麗しの来訪者

「真夢!今日飲みに行かねえ?」
金曜の退勤後、真夢に話しかけると、ぱあっと明るい笑顔を俺に向けてくれる。
「弾くん!」
「つっても、いつものメンツだけどよ。源三とミカがカンナにも声かけてるとこ。どうだ?」
「行く!……って言いたいんだけど……今日はちょっとダメなんだ」
真夢は残念そうにそう言ってくれるが、その何倍もがっかりしてることを悟られまいとする俺は、できるだけ明るく振る舞う。
「そうなのか……残念だぜ」
 うん。やっぱ無理でした。
だってよ、真夢ってめちゃくちゃ可愛いし、性格も素直だし優しいし。根は真面目ででも明るくて、仕事ができるのにちょっと抜けてて、誰とも分け隔てなく愛想よく接してて……
 やっぱ超絶好きなんだよな。でもよ……そんな真夢が俺を選ぶはずなんてねえんだろうな……
それでも、いつも誘うとこうやってぱあっと明るく「行く!」って言ってくれて、それがまた俺の心を鷲掴んで……
「ごめんね……」
「いや、いいよ。こっちこそ急にごめんな」
「あ!じゃあさ、明日行こ?予定どう?」
「え?明日?……は暇だけど、土曜だぜ」
ここ最近はカレンダー通りに休みが入ってるから明日は土曜で仕事はない。そんな日に真夢と二人で飲みに行く……?
「あ、そっか……せっかくのお休みの日じゃ……悪いよね……」
真夢が気まずそうに俯きながらそう言うので、俺は慌てて否定する。
「そんなことねえよ!!じゃ、明日は二人で行くか」
「うん!」
嬉しそうに笑う真夢に俺も嬉しくなる。
 やっぱ俺って単純だな。好きな子と二人で飲みに行けるだけでビックリするほど嬉しくなっちまうなんてさ。しかも明日は休みだし、ちょっと期待しちまうぜ。
そんな俺の気持ちを知らねえだろう真夢はスマホを見ると、慌てて立ち上がる。
「あっ!?ごめんね!私行かなきゃ……明日のこと、また後で連絡してもいい?」
恥ずかしそうに聞いてくる真夢にニヤケそうになるのを必死に堪えて答える。
「勿論だぜ!悪かったな、急いでるのに」
「ううん!夜になっちゃっても平気?今日は楽しんできてね」
「おう!まあ今日はいつものメンツだしな。そんでお前からの連絡なら何時だって平気だからよ」
「え」
「あ」
 し、しまった!つい嬉しすぎて本音が……!
「んふふっ、うん!ありがとう!じゃあ行くね」
はにかみ笑いをするとそう言って真夢は小走りで事務所を出て行った。俺はその後姿が見えなくなるまで目で追うと、嬉しさにニヤニヤしながら源三たちの待つ居酒屋へと急いだ。

 飲み屋に着くと、既に源三とミカが席で待っていた。どうやらカンナも用事で来られなかったらしく、現場三人組で飲むことになった。
「弾、お前最近調子いいな?」
源三がハイボールを傾けながら俺にそう聞いてくるので、俺もビールを傾けながら答えた。
「まあな」
「何かいいことでもあったのかい?」
まだ酒は飲めないミカも興味津々で聞いてくるので、俺は素直に答えることにした。
「ふっふっふ、実はな」
さっきあったことを二人に話すと、ミカも源三も嬉しそうに聞いてくれる。
「おーー!そりゃ良かったな、弾!」
「だよね!今日ここに来るよりかえってよかったんじゃないかい?真夢と休日デートなんて生意気じゃないか」
「だよなあ?こんな嬉しいこたぁないぜ!」
ミカと二人でうんうんと頷きあっていると、源三がニヤニヤしながら俺に聞いてきた。
「それで?お前、いつから真夢のこと気になってたんだ?」
「……へ?」
「バカだね源の字、黒木組からだよ。無自覚だけど多分一目惚れだよきっと」
「うっ!何でそれを……」
「見てたら分かるっての!アンタとは付き合いだけは長いんだから。派遣で真夢が来たらすぐに弾のテンションが上がったからね」
「う……マジか……」
ミカに自分の気持ちを見破られたのが悔しいが、まあ確かに仕事仲間としては長い付き合いだからな。兄妹みたいなもんだ。まあミカは姉御肌でしっかりしてやがるから妹って感じでもねえけど。
「で、真夢はあんなだろ。すぐに弾はメロメロになっちゃってさ」
「うるせーな!仕方ねーだろ!……可愛かったんだからよ」
「まあね。真夢はしっかり可愛いからね。見てくれだけじゃなく人懐っこい人誑しだから」
「ははは!おいらも見たかったなあその現場」
二人は真夢のことを可愛いと評価するが、俺はそれだけじゃねえと思うんだよな。
「あいつ、そんな人誑しなとこあるけどよ。しっかりしてて責任感もあるから人が集まってくるっつーか」
「あーわかるー!まさにそれだよね!パリピ!みたいじゃないのに同性からも異性からも好かれてるよね」
ミカと二人でそう評価すると源三は神妙な顔をしてこう言った。
「そこなんだよなあ……」
「ん?何だよ源三」
俺が聞き返すとミカも頷いて源三を見る。
「あの子、色んな意味で危なっかしいでしょ?」
ミカの言葉に俺は頷いた。確かに真夢は真面目で責任感が強くてしっかりしてるけど、どこか抜けてて天然なとこもあるからなあ……
「まあそこが可愛いんだけどな」
「わかるー!でもさ、そんなだから男どもがほっとかないんだよねえ」
「あ?!どういうことだよ?」
俺がそう聞くと源三とミカは顔を見合わせて頷きあう。そしてミカが話し出した。
「だから鬼頭組まで籠絡してるだろ。黒木組もまだ目を光らせてるらしいし」
「ははは!確か在籍中に龍に噛み付いたんだよな?そんでそのまま籠絡されちまって」
「ったく、とんでもねえ女だぜ!俺が守……」
そこまで言って我にかえると、源三とミカがそれはもうニヤニヤして俺を見ていた。
「お、おい!何だよ!?」
「お前……今さ、『守ろう』って言おうとしたよな?」
源三がそう言うとミカもニヤニヤしながら頷いた。俺はバツが悪くて頭をかきながら答えた。
「だっ!仕方ねーだろ!あの天然カマトト娘をほっといたらヤバいと思ってよ!」
「あららー?ほんとにそれだけかしらね」
ミカにそう突っ込まれるとさらに恥ずかしくなってくる。そんな俺の心情を察してか二人は目を合わせて肩を竦めてくる。何なんだ!
「弾が現場直帰の日に真夢の勤務が終わっちゃって。会えずに終わった時の弾ったら見てられなかったよ」
「あー、らしいな。そんでよそ見したんだっけ?」
「しっ!してねえよ!!結局は上っ面だけそうなったようなもんで、本当はずっと真夢を……」
「それをよそ見って言うんだろ〜」
ミカに突っ込まれて俺はさらに顔を赤くして俯いた。
「それさ、真夢に言っちゃいなよ」
「は?言えるわけねーだろ!俺なんかが……」
「バカだねえ。好きなんだろ?」
「……まあな」
「なら言うんだよ。あの子、ああ見えて結構臆病で怖がりなんだよ。だからアンタから言ってあげないとね」
ミカの言葉に俺は頷いた。確かにあいつにはそういうところがある。いつも明るく振る舞ってて、でもどこか一歩引いてるようなとこがあって……
「まあな。そんだけ首っ丈だった女が突然いなくなったら、よそ見して気を紛らわせたくなる気持ちもわかるぜい。でもよ、折角また桐島組で再会できたんだろ?チャンスはものにしねえと」
「……源三」
いつもはライバルだとくってかかっている源三にそう言われたことに少し感動した。
「それによ。もうよそ見はしないんだろ?」
「まあね。あんなのはよそ見にも入らなかっただろうけど、そんなのその人にも真夢にも悪いもんね。もう真夢一筋で行くんだろ?」
 そうだ。チャンスはものにしねえとな。
俺は覚悟を決めて二人に宣言する。
「そうだ!俺は真夢ただ一人を想う!もうよそ見はしねえ!つーか、出来ねえ!!」
「おう!頑張れよ、弾」
「そうだそうだ!頑張ってね〜」
源三とミカに背中を押されて俺は明日から真夢にアプローチすることに誓ったのだった。
しかしそんな俺の決意を揺るがすことが起きるなんて……この時はまだ思いもしなかったんだ。

—-*—-*—-*—-*

 しばらく飲み食いした後、フト店内を見た源三が口を開く。
「あれ?向こうのテーブルにいるの、真夢じゃねえか?」
「え!?」
「どれ?あ、ホントだね。あの可愛い姿は真夢だわ。服も一緒だし」
ミカも気づいたようで二人はそちらを見やる。俺も慌てて振り返ると、店の奥へ視線を送る。するとそこには……
「でも、誰かと一緒だね」
「だな。顔があんまよく見えねえ…けどデカいから男か?」
「何!!?」
「でも何かすごい綺麗な人っぽい?髪も長いし、モデルみたいな女の人かも」
源三とミカがそう言っているのを聞きながら俺は思いっきり立ち上がっていた。
「真夢……」
思わずその名を呟いてしまう。
 俺には分かる。あのちょっと照れた顔と嬉しそうな笑顔は……俺の好きな女、真夢のものだ!
 そして一緒にいるのは誰だ!?まさか……大龍か!?いや、あいつならこんな店には来ないだろう。しかも見た目も全然違う。
 じゃあ誰なんだ?
俺が混乱しているとミカが冷静に言う。
「今日誰かと会うって言ってたの?真夢」
「え……いや、聞いてねえ」
今日は無理、としか聞いてねえ。あの向かい合って座ってるキレーな奴と飲みに行く約束をしてたなんて……
「ふうん?じゃあまあ、気にすることないんじゃないのかい。男か女かも分かんないんだし」
ミカがそう言うが、俺には別のことが頭に浮かんでいた。
「でもよ、真夢は俺と出かける時にあんな顔しねえぞ」
「ええ、そうかい?」
源三も困った顔をして首を捻っている。
座っているからよく分からねえが、さっき源三が言った通り背は高そうだ。でも今日日背の高いねーちゃんもいるしな。
金髪の長い髪がキラキラしてて、たまに掻き上げる仕草がセクシーに見える……じゃあやっぱり女か??いやそうであってくれ!!そんでこれはよそ見でも浮気でもねえからな真夢!!!
「うーん、どっちにしろ美形っぽいな。真夢も併せて周りの奴がチラチラ見てやがるし」
「何!!? …………」
飲み始めのルンルンな気分を一気にぶち壊しにされた俺は、今すぐにでも真夢のいるテーブルへ行きたかったがそうもいかず。
「落ち着けよ弾」
源三が俺の肩に手を置いて言ったが、俺のテンションは地の底まで落ちていた。
「あーあー、弾が地の底まで落ちちまった」
「まだ何も決まってないんだからそこまで落ち込むんじゃないよ、このヘタレが」
そんな二人の声も今の俺には届かない。
女友達なら声をかけに行ってもギリいけるんだろうが、万が一億が一兆が一相手が野郎で、しかも憎からず思ってる相手だったりしたら……
「ぐああああああああ」
俺は頭を抱えてテーブルに突っ伏した。
そんな俺を二人がどう扱っていいか困っていると、ミカが思いついたように言った。
「よし、じゃあちょっと様子見に行くよ」
「は?」
「はあ?」
二人して間抜けな声を出すとミカはニヤリと笑った。
そしてそのまま席を立って真夢のテーブルの方へ歩いて行くので慌てて俺も後を追った。源三もついてくる。
ミカは真夢たちに声をかけることなく、少し離れたところで立ち止まると俺たちに向かって手招きをした。俺と源三がテーブルの近くに行くが、真夢からは丁度死角になっていて気付かれていない。
「どうなんだ?」
「相手の顔がこっからだと見えるね……うわっ、すごい美形!!」
「どれ?おお、本当だな。こりゃあ見た目だけじゃ男か女かますますわかんねえぞ??」
真夢の相手が見えたところで結局何も分からない俺たち。そして、その向かいにいる美形を間近で見て俺は言葉を無くした。
 文句なしに綺麗な人だと思った。モデルなんか目じゃないくらいに……白い肌に高い鼻筋、形のいい唇。長い睫毛が縁取る大きな目はどこか憂いを帯びているようで、それがまた色っぽい。
 でもやっぱり浮気じゃねえからな!?俺が胸を焦がすのは月野真夢ただ一人だ!!!
「とりあえず真夢と仲は良さそうだね。真夢の感じからしても悪い人じゃないっぽい?」
「何話してるかまでは分からねえしな。おい、弾??」
俺はフラフラと自分の席に戻って行った。そして席に座るとテーブルに顔を突っ伏して頭を抱えた。
「おい、弾!どうした?」
源三が心配そうに聞いてくるが、俺は顔を上げられないでいた。
 あのキレーな奴……誰なんだあいつは!!?
真夢を今日誘ったってのに、その誘いより優先する奴……しかも二人っきりで!!!
「お、おい弾!」
「ちょっと!しっかりしなよ」
二人がそう言って俺のことを揺さぶるが、飲み始めの有頂天から一転この世の終わりのようになった俺を二人は持て余す。
「まあよ、弾。まだアレが真夢の恋愛絡みって決まったわけじゃねえだろ?」
「当たり前だ!!!そんなんであってたまるか!!!でも!!でもだな……!!」
 綺麗すぎるだろ、あの人。あれなら真夢が惚れるのも無理ねえ……
「あーもう!しっかりしなよ弾!」
ミカのその言葉の後、俺の背中はものすごい力でバシッと叩かれる。
「痛ってええええ!!!何すんだ!!」
あまりの痛みに顔を上げるとそこには……鬼の形相をした源三とミカが立っていた。
「目え覚めたかい?このヘタレ野郎」
「おいてめえ、俺たちの可愛い妹分の幸せをぶっ壊す気か?」
((真夢は弾の事が好きなんだよ!!!))
 そう、実は真夢の気持ちを知っていたこの二人。
でもそれを知るはずもない俺は、二人の剣幕に圧倒される。
「な、何だよ!?俺が何かしたか!?そんで妹分って何だ??アイツは俺と同じ二十一でお前らより歳上……」
「うるせえ!!桐島組での立場的には妹分みたいなもんなんだよ!!!そんで何なんだお前!!男だか女だか分かりもしねえ相手に戦う前から負けてんじゃねえ!!!」
「そうだよ!!ったく、真夢の好意を無にする気?!あの子がどんだけ悩んでると思うんだい!」
源三とミカの言葉に俺は何も言えずにいた。それに何よりこの二人が俺のことをそんな風に想っていてくれたことに驚いた。
そして勢い余って口を滑らせたミカの失言に俺たちは三人とも気づかずにいるのだった。
「お前よお、真夢のことずっと好きだったんだろ?そんだけ惚れてるんならグダグダ言ってねえで当たって砕けてこい!」
「そうだよ弾。あんた度胸はあんのにどうして真夢相手に発揮できないかなあ……あ!」
何かに気付いたミカが言葉を止める。
「何だよ?」
「真夢の相手が席を立ったね。アタシもちょっとトイレ行ってくる。そしたらニアピン出来るだろ」
「ナイスアイデア!ミカ、おいらも行くぜい。そしたら性別がとりあえず分かるしな」
ミカと源三はそう言ってテーブルを離れるとトイレへと向かった。
残された俺は一人、自席で祈る。
焼き鳥のねぎま串から具を取り外しながら、女、男、女、男、頼む、頼むから女であってくれ……!と祈りながら花占いならぬ焼き鳥占いをして二人の帰りを待った。

 程なくして二人が戻ってきた。
「弾……残念なお知らせなんだけど……あの綺麗な人、男だった」
「ああ?!信じねえぞ俺は!!」
ミカがそう言ったので俺はそう返してやった。だが源三がそれに追い討ちをかける。
「残念ながら……男だったぜ。それも飛びっ切りのな……」
「しかも超紳士……」
「何かいい匂いもしたな……」
その言葉に俺は頭を鈍器で殴られたようなショックを受けた。
「そ、そんなわけあるか!!あんなキレーな奴が男だなんてよ!その上いい匂いだと!?女じゃねえなら何だってんだよ!?」
俺の言葉に二人は顔を見合わせる。
「それがさあ……近くで見たらもっと綺麗で……アタシに道もサッと譲ってくれてさ。女子トイレに入るのかと思ったら……」
「おいらと一緒に男子便所に入ったんだよ。で、一緒に入ったのに、どうぞ、っておいらに譲ってくれてよ……」
 何だそりゃ……そんな生物がいてたまるか!!!女顔負けのイケメンで紳士でいい匂いだと!!?そんな奴いるわけねえ!!
「でも、どっかで見たことあるような人だよね?」
「あ、お前も思ったか?だよな、なんか馴染みのある顔だよな……」
源三とミカは二人でそんな事を言って首を捻っている。俺はワナワナと震えて焼き鳥占いをしたバラシ肉をぐあああっ!と口に放り込んだ。
「うおおおおお!!」
「わっ!!?弾!?落ち着いて……」
「これが落ちついてられっか!!当たる前から粉々じゃねえか!!!」
俺のその言葉にミカは首を横に振った。
「違うんだよ。確かにあの顔どっかで見たことある気がするんだよね……源の字もそう思うだろ?」
「ああ。俺もどこかで見たような気がすんだよな……」
二人して考え込んでいるところへ、突然後ろから声がした。
「ねえ……もしかして、真夢の友達の人たち?……だったりする?」
俺たち三人が驚いて振り返ると、そこにはさっき俺たちが見惚れた美形が立っていた。
俺は驚きすぎて声も出ない。何てこった、声までイケボ……
「あ……ええと、はい。真夢の友達です」
ミカがそう答えると美形は嬉しそうに笑った。
「やっぱそうだ!突然声かけちゃってごめんね」
その言葉に俺もミカも源三も驚いた顔になる。何てこった、本当にフレンドリー且つ紳士だ……
「えーと、違ったらごめんね。君、源さんだよね?部乱目町の有名人だもんね。それで君は、ミカちゃん?」
源三とミカは驚きながらもコクリと頷く。
「あーやっぱり!真夢が前話してたんだよ、素敵な人たちと友達になったってね。そっかあ……で、君が……」
「お、俺は……」
もう焼き鳥を咀嚼する元気もない俺。
「弾くん、だよね?」
美形はそう言ってにっこり笑った。
俺は言葉も出ない……何で俺のことを真夢が話してんだよ……?そんで名前まで覚えてもらってるとかどんな関係なんだ!?
固まる俺の代わりにミカが答える。
「そうです」
「やっぱり!とてもいい男だって自慢されたよ」
そう言ってまた笑うこの美形に、俺の中で殺意が湧いてくるのを感じるのだった。
 この野郎!!!ふざけんな!!許さねえ!!
「あ、ごめんね?自己紹介……えーと俺は、あ、真夢!おーい!」
どうやらトイレで真夢が離席している隙に美形は俺たちの席に来たらしい。呼ばれた真夢は俺たちの席にいる美形と俺たちとを見てギョッとした顔をした。
「だ、弾くん達……な、何でここに……!?そんで何で……」
「ごめんね?なんか声かけちゃったんだ」
美形の言葉に真夢は顔を赤くすると「な、何してんの勝手に……!」と言ってモジモジし始めた。
 マジで何だこれは??
俺の心は荒れ狂う海のように波打っている。そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、美形は笑って俺たちと真夢に言う。
「ねえ、少しだけ一緒してもいい?こっち来てもいいかな、それとも向こうに来る?」
「な!?何を勝手に……!」
真夢が慌てて美形を止めるが、源三とミカがにこやかに言う。
「おう、いいぜい!席空けるか?」
「そうだね。おいでよ真夢」
「おい!?」
俺が二人に小声でそう言うと、二人も小声で俺に耳打ちする。
(バカだね、敵情視察?は必至だろ?)
(そうそう。あのキレーなにーちゃんが何者か知りたくねえのか)
 そうか……敵情視察か。そう言われりゃそうかもしれねえな……
「やった、ありがとう!じゃあ遠慮なく」
美形はそう言うと俺たちのテーブルにするりと入ってきた。それを見た真夢は顔を真っ赤にしているが、そんな真夢の手を取って席に座らせる美形。
 何なんだ、そのスマートさは!?!?俺なんか手すら握れねえんだぞ!?!
ミカと源三を見ると、二人も真剣な顔でこの光景を見ている。きっと俺と同じ気持ちでいるのだろう。
 こいつは一体何者なんだ?? 俺の焼き鳥占いの肉を返せ!!!
「突然の乱入すみません。許してくれてありがとう、かんぱーい!」
そう言って爽やかに乾杯を促され、全員疑いもなく自然と乾杯をしてしまう。クソッッ!!
「あ、俺ね、真夢と付き合ってて」
 ブフゥッッッ!!!!
美形の言葉に思わず吹き出す俺たち。しかもミカは飲んでいた烏龍茶を盛大に吹き、そんなミカの背中を摩りながら源三が尋ねる。
「なんだって??今なんて??」
「俺は真夢の彼氏です!」
そう言って爽やかに笑う美形に俺のイライラと嫉妬心は最骨頂に達した。
 この野郎、自分がイケメンだからって人の恋路を邪魔しやがって……!許さねえ!!まだ気絶も号泣もしてない自分を褒めてやりてえぜ!!!
「うおおおおおおい!!!!?」
 !!!???!!?!
 何だ!?!
俺の心の声が他所から聞こえて俺はキョドるが、その声の主は……他ならぬ真夢だった。
「ちょちょちょっと何言ってんの!!!?ぶっ飛ばされたいわけ!!?この……!!」
ワナワナと震えながら美形に食ってかかる真夢……かわいー声でかわいー顔を怖くして柄にもなく暴言吐いて……これはこれでメシ三杯はいけるな……でもやっぱ馴れ馴れしいこの男にムカつくぜ!!!本当に彼氏だって言うのか!?あと十秒もたねえぞ俺は!!!
そんな思考で忙しい俺、テンパった様子の真夢、笑う美形に様子を伺う源三とミカ……現場はカオスだ。
「あははは、ごめんごめん!冗談だよ冗談。俺は、さくら。真夢の……、親戚のお兄ちゃんなんだ」
「な……!?」
まだ何か言いたそうな真夢が目に映るが、今の俺はそれどころじゃねえ。
 よよよよよよよかったぜ……マジで彼氏じゃねえんだな!?本当に彼氏だったら俺はもう失神するところだったぜ!!!
「何だ、びっくりしたぁ。冗談にしちゃ心臓に悪いよ」
ミカがホッとしたようにそう言うのに美形はまた笑った。
「ごめんね?真夢の友達って聞いて嬉しくてついね!」
「そんなもんなのかねぇ……でも、真夢にはいつもお世話になってます」
「本当だぜい。真面目で気がきくし、職場の人気者でぃ」
そう言って頭を下げるミカと源三。俺も慌てて頭を下げた。そんな俺たちを見て美形も頭を下げる。
 お前たちさっき真夢のことは妹分だとかって言ってなかったか!?まあ人気者はほんとだけどよ!!
何か腑に落ちていない様子の真夢に美形は何かをコソッと言うと、真夢は渋々納得するようにそれ以上は何も言わず佇んでいる。そして口を開く。
「私の方が皆んなにお世話になっているんだよ。こんな一派遣の私にも皆んな良くしてくれて」
「そうなのか。お前みたいな無自覚に人を引っ掻き回す奴によく皆んな良くしてくれるな?皆さんありがとうございます」
真夢は美形の言葉にむっとしているが、無自覚に人を誑し込む真夢と関わるのは実は結構楽しいのだ。だから皆んな真夢が大好きなんだ。でもだからってお前に大きな顔されるのは気に入らねえな!!? と、俺は始終美形にガルガル全開だった。
そんな俺を知ってか知らずか美形は少し眉尻を下げて笑うと、源三とミカに問いかける。
「あれ、そういえばカンナちゃん?はいないの?お嬢様の」
それを聞いた源三が今度はギク、と強張る。そしてそれを見たミカも少なからず……
源三はカンナとミカを憎からず思っており、またミカとカンナも源三を想っているというややこしい状況なのだ。そしてそれを知る俺と真夢もまた少し落ち着かなくなる。
「あ、カンナちゃんも予定あったんだね」
気配り上手の真夢がすかさず話題を振るが、余裕のない俺がそれをぶち壊す。
「そうみたいだぜ。まあカンナは家の用事で、お前みたいにデートじゃないらしいけどな」
「え……私は、そんな……」
真夢が言葉を詰まらせると源三もミカも険しい顔になる。
 やべ、言い過ぎた……でもこのいけ好かない野郎を俺は許せねえんだ!!
そんな俺たちに美形はまた爽やかに笑った。
「あはは、デートだなんてそんなんじゃないよ!ただ今日は俺が久々にこっち戻ってきてさ。それならって真夢が一緒に食事行くって付いてきてくれただけ」
「そ、そうだったのか……」
ホッと胸を撫で下ろす源三たちが俺を見て「落ち着け」と目配せする。真夢もしゅんとした顔をしている。いかん、俺が真夢を悲しませてどーすんだ……!
「久々にこっち帰って、って、地方でお仕事してるんですか?」
やはり気の回るミカが今度は美形に聞くと、奴はまたキレーに笑ってにこやかに答える。
「うん、全国周ってんの。俺もね、同業者なんだよ。宮大工なんだ」
「「「ええ!!!?宮大工!!!?」」」
宮大工といえば大工のエリートだ。てかそんな風に見えねえなこの兄ちゃん!!?どっかのモデルかなんかだとばっかり……
「すごいね!こんな綺麗な大工見たことないよ!」
「なー、モデルとかかと思ってたぜい」
源三とミカも俺と同感の驚きの表情を見せた。そうだよな、大工に見えねえよな……この美形があの梁なんか作るのかよ!?!?
そんな俺たちを見て美形は笑った。
「はは、そんな意外?ほら、これで意外と筋肉質だろ」
そう言って見せてくる腕は、スラリと長くて綺麗な肌に目が眩むが、確かに筋肉がしっかり付いていて逞しい。
「な?だから力はあるんだよ。でもこの顔だろ?よくモデルに間違えられるんだ」
「ああ……それは分かるぜぃ……」
源三がそう呟くと美形は「冗談だよ!」と言って笑った。冗談じゃねえだろ、嫌味だろが!!!
「皆んなは?何が得意なの?」
そう聞かれて、源三が答える。
「おいらもそういや肩書き宮大工なんだよな。忘れてたぜい。そんでミカはチェーンソーミカとか言われてたよな」
「ちょっとやめとくれよ、真夢の親戚の人の前でそんなこと」
「何で?カッコいいじゃん、女の子でチェーンソー捌けるなんて」
美形にそう褒められ、ミカは少し顔を赤くした。
「じゃあミカちゃんも宮大工なの?」
真夢がそう聞くとミカはまた少し照れたように笑って言う。
「いや、私は普通の現場作業員だよ」
「そうかあ?結構キレ者だろ、お前」
と俺が言うとミカは顔を赤くして手をブンブン横に振った。
「そんなことないよ!普通だって!」
そんな俺たちの会話に美形は優しく笑ってから俺に言った。
「弾くんは?何が得意なの??」
イケメンは俺の目を見る。優しく微笑んじゃいるが、その瞳は何かを見透かすようで居心地が悪ぃ……
「俺は普通だよ。大した仕事してねえ」
そう言って視線を逸らすと、美形はふーんと言うが……
「そんなことないよ!弾くんはダイナマイト弾っていって、ダイナマイトをこう、色々アレして、えっと、とにかくすごいんだから!!」
俺の代わりに真夢が息巻いてそう答えてくれる。俺も周りも驚いていると真夢はハッとして見返してくる。
「あれ?真夢、やけに弾くんだけ熱が入るね?」と美形が言うと、真夢は赤くなって俯いた。
 こいつ……!!
俺の心は真夢への感動と奴への嫉妬心でますます荒れる。
「あ、えっと……ごめんね弾くん」
「いや、謝ることなんかねえよ……ありがとな、真夢」
そんな俺たちの会話を見て源三がニヤニヤしている。ミカもだ。クソッ!俺はもう限界だ!!

 そんなこんなで、俺たちと真夢の親戚の兄ちゃんである美形とで食事会は意外と和やかに進んだのだった。
「あ!やべ、もうこんな時間か……そろそろお開きか」
源三が店の時計を見ながらそう言ったので、俺も慌てて時計を見た。本当だ、もう十時半を回ってるじゃねえか!!
「じゃあお開きにしようか。ごめんね長くなっちゃって」と申し訳なさそうに言う美形に俺たちは恐縮する。俺は内心ガルガルしちゃいるが……
店を出て、皆んなで歩く。
「俺の家も真夢の方だから、おじさんおばさんに挨拶しがてら送って行くよ」
そう言う美形に俺のイライラは爆発寸前だ。
 俺の真夢と近いじゃねえか!何様なんだよこの野郎!!
「何か、普通に良い人だったねえイケメン」
「ああ!!?」
「欠点がねえな。話は上手いし礼儀もあるし、フレンドリーだし……」
「イケメンだしね」
「クソッッ!!!」
ダァン!!とアスファルトを踏みしめる俺。そんな俺を見て源三が呆れたように言う。
「弾、お前何が気に入らねえんだよ?普通に良い奴じゃねえか」
 そう言われてもよ……俺には俺の事情があるんだよ!
「まあ、恋敵にはしたくねえわな」
「分かってんなら言うな!!!」
「でもさ、そんな感じには見えなくないかい?最初こそふざけて彼氏です〜とか言ってたけど、本当にただの親戚のお兄ちゃんなんじゃないの?」
「そうであってくれねえと困るぜ、全俺が……」
そんな事を源三、ミカと話しながら歩く。前方にはまあ仲良さそうに話しながら歩く真夢と美形……本当に終わっちゃいねえんだろうなこれ!!?
と、ふいに美形がくる、とこちらを振り返り、すすす、と俺に近寄ってくる。
「ね、弾くん。俺、もうちょっと弾くんと話したいな。いいかな?」
「は……!?!?」
俺に耳打ちするようにそう囁く美形。俺は一瞬何を言っているのか分からなくて固まってしまうが、すぐに我に返る。
「いや、何言って……」
と言いかけたところで奴は源三とミカにも「いいかな?」とにこやかに頼む。言われた二人も、素直に美形と入れ替わり真夢の方へと向かう。
 いやお前らそんなすぐ俺を売るなよな!?
心なしか真夢も不安そうに俺たちの方をチラチラ見ている。本人にゃ言えねえが、コイツ、一体何を企んでる……?
「ねえ、弾くん。君さ」
「な、何すか……」
「真夢のこと、好きなの??」
「は!?!?」
美形のその言葉に俺は思わず大声を出してしまった。
 いや、好きか嫌いかって聞かれたらそりゃ……
「な、何でアンタにそんな事言わなきゃなんねえ……すか」
そう俺が言うと美形は一瞬キョトンとしてから笑い出した。何がおかしいんだよ!!?
「あはは、ごめんごめん。そっかあ」
そんな奴を俺は訝しげに見る。すると奴はまた少し笑って言った。
「じゃあ、俺に勝つ自信ある?」
「は?」
「この俺より。真夢を幸せにする自信はあるかい?」
美形はそう言ってまた笑う。その笑顔はさっきまでの皆んなの前での友好的なそれとは違って、明らかに俺に交戦的なものだった。
 コイツ……!!!
俺はそんな奴を睨みつけた。
「それは、真夢が決めることだ」
そう言ってやると美形は目を丸くしてから、また笑った。
「確かにそうだね。それは失礼した」
そう言って俺を見る美形の瞳にはまたあの柔和な笑顔がある。どうにも読めねえ奴だ……俺は身構えるが、そんな俺を見て美形はまた笑う。
「大丈夫、何もする気はないよ」
そんな奴に俺は言う。
「真夢は渡さねえよ」
俺がそうキッパリ言ってやると、奴は少し驚いたようにして、そして今度は嬉しそうに笑って言った。
「そっか!ならどうしようかな?」
「真夢が幸せかどうかは、真夢が決めることだ。ただ、俺は……」
そこで一度言葉を止め、真夢の方を見てから、強い視線で美形を見て言った。
「真夢が幸せなのが俺の幸せだ。俺は、アンタほど色々なものは持っちゃいねえが、俺の全てを持ってしてアイツを幸せにしたいと思ってる」
そんな俺を見て、美形はまた笑った。今度は楽しそうにケタケタと笑いながら言う。
「あはは!いいね!!俺、そういうの好きだよ!」
「そりゃどーも」
俺はそんな奴を訝しげに見やる。この美形は本当に何を考えているのか……
俺と美形の不穏な空気感を察知したのか、真夢がこちらを不安そうに見ている。
「熱いね。真夢から聞いた通りだ」
俺はピクッと眉を動かす。
「真夢、何か言ってたか?」
俺がそう聞くと美形はニヤリと笑う。これまでとは違った煽るような笑みに、俺は思わず身構えた。
「熱いだけで、真夢を幸せに出来るとでも?」
「な……!?」
「その程度じゃ真夢は譲れねえな。出直してこい」
今までの綺麗で柔和な優しい雰囲気とは一変して、奴は挑戦的な目で俺を見て言う。俺はそんな奴を負けじと睨み返しながら言った。
「上等だよ。今の言葉、忘れんなよ?俺の全てで真夢を手に入れてやる」
「できるかな?」
「……っテメェ!!!」
思わず美形に掴み掛かろうとしたその時。
「ちょっと、何してるの!?」
前を歩いていた真夢が振り返り、俺と美形の不穏な空気感に気付くと慌てて駆け寄ってきた。
真夢は必死にそう言ってこちらに向かってくるが、丁度そこは十字路になっており、真夢の見えない方から自転車がシャーッと勢いよく走ってくるのが見えた。
それを見た掴み合う寸前の俺と美形は青ざめる。
さっきまで余裕たっぷりだった美形も顔色を変え、叫ぶ。
「真夢!来るな!!危ね……」
「え……? ………!!!」
真夢もハッとするが、自分の動きを止められないでいる。このままじゃ跳ねられちまう……!!
『危ねえ、避けろ!!』
そんな事さえ言う暇もなかった俺は……
全速力で真夢の方へ向かい、身体ごと真夢に突っ込むが、このままだと真夢を壁に打ち付けちまう。すんでのところで俺は自転車から真夢を庇うように抱き締め、そのまま全力で身体を捻り壁側が自分になるようにしてそのまま壁に突っ込んだ。
 ドスンッッ!!
鈍い音が響き渡る。
「っ……!!」
「きゃっ!?」
そんな俺たちを見てミカと源三も大声を上げた。
「弾!!!真夢!!!」
「おい!大丈夫かよ!???」
自転車の主は気にもせず走り抜け、美形は息を切らせながら呆然としている。
俺はすぐに身体を起こそうとするが、その時腕や足に鋭い痛みが走る。
 ああ、痛えなチクショウ……!!
見ると俺の手や肩からは血が流れていた。
「だ、弾くん……ごめ……」
「真夢!!!怪我は!?怪我はねえか!!?」
青ざめる真夢が俺に何か言うのを遮って、俺は慌てて聞く。
「わ、私は大丈夫……弾くんが庇ってくれたから……」
「そうか!良かった!!」
真夢に怪我がなくて一安心した俺は、つい真夢をギュッと抱き締める。
「良かった……お前が無事で……」
「わ、私なんかより弾くんが……」
「なんかってなんだ!!!怒るぞ!!何のために身体張ったと思ってる!?」
俺がそう怒ると、真夢は涙を滲ませて俺の胸に顔を埋めた。俺はそんな真夢をしっかりと抱き留める。怪我はしてねえみたいだな……安心したら俺も身体が痛くなってきた。
「弾くん……ごめんね、ありがとう……!」
「大丈夫だぜこんくらい。現場出てたってたまにある怪我だこんなもん」
笑ってそう言ってやるが、真夢は涙ぐみながら俺の身体を確認する。
「そんな……!血が出てる、打ち身もあるんじゃ……」
「だから平気だって。泣かないでくれよ、そっちの方が辛いぜ俺は」
そんな俺たちに美形が近付いてきた。
「だ、弾くん、大丈夫……?」
そんな美形を真夢はキッ!!と睨みつけると……
「一体弾くんに何を言ったのよ!!?飛び出したのは私の不注意だけど、弾くんが怪我したじゃない!!」
そう真夢は美形に向かって怒鳴った。それに対し、美形はすまなそうに言った。
「ごめんね真夢、弾くんも……俺は……」
「で!?弾くんに何を言ったのよ!?掴みかかるまで追い詰めるような事言ったの!?」
「……っ!!あ〜もういいだろ真夢!!俺は大丈夫だぜ!?掴みかかった俺も悪かったんだし」
今度は俺が割って入ると美形が申し訳なさそうに言う。
「真夢の言う通りだよ。全部俺が悪いんだ」
そう言って奴はペコリと俺たちに頭を下げる。
「悪かったね。痛い思いまでさせて……身体が資本なのに本当に申し訳ないよ」
「いや、だから俺は……真夢が無事ならそれで……」
そんな俺のセリフに美形は何やら心を打たれたようだった。
「俺を庇ってくれて、自分を犠牲にしてまで真夢を助けてくれて……君になら……」
そう呟きかけた美形の言葉を真夢が遮る。

「もう……もう……何が全部俺に任せとけ、よ……お兄のバカ!!!!!!」

 ………………。

「え!?!?」
「あ!!?!?」
「おに……え!!!?」
真夢の言葉に俺たちは驚く。
 お、お兄って……お兄って言ったよな真夢……ん??まあ親戚の兄ちゃんだから間違ってはいな……え??
呆気に取られた俺たち三人が呆然としていると、真夢はぶるぶると震え、美形をギッと睨んでいる。
「おにい……?え??えええ???」
俺の頭もパンク寸前だ。
「お、お兄って……ま、真夢のお兄ちゃん、なの!?」
そんな俺と同じくミカと源三も混乱している。そんな俺たちを見て美形はバツの悪そうな顔をしている。
「あ〜バレちゃったか……」
そう言って頭をかく美形に真夢はポカスカと殴りながら怒っている。そして、申し訳なさそうに俺たちに向かって……
「ごめんね、皆んな……親戚のお兄ちゃん、とかややこしいこと言ってたけど……この人は私の実の兄、実兄なの……」
「「「えええええええ!!!?」」」
美形……もとい、真夢の超イケメン兄は困ったように真夢に殴られている。しかしそれが可愛くて仕方ないのか、顔はデレッとしている。そんな兄に更に腹を立てたのか真夢はバシッと兄をひっぱたく。
そんな二人の仲睦まじいやり取りにミカと源三も何だか毒気を抜かれたようで、「あ〜……」と言いながら二人を眺めている。
「いや〜ごめんね!俺のせいで怪我までさせちゃって」
そう言ってすまなそうに笑う真夢の実の兄を見て、俺は思うのだった。
 きっと俺は一生この二人には敵わないのだ、と。

—-*—-*—-*—-*

 すぐそばにあった公園で、イケメン兄貴は全員に飲み物を買って渡す。
「皆んなごめんね、迷惑かけて。俺の名前は月野幸夢。真夢の兄です」
そう言ってペコリと頭を下げるイケメン兄貴……もとい、真夢の実兄、幸夢さん。見た目も爽やかだし名前までキラキラだ……
そんな彼の自己紹介に俺たち三人も改めて自己紹介を返すと、「ああ!」と嬉しそうに笑う。
「真の夢、で真夢。幸に夢、で幸夢。よく顔見てみて、実は同じ顔してるだろ俺と真夢」
言われてみれば確かに二人はよく似ている。誰が見ても美人な真夢と同じ顔で長身の男とくれば、女の真夢よりも目を引くのは致し方ないだろう。
「本当だ……だからか、どっかで見た気がしてたのは」
「そうそう。初めて見るはずなのに、何か既視感あって馴染み深くて……不思議な気分だったね。真夢のお兄ちゃんだったのか」
源三とミカがそう言うと、真夢は少し照れ臭そうにして言った。
「お兄は昔からこんなんで、私と同じ顔だけど周りからキャーキャー言われててさ。全く霞む妹の身にもなって欲しいよ!」
「なるほどな……」
そんな俺たちのやり取りを見て幸夢さんは笑う。
「女の人に間違えられることも多いんだよ、名前もこんなだし」
「だからせめて髪は男らしい短髪にしたら?って言ってるのに!」
そう真夢に突っ込まれるが、幸夢さんはサラリと返す。
「だからさ、前から言ってるけど、意外とこれくらいの方が仕事の時はひとまとめに出来るから勝手が良いんだよ。それに、ハゲたらロン毛は出来ないだろ?出来るうちにやっときたくてさ」
いくら綺麗でも俺だって男だからいつかハゲるかもしれないだろ、と冗談を言って笑っている。
「じゃあその金髪は何よ!?目立つんだってば!」
「お前と同じピンク髪の地毛の方が目立つだろ!?男でその色だとますます女の子みたいになっちゃうんだよ」
なるほど、確かに少し伸びている根本や眉毛は真夢と同じピンクの毛色をしている。
「まあ、黒髪だろうが白髪だろうが、この見た目じゃどうしたって目立つわな」
「ロン毛もよく似合うしね……短髪でも坊主でもこの顔は隠せないしね」
「源さ〜んミカちゃ〜ん、そんなフォローしないでいいよ〜」
源三とミカが納得しているところに真夢は項垂れながら突っ込む。
それを聞いた幸夢さんは嬉しそうに笑うが、すぐに少し真面目な顔で言う。
「でもさ、本当にごめんね弾くん」
「いや、もう大丈夫なんで気にしないでください。俺の方こそあの、色々暴言吐いたり掴みかかったりして……」
「ううん、そんなの俺のせいだからさ。それもごめん。試すようなことして。勿論あれも全部嘘だからね。けしかけるようなことして悪かったよ」
そんなこと、と俺が言おうとすると真夢が横からキャーキャーと怒り出す。
「そうだよ!弾くんに変なこと言って、怪我までさせて……お兄が悪いんだからね!弾くんはそんなことしないんだから!!」
「はいはい、俺が悪かった。真夢は弾くんのことが本当に大好きなんだねえ」
そんな幸夢さんの言葉に、真夢は真っ赤になっている。
「な、ななな何を言うの!!?」
「それに突っ込んできたのはお前も悪いぞ。ちゃんと周り見てからにしろ、小学生じゃあるまいし」
「何よお!!」
そんな二人を見てミカと源三も笑うが、俺も何だか照れ臭い。
「でも、お兄に何言われたの?弾くん」
真夢が心配そうに聞いてくる。そんな真夢の質問に俺は焦ってしどろもどろになりつつ答える。
「えっ!?えーとだな、その、なんつーかそのだな……」
「なに?なんなの??」
それをニヤニヤして見ている幸夢さんと源三、ミカの三人……いや兄ちゃんそこは助けてくれよ!!?
「まあまあ、それは二人の秘密ってことで♡」
俺の心の声が聞こえたかのように幸夢さんが言う。
「もお、なんなの??」
真夢がそう言うのをまた幸夢さんが宥めるように笑う。
「ほら、今日はもうこんな時間だしさ。本当に皆んな、引っ掻き回してごめんね。こんな俺と真夢だけど、これからもよろしくお願いします」
そう言って深々と頭を下げるのを見て、俺たちは思う。
 この人が綺麗なのは見てくれだけでなく、中身もなのだと。その辺りもひっくるめて本当に真夢の兄貴なんだと。
「頭を上げてください、こちらこそよろしくお願いします」
俺がそう言うと続いてミカと源三も言った。
「こちらこそよろしくだぜぃ!幸夢さん!!」
「宜しくお願いします!」
そんな俺たちをまた優しい笑顔で見ながら幸夢さんは言う。
「ありがとう、皆んな……特に源さん、ミカちゃん。真夢のことで気を揉んだりしてない?ごめんね、愚妹が。変な所鈍くてさ」
ウインクしながら言われた二人は息を呑み、そうなんですそうなんでい、と口を揃える。
「ええっ!?何だろ、私二人に特に迷惑かけてるの!?」
真夢が目を白黒させるのを見て三人は「ほらこれだもん」と話に花を咲かせる。
残された俺と真夢は顔を見合わせる。
「ごめんね、弾くん……痛くない?いや、痛いよね。大丈夫?お仕事に……」
「だから大丈夫だっつーの!頑丈な俺だからこれで済んだんだ!お前が痛いよりマシなんだよ俺は」
そんな俺の言葉に真夢は泣きそうになる。
「弾くん……でもごめんね……」
俺はそんな真夢の頭を撫でて言う。
「お前が無事ならそれで良いんだよ。確かに少しは痛いが、そんなの気にしねえから」
そう言ってポンポンと頭を撫でる俺を、真夢は潤んだ瞳で見つめてくる。そんな時、源三のでかい声が響き渡った。
「おいお前ら〜!!もう時間も時間だしよ、そろそろお開きにすっか!!」
その言葉に俺たちは時計を見る。時刻は更に周って十一時になろうとしている。
「じゃ、皆んなで途中まで帰ろっか。おじさんのとこ、とか言って俺が帰るの実家だし、おじさんじゃなくて父さんだし」
そう言って笑う幸夢さんにつられて皆んなも笑う。固まって帰っていると、また自然な流れで幸夢さんが俺の横にすっと来て口を開く。
「弾くん。今日は本当にごめんね」
「いや、だから本当にいいですって!俺もっすから!」
俺の返事に今度は何一つ含みのない優しい顔を見せる。
「それで……弾くんの言葉、信じてもいいかな」
「え……?」
幸夢さんの言葉に俺は戸惑う。前では真夢が楽しそうに源三やミカと話している。
そんな俺たちの顔を順繰りに見た後、幸夢さんはこう言ったのだ。
「真夢のこと。本当に幸せにしたいって気持ちがあるって、信じてもいい?」
「え!!?あ、あの……」
突然のことに俺はどぎまぎしてしまう。知らなかったとはいえ、実兄に向かって何つー宣言してたんだ俺は!!!
 でも。その言葉に嘘偽りはねえ。それだけは言える。
「はい。信じて下さい」
そう、キッパリと言い切った。それを聞いた幸夢さんはとても幸せそうに笑う。
「ありがとう」
「いえ……とか言って、俺なんかに何が出来るって言われりゃそれまでなんですけど。そもそもまだ告白も出来てないし、真夢の気持ちも……」
幸夢さんは俺をじっと見て口を開く。
「何だ……クソ鈍いのはうちのおでこだけじゃないのか……」
「???」
ケラケラと笑ってから、幸夢さんは話し始めた。
「俺さ。恋愛感情がないんだ」
「え!!?」
「アクセクシュアル……とかって言うのかな。一切の恋愛感情がないの。男女問わず」
突然のことに俺は驚く。
「だけどね。だからなのかな、他の人の恋愛の矢印?みたいなものは、何でかすごくよくわかるんだ。例えば……弾くん、真夢を好きだよね?」
「うっ!!!……はい」
「はは。ありがと。そんで……ミカちゃんは源さんを好きだよね。源さんもミカちゃんを憎からず思ってるけど、これは聞いた話だけどカンナちゃんもなんだよね」
俺は驚く。何でそこまで!?
「真夢、あんなだろ。まあ美形と噂のこの俺とほぼ同じ顔してるから、まあ美人でしょ?」
「……そうっすね」
「突っ込んでよ。自分で言うな!って」
「いや、事実すぎて言えねえっすよ!!本当に女かと思いましたよ最初、幸夢さんのこと」
そう返すと幸夢さんは「あはは!よく言われる〜!」と楽しそうに笑う。
「そんでさ。まあ兄から見てもそこそこ可愛い妹が、」
「いや、すげえ可愛いっすけどね」
「いや嬉しいけどそのツッコミは早いな!!?じゃあ早く付き合ってあげてよ!!?」
「俺だってそうしたいっすよ!!?」
「はあ。まあいいか、そんでね。顔もまああんなだし、身体もなんつーかその、ぶっちゃけエロい?みたいな感じだしさ、いや俺は分かんねえんだけど。一般的にはそう見えるみたいで」
「………」
「黙るなよ」
「いや何も言えないでしょそこは!!?」
「あははは!!!俺、弾くんすげえ好きだわ〜!!!あ、友好的でだから安心してね!!!あははは!!」
「いや、嬉しいですけど……」
「ああごめん。んで、そんな妹がさ。変なのに目をつけられがちなんだよ。ストレートに言うと、見た目や身体目当ての奴らにさ」
俺は言葉を失う。確かにそうであってもおかしくない。
「昔は俺もいたから、ある程度は何とかなってたんだけど。今は仕事で家出ちゃったから物理的に無理だし。そんでアイツ、好きな相手がいるとますますフェロモン的なものバッシバシになって、ますます胸とかデカくなるみたいなんだよ」
「ぶふっ!!」
俺は思わず吹き出す。そんな俺を見て幸夢さんも笑いながら話を続ける。
「それでね、久々に帰ってきたらますますそうなってて。心当たりない?」
幸夢さんはそう言って俺の顔を見るが、
「……それは真夢に好きな奴がいるってことっすか……」
と泣きそうな顔で聞き返した俺を見て愕然としている。
「こりゃ重症だ……真夢、すげえわかりやすいと思うんだけど……」
「ええ……俺の知ってる奴なんすか?まさか源三!!?」
俺の言葉に幸夢さんは頭を抱えた。
「真夢、明日弾くんと飲みにいくってルンルンだったけど」
「ああそうだ……どんな顔して会えばいいのか分からねえ……」
「うん。もうね弾くん。明日?いや今晩?告ってやって。そしたら全部分かるから」
「何言ってんすか!!?」
そんな時、幸夢さんが俺の目を見る。その目は真剣で俺はドキッとした。
「だから俺としてはね、弾くんみたいな人が居てくれると本当にありがたいんだ。勿論真夢が選んだ人なら基本的には俺は反対しないし応援するつもりだけど」
俺も真剣な目を彼に向ける。
「弾くん、君は真夢のどこが好き?」
「全部です。もちろん見た目もそりゃ好きですけど、真面目な中身も、それなのにどっか抜けてるところも、よく笑う所もよく食う所も、一緒にいて一番楽しくて癒される人です」
「そっか。うん、ありがとう」
幸夢さんはそう言って笑う。
「真夢を宜しくね、弾くん。幸せにしてあげて欲しいんだ、本当に」
「はい!必ず!!」
俺は力強く答える。
「あと、もう一つ聞いていい?」
「はい?」
「弾くん。君は、俺を可哀想だと思うかい?」
「え?」
「人を愛せない俺を。可哀想だとか気持ち悪いとかって」
「幸夢さん、友達います?」
「え??」
幸夢さんの言葉を遮って逆に俺が聞く。幸夢さんは不思議そうにしている。
「えーと……まあ、知り合いは多いけど、本当に仲のいい友達は数人かな……」
「でもいるんすよね、本当に仲のいい友達が」
俺は笑う。幸夢さんもそれに釣られて笑っている。
「真夢の話を聞く限り、家族仲も良さそうですよね。お兄さんがいる事は知ってたんです。すごい可愛がってくれるって、両親のことも大事にしてるって聞いてました」
「まあね、俺こう見えてシスコンだから。あいつもあれでブラコンだろうしな」
いやどう見てもシスコンブラコン同士ですよ!とは言えず、俺は笑う。
「で、手に職もある。さっきの話聞くと宮大工の仕事、好きですよね」
そんな俺の言葉に幸夢さんは頷く。
「全く思いません」
「え?」
「可哀想だとも、気味悪い?とも。気の許せる友達がいて、仲のいい家族がいる。好きな仕事もしてる。恋愛感情がないからって、負の感情なんて全く沸かないっすね」
「そっか」
幸夢さんは嬉しそうに笑う。
「そんだけ綺麗だからモテまくるんでしょうけど、かえってそれが重荷になんなきゃいいすね。でも、幸夢さんなら大丈夫な気がします」
「はは、ありがとう弾くん。……それで、鋭いね」
そう言って笑う顔はやっぱり綺麗だった。そして、その綺麗な顔が初めて苦痛に歪む。
「俺はいいんだよ。自分のことだから、苦しくても。ただ、俺は人を好きになれないどころか……」
すごく悲しそうな顔をしながら俺を見て、綺麗な人はしんどそうに口を開いた。
「自分に恋愛感情を向けてくれる人に、拒絶反応が出るんだ。それまで友情として普通に接している時は何でもなかったのが、恋愛の好意に変わった途端俺は相手を……」
「仕方ねえっす!!」
今にも泣き出しそうになってる幸夢さんの言葉を俺は遮って叫ぶ。
「そんなん、どうしようもねえ!!だって、好きになるのが怖いからとかじゃなくて、そもそも恋愛感情がないんなら、未知のものに恐怖や嫌悪を抱くのは仕方ねえことだ!!そんなの個性だ!!あんたのせいじゃねえ!!!」
俺の言葉に幸夢さんは驚いたような顔をしている。
「だから……仕方ないっす」
そう言って俺が笑うと、幸夢さんも少し笑ってくれた。そしてまた口を開く。
「ありがとう弾くん。俺は……」
そんな時、真夢の呼ぶ声がした。
「お兄〜!!遅いよ!?弾くんのおっきな声聞こえたけど、また何かけしかけてないでしょうね!?」
「おう、ごめんごめん!俺が興奮しただけだから大丈夫だぜ!」
俺がそう大声で答えると、ならいいけどー!と同じように大きな真夢の声がかえってくる。
「すんません、えっと。だから……」
「俺は、初めて恋愛出来る人を羨ましいと思った」
「え?」
幸夢さんは今までの辛そうな顔から幸せそうな顔で微笑む。
「いやまあ、普通だったらどんなによかったか、とか恋愛ってどんなんか体験してみたい、とかは思ったことはあるけどね。でも、恋愛してる人を羨ましいと思ったのは初めて」
「幸夢さん……」
「君が真夢を好きになってくれて良かった。それで、真夢も……あ、いけね」
「えっっっ!!!?」
「あーーー!!なしなし、最後のはナシ!!!聞かなかったことにしてくれよ、てか何も聞いてないから弾くんは!!真夢に殺される!!!」
「いや、無理っすよ!!マジであんま聞こえなかったからちゃんと教えて下さいって!!!」
ギャーギャーと騒ぎながら歩く二人を、前の三人が振り返って見ている。
「何だ?やけに楽しそうだな」
「余計な事言ってないといいんだけどお兄……」
「いや、この際余計な事言って貰っちゃいなよ!その方が弾と手っ取り早くくっつけるよきっと!」
「ミミミミミミミカちゃん!!?」
「ナイスアイデア!!!やっぱミカは切れ者だな〜!」
そんな会話で前三人もギャーギャーと盛り上がっているが、内容までは知るはずもない俺たち。そして五人でまた固まって談笑しながら歩く。
月野家と社宅組との分かれ道に差し掛かるその手前のドラッグストアで、幸夢さんは「ごめん。ちょっとだけ待ってて」と行って一人中に入って行く。
特に疑問も持たずに四人で店の前で待っていると、幸夢さんは素早く買い物を済ませて店から出てくる。そして「はい、これ」と言って俺に袋を渡す。
「何ですか?これ」
「今日はごめん。怪我させちゃったから、その手当用具一式。湿布とか傷パッドとか入ってるから」
「ええ!!?だからいいってのにそんなの……」
「ダメだよ。君が痛んだら真夢が泣くんだから」
「ええ!!!!?」
「ちょっとお兄!!!?!」
俺と真夢が目を白黒させていると、源三とミカは「いいぞー!!」と大歓声を上げる。
「君たちにも長らく迷惑かけてたみたいだからね。今日で決めさせるから、ヤキモキさせられるのも解放だよ!」
そう言って源三とミカに微笑む幸夢さんに、二人はハイタッチして飛び跳ねて喜んでいる。
(鈍いの真夢だけかと思ったら弾くんもなんだね?)
(そうなんすそうなんす!!アイツ他にはプラス思考の特攻がウリなのに、真夢相手だと本当ヘタレで!!)
(前の仕事場からずっと弾は真夢を好きなんです!アイツバカだけど真夢の事はちゃんと大事にしてるから)
そう言って三人組が何かヒソヒソ話している。何だろう?と思って聞こうとすると、真夢が慌てる。
「ちょっとお兄!!余計なこと言ってないでしょうね!?」
「はは!言ってないよ。それでな、お前に頼み事がある」
「え?私に?」
真夢はきょとんとして幸夢さんを見る。
「うん。ところで、弾くん達は三人とも同じ社宅なんだっけ?」
「あ、ハイ。もちろん部屋は別ですけど」
「当たり前だろ!!?知ってるけどバカだねアンタ」
ミカに思いっきりバカにされつつ、俺は幸夢さんを見る。
「オッケー分かったよ。ミカちゃん、名前貸してくれる?」
「「え???」」
そう言って俺と真夢は同時に首を傾げる。何故にミカ?と思う俺と真夢とは違い、切れ者アネゴ肌のミカはそれだけで全てを理解して「勿論!!キャー!!」と飛び跳ねて喜ぶ。
「えっ?え??」
混乱したままの俺、そして真夢に向かって幸夢さんは告げる。
「真夢。お前、俺の代わりに一晩弾くんの看病してこい」
「「はああああああああ!?!?!?」」
そう絶叫する俺と真夢を他所に、源三とミカは「やったぜ!!!!!!」と大喜び。
「いやいやいやいやあのちょっと……」
「何?何か問題ある?」
幸夢さんはそう言って笑うが……目が怖いっす。
「あ、いえ!何も問題ないです……いや、やっぱあるでしょ!?」
俺は思わずYESと言っちまうが慌てて取り下げる。
「何??じゃあ俺が泊まり込んで弾くんの面倒看ようか?それでももちろんいいけどそれって誰得よ」
しれっと言う幸夢さんに俺と真夢は焦りまくり、源三ミカはそうだそうだー!と大盛り上がり。
「そんな迷惑なこと出来るわけないでしょ!?お兄何言って……」
「あら、真夢嫌がってんのかい?弾が泣くよ」
「えっ!?!?」
ミカの言葉に真夢が慌てて俺を見るが、そこには真夢の言葉で二秒で泣きそうになっている俺の顔が……
「だ、弾くん!?違……!!」
「真夢がイヤなら仕方ない……吐くほど嫌だけど仕事に支障が出たら迷惑だし腐れ縁だし、絶対に何も起こり得ないアタシが行こうか?」
「げえっ!!!?」
「げえとはなんだい!!!?こっちのセリフだよこのヘタレ爆弾野郎!!」
絶妙なアシストとは気づかない俺が本気でごねるとミカはブチギレ(実は半分フリで半分は本気)て悪態を浴びせかけてくる。が……
「だめええええええええええ!!!!」
そんな俺とミカよりも大きな声を張り上げたのは、真夢だった。
「だめ!絶対ダメ!!ミカちゃんが弾くんの家に一晩なんて……いや、ミカちゃんじゃなくてもだめええええ!!!なら、私が行く!!」
「そりゃ助かるよ。アタシも嫌だから」
「ミミミカちゃん!?あれ!!?」
サラッとミカに笑顔で頼まれた真夢は「!?」と目を白黒させている。
「ちょっと待てよ!?そんな……」
「何でい、お前は真夢じゃイヤなのか?」
今度は源三からの援護射撃にぶち当たった俺は簡単に引っかかる。
「嫌なワケあるか!誰に看病してもらいたいかなんて、そんなの真夢しかいね……」
「じゃあ決まりだな。真夢、頼んだよ」
幸夢さんの言葉に俺は「あ……」と言葉を失うが……
「お兄!ちょっと!!」
そんな俺の横で、真夢は幸夢さんを睨みつけている。
「何だよ。これは俺の過失の尻拭いでもあるんだから、妹であるお前がやるのが真っ当だろ?真夢、しっかり看病してやってくれよ。途中で帰ってきたらぶっ飛ばすからな」
幸夢さんが優しい顔で笑うと、真夢はウッと怯んだ。
「弾くん」
「あ、はい!」
「かえって真夢が迷惑かけたらごめんね。俺の代わりに何でもしてもらって。早く良くなってね」
そう言って幸夢さんは笑う。
「真夢、ファイトー!」
「弾のスケベー」
ミカと源三が真夢と俺を囃し立てる。
「コノヤローーー!源三てめえ、スケベって何だ!!?」
「弾くん……」
そんな時、俺にだけ聞こえる声で真夢がそっと俺を呼んだ。そして……
「私が看病するから……!!」
そう言って、ギュッと手を握ってくれる。
(ああ、もう……)
俺はそんな真夢の手を握り返して、幸夢さんを見ると。
「じゃあまた!お大事にー!真夢、俺が戻る前に一回くらい家帰ってきてくれよ?弾くん、真夢をよろしくね」
そう笑顔で手をヒラヒラさせ、分かれ道を一人で月野家へと歩き出す。
「え、お兄……」
真夢はそう言って幸夢さんを追いかけようとするが、俺は繋いだ手を掴んで止める。
「弾くん?」
驚く真夢の肩をしっかり抱いて、そして……
「ありがとうございます!!」
そう大声で告げた俺を不思議そうに見る真夢を余所に、源三とミカはニヤニヤ笑ってる。
もう充分伝わったと思うが、俺も伝えたくて仕方ないのだ。
幸夢さんは振り返り、それは綺麗な顔で笑ってくれた。
そしてまた歩き出す。その背中は何だか幸せそうで……
(幸夢さんも真夢を相当大事に思ってるんだなあ……)
そんな当たり前の事に気づいた俺は、何だかとても嬉しかった。
そして、そんな大事な妹を俺に……その気持ちを無駄にしてはいけない。
「じゃあ行くか。頼むぜ、真夢」
そう言って俺が手を差し出すと、真夢も頬を染め頷きそっと握り返してくれる。そんな俺たちを見てミカと源三がハイタッチして喜んでる。
こうして俺たちは四人で社宅までの道を歩き始めたのだった。

「じゃあな!弾、ほどほどにしてやれよ」
「何だよほどほどって!?何考えてやがる!!」
「真夢、泣くような事があったらすぐにアタシに連絡して。チェンソーのチリにしてやるから!」
「ええ!?ど、どういうこと……!?」
そんなやりとりをしてミカと源三は俺と真夢を揶揄うと手を振り、社宅の階段を上がって行く。
「じゃあ弾くん、行こっか」
「あ、ああ……」
(って……)
俺は思わず立ち止まってしまう。
 だって、俺の家で朝まで真夢と二人なんだぜ!??
そんな俺に気づかずに真夢はスタスタ歩いて行こうとするが……
「ちょい待ち!!」
そう言って俺は真夢の手を握る。
「えっ!?な、何!?」
驚く真夢に俺は「わ、悪い!」と手をバッ!と離すが。
「もしかして、やっぱり……迷惑……だよね……?」
 違え。違えよ。そんな訳ねえ。ねえ、けど……
「違う、そうじゃない」
俺は思わず真夢の肩を掴み、正面を向かせる。
 まずは、しなきゃならねえことがある。そうだろ?
「真夢。俺、お前に言わなきゃならねえことがあるんだ」
「え?」
俺は大きく息を吸う。そして……
「真夢!俺……」

 俺の言葉が終わると、真夢は目を丸くして。そして、それは綺麗なピンク色に頬を染めて……
「私も!」と、気絶しそうなほど可愛い笑顔で言ったんだ。

 そして、俺と真夢は寄り添って、俺の部屋へと入っていく。
それは、運命の恋が一生の愛へと一歩踏み出した瞬間だった。

R編→「麗しの来訪者 next®️

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