ハッピーバースデーを君と③

次のアトラクションに並びながら、俺と真夢は話の続きをする。
「俺の気持ちは伝えた通りだけど、真夢、お前は……」
そう言うと真夢は心底呆れたと言う顔で俺を見る。
「あれだけちゅっちゅしてて、まだ分からないの?」
そう言って唇を尖らせる真夢に、懲りずに素早くちゅっとキスをする。
「分かんねえな……まさか、お前も?」
俺が恐る恐る聞くと、真夢は恥ずかしそうにしながらもコクンと頷く。そして俺にそっと耳打ちしてきた。
「私もだよ」
それを聞いて俺は飛び上がりそうになるほど嬉しくなる。もう俺達はカップル成立で良いんだな!?両想いなんだな!?
「じゃあ……俺達は、その、恋人で……いいんだな?」
「うん……弾くんのことが、ずっとずっと好きです。性的に♡」
「性的にって!!あ、さっき俺が言ったのか……」
俺がまた突っ込みを入れると、真夢は嬉しそうに笑う。そんな笑顔見てると俺はもう何も言えなくなる。そして改めて、俺の大切な恋人なんだと実感する。
「弾くん……大好き」
そう言うと真夢は俺の左腕をギュッと抱きしめてくる。
さっきは余裕がなさすぎて気付かなかったけど、腕に柔らかい感触が伝わってくるのと同時にいい匂いが漂ってクラクラする。
「おい、真夢、ちょっと……」
俺が焦っているのもお構い無しに、真夢は左腕を離そうとしない。それどころか俺の腕を胸に押し付けてくるじゃねえか!!
 何度も言う、いや実際言っちゃいねえが俺はスキニーを履いてるんだからな!?勘弁してくれよ!
「ふふっ……ねえ、いつから好きでいてくれたの……?」
真夢が上目遣いで聞いてくる。やめろよ、そんな可愛い顔して……それ聞いてどうするんだ?答えなきゃダメか?ダメなんだろうなあ。
「いつからなんて分かんねえよ……気付いたら好きだった」
恥ずかしいので適当に答えると、真夢は不満そうにまた頬を膨らませる。
「じゃあ、私は出会った時から弾くんに夢中だよ……」
俺は思わず絶句してしまう。
「俺と同じ!?あ、ヤベ……」
「えっ!?そうなの!?」
真夢は目を丸くする。しまった、誑かしはしなくても天然カマトトにはひっかかっちまった。
「そうだよ、黒木組で会った時から好きだった」
「え、だって……弾くん……その……カンナちゃんの……」
「おま、そんな事知ってんのか!?アレは違えよ!!つか、その……」
 現在の桐島組より前の勤め先である黒木組にいた頃、真夢は短期派遣社員としてやってきた。
当時はお堅い事務員のような格好をしていた真夢だったが一目で可愛いと思ったし、真面目な仕事ぶりや感じよく挨拶してくれるその姿に俺はすぐに惹かれていった。
本格的に夢中になった頃、出勤すると真夢はいなかった。前日で期間が満了していたようだ。
心に穴が空いたようにショックを受けた俺は、一瞬だけ他の女によそ見をした。けれど、心の穴が埋まる事はなく、会えなくなった真夢の事を忘れられなかった。
結局上っ面しか見ていなかったよそ見はすぐに終わった。そしたら、俺が桐島組に移って暫くしたら、見違えたように垢抜けて綺麗になった真夢が桐島組で俺の前に現れたのだ。
真夢は黒木組の頃の地味な姿を隠したがっていたが、あの頃の真夢だって綺麗だった。引っ詰め髪にピンで前髪を止め、資料とにらめっこしながら働くスーツの真夢は、俺のタイプど真ん中だった。勿論今の煌びやかな真夢だって俺のタイプだ。
「つまり、俺はお前ならなんだっていいってこった。分かったか?」
「うん……嬉しい……私も、弾くんならなんだって好き」
そう言うと真夢はまた俺の腕をギュッと抱きしめてくる。おいやめろって!この柔らかさが腕に触れてるのヤバいんだって!!ああもっとゆとりのあるパンツを履いてくりゃ良かったぜ!!
「でもね、ごめん……私が弾くんに夢中になったのは、最初は最初でも桐島組で再会した時なの」
「何!?」
イタズラっぽく笑う真夢に、俺は焦ってしまう。
「あのな、お前……じゃあ全然俺の方が先に長くお前の事好きだったじゃねえかよ!?」
俺がそう焦っていると、真夢は俺の肩にコテンと頭を乗せながら言う。
「黒木組の頃から、弾くんの事は気になってたよ。でも黒木組は短期すぎて好きになり切る前に終わっちゃったし、その頃の弾くんはどっちかって言うと可愛いって感じだった」
そう言って俺の左手に自分の右手をそっと重ねてくる。なんだよ……そんな可愛い仕草どこで覚えたんだよ!マジで天然小悪魔だなお前は!!
「いつも元気で明るくて、男らしい人だと思ってた。あれ、じゃあやっぱり黒木組の頃から好きだったのかな?」
「どっちでもいいよ、もう……」
俺がそう言うと、真夢はクスッと笑って顔を上げる。そして俺の目を覗き込んで嬉しそうに言う。
「弾くん、好き♡」
 ヤベェ……今、俺は真夢の可愛さに殺されかけている……これが吊り橋効果ってやつか?いや、違うな。もうそんなのどうでもいいけどよ!!
「桐島組でものすごい超絶ハイパーイケメンがいる!!!って思ったら、ミカちゃんがアレは弾だよ、って教えてくれて……もうひっくり返るかと思った」
「殺す気か!!?」
「ええ!?」
真夢は心底驚いたような顔で俺を見る。しまった、反応を間違えた。いや実際何度も殺されかけてるんだから間違っちゃいないか?もう分かんねえ!!
「あの時の弾くん……それはもうカッコ良かった……キラキラフィルターが掛かってるくらいカッコよくて、輝いて見えて……」
「やめろよ!マジで恥ずかしい!」
俺は思わず真夢から顔を隠してしまう。そしてチラッと見ると、真夢はまたイタズラっぽく笑って俺の顔を覗き込んでくる。ちくしょうめ……可愛いな畜生!!
「ミカとは黒木組の後も連絡取ってたんだよな?あのヤロー、俺にも教えてくれりゃ良かったのに……」
「勝手に教えたら悪いと思ってくれたんでしょ、ミカちゃんしっかりしてるから。そんなミカちゃんと弾くん、ずっと一緒にいるよね?桐島組にも一緒に来たみたいだし……」
ジト……と俺を見る真夢の目は笑ってない。いや、まさか……
「妬いてんのか?」
俺がそう聞くと、真夢はぷいっと顔を逸らして再び腕に抱き着いてくる。そして俺の胸に頭をグリグリ押し付けてくる。なんだよそれ!ズルすぎて耳キーンなるわ!
「ミカは源三の事が好きだろ!?それにあいつは……まあ大事な仲間だけど、妹みたいなもんだ」
「うん、知ってる。でも仲良すぎて妬けちゃう」
「あれは仲良いって言うのか?一方的に俺がバカにされてるだけだろ?」
俺がそう言っても、真夢は拗ねたままだ。
「……やっぱり助ける為ならミカちゃんにもキスするんじゃ?」
「あのな」
俺は思わず溜め息を吐く。
「するわけねえだろ」
「……本当?」
真夢が上目遣いで聞いてくる。可愛さにたじろぎそうなのをグッと堪えてじっと目を見て宣言する。
「……お前にしかしねえよ」
俺がそう告げると、真夢はニコッと笑って頷く。そして俺の胸に顔をうずめて、スリスリしてくる。その頭を思わず撫でてしまう。すると顔を上げてまた上目遣い……本当になんなのコイツ!?
「浮気者」
「はあ!?」
「怒った?」
「怒ってねーよ!!でも次疑ったら怒るぞ。俺は真夢にだけゾッコンだ」
そう言いながら俺はまた真夢の頭を撫でてやる。そして思わず言ってしまう。
「……好きだぜ」
「えへへ……うん、私も♡」
「だからそれやめろってえ!!」
 なんかもう……メチャクチャだ。
でも、こんな日があってもいいと思えてくる。そんな事を考えていると、真夢が俺を見上げて言う。
「弾くん」
「おう?」
「もう、私以外は見ないで」
潤んだ瞳が俺を射抜く。
「お前、俺の話聞いてた?俺は真夢だけが好きなんだよ、そんな心配いらねえよ」
「よそ見したくせに」
「あのな!?」
「好き」
 コイツ……!!
「俺なんて……愛してる」
 ちゅ、と軽く唇が触れる。
「弾くん」
上目遣いで俺を見る真夢の瞳は、さっきよりも更に潤んでいる。
 ……ダメだな、もう我慢の限界だ。
俺はそのまま真夢を抱き寄せて腰に手を回すと、その手を優しく撫でてくれる。その手つきだけで腰が砕けそうになりつつも、何とか列に並ぶ。
 後ろの人達は呆れてんだろうな。
そう思いつつ俺は真夢をさらに強く抱きしめる。
「弾くん……好き♡」
俺もだ、と言いたかったがそれすら言えないほど俺は切羽詰まっていた。
「分かった、すげえ嬉しいけど今はあんま言うな」
「何でよお!?やっと堂々と言えるようになったんだからいいでしょ」
 ムスくれる顔さえ食っちまいたいと思うほど、俺は真夢にメロメロになんだからな!?
「分かってるよ!後でな?二人きりになってからにしてくれ。そうでないと俺は公然猥褻で捕まっちまいそうだ」
「……!? 分かった」
小声で言う俺に真夢は赤くなって頷く。そして俺達は列が進むのを待つ。
「今度はうまく写真映れるかな?」
「はは、どうかな。また真夢は変な顔してんじゃねえか?」
「何をー〜!?それは弾くんでしょ!?」
 懲りずにイチャイチャする俺達……後ろの人達、すんません。
「さっき、これに乗った時は友達だったのに」
色っぽい顔つきで真夢が呟く。
「だな。今は恋人だ」
俺はそう言って真夢の手を握る。真夢は嬉しそうに手を握り返してくる。
「でも、さっきも勿論好きだったよ」
「俺だって」
俺の台詞に真夢は優しく微笑む。そして俺の手をそっと撫でてくる。それやめろって!!
俺が前かがみになると、真夢はクスクス笑って俺から少し離れる。かと思えば俺の腰に抱き着いてくる。
「弾くん」
「何だよ?」
「もっと私を求めていいよ♡」
「ぶっ!!」
俺は思わず吹き出す。なに言ってんだコイツ!?俺が思わず離れると、真夢はいたずらっぽく笑う。
 結局写真はまたお互い目を瞑ったりした散々な写りだったが、約束通り今度は真夢が買って俺にプレゼントしてくれた。
 それからまたいくつかアトラクションを周り、夕飯はパーク内のレストランに上手く入る事が出来た。
「頻繁にパレードやってるからその時間でこうやってご飯食べたりアトラクション乗ったり出来るね!」
「おう。パレードも後で一つ位見るか?夜間だから派手で綺麗だしな」
「そうだね。次が多分最後のパレードだからそれは見ようか」
そんな話をしながら食事を待つ。この時間さえ楽しくて幸せだ。
「真夢、今日はありがとな」
「ん?何が?」
「いや……なんだ、その……一緒に来てくれてよ」
俺が照れながら言うと、真夢も少し恥ずかしそうに笑う。
「そんなの、私の方。誘ってくれてありがとう、弾くん。電話が来た時、本当に嬉しかった……すごく」
真夢が本当に幸せそうに目尻を下げて笑うから、俺もつい見惚れちまう。
「そっか……じゃあ勇気出して誘って良かったぜ」
「うん!」
真夢は嬉しそうに言う。
「でも、私ばっかり弾くん好きみたい……ずるいなあ」
「はあ!?」
俺は思わず声を上げる。
「……んな事ねえと思うけどな?俺の方が何万倍も好きだぞ?」
俺がそう言うと、真夢はクスクス笑う。その上がった口角のツヤツヤした唇を見ていると、つい吸い寄せられてしまう。真夢も俺の顔をじっと見ている。
「弾くん……」
「真夢……」
お互いがお互いの名前を呼び合うのとほぼ同時に、店員が料理を運んでくるので、俺達は慌てて顔を離す。
「お待たせしました!」
「わあ、美味しそ〜!」
「だな!まずは食うか!」
 いけね、ついまずはなんて口走っちまった。次は何を食うつもりなんだって話になっちまうよな……なんてことをつい考えてしまう。
「うん!いただきまーす!!」
真夢は嬉しそうに料理を口に運ぶ。そんな真夢を見ながら俺も食事を始める。
「美味いな」
「うん、美味しい!」
 相変わらず美味そうに嬉しそうに飯食うよな……可愛い。真夢が幸せそうに食べているのを見ているだけで俺は満足だった。
「弾くん、そんなに見られたら恥ずかしいよ」
「あ?ああ、悪い……」
 そうだよな、そんなに見られたら食いづらいよな。美味そうに飯を食うその唇が美味そうだなんて事は全然考えなんて……あれ……そういえば……
「あのよ、真夢」
「ん?なーに?」
「その……さっきの話だけど、ここのホテルに……って」
 俺の言葉に真夢の手が止まる。ナイフとフォークを置いて、頬を染めながらも真面目な顔をして俺を見る。
「あれね……あれは、本当。このチケット、宿泊券も付いてるの」
「マジかよ……」
俺は思わず声を上げる。真夢はそんな俺の目をじっと覗き込むようにして言う。
「ごめんね、黙ってて」
「いや、謝る必要なんて……」
俺は少し気恥ずかしくなって視線を逸らす。すると真夢は少し泣きそうな顔になって、ことの経緯を話し出す。
「お兄がこれを誕生日プレゼントにって、準備してくれたのはこないだ言った通りなんだけどね。お兄は元々弾くんと行って欲しいと思って用意してくれてたみたいなの。お兄は勿論私が弾くんの事を好きなの知ってるから」
「そうなのか……でも幸夢さん、俺が真夢の事好きなのも知ってるぞ」
「そうなの!?にゃろ〜……あの兄貴めぇ……」
なら教えてくれたって!と真夢は肉を口いっぱい頬張ってもぐもぐと食べながら悔しそうにしている。
「はは、俺の為に黙っててくれたんだろ。勿論お前の為にも。自分たちで言うべきだって」
「まあね……だからチケットくれたんだろうし」
真夢はそこまで言って一旦食べる手を止めて水を口に含み、ゴクゴクと喉を鳴らして飲んでから話を続ける。
「丁度弾くんが誘ってくれた直後に部屋に来て、これくれて。宿泊も付いてるって言われたけど、流石にそれは弾くんには言えなくて……」
 付き合ってもいないのに泊まりで行こうとは流石に言えなかった。お兄さんもそれは別に伏せてもいい、パークだけでも楽しんできたらいいと言ってくれた。もし告白するチャンスがあってうまくいくようなことがあったら泊まってくればいいと送り出してくれた、と真夢は説明してくれた。
「お兄らしいよね。告白するチャンスをくれたんだよ、多分」
「幸夢さん、マジでいい人だよな……」
俺と真夢は顔を見合わせて思わず笑う。
 本当に素敵なお兄さんだ。そんな人に俺達は祝福されてんだなと思うと幸せで胸がいっぱいになる。
「だから……もし弾くんが良ければなんだけど……今日が誕生日だし、泊まっていかない?」
恥ずかしそうにしながら俺の返事を待つ真夢のその台詞に俺は息を呑んで考える振りをするが、
「嫌ならいいよ」
「泊まります!!」
と真夢のカマかけに秒で飛びついてしまい、また二人で笑い合う。
「でも手ぶらだよな……あ」
「うん。あの着替えは多分そのため」
 駅で待ち合わせの予定だったから、その時は持って行くつもりはなかった。そしたら俺から車で行こうと言われ、それを伝えるとお兄さんは喜んで俺の分の服を一式用意して、真夢にも自分の分を準備させたそうだ。
「私はいいって言ったんだけどね!?あんな着替え二人分なんて不自然ったらないでしょ」
「いや……俺、全く疑わなかったぜ。水系のアトラクションの説明で全然納得してたし、実際やってたし濡れたしな」
「それがあの人のすごい?ずるい?所なのよ!ハズさないんだから……誕生日が冬だったらどうするつもりだったんだろう?」
真夢は恥ずかしそうにぼやきながら今度は小さめの一口をもぐもぐ食べる。結局食べるのかよと思うと可愛くてニヤケちまう。
「とはいえ、次の日は仕事だからどうしようかなとは思ってたんだけど……」
「あ、そうだよな。ん?でも、カンナから……」
「そう!だからびっくりしちゃって……まさか根回ししてないよねあのお兄」
真夢は訝しんで水を飲んでいたが、
「カンナはカンナで考えてくれたんじゃないか?源三もミカも皆んな俺がお前にベタ惚れなの知ってるし、そっちで相談してくれたのかも」
「ええ!?皆んなも知ってるの?私が弾くんの事好きなのも皆んな知ってるんだよ!?」
俺の言葉に驚いて、俺はその真夢の言葉に驚いた。
「じゃあ、お互い以外にはダダ漏れだったってことか……?」
「そういうことになるねぇ……」
お互いがお互いに片想いと思い込んでいたのは、俺だけじゃなく真夢もだった。そのすれ違いに思わず俺達は苦笑する。
「何それぇ……どれだけこの強烈な片想いに胸を焦がしてたか……!」
「いや待て、期間で言えば俺のほうがずっと長いんだぞ!?それはそれは大変だったんだからな!?」
お互いむむむ……と睨み合って、ふっと笑い合う。
「でもいいか。これからはずっと一緒だし。こんな色んな偶然が重なるなんて、そうない事だぜ?」
「弾くん……」
俺がそう言って真夢に笑いかけると、真夢は頬を染めて俺を見返す。そして俺達はまたお互いに見つめ合う。
「こんなに幸せな誕生日でいいの?」
「いいんだよ。お前といられたらそれだけで俺だってずっと世界一の幸せ者なんだよ」
俺の言葉に真夢は顔を赤くして笑顔になる。
「もうお前を離さない。ずっと一緒にいてくれ……あれ?お前の誕生日なのに俺がお前を貰っちまう宣言?」
「もう!弾くんたら」
 二人で笑い合いながら食事を再開する。
「私でよければ好きなだけ貰って」
そう言う真夢に俺はスプーンを落っことした。
「お前、それどんな意味か分かってんのか?」
「あ、弾くん、パレードが始まっちゃう!急いで、ホラ!」
「……ニャロー、部屋入ったら覚えとけよ」
俺達はそう言って、店を飛び出す。
 
 パークのラストパレードは、その時間になると一気に人が増えるからと早めに出たつもりだったが、それでも結構な人がいた。
「どんなパレードなんだ?ちょっと調べようとしたんだが、多すぎて何が何やらで途中でやめちまったんだよな」
「あはは!そうなんだ!でも私もあんまり詳しくないよ」
そんな話をしていると、いよいよカウントダウンが始まり辺りが暗くなる。と共に歓声があがり、音楽が鳴り出す。
「あ!!この音楽……!!」
パレードの導入音楽を聴いた真夢は目を大きくして俺を見上げる。
「このパレード、これは知ってる!」
「マジか!俺もだ!!」
懐かしいシンセサイザーの音楽が盛り上がり始め、キラキラと光るフロートがやってきて……その音楽に合わせてキャラクター達が楽しそうに踊っている。
「私、パレードは詳しくないけど……この曲だけは覚えてる。昔、家族と来た時にもこれだけは見てた……半分寝てたけど」
真夢は笑いながら子供の頃を追憶したようで、薄っすらと涙を滲ませる。
「ああ、俺もだ!確かこの曲だった」
「うん。ずっと……覚えてる」
 真夢は涙をそっと拭うと、また笑顔でパレードを見始める。
 きっと、子供の頃の真夢も家族とここに来て、兄ちゃんと喜んでこのパレードを観たのだろう。
小さくて途中で寝てしまったこのパレードを、今は俺と最後まで観ている。
今日、これを観られたのは、その時一緒に見ていた兄ちゃんのおかげだ。
「また来ような。今度はちゃんと、俺が連れてくるから」
「うん!」
 俺はそんな真夢の横顔をずっと見つめていた。そしてこの幸せそうな笑顔を守っていこうと心に誓うのだった。

 パレードも終わり、いよいよ閉園の時間が近づいてくる。
どうやらこのチケットは明日も入園できるそうなので、土産はまた明日見ようということになった。
「おい……いよいよこのチケットいくらなんだ?俺、自分の分だけでも払おうかな」
「いいよいいよ!弾くんの分も併せてのプレゼントだって言ってたから。どうせ知り合いの何かのツテだろうし。でもまあ、だいぶ奮発したからクリスマスは無いと思えって言われたけど」
 真夢はコロコロ笑うが、俺は青ざめる。自分が使えない使い方だからお前が使え、と幸夢さんは真夢の恋に投資してくれたのだろう。
「お兄さん、マジでかっこいいな」
「でしょ〜?何枚も上手だから、本当食えない兄だよ!でも……今回は本当に感謝かな。あの人、自分にそんなに興味がないから、家族にばかり分け与えるんだよ。両親はそれでもいいとして……私はどうやったら返せるんだろう」
真夢は少し寂しそうな顔をして俯く。
「今回、お前がすごく楽しかったんならその旨を話してやれば、きっと喜んでくれると思うぜ。そういう兄ちゃんなんだろ?」
「うん……ありがとう、弾くん」
真夢は顔を上げて俺に微笑む。俺もその笑顔に応えて笑い返す。
 いつか、俺も一緒に幸夢さんに貰った幸せを、真夢と返していけたらいいな。
 そんなことを考えながらパークの入り口付近まで戻ると、併設しているホテルの入り口が見えてくる。
 いよいよあそこに入る時がきた。
「じゃ、じゃあ……行くか」
俺がそう言って真夢の手を握ると、真夢は無言で顔を真っ赤にし頷いた。
「あ、いけね、荷物。車から持ってこねえと」
「一緒に行くよ」
「いいよ、疲れてるだろうから俺が……」
そう言いかけて俺はフト昼間の事を思い出す。
 ホテルの中なら安全だとは思うけど、またどこで変なやつに絡まれるか分からねえしな……
「悪い。やっぱり心配だから一緒に来てくれ。ったく、少しも目が離せないなんて困った女だぜ!」
「なっ、何それえ!?」
そんなやりとりをしながら、俺達は車へと荷物を取りに駐車場へと歩き出す。
 今夜は長い夜になる……のか……?日付が変わる前にプレゼントを渡さねえと……そう思いながら俺は真夢の手を強く握りしめた。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA