「あれっ!?弾くんもう帰っちゃったの!!?」
真夢の悲痛な叫びがフロアに響き、真夢は慌てて口を押さえる。
「そうなんだよ……さっきヤケクソになって出て行っちまって……」
「あんまり言うとネタバレになっちゃうから引き止めるにも限界があって……ごめんね真夢、でもまだそんなに遠くには行ってないはずだよ」
源三とミカは現場終わりに事務所にやってきて、すまなそうに真夢に謝罪する。
「そ、そうだよね。二人には黙っててってお願いしたもんね……」
今日はバレンタイン。
真夢は想いを寄せる弾にプレゼントを渡すはずだった。しかし当日はウィークデーだった為、日中は他の男子社員と同じ簡単なコンビニの一口チョコを、そして退勤後に頑張って作ったガトーショコラを渡す算段だったのだ。
しかし。そうとは知らない弾は、やはり想いを寄せる真夢から昼間にコンビニチョコを貰ったとはいえ、周りの男連中と差が無かった事に落胆し、現場から直帰してしまったようだ。
「あいつ、ずっと今日一日ニヤニヤソワソワしてやがってさ……余程楽しみにしてたみてえ。ありゃ昨夜から、いや一昨日?いやいや一週間くらい前から夢見てたな」
「そうなんだよ……コンビニチョコもそりゃ喜んで、周りの男連中はさっさと食べちまったのに後生大事に仕舞い込んでさ。その後は落ち込んで……」
ミカと源三は、それぞれ弾の気持ちを代弁するかの様に語る。
「そんなあ……!」
真夢は二人の言葉を受け、青ざめてべそをかく。
「そんな顔するなよ……弾も、もっとひでぇ顔してたけどな」
「アタシらは作戦を知ってるからあれだけど、弾にとっては昼間でバレンタインは終了したからね。事務所で渡されるのかもよ?って言って連れてこようとしたんだけど、そんなもんあるもんか!!って帰っちゃってさ……」
真夢はべそをかきつつも、そんなにも弾が自分からのチョコを楽しみにしてくれていたのかということに喜び、そしてそんな弾に対して自分がしてしまった仕打ちにまた涙する。
(こりゃまずいな。弾もお前が好きだって言っちまったらダメなのか?)
(そりゃダメでしょ!バレンタインに真夢が告白するって手筈なんだから!)
弾と真夢の強力な両片想いを知っている源三とミカの二人が、真夢に聞こえないようぼしょぼしょと相談をしていると。
「私……弾くんを探しに行ってくる!」
いつもより積極的な真夢の提案に、二人も驚きつつも賛同する。
「そうしようぜい!社宅の方に行かなかったから、商店街の方に行ったはずだ」
「一人でヤケ酒でも煽るつもりなのかな……いつものとこかい?」
三人は商店街に向かって走り出した。
「はあはあ……ダメだ、弾くん、電話出てくれないよ〜……」
真夢は走りながら弾に電話をかけてみるが、電源が落とされているのか繫がらない。
源三も携帯を取り出し、弾にメッセージを入れる。
「しょうがねえ、行きそうな所をしらみ潰しだ!よし、俺達も行くぞ!ミカ!!」
「見つけたら連絡するから、真夢もスマホ見といてね!」
「ありがとう源さん、ミカちゃん……!」
そう言って三人は商店街で散り散りになる。
「はあ……はあ……弾くん、どこ……?」
一時間程あちこち探して回った真夢は、息を切らして商店街のベンチに腰かけた。
大工の源三、ミカとは違い、派遣社員で一般事務をしている真夢の体力は、自称他称ともにミジンコ並みだ。
(こんなことなら……昼間にさっさと渡せばよかった)
昼間にケーキ箱を現場で渡されても困るだろうし、もしも受け取ってもらえなかったら午後の勤務をこなす自信がなかった。だから退勤後、桐島組からさほど離れていない自宅で渡そうと思っていたのだ。
今日に限って真夢は定時で上がれず、逆に弾の方は定時より前に現場が終わったのも不運だった。
(あーあ……ガトーショコラどうしよう。ミカちゃんと源さんに食べてもらった方がいいかな……)
スマホを見ても芳しい通知はない。待ち受けにしている皆んなとの写真に映る弾を見て、画面がぼやけていく。
「……泣いたって仕方ない。もう少しだけ、頑張って探さないと!当たって砕けることさえできないなんて、そんなのダメ!!」
真夢はもう一度立ち上がり、商店街へと足早に消えて行った。
「はあはあはあ……はあ……は……」
真夢の足が止まる。あれから電話を掛けながらしばらく探したが、弾を見つける事も、連絡をとることも出来なかった。
「はあ……はあ……ヒール、痛……」
バレンタインだから、告白しようと決めたから。いつもよりおしゃれをして履いたヒールの足が痛む。メイクも髪型も崩れかけている。
(これが、告白の結果を表してるのかな……)
いよいよ絶望的な気分になった真夢は、空を仰いだ。
「ううっ……ぐすっ……」
自然と嗚咽が漏れ出す。本当に、砕けてしまったのではないかと予感したからだ。
(せめて……告白して砕けたかったのに……砕けたくないけど……!!)
そんな事を思いながらフラフラと歩いていると、無意識のうちにある所に辿り着いていた。
商店街の真ん中にある広場。町おこしも兼ねて、今年は大々的にバレンタインのイルミネーションで飾られている。
真夢はそのイルミネーションを一人、ぼんやりと見上げる。
「キレー……」
キラキラと輝くイルミネーションは、まるで今の真夢の心と真逆のようだった。周りはカップルや友達、家族連れで皆幸せそうだ。
「これを、弾くんと一緒に見たかったのに……」
呟いた自分の言葉でいよいよ視界がボヤけていく。涙を流してしまったら、もしも弾と合流できた時にマスカラが滲んでしまうからと堪えてきたが、もう我慢もそろそろ限界だ。
(弾くん、今どこにいるの?)
真夢がそう心の中で問いかけた時だった。
とん、と誰かが真夢の肩にぶつかった。どうやら人の流れでぶつかってしまったようだ。真夢は見ていないが、ぶつかってきた相手も真夢と同じような絶望に暮れたような顔をしている。
「あ、すんません……」
「いえ、こちらこそ……」
と言葉を交わしたところで、二人は動きが止まる。
(……今の声……)
お互いそう思い、顔を上げぶつかった相手を見ると、今度は時が止まる。
「弾くん……?」
「え……真夢……?」
そこには弾と真夢の、先程から会いたくて会いたくてたまらなかったそれぞれの相手がいた。
「ま、真夢!?どうしてここに……」
お互いに信じられないといった表情だ。真夢は唖然とし、弾も呆然とした表情をしている。
「だ、弾くんこそ何でここに……?」
「さあ、何でだろうな。もう自分でもここに来てお前に会うまで、何してたかどこいたかあんま覚えてねえけど……気付いたらここにいた」
(わ、私もそうだ……弾くんに会ってからの記憶しかちゃんとしてない……)
お互いがお互いを想い過ぎているからなのか。それともやはり二人の魂は惹かれ合っているのか。
どちらもそうであることを、超能力者ではなく普通の人間である二人にはわかるはずもない。
「お前は?」
「え?私?私は……」
弾に尋ねられ我に返った真夢は、一瞬言葉を止めたが、意を決して口を開く。
「私、弾くんを探してた」
「え?俺を?」
「そう。今日バレンタインだから、その……」
「……それは昼間貰ったじゃねえか。ありがとな」
「うん……いや、そうじゃなくてね」
二人はじっと見合う。真夢は急に恥ずかしくなってしまったが、それでも渡したい想いが勝ったのか言葉を続けた。
「昼間のは違うの」
「違う? !! ……あれ、義理チョコでもなかったのか!?」
真夢の言葉を聞いていよいよ弾も泣きそうな程に狼狽える。
「違うよ!そうじゃなくて!いや、あれ?どっちなのこれ??」
「まあいいか……もう遅いし帰ろうぜ、送るよ」
弾はますます勘違いを深めているようで、真夢を自宅まで送ろうと歩き始めてしまった。
「ま、待って!違うの!!」
「悪い、これ以上お前とこんなとこ居たら、今日の俺は泣いちまうかもしれねえ……」
「ええ!?何で!!?」
「……そんなこと言えっかよ」
言葉のキャッチボールが大暴投しているとは知らない二人。とりわけ弾は、先ほどの真夢の発言でいよいよ振られたと思い込んでしまっているし、そうとは夢にも思わない真夢。
魂レベルで結ばれているのに、どうにもお互いがすれ違っている。
「あのさ、真夢」
「う、うん」
真夢は今度は何を言われるのだろうかと身構える。すると弾はすうっと息を吸い込んだかと思えば、真夢を真っ直ぐに見据えてこう言い放った。
「俺さ……お前が好きなんだ」
「………………え?」
時が止まるというのはこう言うことを言うのか。今日一番の驚きを得たのは他でもない真夢である。
(今なんて言った?好き??私を?弾くんが???)
そして思いがけず告白をした弾も。
(振られたっつうのに何言ってんだ俺は)
胸の内は違えどもお互い次の言葉が出ないまま向かい合っていると、派手な音楽と共にイルミネーションが更にキラキラと輝きだす。
「!?」
プロジェクションマッピングや花火が突然始まったのだ。
「な、なんだこれ!?バレンタインだからか!?」
「そ、そうなのかな……あ、ちょうど八時だ」
時計を見ながら真夢が言うと、もうそんな時間か、と弾も相槌をうつ。
「綺麗……」
「本当だな」
二人は揃って空を見上げる。さっきまでのすれ違っていた二人の間の空気は、この幻想的な光景によってどんどんと塗り替えられていった。
「真夢」
そんな弾の呼びかけに真夢が振り向く。イルミネーションで輝くプロジェクションマッピングよりも煌めく弾の視線が、そこにはあった。
「……こんな状況だけどよ。お前と一緒に見られて良かったぜ」
振られたと思い込んでいる為悲しそうではあるが、とても優しい笑顔でそう語りかける弾に。
「………っ」
「………!?」
真夢は思わず弾の腕に抱きついた。
「ま、真夢?」
「お願い、少しだけこのままで……私も」
「え?」
真夢は弾を抱きしめる手に力を込める。
「私も……私も弾くんが好き……」
「……」
(え?聞き間違いか?)
告白して振られていたはずなのに、なぜか自分に抱きついてきている真夢のつむじを見ながら弾はフリーズする。そんな様子を気にもとめず、真夢は更に言葉を続けた。
「弾くん、弾くん、会いたかった……!ずっと探してたんだよ……!」
「え……?俺を……?真夢、何言って……」
「事務所出てからずっと商店街探してたけど会えなくて……電話も通じなくて……私も気付いたらここに来てたの」
震えながら言葉を紡ぐ真夢の様子を見て、弾も必死に状況を整理しようとする。
「え?電話……、!! すまねえ、今日に限って充電が切れちまって……まさかお前、こんな時間までずっと俺を探してたのか?一人で?飯も食わずに?」
「うん……源三さんとミカちゃんも探してくれるけど、皆んなでバラバラに探してたから……」
「ばかやろ……!お前がバレンタインに俺を探してくれてたのはすげえ嬉しいけど、こんな時間まで一人でうろつくなんて……!真冬だぞ?風邪引いたらどうすんだ!」
弾は真夢の両肩を摑んで叱り飛ばす。すると真夢は悲しそうな顔で反論した。
「だって!!今日会えないのは、風邪引くよりも辛かったんだもん!」
そう言って真夢は弾の顔を見つめ、吸い込まれそうなその瞳からはいよいよ涙が溢れていく。
「分かった、分かったから泣くなよ……どうしてそんなに俺を探してたんだよ?」
「……どうしても、渡したいものがあって……」
「渡したいもの?」
ポロポロと溢れていく真夢の涙を、弾が屈んで指で拭いながら、そう尋ねた時。
定刻のイルミネーションイベントで増えていた人波が、二人をそれぞれトン、と押して。
ちゅ……
「!!??」
「……!!??!?!?」
軽く二人の唇が触れ合った。
そして弾と真夢は、その感触が何かを知る。
「!?!?? ま、真夢……」
「……今……え?あれ……?!?」
(俺は今……真夢とキスしたのか……?)
(今唇に触れたのって、弾くんの……?)
一瞬の出来事だったが、確実にそれは現実だった。その証拠に弾の顔はみるみる真っ赤になり、それを見た真夢の顔もまた真っ赤になる。
「わ、渡したいものって、これかよ?」
(やべ!!!俺、何言って……!?)
テンパった弾が冗談を言おうと更に墓穴を掘る。
「ち、違……!! だけど……、そう……だよ」
「!!!!!!!!」
お互いが言葉にならない声を発しながら、二人は真っ赤になって俯いた。まるで付き合いたての初々しいカップルのようだ。いや、間違いなく二人は今そういう状況に置かれているのだろう。
弾は腕から離れようとしていた真夢の肩をギュッと抱き寄せる。
「わ!?あ、あの、もういいよ?」
「無理。離せねえ」
「っ!!」
弾のそのストレートな物言いに、真夢はいよいよ自分の心臓が口から飛び出そうになるのを感じた。
「あのよ」
「……はい」
「嫌……だったか?今の、その……」
いつもは明るく男らしい弾が、この時だけは言葉に詰まりながらも懸命に言葉を紡ぐ。その姿が愛おしくてたまらなかった真夢は、首をブンブンと振って答えた。
「嫌なわけない!!……すっごく、嬉しかった……!」
真夢の返事にますます弾は赤くなる。
「そうか………あのな。俺の好き、は違うんだ」
「ええ!!?」
真夢は真夢で弾の言葉に青ざめる。
(さっき好き、って言ってくれたのは、いつものライクの好きじゃない感じだったのに……!)
今にも泣き出しそうな真夢に気付いていない弾は、赤い顔のまま続ける。
「俺の好きは……お前がいつも言ってくれる友情の好き、じゃなくて、恋愛の好きなんだ」
弾の潤んだ視線が真夢を射抜く。
(だからそんな事言われなくたって分かって……私の好きはラブで、弾くんの好きはライク……ん??)
「俺の好きは、ラブなんだよ。ライクじゃなくて」
「……!!」
(ラブって!!あの、愛の方の!?あれ?じゃあ、それじゃあ……)
今度こそ本当に言葉を失う真夢に弾は続ける。
「俺はお前と付き合いたい……でもお前と俺の好きは違って……」
「同じだよ!!」
真夢は大声を上げる。周りの人がチラッと気にするが、周りは周りで色めき立っている為、あまり気にされてはいないようだ。
「……同じ?」
「……うん……そうみたい……」
そう、実はこの二人。お互いがお互いに、相手は友情の好き、自分は愛情の好きだと言っていると思い込んでいたのだ。つまり、二人ともに……
「俺はお前を……愛してるんだぞ?」
「うん、私も弾くんを愛してる」
「本当かよ?俺を好きなのか?恋愛で?」
「うん、男の人として弾くんが好き」
「マジかよ……ますますもう離せねえぞ」
「いいよ……」
弾は真夢の返事を聞くと、今度は先程より力強くギュッと真夢を抱きしめ直す。
「やっと……掴まえた……俺の宝物……!」
「うん、私もずっと探してた。私の大好きな人」
そう言って二人は見つめ合い、今度は意思を持ってどちらからともなく唇を合わせる。
(ああ、やっと分かったよ、お前の気持ち)
(うん、私も弾くんの気持ちが分かったよ)
今し方両想いを自覚したばかりの二人は、まるで離れ離れになっていた時間を取り戻すように口づけを交わすのだった。
そんな二人をプロジェクションマッピングや花火が優しく照らしていた。
「やったぜ!あいつら無事ゴールインだ!!」
「本当!普通にケーキ渡したよりしっかり上手くいったみたいだね!!」
二人の姿を遠くから伺っていた源三とミカも、無事に結ばれた二人を祝福し、ようやく帰路に着くことにした。
「一時はどうなることかと思ったぜい。でもまあ、ハッピーバレンタインどころの話じゃねえな!めでてえな!」
「本当だね!よかったよ本当に。……それでね、源の字。この後、一緒に事務所に戻ってくれない?」
「え?」
「……アタシもアンタに渡したいものがあるのさ」
「!!?!?」
こうして赤い顔をした源三とミカが事務所に戻って行ったことを、弾と真夢はのちに知るのであった。
何だかんだあって、手を繋いで寄り添って歩く弾と真夢は、恋人に進展した喜びを噛み締めながら帰路へ着く。
「わ、私達って両想いだったんだね……」
「そうだな……」
弾は照れながらも嬉しそうにしている真夢を見て、にやけながら返す。そんな弾の様子にまた真夢も嬉し恥ずかしで赤くなった。
そんな二人が歩いて行く道には街灯の光がポツリポツリと続き、イルミネーションが輝きを増している。
(本当に綺麗で素敵な夜……)
そう感慨深げに思いながら空を見上げた真夢。その美しい彼女を愛おしげに見つめる弾だが。
ぐきゅるるるるーー〜……
雰囲気に似つかわしくない音が彼女のお腹からなり始める。
「……お腹すいた……」
「腹減ってんのか? ……まさか、何も食わずに俺を……」
「うん、そういえばそうだったね……」
真夢は恥ずかしそうにお腹を両手で押さえた。それを見て弾が申し訳なさそうにしつつも笑いながら提案する。
「そっか、本当にごめんな。じゃあ何か食って帰るか?」
「弾くんも食べてないの?」
「俺は……ごめん、少しは食ったし、飲んだ。でも何も覚えてねえ」
弾が言う事には。現場からやさぐれて商店街に来たはいいが、周りはカップルだらけ。ますます悲しみに打ちひしがれいつもの店に入ったが、そこもいつもの客層とは違いカップルだらけ。来る客来る客カップルなのに耐えられず、つまみと酒を一杯飲んですぐ店を出た。
「それから……コンビニでもう一缶だけ酒買ってベンチで飲んだ。でも公園だってカップルだらけだろ」
「あれ……私も一度公園行ったよ?少し休んですぐ出たけど」
「マジかよ、すれ違っちまったのかな。そんで……それからはよく覚えねえけど、なぜかずっと避けてたカップルが集まりそうなあの広場に行ってたんだ。不思議だろ」
「私も……気付いたら引き寄せられるようにあそこにいて……」
お互いあの場所に引き寄せられるようにして巡り会えたことは奇跡に近い。やはり自分達は結ばれていたのだと胸を熱くしていく。
「あれ、そう言えばその、渡したいものって……?」
「え?あ、ああそれはね……」
先ほどはこのくだりで偶然にキスしたことを思い出し、二人で頬を赤らめる。
「昼間の一口チョコは全員に配った義理チョコで……弾くんには本命チョコ、っていうか……ケーキをね……」
「えっ!!!?あ、違うって、そういう意味……!!」
貰ったチョコは義理チョコでさえ無かったのかと勘違いしていた弾は一転、天にも昇るような気持ちになる。
「マジかよ!!ケーキって、まさか真夢の手作り……?」
「ま、まあね……でもそんな大したものではないよ?」
「そんなことねえよ……いやマジで……本当に嬉しいぜ」
そう言って微笑む弾を見て、真夢は心臓がキュンと跳ね上がる。そして弾の方も幸せそうな顔で呟く。
「……ああ、まただ……また心臓鷲掴みにされたぜ……」
「え?」
「いや、何でもねえ。さ、行こうぜ」
そう言って二人は再び歩き始めた。真夢の隣を歩く弾は、優しく微笑む彼女の横顔を見つめながら改めて想うのだ。
(ああ……やっぱりこいつが好きだ……)
と。そして真夢もまた彼の横顔を見ながら想うのだ。
(私やっぱりこの人が好き……)
「あれ?でもそのケーキとやらは……」
真夢はそれらしき箱は持っていない。真夢は少し俯き加減で頬を染め、口を開く。
「ケーキはね、うちにあるの。事務所からそんなに遠くないから、一緒に取りに行ってもらえればな、と思ってたんだ」
「ああ、そうなのか。まあ今も送っていくとこだし丁度いいな」
そう言って弾は笑うが。真夢は色を含んだ瞳で弾を見る。
「うん、そうだね。……弾くん、お腹空いてる?」
「!?」
真夢の言葉に弾は固まってしまう。そしてすぐにそんな探るほどの他意はなかったかと思い直し返事をする。
「ちょっと飲み食いはしたが、全然足りてねえな。あ、そか、だから食ってこうかって話して……」
「ならさ」
弾の言葉を遮って真夢は告げる。
「うちで……食べる?」
「……え」
(今、うちに来るかって言ったのか?いや、元々送るために向かって……え?)
突然の申し出に弾の頭の中が疑問符でいっぱいになる。だが。
「もうこんな時間だし、ヘトヘトだからパスタとか簡単なものしか作れないけど……だめかな?」
と、真夢が小首を傾げて言った時。弾の中で何かがプツリと切れて消えた。そして次の瞬間には言葉を放つ代わりに彼女の唇に自分の唇を落としていたのだった。
「!?!!」
「ん……ちゅる」
弾の突然の行動に真夢は硬直してしまう。だが彼はそれを良しとせず、舌で真夢の唇をこじ開け侵入させた。
「ん!?ちゅる……はぁ……」
最初は驚いた真夢だったが、すぐに瞳をとろんとさせ、弾に全てを委ねるようにもたれ掛かる。そして彼女もまたおずおずと舌を伸ばし始めた。
ぴちゃっ……じゅるっ……れろれろ……ぢゅうう〜♡
(ああ!!本当に理性が効かねえ……!!)
(んん……!こんなとこじゃ、ダメ……!)
お互いにこれ以上はまずいと思ってやっとの思いで唇を離す。
「ふふ、甘いけど、キスじゃお腹は膨れないでしょ?」
「ああ、別のとこが膨れそうだぜ」
「!!?」
「あ、いや!それは!!」
自分の発言に弾はまたも赤くなる。もうお互いいっぱいいっぱいで、おかしくて仕方がない。
「じゃあ、行こうか?」
「ああ……」
こうして二人は真夢の自宅に向かい再び歩き出したのだった。
途中コンビニで夕飯になりそうなものと飲み物を買い込みつつ歩いていた二人だったが……
(さっきのキスの味が忘れられねえ……)
(弾くんの唇柔らかかったな……)
(飯食ってケーキ貰って……それだけで済むか……あれ?)
「真夢、お前実家暮らしじゃねえか。飯食おうって、家族は?」
弾の言葉に真夢はちょっとしたドヤ顔を向ける。その顔を可愛い、食っちまいたいと密かに思いつつ弾は真夢を見つめた。
「私には、とってもスーパーな兄がいるでしょう?」
「え?ああ、幸夢さんな」
真夢にはすでに実家を出ている三つ上の兄がいる。これが目を見張るほどのイケメンであり、何手も先を読むハイパーお兄さんなのだ。
「お兄がね。バレンタインに父さん母さんにホカンスプレゼント〜♡とか言って、近くのだけどホテル一泊券プレゼントしてきてね」
「え!!!?すげえな!!?」
「でしょ。そんで私に、あれは両親に向けてのプレゼントだけど、同時にお前へのプレゼントでもある。家を空けてやったんだから、絶対決めろよってさ」
「な……んだそれ……」
真夢の兄の用意周到さに驚くやら嬉しいやらで弾の心臓は益々煩く鳴った。
そんな弾に真夢は言う。
「弾くん……どうする?」
「え?」
「……引いてる?」
「いや、引いてねえし、すげえ嬉しい。てかむしろ、お前こそいいのか?急に行ったら……その、なあ……?」
「じゃあやめよっか」
「うおおおおおおい!!行く!!行くに決まってんだろ!!!」
弾は真夢の兄に感謝したと同時に俄然やる気を出し始める。真夢をガバッと抱きしめると耳元で低い声で囁く。
「ただ、行ったら今日は帰らねえぞ」
「!!」
弾の囁きに真夢はビクリと体を跳ねさせ、そして。
「うん……いいよ……」
(ま、まずいなこれ……)
色気全開の真夢の顔にドギマギしながらも弾は真夢の手を引き再び歩き出すのだった。
「明日は仕事は休み。両親が帰るのは明日の夕方。それまで……一緒に居てくれる?」
「勿論だ。それに……」
「?」
「今から覚悟しとけよ?」
(ああ、もう無理だ……くっそ、余裕ねえな俺!!)
二人はそのまま真夢の家に向かって歩き出したのだった。
「あ、忘れてた」
「ん?」
「真夢。俺の恋人になってくれるか?」
「ええ!!?今!?んふふっ、弾くん大好き……はいっ!」
こうして二人は改めて誓いを立て、バレンタインに相応しい、甘くとろけるような一夜を過ごすのであった。

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