その吉報、青天の霹靂につき

「ねえ、弾くん。何で私、妊娠してるんだろう?」
「えっ?……いや、えっっっ!!?」
真夢の突然の爆弾発言に弾は驚かされる。
「妊娠……してるのか?真夢??」
弾が慌ててそう聞くが、真夢はクッションを抱きながらぼんやりとリビングに寝転んでいる。
「うん、多分……検査薬で陽性だった」
「じゃあ、もう確定じゃねえか!?」
「でも……避妊、してたよね?」
「まあ、基本的にはしてはいた……けど……」
真夢の質問に弾は口ごもる。
「本当に弾くんは避妊してたの?」
「……ああ」
真夢は疑り深い目で弾を見るが、弾はきっぱりと答える。
「じゃあ、何で妊娠したのかな……」
そう呟いて、真夢は自分の下腹部を優しく撫でた。
「……避妊だって、百パーじゃねえし。あれだけ毎日のようにセックスしてたら……なあ?」
真夢はぼんやりとしつつも弾の言葉に耳を傾ける。
「しかも、何回もゴム付け替えたり。出過ぎて漏れちまうことだってあったし……そもそも生でする時もあったろ」
安全日にそうしてたつもりだけどな、と弾は付け足した。
「そう考えると、妊娠してたって全くおかしくねえな」
真夢はやはりとろ、とした顔で弾を見つめる。
「そっかあ。それで、私は……」
「少なくとも俺は、いつでもこうなっていい、って思ってたから、出来たんだ」
「いつでも、かあ」
真夢はにへら、と締まりのない笑顔を浮かべた。
「……弾くん」
「ん?」
弾が真夢の次の言葉を待つ。
すると、真夢は顔をくしゃっと歪ませて言った。
「私が妊娠したの……どう思う?」
「うん。率直に、すげえ嬉しいな」
「そうなの?でも、さっき酔狂な声出してたじゃない」
「ありゃ驚いたんだよ!あんな風に全くの不意打ち?みたいな告白だったから……」
真夢は弾をじっと見ている。その目に見つめられて、弾は真夢の頭を優しく撫でながら口を開く。
「……気付かなくて悪かった。一緒に暮らしてるのに」
「それは当然だよ。だって、体調には殆ど代わりはないし、生理予定日も今日だったからね」
「え?それなら何で……」
いつでも妊娠してもおかしくないセックスをしていたとはいえ、子作りをしているまでのつもりはなかった二人。基本的は避妊もしていたし、そんな行為も危険日以外で同意の上だった。
ならば、予兆もなかったのに、なぜ生理予定日きっかりに真夢は検査をしたのか。男の弾には見当もつかない。
弾は真夢の生理周期などにかなり理解はあり、付き合い始めから考えるとかなり色々な知識もついた。
そんな弾でもこの事はわからない。
「何で、かあ」
真夢はクッションを胸に抱きながら、天井を見つめる。
「今周期、特に危険な?セックスしたつもりはないんだよ」
「んん……まあ、そう……かな」
前の生理から今日までのセックスを二人は振り返る。先に出たような、まあ少しは可能性のある交わりもあったけれど、やはり子どもが出来るような行為、という程のものはしていない。
「バッチリナカで、とかは無かったよね?」
「そうだな、生も危険日近辺ではしてねえはず」
「まあ沢山えっちはしたけどね」
「ぐっ……まあな」
「じゃあ何で……」
真夢はもう一度そう呟いて、体をむくりと起こす。そして、そっと自分の下腹部を撫でた。
「……弾くんとの赤ちゃんが出来てもいいよ、って。準備が出来たよって、聞こえた気がしたの」
「え……?」
真夢は腹を優しく撫でながら弾を見つめる。
「私のお腹に……命が宿る覚悟が出来てたってだけなんだけど……」
言葉の最後は消え入りそうな声で真夢は言った。その目は潤んでいて、今にも涙があふれそうだった。
「だから、なんとなく、本当になんとなく、私、妊娠してるのかもしれないなって思った」
「真夢……」
弾は優しく真夢を抱きしめる。真夢は弾の腕の中に収まっているが、その瞳から堪えきれなくなった涙がぽろりぽろりとこぼれ落ちる。
「真夢。俺、すごく嬉しいぜ」
「うん……私も」
ぎゅっと抱きしめ合い、二人はしばらくそのままでいた。そして、やがて弾が口を開く。
「……驚きはした、正直。でも、すぐに、そのあとすぐに来たのは、やっぱり嬉しい、って気持ちだったぜ。本当だ」
「弾くん」
真夢はふふっと軽い笑みをこぼす。
「とか何とか言ってね。本当は明後日、歯医者さんの予約があったんだよ。だから念の為に検査したんだ」
「うぉいっ!!!」
弾はそう叫んだ。真夢はいたずらっぽく笑う。
「ごめんごめん!」
「おいっ!どういうこったよ??ん?じゃあ、えーと、どこまでが、何なんだ??」
弾は真夢のおでこを軽く小突き、頭をひねる。真夢はそんな弾を見てくすりと笑った後、真剣な顔になる。
「でもね。何だか、すごく不安だったの。行ったらダメな気がして。麻酔使う治療だったはず、と思ったら怖くなって、念の為に検査したの」
「そっか。……じゃあ、本当にこの子が教えてくれたのかもしれねえな」
「弾くん」
「ん?」
「私、妊娠してるみたい。お腹に赤ちゃんがいるみたいなの」
「おう。さっき聞いたぜ」
「弾くんの……ううん、弾くんと私の赤ちゃんだよ」
「そんなの決まってんだろ!?違ったら俺は絶命する自信あるぜ」
「この子、来てくれて良かった……かな?」
「もちろんだ。真夢のお腹の中に……大事な命が宿ってんだ」
弾は真夢のお腹を優しく撫で、その手をそのまま真夢の手の上からそっと包み込む。
「……まだ結婚もしてないよ」
「関係ねえな。だって、俺たちは」
「うん」
「結婚するんだから」
真夢は弾にそっと口づけた。優しく、長く、そして深く。唇を離しても、二人は暫くその体勢のまま抱きしめあっていた。
「俺たちゃ、一緒になるんだからよ!」
「そうだねっ!」
「結婚しよう。いや、結婚してくれ、真夢」
「はい……弾くん」
そして弾は、真夢のお腹に向かって話し出す。
「おう、よく来てくれたな。俺がさっさとプロポーズしねえから……いや、結婚するつもりはビンッビンにあったんだけどな?」
「言い方っ!」
真夢はケラケラと笑って、弾の頭にぺし、と撫でるような平手を優しく落とす。弾はそれに目を細めながらごめんごめんと返す。
「でもな。いつしてもいい入籍を、したつもりでいたくらいのプロポーズを、ちゃんとやれよって教えてくれたんだよな?」
「弾くん」
「一緒に暮らせている事に胡座をかきすぎちまった俺を、父ちゃんにしてくれるのか。母ちゃんを同じ苗字にしてから準備してやれなくて悪かった」
「……だんくん……」
真夢の目から再びぽろり、と涙がこぼれる。弾は真夢の頬に伝うその涙を優しく拭いながら続けた。
「だから……俺たちの子どもとして来てくれたんだな。ありがとうな。すっっっげえ嬉しいぜ!お前は!俺と真夢の子だ!!大事に……大事にするからな!!」
「うんっ」
真夢は目をごしごしと拭って、しっかり頷く。
「ああ、お父さんにお母さんかあ」
真夢は幸せそうな笑みを浮かべる。
「俺はパパって柄じゃねえけど、真夢はママって感じだな」
「そうお?ふふっ、弾くんだってパパが似合うよ」
「俺がパパだなんて、源三たちに死ぬほど笑われそうだぜ……まあいいか!笑わせてやっか!」
そうだね!と言って真夢も笑う。
「弾くん」
真夢は弾の目をしっかりと見つめる。
「ん?」
「ありがとう、私をお母さんにしてくれる?」
「……おう!俺も含めて、三人の未来は任せておけ!!」
そう言って二人はまた抱きしめ合うのだった。
そして、その翌日にはきちんと病院で妊娠が確認され、両家への報告も入籍も、驚くほど順調に滞りなく進み。家族も職場の同僚や友達たちも、皆んなそれは喜んで祝福してくれて。
本当に順番なんてあってないようなものだったのだなあ、と弾と真夢はお互いの存在を、幸せな未来を、子どもを確かに感じながら笑い合うのだった。

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