMが流れ出す。
「うわぁ……結構過激だね!?」
「え?どれ……」
見ると、男女がかなり激し目に濃厚なキスを交わしていた。
「おお……これはなかなか……」
思わずまじまじと見入ってしまった。
「こらぁ、反応させてるんじゃありませんよ!?」
そう言って真夢は俺の股間をきゅっと掴んできた。
「ぐおっ!?……ちょ、ちょっと待て……勃ててなんてねえって!……多分」
「……ちょっと弾力あるけど……」
「それはお前が握ったからだろ!?」
上目遣いで見つめてくる真夢。
その瞳には明らかな情欲の色が見て取れた。
「あーーーだめ!!こんな一方的に突っかかってこんなことして、痴女かっ!!」
そう言って真夢は俺の膝に突っ伏してジタバタし始めた。
「俺は一向に構わねえぞ。可愛いしかねえな」
「どこがじゃー!」
「全然じゃー♡」
真夢の頭をわしゃわしゃ撫でると、真夢はぷいっと顔を背けてしまった。
「もぉ……バカ」
「はははっ」
 照れてる。超可愛い。どうしよう。もう本当すぐにでも結婚したい。
 ていうか何でしてねえの?俺達。わけわかんねえんだけど。
「じゃあしてよーー〜」
「あれ??口に出てた??」
「出てたよ、超出てた。何で私達結婚してないの?」
「何でだよ。おかしな話だよな。じゃあするか」
「うん。超する」
二人で笑う。心の底から幸せだと思う。
「ありがとう、弾くん。大好きだよ」
「何だ急に。俺なんて出会った時からお前の虜なんだからな」
「ふふふ。大好き」
そう言って真夢は俺の首筋をペロリと舐めた。
 …………
「ったく、手出しできないと知っててわざとこんな事やりやがる。終わったら覚えとけよ!?」
「きゃあ!怖い〜!」
「おら!もう寝ちまえ!」
「やーん!」
真夢は俺の腕の中で目を閉じていた。
「弾くん、一緒にいてね……」
「ああ、ずっといる。愛してるぜ」
「へへ……」
真夢の頬に軽く唇を当ててから唇同士をそっと重ねる。
「まあ、そういうことだから。俺には何も気負わなくていいぜ。イライラもメソメソも全部どんとこいだぜ」
「弾くんはMなの??」
 またdisられた。でも全然気にならねーな。それにこれは……
「そうかもな!お前相手だったら何でも受け止めてやるってことだよ。だから安心しろ。何も心配すんな。俺はお前のものだし、お前は俺のものだってこと忘れるなよ?」
「……こんな感情ジェットコースターな女なのに?」
「いいじゃねえか。俺ジェットコースター好きだし」
「弾くんの変態〜」
「何でだよ!」
 朗らかに笑う真夢。本当に良かった。少し元気が出てきたみたいだ。悪態?だって、本当はそんな事思ってないってわかる。
「薬、少し効いてきたか?」
「うん……ありがと」
「俺、そういうお前に振り回されるこの時期、嫌いじゃないんだぜ。やっぱりMなのかな?」
「わあ!マジだー!」
キャーとふざけて笑う真夢を抱きしめる。
「まあ、そういう事だ。俺はどんな時でも変わらずにお前のことを愛してる。それを忘れんなよ」
「……うん」
ちゅ、とキスして、そのまま唇を唇で開いて舌を差し込む。
「ん……」
歯茎の裏まで丁寧になぞりながら真夢を感じる。
真夢は俺の背中に手を回し、脚を絡めてきた。
「んん……ん……はあ……」
「こんなえっちなキスしても、えっちは出来ませんよ?」
わざとらしい挑発の言葉も、今はただ可愛いだけだ。
その言葉ごと絡め取り、ちゅ、れちゅ、といやらしい音を立てながらいやらしいキスをする。
「ん……ん……んむ……あぁ……はぁ……」
唇を離すと、真夢はすっかり蕩けた表情になっていた。
「……えっち」
「まあな。真夢にはえっちだな」
「……出来ないよ?」
「分かってるよ。でも、キスならし放題だろ?」
「もう……勃ってるよ??」
「それもし放題だ。勃つだけなら自由だろ?」
「もう!弾くんたら……んむ」
さっきのCMよりよっぽど濃厚なキスをしていると、その本編が始まった。
普段の真夢なら楽しんで観そうなその番組にも、らしくない悪態をついたりして観ていたが、俺が隣にいるだけで随分と落ち着いていたようだった。
 女の人は本当に大変だよな……
見えないホルモン相手で気分が落ち込んだりする事もあるだろうが、俺がそんなもんぶっ飛ばしてやるよ。
何度でも言ってやる。
お前は俺だけのものなんだからな。そして、俺はお前だけのものだ。
俺達はその後も何度も濃厚なキスを交わす。そうやってお互いの感触や体温を感じ合っているうちに、やがて眠りに落ちていった。
 ほんの、ほんの少しでもいい、俺が真夢の辛い時期を支えられればいいな。
 そう思った。

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