ハッピーバースデーを君と④【R15】

 駐車場から荷物を持って来て、いよいよチェックインを済ませる。
 部屋へ入ると、そこはまさにパークの縮図というような作りで、俺は思わず真夢と顔を見合わせる。
「す、すげえな……!?」
「やば……テンション上がる……! けど、ここどれくらいの部屋なんだろう……」
部屋はベッドルームとリビングが分かれていて、壁紙からソファーの柄までまるでホテルとは思えないほどに細部に至るまでパーク内の世界観を表現している。
「流石に普通ランクの部屋かな?充分すぎるけど……」
「これで普通ランクなのかよ!?充分すげえけど……これだけで一室いくらかかるんだか……」
「あはは!値段は調べないほうがいいよ!良かった、スイートとか取られてたら流石に私も怖かった……」
真夢は笑ってスマホをバッグへしまい、部屋を見物して回るので俺も後に着いて行く。
「風呂すげえな!バスタブに寝湯がついてる!」
「わー、本当だ!これ多分泡出るよ!?」
バスルームは勿論、洗い場までパーク内と同じ作りだ。俺はテンション上がりまくりで、真夢も俺のはしゃぎっぷりを見て喜んでいるようだった。
「なんか……嬉しくて子どもみたいにはしゃいじゃうね……」
「いいじゃんかよ?この空間では恋人がいかにも浮かれそうな……」
俺も素直にそう言いかけてハッとする。真夢も顔を赤くした。
「あ、そ、そうだよね!浮かれた恋人が……羽目を外さないほうが変だよね!」
「お、おう……」
俺達は赤い顔のままぎこちなく笑い合う。そしてお互いに目を逸らすと深呼吸してもう一度顔を合わせて同じタイミングでプッと吹き出した。
「はー……なんて幸せなんだろう……」
 真夢はソファに腰を下ろしながら天井を仰ぎ見てそう呟く。俺は飲み物を用意しながらそんな真夢の姿を眺めて目を細める。
「ソファもゴージャスだけど、ベッドもデケえな……一つ……だけど」
俺は飲み物を持って真夢の隣に座る。
「そ、そうだね!でも……私達にはちょっと広いくらいかな!」
そう言って真夢は顔を赤くして俺に笑いかける。俺も赤い顔をしてそんな真夢を横目で見つめて頭を搔いた。
「そっか……」
 とりあえず、俺達は飲み物を飲み終わるまでは普通に談笑していた。しかし会話が途切れると互いに目を合わせることもなく固まってしまう。
 いやもうこれは……間違いなくいいムードである事は間違いないのだか、どうにも緊張してしまって上手くいかない。
 どうしたもんか。なんだかんだでもういい時間だし、プレゼントも渡さねえと……もう今渡しちまうか?
俺がそう思って口を開きかけたところで、「あのさ」と真夢が先に口を開く。
「ん?どうした?」
俺がそう返事をすると、真夢は俺に顔を向けてじっと見つめる。
 えっ、まさか真夢から仕掛けてくる系の展開……なのか!?
 それはそれで、というか真夢が相手ならもう何でもいいが、やっぱりここは男である俺がリードするべきでは……っつっても俺、童貞だし!!
 そうだ真夢もさっき処女だなんだって騒がれてたけど本当の所はどうなんだ……
俺は脳内でそんな事を考えながら、真夢の次の言葉を待つ。
「一枚、一緒に写真撮ってもらってもいいかな」
「写真!?ああ、勿論いいぜ」
「お兄に、ありがとうって送っておきたくて……一応ね?」
 なんだ、そういうことか。
俺は内心ホッとしながら、真夢に顔を寄せる。そして真夢はスマホを手にして俺達が画面に収まるように位置を調整する。
「俺が撮ってやるよ。一応俺のほうが少しは腕長いだろ」
「ありがとう!じゃあお願いします!」
そう言って何枚かシャッターを押して、最後の一枚を押した瞬間だった。
 真夢は少し背伸びをすると俺の頬に軽くキスをした。
俺は突然の事に呆然としつつ、その瞬間を逃さずパシャっとシャッターの音がする。
驚いた俺が真夢を見ると
「えへ……これは自分用……」
そうイタズラっぽく笑っていた真夢とバチっと目が合い、その笑顔に俺は完全に撃ち抜かれた。
「お前、それは……反則だろ……」
俺がそう呟くと、真夢は緊張したような面持ちになり、
「ご、ごめ……」
少し目を潤ませながら上目遣いで俺にそう言う真夢は、あまりに可愛くてエロくて俺はもうどうにかなってしまいそうだった。
 そして、そんな顔を見せられて俺が我慢できるはずもなく。
「真夢」
俺がそう名前を呼びながら真夢の顎をそっと上に向かせると、彼女は素直にそれに従い目を閉じる。
 もうそこからは夢中で何度も何度もキスをした。
キスするのだって俺は今日が初めてだ。
それが今までで一番、というかこんなに好きになったのは初めてで、もうこれが最後の相手であって欲しいと願う愛しい女とのキスにこれでもかと夢中になる。
「真夢……俺、お前のことがマジで好きだ。その、こういうのは慣れてねえけど……でも、大事にするから……」
俺がそう言うと真夢の目から涙がこぼれる。
「うん!私も好き!大好き……!私も弾くんのこと、ずっと大切にする……!」
そう言って泣きながら笑う真夢を見て俺は思わず組み敷きたくなるが、流石にそこはぐっと我慢する。そして代わりに彼女の頭をそっと撫でると優しく抱き寄せる。
俺の腕の中で少し落ち着きを取り戻した真夢は、身を捩らせて口を開く。
「そうだ……、メッセージ。メッセージだけ送ってもいい?」
 そうだった。
 泊まることになった、それは即ち俺達がこういう仲になった事を伝える事になる。幸夢さんには感謝とともにそれを伝えるべきだ。
「分かった……待ってろ、一生懸命どくからよ」
「何それ?」
真夢はコロコロ笑うが、俺はこのまま真夢と密着していたい。しかし、それだと俺の心臓も理性も保たないので一旦仕方なく離れると、俺はメッセージを入力する真夢の背後に身を置く。
「これでよし……っと!」
そう言って振り返った真夢はスマホの画面を見せてくる。そこには今撮った写真(健全版)と共に『お兄、今日はありがとう!ありがたく宿泊させてもらうことになりました。お父さん達にはうまいこと言っといて♡』というメッセージが映し出されていた。
それを見て俺は思わず笑う。
「何だこれ?幸夢さん困らねえ?」
「とか思うでしょ?……あ、既読になった!見ててよ〜?」
真夢と共にメッセージアプリ画面を見てると、すぐに幸夢さんから返信が来る。
『まかせろ♡』
と画面にポコンとメッセージが表示された瞬間、二人で大笑いする。
「すげえ!さっすが幸夢さん!!心強え!!」
「あははは!でしょ!?もーーやだーー!!」
真夢はそう言って笑うが、俺はその笑顔にまたドキッとさせられてしまう。
 微笑んだりする控えめな笑顔も可愛いけど、こうやって涙が出るほどのバカ笑いでさえこんなに可愛いなんてどういうこった??
『良かったな、真夢。弾くん、見てる?真夢を宜しくね』
追加でメッセージが入ってきてまた俺達は笑ってしまう。
「何これ!?あの人見てんのこの部屋!?」
「流石、イケメンは一味違うな!」
そう言って笑っていたのだが、
『色んな意味で♡』
と追加のメッセージが入ってきて、俺達はギクッ!として思わず顔を見合わせる。
「やべえ、バレてたぜ……?」
「さ、さすがだよね!怖い怖い!」
そう言って俺達はまた笑ったのだった。
更に追加で『弾くん、俺が出がけに言ったこと、思い出してね。じゃあまた明日!』とメッセージが入ってきて、真夢は何のこと?と首を傾げているが、俺は運転席で最後に言われたことを思い出す。
 確か、ここぞと言う時に袋の下の箱を見てくれって……後で見てみるか。
俺は真夢の隣に座ると、緊張しつつも彼女の肩に手を回して抱き寄せる。真夢も俺の腕に頭を預けて少し甘えてくれる。
「……あのさ」
「うん?」
俺が名前を呼ぶとニコッとして顔を俺に向けて見上げてくる。俺は頭を搔きながら照れ臭そうに言う。
「俺もお前に……渡したいモンがあるんだけどよ……」
「え?何だろう」
 よし、真夢はやっぱり金曜の誕生会で貰ったピアスでプレゼントは済んでると思ってるみたいだ。気付いてたけど、今日も皆んなから貰ったピアスを付けてたもんな。
 このサプライズはイケるぞ!
 あれは着替えの紙袋の中に一緒に入れておいたんだよな。パークで渡したかったが、何ならここで渡すのが一番盛り上がるかもしれねえぞ!
俺は立ち上がり、紙袋の下からピアスの入った小箱を持って真夢の横に座り直す。
「これ……受け取ってくれ」
「え?これ……何?」
プレゼントはもう貰ったし……と真夢はまたも不思議そうな顔をする。
「いいから開けてみろよ」
俺がそう言うと、真夢は少し困惑しながらも小箱に手をかける。
 中には綺麗な台座に可愛くデコレーションされ、ピアスが入っているはずだ。
俺はニヤニヤするのを抑えながら花のように顔を綻ばせて驚く真夢を想像してドキドキして待つ。さて、どんな反応を見せてくれるかな?と思っていると、彼女はそれをそっと両手で開ける。
 あれ?そういやあの箱あんなだったっけ……ちょっと違うような……?
そう思った所で、いよいよ箱がオープンになる。
「これは……なあに?」
「え!?」
確か黒い箱を開けたらすぐにピアスの入った白い箱が出てくるはずなのに、黒い箱を開けるとそのまま中に何かがギッシリと入っている。
「弾くんが用意してくれたの?」
「いや、そのはずなんだけど……」
 中身が違う。こりゃ何だ?
真夢が中身を取り出すと、それは出てきた。
「これ……」
「……??」
同時に二人でハッとする。
「「!!!」」
 個別に包まれたリング状に盛り上がったコレは……!!コ、コ、コンドーーム!!?
「わあああ!!!真夢、それ違っ……!!」
「えっ!?きゃあああ!!」
慌てて真夢から箱を奪おうとして真夢に飛び付き、勢い余って真夢の手に当たり、弾みでその箱が宙に舞い、中身が盛大に空中に散らばる。
「わああっ!!」
「えええっ!?」
ソファの上で俺と真夢の周りに大量のコンドームが降り注ぐ。
「あ、あのっ……こ、これ……?」
真夢は顔を真っ赤にして涙目になりながら、ワタワタと動揺して手からソレを落としてしまう。俺は慌ててそれを拾い上げると、散らばった避妊具を見て呆然とする。
そして我に返ると全力で真夢に説明する。
「わ、悪い!!違くて!!俺が真夢に渡したかったのはコレじゃなくてだな!!?」
慌てて捲し立てても、真夢は俯いて震えている。
 ウソだろ……ここまで来てもしかして俺、ダメだったりすんのかよ……!?
「……め」
「……え!?」
「あんの……クソ兄貴めえええええ!!!!」
 俯いていた真夢がグオオオっ!と顔を上げそう叫ぶ。
「折角感謝してたのに!!あのバカ兄貴め!!もう恥ずかしい!!なんてことしてくれんのよおおお」
そう言ってベッドに突っ伏しバタバタしている。  
 何だそれ超可愛い……いやそんなこと言ってる場合じゃねえよな。
「あの、真く……」
「ごめんね!!これ、弾くんじゃないって分かってるから!!もう、もう私、恥ずかしい……」
真夢は今度はベッドに突っ伏したままベッドをボフボフと叩く。
「いや、真夢落ち着けって」
「無理だよおおお」
「大丈夫!俺は大丈夫だから!箱間違えたの俺だし、なっ!?」
俺はそう言って真夢を抱き上げ、ベッドに座り直させる。そして肩をポンポンと叩きながら落ち着かせようとする。
「引いたよね……」
「いや、……正直驚きはしたが引いちゃいねえよ。何で引くんだ?」
「だって……あんなの……」
ソファの周りに散らばっている大量のコンドームを見て真夢は更に顔を真っ赤にする。
「引くわけねえじゃん」
「……え?」
俺は真夢の肩を掴むと目を合わせる。そして真剣なまなざしで彼女に言う。
「あれだって、大事なことだろ?」
「……弾くん」
「確かに、あれを用意してくれたのはおそらく幸夢さんだ。でもな、本当は俺だけが箱を確認して必要なら、って話だったんだ。それをミスったのは俺の責任だ。だから、幸夢さんを責めるのはやめてくれ」
「弾くん……でも……」
まだ恥ずかしそうにする彼女の髪を撫でながら俺は続ける。
「そりゃさ、俺達はまだ付き合って日も浅い、っつーか今日の今日だし、そういう関係になるには早いのかもしれねえ」
「違う、そういうわけじゃ……」
真夢は首を横に振りつつも俺の言葉を聞いてくれる。俺はそんな真夢の肩をしっかり摑みながら話す。
「なら、尚更だろ。こんなふうになるなんて夢にも思ってなかった俺は、勿論何の準備もしてねえ。だけど俺と真夢の気持ちを知ってた幸夢さんはもしもの時のために、って先手を打ってくれたんだ。そうだろ?」
「弾くん……」
真夢は目を潤ませて俺を見つめる。
「だから、俺は嬉しいよ。それも含めて、明日幸夢さんにお礼言わなきゃな」
そう言ってニッカリと笑うと、真夢もやっと笑ってくれた。
 そして二人で少し笑い合った後、俺が口を開く。
「俺がうっかりしたせいで、驚かせちまってごめんな。でもな……」
そこで一度言葉を止めると、真夢はじっと俺の次の言葉を待ってくれている。
「俺は……真夢さえよければ、あれを使いたいと思ってる」
「!!」
俺がそう言うと、真夢は目を見開いて俺を見る。
そして何度も瞬きをして少し黙った後、今度は深く頷いてくれた。
「……うん!」
そんな彼女の返事を受けて俺も頷くと、真夢の肩に置いた手に力を込める。
「ありがとうよ……優しくするから」
そう言うと真夢の目から一筋の涙が零れた。それを見つけた俺はその涙に唇を寄せて舌で舐めとってやる。すると今度はくすぐったそうに笑ったので、そのまま彼女をベッドに押し倒した。
「ん……」
 真夢が目を閉じて顔を少し上げる。俺はそれに応えるように唇を重ねて、優しくキスを交わす。
唇を離すと、名残惜しそうな目で真夢は俺を見る。俺もそんな真夢の目をじっと覗き込んだ後でまたキスをする。今度はちょっと長めのキスを何度も何度も繰り返す。
そしてそのまま彼女の首筋にも唇を落とすと、ピクンと身体が跳ねるのが分かったのでそこに跡を付けるように強く吸い付く。
「ん……あっ……!」
「はぁっ……真夢……」
「弾くん、弾くんちょっと待って」
「何だよ、もう待てねえよ」
真夢は俺の顔を両手で挟むと、一生懸命何かを訴えてくる。
「あのっ!私ね、その……こういうこと初めてで……」
「え?そうなのか?」
俺は予想外の告白に思わず目を丸くする。
 さっきの女どもの話は本当だったのか……こんだけ可愛くてエロ……いやそれは失礼か、魅力的なのによくぞ純潔でいてくれたもんだ……!!
俺が感動に打ち震えていると、
「それで……その……弾くんは……?」
「俺?俺は……安心しろ、いやすまねえ、かな?見ての通りの童貞だ」
「本当に!? ……嬉しい……!」
 真夢も喜んでくれたのかな、それなら嬉しいぜ。じゃあ続きを、とぐい、と真夢に覆いかぶさろうとするが、
「ま、待って!!」
そう言ってまたも俺の顔を手で止める。今度は両手でしっかりとホールドされて動かせない。
 何だ一体?まさかここまで来てやっぱり止めようとか言うんじゃないだろうな!?
俺が焦って真夢を見ていると、何やら言いづらそうにしている。
そしてやっと口を開いたと思ったら……。
「……お風呂入りたい……」
「え!?」
 予想外の一言に俺は目が点になる。
 いやまあ、そうか。残暑の中朝から晩まで歩き回ったもんな。でも……
「今すぐお前が欲しいのに」
正直に伝えると、真夢は恥ずかしそうに視線を逸らしながら言う。
「で、でも……汗かいたしさ」
俺は真夢の首筋に顔を埋めてくんくんと匂いを嗅ぐと、真夢の甘い匂いが俺の鼻をくすぐってくる。
「いや別に」
そう言ってそのまま耳元をぺろっと舐めると、ひゃっ!と言って首を引っ込める。そしてまた上目遣いで俺を見る。
「気持ちは嬉しいけど、私が綺麗でありたいの。身を清めた後、弾くんと一緒に汗をかきたい……」
 そのセリフの破壊力といったら……!
俺は真夢の言葉だけで達してしまいそうになるが、ぐっと堪えて何とか耐える。そして真夢の上から身体を起こすと、優しく彼女の髪を撫でた。
「そうだな……分かったよ。じゃあお前先に入ってきな」
俺がそう言うと、今度は嬉しそうに笑うのだった。
「弾くんも一緒に入る……?」という本当は飛びつきたい真夢の申し出を、そんなことしたら理性がもたねえからと断って風呂に向かわせると、俺はその間にコンドームを一旦片付けておくことにした。
 何せさっきので箱の蓋が開きっぱなしだったからな……ん?まてよ……何か大事なことを……ヤベ!!!
 間違えたこの箱じゃねえ、本当の箱!!今何時だ!?
時計を見ると23時を回ったところだった。これならギリ間に合うか……!?
「弾くんあがったよ……きゃあ!?」
「悪い!!理由は後で話す!今は急いで風呂入らせてくれ!!」
出てきた真夢と食い気味に俺は風呂場に突っ込んでいった。ポカンとした真夢が目の端に残る、ああ本当こんなんでごめんな!!
 何とか急ぎつつも丹念に入念に全身を洗って風呂から飛び出すと……そこにはすっぴんになったガウン姿の真夢が……
 え……何これ……
 この部屋はエデンだったのか?俺の彼女ってヴィーナスだったわけ??
「弾くん?ずいぶん急いでたけどどしたの?」
急がなきゃならねえのに呆けていた俺は我に帰ると、
「わああああ!!」
と叫びつつ両手で顔を隠して指の隙間から覗き見るという、情けないことこの上ない行動を取っていた。
 だってしょうがないだろ!?真夢、すっぴんなのに超かわいいんだもんよおおお!!
そんな俺の行動を真夢はキョトンとして見ている。
「真夢……それ、す、すっぴん、か?」
「そうだよ……だからあんまり見ないでね?」
そう言って真夢は照れ臭そうにする。
 何言ってんだろコイツ。
「見るぜ、超見る」
「何でよお!!?」
「ハイパー可愛いから」
真夢は顔を真っ赤にしているが、俺はもう目が離せない。
「何でだよ!!すっぴんまでこんだけ可愛いとか反則だろ!?本当にノーメイクってやつなのか!?ツヤツヤして超綺麗……」
「何言ってんのもおおお!」
 そうだ、俺はこれからコイツのこのスッピンを拝みながらあんなことやこんなことして……
って!何考えてんだ俺!?そういうことじゃねえだろ!!しっかりしろ弾!!お前はやれば出来る男だ!!多分!!
 まずはあんなことやこんなことのその前に、やるべき事がある。
「悪かった。それだけ可愛いってことだよ」
俺が落ち着いてそう言うと、真夢も慌てるのをやめて俺に笑顔を見せた。
「弾くん」
真夢がベッドに座ったまま俺を呼ぶ。
俺はそれに吸い寄せられるように、真夢の隣に座ると腕の中へ彼女を抱き寄せた。
「……あったかいね」
「ああ……」
そう言って二人でクスクス笑い合う。
俺は紙袋の底から今度こそ自分のプレゼントを取り出して、真夢の横に座る。
「さっきはごめんな。俺が本当に真夢に渡したかったのはこれなんだ」
「え……」
真夢にさっき渡した箱とよく似た黒い箱を渡す。  
 そうだ。俺が用意したのはこの箱だった……よく見るべきだったぜ。
「受け取って欲しい」
「ありがとう……開けても?」
俺が頷くと、真夢は丁寧にリボンをほどき包装紙も綺麗に外して、箱をゆっくりと開けた。
思い描いていた通りの白い箱が顔を出す。今度こそ間違いなさそうだ。
真夢は目を丸くし俺を見る。
「弾くん……これ……」
「誕生日おめでとう、真夢」
「え?え、だって……もう私、プレゼント貰って……」
風呂に入る時に外した三つのピアスを振り返って真夢は言う。
「実は、あれは源三達三人からの誕生日プレゼントなんだ。でもこれは俺が真夢にあげたくて、個人で用意したもんだ。受け取ってくれるか?」
俺がそう言うと、彼女はポロポロと涙を流した。
「そうだったの……?弾くんが、私のために選んでくれたの……?」
「そうだ。だから好みじゃなかったらごめんな?それに、買いに行ったのは皆んなと一緒だったしな、でもこれは俺が一人で選んだから」
真夢の細い指が、ゆっくりと白い箱を開ける。
すると、ピンクとブルーの二色のサファイアがキラッと光る、俺の選んだピアスが顔を出した。
 真夢が息を呑み、呼吸が一瞬止まる音が聞こえる。
 気に入ってもらえただろうか、俺の呼吸も止まるようだった。
「綺麗……」
真夢はそう呟くと、自分の耳にそっと触れた。
そしてその指先でサファイアを撫でながら俺を見る。その目は涙に濡れているけれど、とても優しくて……俺は思わず見惚れてしまった。
「……弾くん、これ……変なこと聞くけど、どこで見つけたの……?」
「え?あー、駅前の店だよ。皆んなでそこに選びに行ったんだ」
別に変な事を聞かれたとは思わないが、何でそんな事を聞くんだろう。そう思っていると、真夢は「やっぱり……」と小さく呟いて、顔を上げる。そして、綺麗な涙をポロポロとこぼしながら俺に告げる。
「弾くん、私ね……このピアス……ずっと欲しいと思ってたの……!」
「え!?」
俺も真夢の言葉に驚いて声を上げてしまった。真夢は涙を流しながら続ける。
「私も前に一人でそのお店に入った時、このピアスを見た事があって。キラキラ光ってて綺麗で……何だか呼ばれたような気がしたの」
それを聞いた俺はドクンと胸が跳ねる音を聞いた。
 それは、俺がこのピアスを見つけた時と同じじゃねえか……!
「サファイアは誕生石だし、どうしても欲しいなと思った。でも土台もいいやつだから、自分で買うには手が届かなかったの。お金を貯めていつか自分で買おうと思っ……」
そこまで言って真夢は言葉が出なくなり、代わりに嗚咽が漏れ出す。
「弾くん……私、何で……?何でこんなこと……」
俺はそんな真夢をそっと抱き寄せると背中を優しくさする。
「それはな、真夢」
「……うん」
「お前が俺を選んでくれたからだよ」
そう言うと、真夢は涙でいっぱいの目をますます涙で溢れさせながら俺を見上げる。
 自分でも分かる。今までで一番優しい笑顔で真夢に笑いかけていたと思う。
「俺もあの店でピアスを選んでた時、コイツに呼ばれたんだ」
どれが真夢に似合うか、膨大な量のアクセサリーを前にたじろぎかけた時、このピアスが光った気がした事。それを告げると、真夢は目を見開き涙をポロポロこぼしながら俺を見つめる。
「弾くん……私……」
そんな真夢の頬にそっと手を当てると、その涙を拭う。
 本当に綺麗な涙だ。この世の綺麗なものを全部集めてもこの涙に敵わないかもしれない。
そう思いながら俺は真夢を真っ直ぐ見つめて言った。
「気に入って貰えたか?」
「そんなの……!当たり前だよ……一生大切にする」
「なら良かった。ありがとな、真夢」
「ありがとう、ありがとう弾くん……!」
俺は真夢を抱きしめる。すると、今度は俺の腕の中でしゃくり上げ始めたので、頭をそっと撫でてやった。
「弾くん……私ね……」
「うん?」
「私は、あなたが好きです」
耳元でそう言われ、俺はまた心臓が跳ねる音を聞いた。思わず身体を離すと、真っ赤になった顔を隠すことなくまっすぐ俺を見て微笑む、涙に濡れた真夢がいた。
 それを見た俺は。
真夢の手のひらからピアスの箱をそっと取り、サイドテーブルに置いた。
「真夢、愛してる」
 そう言って俺は真夢の身体にそっと覆い被さった。
 時刻は23:53。誕生日のうちにプレゼントまで渡せて良かった。
 ここから先は日を跨ぐことになるかもしれない……そう思うと、俺はまた胸が熱くなるのを感じていた。

 明けて翌日、チェックアウト寸前に慌てて二人で部屋から飛び出す。
「チェックアウトまであと10分しかねえじゃねえか!急がねえと!!」
「本当だよ!もっと早く起きなきゃ……ってか昨日弾くんがあんなにするから……起きてからも!」
真夢も顔を赤くしながら俺の後をついて来る。
「しょうがねえだろ、お前が可愛すぎるのが悪い」
「なっ……!?」
そう言うとさらに顔を赤くさせて俺を叩く。
俺はそれを笑いながらかわしつつ、駐車場へと向かった。
車に荷物を積み込み、再びパークへと向かう俺達。
「お前、本当に大丈夫なのか?」
「何が?」
「何がって……そりゃ……身体、その……しんどいだろ」
「しんどいよ。誰かさんが処女相手にそれはもう、目が覚めた後も色々して来るから……」
「そいつはひでぇ野郎だな。きっと童貞野郎に違いねえ」
「そうなの?じゃあ許してあげないとね」
そう言って笑う真夢はいつも通りの笑顔だ。いや、いつもより何倍も幸せそうな顔をしているのだった。
「あ~もう!そんなかわいい顔されたらまたしたくなるじゃねえか!!」
俺がそう言うと今度は顔を赤くする真夢。今日は特に色んな表情がみられるな。
「でも、本当にしんどいなら無理すんな。土産なら俺が適当に選んでくるぜ?」
すると真夢は小さく首を横に振る。
「ありがとう。本当に無理になったらその時は言うから。皆んなの分もお兄の分も、一緒に選びたいんだ。ゆっくり周ってもいい?」
勿論だ、と真夢の頭を優しく撫でると、俺の左手に真夢はそっと触れてきた。
「ん?どうした?」
俺がそう聞くと、真夢は少し照れくさそうに視線をそらしながら答える。
「次のイベントはクリスマス……かな?その時にはさ……」
「うん?」
真夢は俺の耳に口を近づけて、そっと耳打ちしてきた。
「指輪……一緒に買いに行っていい?」
俺はその言葉と彼女の表情に頭がクラクラするが、何とか平静を保ったフリをして言った。
「クリスマスまで待つ必要はねえ。今週末、いや明日仕事終わりに買いに行くぞ!」
「ええ!?早!!多分明日私潰れてるよ?」
真夢がコロコロと笑う……俺は多分この笑い声と笑顔に永遠に恋してるんだろうな。
「じゃあ明日はやめるか」
「んふふ、行けたら行くよ」
「無理すんな」
「じゃあ今すぐ帰る?」
「すんませんでした。ゆっくり周って行きましょう、プリンセス」
「うむ、よろしい」
そう言って真夢はキラキラの笑顔で俺の手を取ってくれるので、その指を絡める。俺は彼女の手を握り返し、パークへと向かったのだった。

9月9日。真夢の誕生日。

 俺が心底惚れ、どうしようもなく惚れ、もうめっちゃくちゃに惚れてる女の誕生日が昨日終わった。
昨日の俺達と今日の俺達は、大きく変わったようで実は何一つ変わっていない。
でも昨日と今日の俺が違うとしたら、それは俺の心の在り方だろう。
 俺は真夢が好きだ。心の底から惚れてる。
そして、真夢も俺と同じだと言ってくれた。
友達から恋人へと関係性は変わったが、お互いを強烈に想う気持ちは何も変わっていない。
真夢に出会ってから、俺の人生は大きく変わったし、それは俺だけに限らず真夢も同じだ。
それは、俺達にとって本当に幸せなことだと思うのだ。
恋人になったところで俺と真夢のあり方に変わりはないし、俺達が互いに強く惹かれ合っているのは恋人になる前からの事実だ。そしてこれから先もそれは揺るがない事なのだと心が告げている。
「面と向かって愛してるって言えるようになったのはデカいな」
「え?何て?」
「いや、何でもない。誕生日の翌日ボーナスで何かして欲しい事あるか?って言ったんだ」
真夢は「何それ?」と笑いながら、少しだけ考えて。それから、
「それじゃあ……一生私の側に居て?」
俺の視界が煌めきで覆い尽くされるような笑顔を向けて言った。
 あはは!ボーナストラックにしては重いか!と言って笑う真夢に、唇を噛みしめてから、
「仰せのままに、プリンセス」
と俺は言った。
 愛しさのあまりボヤける視界の中に、真夢の幸せそうに笑う姿が見える。
 その耳元で、小さなサファイアがキラリと光るのだった。

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