夜桜

仕事帰り。

 一緒に仕事を上がった弾と真夢は、ちょっと居酒屋で飲み食いしてからコンビニやスーパーで買ったものを持って、公園のベンチに座る。夜桜が綺麗にみえるそこでは、他のカップルや友達グループたちも皆お花見を楽しんでいる。
弾と真夢もベンチで買ってきたものをつまみながら夜の桜を眺める。二人でその景色を楽しめるなら、高級店やクルーズではなくても、コンビニ飯に缶ビールでも全然幸せなのだ。
「綺麗だね、桜」
「な。まあお前には負けるけどな」
「またそんなこと言って弾くんは」
言われた真夢は笑って跳ね返すが満更でもなさそうだ。そんな真夢が不意に何かを思い出したように言う。
「あ」
「なんだ?」
「綺麗なさくら、で思い出した。来週お兄帰ってくるみたい」
「幸夢さんか」
真夢は、嘘みたいに綺麗な「さくら」という名の兄を思い出したらしい。実際には真夢とほぼ同じ顔なのだが、男でその顔なので当然周りからは美しい人、として有名な兄、幸夢。
「そっか。宮大工の仕事ひと段落したんだな。だけどな、真夢」
「うん?」
弾が真剣な顔で真夢を見つめて口を開く。
「こうして夜桜デートを楽しんでる時に、他の男の名前を出すのは頂けねえな。頭に浮かべるのもだ」
言われた真夢は目を丸くする。
「他の男……って、お兄だよ?」
「そうだ。兄は男だろ?あの兄ちゃんだってスゲー綺麗だけど付いてるだろ?」
「何それサイテー」
真夢はコロコロ笑う。こういうことで引かずに笑ってくれる彼女を弾は心から愛しているのだ。
「俺と二人の時くらい、俺で頭と胸をパンパンにしとけ。ま、胸は俺のせいでパンパンだけどな!」
ケラケラと得意げに笑う弾に
「これ以上パンパンになるようならお触り禁止ですけどね」
真夢がぴしゃりと言い放つと弾はこの世の終わりのような顔で「そんな……」と呟きビールを飲むのだった。その姿を見て真夢はまたコロコロ笑う。
「寒くなってきたね。これ飲んだらそろそろ行こうか?」
春の夜はまだまだ寒い。冷えに弱い真夢はどんなに楽しくても夜の公園お花見デートは長くはもたなかったようだ。弾も真夢の要求に快く応える。
「そうだな。冷えは良くねえ。明日休みなんだし、俺んち来るだろ?」
「拒否権は?」
「ねえ!!」
「んふふ、行くよお」
二人は飲み食いしたものを片付け、弾の部屋へ向かう。
「弾くんの部屋行くけど、私生理中だけどいい?」
「えっ!?あれ、そうだっけか!?いや、もちろんだぜ!お前と二人でいる事に意味がある!」
「そっか、よかった!まあ生理なのウソだけど」
「ウソなのかよ!!帰ったら覚えとけ」
「んふふ、やだ〜♡」

夜桜よりも濃いピンク色がこの後の二人を待っている。

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