ハッピーバースデーをあなたと

『弾、誕生日おめでとう!』
『今日だっけか、誕生日おめでとう』

 そんなメッセージが家族や友達からチラホラ来る。
 今日は俺の21歳の誕生日。
この歳になればそんなにワクワクすることもないが、連絡をくれる奴がいるってことが嬉しいぜ。
 予定ないなら実家戻れって言ってたっけか。どうすっかな……
 正直予定はない。
 取り立てて約束もない。
 でも……
俺は内心、心待ちにしていた。
あいつ……超絶可愛いあいつから。
約束は無理でも、せめて皆んなからと同様、メッセージだけでも欲しい。
「真夢……」
 ポコン!
「ううぉうっ!!?」
好きな女の名前を呟いたらスマホが通知音を鳴らしたので飛び上がった。
「あー〜ビビったぜ……誰だ?んん!?」
真夢の名を呼びながらスマホを見たら、そこには『新着メッセージあり』の文字と差出人の名前があった。
【月野真夢】
 ……え?
俺は一瞬固まる。そしてその後めちゃくちゃ慌てふためく。
 マジかよ!!
まさかの真夢からの連絡!!!
しかも今まさに名前を呼んだタイミングで!!!
やったぜ誕生日イベントかよ!?んなわけねえよ!!
心臓バクバクさせながらアプリを開き、ドキドキしながらメッセージを見る。
『お疲れ様〜!弾くん、お誕生日おめでとう!今日が、今年一年が、弾くんにとって素敵なものでありますように』
 うん。文面すらいい女かよ。惚れるわ。いやもう惚れてるけど。
 じゃなくて、これはあれだろ。
きっと事務所の同僚とかにも送っているんだろうな。会おうなんてことにまではならないか……まぁ仕方ない。
 でもなんか……それでも特別な感じがして嬉しかった。
 ありがとう真夢。大好きだぜ。
そう思いつつ返信をしようとすると、続けてメッセージが来た。
『それでね、あの……今日、ほんのちょっとだけでも会えたりする……かな?』
誕生日で他の予定もあるだろうからほんの少しでいい、無理ならそれでもいい、と添えられている。
 うん??
 何だ???
 俺は誕生日に運を使い果たして死ぬのか?
 いやまぁ真夢とデートできるなら死んでもいいけどさ。
 いや死んでたまるか!!そんなん超生きるわ!!!
『本当にちょっとだけで良いんだけど……ダメかな?』
さらに追撃が来る。
 え? マジ?? 本当に? 嘘じゃねーよな?
 いや待っ……違え、早く返信しねーと……!!
俺は震える指で全然オッケーと返信すると、すぐによかった!嬉しい、と返事が来た。
 何だ??俺は本当に死ぬんか??
 いや生きる!!そんで真夢と五分だけでも今日という日を過ごすんだ!!
特に予定が無ければ今から社宅の前まで行っても良いかと聞かれたので、爆速で了解の返事をする。
スマホを置くと、俺はせめてもの身なりを正そうと、更に爆速で洗面台に突っ走っていった。

***
 真夢の家と桐島組の社宅はそれほど離れてねえ。
三十分経たないくらいでスマホに『今着いた、社宅の入り口にいる』と連絡が来る。
俺は転がり出たい気持ちを抑えて、平静を装って階段を降りていく。
「弾くん!」
俺の姿を見つけると、真夢はパッと笑顔になり駆け寄ってきた。
 うおおおおお!!!
 天使かよ!!いや女神かよ!!
「ごめんね急に会いたいとか言って……」
「いや全然!大丈夫だから!むしろ会いたかったから!!」
「え!?」
つい本音がダダ漏れて、慌てて咳払いで誤魔化す。
「んんっ!えほっ、ごほ!何でもねえよ??そんで、どうしたんだ?」
そう聞くと真夢は頬を少し赤らめる。
「その、これを渡したくて」
差し出された手には、小さな紙袋が握られていた。
 俺は思わず息を飲む。
 まさか……まさかまさかまさか!? もしかして、こ、これは……
「誕生日プレゼントだよ。おめでとう」
 あっ……やっぱり俺、無理かもです。
 あまりの嬉しさに昇天しちまうのか俺は……いやしつけえよ、生きてこの箱の中を見るんだ!!
「そっか……ありがとな。用意してくれただけでも嬉しいのに、渡しにまで来てくれて……」
「へへ、押しかけてごめん」
「言ってねえよそんなこと!?」
真夢は照れ隠しのようにイタズラっぽく笑う。
「今日、休みだったからさ……昨日か休み明けに渡しても良かったんだけど、やっぱり今日がよくて……」
 ヤバいぜ、俺、何か勘違いしちまいそう……
 心拍数がやべえ。音、聞こえてねえだろうな??
「ありがとな……開けても?」
「うん……完全自己満チョイスだから、気に入らなかったらごめんね」
 いやそんなんありえねえよ。真夢から貰えるなら何だって嬉しい。
 そもそも俺の為に時間や金を使ったり、考えてくれた事が嬉しい。
小さな箱を開けると、そこには……
 オシャレな小瓶が入っていた。
「これ……香水か?」
「うん!弾くんいつもいい匂いするから、そういうのどうかなって思って……」
俺は自分の服の袖のあたりを嗅いでみる。タンクトップだから袖ねえ……そんで全然わからん。
 もしかして臭いとかじゃねえよな!?でもいい匂いって真夢言ってくれて……あ、何それヤベ……!
何はともあれ、好きな女が選んでくれたものを嫌がる男がいるかよ。
「ありがとな。これ、瓶もスゲーイイじゃん。スゲー好きだわコレ」
香水の瓶は、まるでいつも俺が着てる服をイメージしてるかのようなデザインで。シンプルだけど洗練されたフォルム。
そして何より、真夢からの贈り物という事実。それが何よりも価値がある。
「よかった……喜んでくれて……私センスとか無いし、香水なんて完全私の趣味だしさ。ちょっと心配してたんだけど」
「そんなわけあるかよ。めちゃくちゃ良いと思うぞ、俺は。つか、真夢から貰った物なら何だって最高だわ」
「ふぇえっ!?」
「え?あ、いや、変なこと言ったか??」
「いや……うん……でも、ありがとう……嬉しい……」
 うわーーーーっ!!
 なんだこの展開!!これで浮かれない奴いたら教えて欲しいぜ!!!
 あ、鬼頭組の大龍とか……あいつも今日誕生日とかって……
「真夢、大龍にも何か、その……プレゼント……とか……?」
「え?大龍さん?……うん、ちょっとしたもの……でも、鬼頭組の皆んなが用意するって言うからそれに参加しただけだよ!」
「そうなのか……そっか、変なこと聞いてごめんな」
 俺は何を言ってるんだろうな。馬鹿じゃねーのか。
でも真夢は「ううん」と笑って答えてくれる。
「大龍さんのお誕生会にも呼んで貰ってね。実は……さっき、ちょっとだけ顔出して来た」
 ええええそうなのかよ!?マジかよ!!
 ちょっと、ほんのちょっとだけ、いや実はかなりショックなんだけど!!
「でもね、挨拶して、ちょっとお邪魔させてもらって、すぐ帰って来た。だって今日は大龍さんのお誕生日だけど、……弾くんのお誕生日だから」
 その一言で俺のショックは秒で吹き飛んで行った。
聞きようによっては、俺の為に大龍の誕生会を早めに切り上げて来たようにも取れる(のちに誰が聞いてもそうだとツッコまれるが、この時の俺はいっぱいいっぱいで気づいてなかった)。
「それね……その香水の瓶、見た瞬間に『あ、弾くんだ!』って思ったの。いつも着てるタンクトップの柄みたいでしょ。香りを嗅いでもすごい弾くんぽいなって……」
「本当だな……すげえ……」
真夢の表情に嘘は無いように見える。少なくとも俺にはわかる。
俺のこと考えて選んでくれたもの。それが本当に嬉しくて堪らない。
こんなに幸せな誕生日があっていいのだろうか。……いや、いいんだよ!!
「ありがとう、真夢……」
「ううん。香りは好みもあるから、気に入らなかったら、うーん、トイレにでも飾っといて!」
あははと真夢は笑う。
「そんな勿体ないことするかよ!大事にする!ちょっと嗅いでみっかな」
「あ、うん。試してみて」
気に入ればいいんだけど……と緊張した面持ちの真夢。
俺は早速小瓶を開けて、手首のあたりにプッシュしてみる。
キリッとした匂いの後にふんわり、だけど甘めの匂いが鼻腔をくすぐる。なんかこう、イケメンの匂いって感じだ。俺のイメージに似合うかは置いといて、すごく……
「良い匂いだ……俺コレ、スゲー好きだぜ」
「ホント!?」
「おう」
「やったぁ!!」
パアッと笑顔になる真夢。
俺は、その笑顔に、匂いなんかよりもずっとクラクラしていた。
「うっ!?」
真夢の表情が変わる。
「どした?」
「弾くんからその香水の匂いが香ってきた……ヤバい……」
 ヤバい!!?何だそれ、やっぱり臭えってことか??
泣きそうになる俺だったが、「ヤバいくらいカッコイイ……ふああ……いつもの弾くん自前の太陽みたいないい匂いと混ざって、私もうダメ……」と呟く真夢の声が聞こえてきた。
「え……」
「あっ……」
真夢は自分の言葉に気付いたのか、顔を真っ赤にして俯く。
「ごめんなさい……あの、違くて、違わないけど、その……!」
 何コレ、可愛すぎませんかね?? 今すぐに抱きしめてえよ??
そんなことしたら多分止まれなくなるし、嫌われるからやらねえけど。
「えっと!そうだ、あとね、コレ……きゃ!?」
「うお!?」
慌てたような真夢がもう一つ紙袋を俺に渡そうとして、手を滑らせてしまった。
俺は慌ててそれをキャッチする。
「おおっ……セーフ!」
「ありがとう!大丈夫だった!?」
「平気だって。ほら、中身も無事そうだ……」
「そっか、よかっ……」
 俺達は笑いながら顔を見合わせるが、固まってしまう。
 だって……俺達の顔は、超至近距離にあったからだ。
お互いの目の中に自分が映っているのが見える距離で。
俺が少し動けば唇がくっついてしまいそうな距離で。
「……あ、あはは、よかっ……」
先に我に帰った真夢がそう呟いたが……
 ちゅ……
『えっ!?』
 真夢の心の声が聞こえてくる。
『あ!?』
 俺も言葉には出せなかった。
 俺の身体は勝手に動いてしまった。
ただ、数センチ顔を動かしただけで、簡単にそれは出来た。
そして……俺の左手は真夢の後頭部を押さえ、右手は腰に回っていた。
そのまま引き寄せて、気がつけば……俺は、再び自分の唇を真夢のそれに重ねていたのだ。
「んむ……!?」
 真夢は驚いているようだが、突き飛ばしたりはしてこない。それさえ出来ない位驚いてるんだろうか。
 俺は……自分の中で何かが変わった気がした。
今までも、俺は真夢が好きだって思ってた。それは間違いないし、今も変わらないと思う。
ただ、この感情はきっともっと強くて、熱いものだ。
 俺は真夢を離したくない。誰にも渡したくない。
そんな想いが溢れ出してくる。
 ちゅ……
同じような音を立てて、今度は唇同士が離れる。離したくないが、社宅の階段でずっとキスしてるわけにもいかねえから仕方なく離した。
「ワリ……ごめん」
「え?あ……えっと……」
さっきまでよりさらに顔を赤くしてあたふたしている真夢。
「嫌……だったか、って聞くのも変だけどよ……ごめん」
「何で謝るの……?」
「いや……だってよ……いきなりあんな事してよ、そりゃ気持ち悪ぃよなって……」
俺の言葉を聞いて真夢は。
「なんで?全然気持ち悪くなんか無いよ。びっくりはしたけど……私は、嬉しかった」
潤んだ瞳で俺を見つめている。
 ……どうしよう。また、真夢にキスしたい。
 でも、その前に。
「好きだ」
「え……」
「俺、真夢の事、好きなんだ」
「……知ってる……」
「違えよ、その好きじゃねえ」
 俺と真夢はいつもお互いに好きだと言い合っている。
 でもその中身は大きく違う。
 真夢の好きは友情、俺の好きは愛情。
だから、知ってるってのは違っ……
「……じゃあ、同じなの……?」
「え?」
「私と、弾くんは……おんなじ、なの……?」
「えっと……?え?同じ……って……」
「そっか……よかった……」
 真夢が笑った。
その笑顔は、俺が初めて見る、女としての笑顔。腹の奥からきゅんとする感情が溢れてくる。
「私、弾くんのこと、ずっと前から大好きだよ」
「え?ああ、知ってる……、え?」
 何だコレ、さっきと逆……
 あれ?ってことは……?
「……キスしたい好き、なのか」
「うん」
「!!! そっか……」
そう言って、俺はもう一度真夢を抱き寄せて、唇を重ねた。
「真夢……」
「うん……」
 俺達は長い時間そうしていたように思う。
時間にすればほんの数秒だろうけど、俺にとっては永遠とも思える程長く幸せなものであり、また真夢にとってもそうであるようだった。
 真夢が身じろいだので一度腕の力を緩める。俺の目を捉えた真夢の瞳は、先ほどよりもずっと熱を帯びていて、それが俺の心を狂わせていく。
 俺は一生この女から離れられないんだろうな。
そう思った。そして、そうなればいいと。
「これ……」
「あ?ああ……これな」
真夢が落としそうになった袋を差し出して、
「ケーキ、なの。ホールだけど、弾くんだけでも食べられるように小さめのやつにしたから……あとで食べてね」
そう言って微笑む。
「………」
「……弾くん?」
ケーキ苦手だったっけ?と、真夢は心配そうに俺を覗き込んでいる。
 そっか。こんなもんまで準備してきてくれたんだな。
俺は、自分がどんな表情をしているのかよくわからない。
ただ、目の前の女が愛しくて堪らないという想いが心の底から湧いて来る。
「弾くん……?」
「……ああ、いや、なんでもない。サンキュ、後で食うよ」
「うん……弾くんが好きなシンプルショートケーキだからさ。……じゃあ、私は……」
「あのさ」
「え?」
何となく帰りそうな雰囲気を醸し出している真夢を呼び止める。
「これ……一緒に食べてくんねえ?」
「え?」
真夢の大きな目がますます大きく見開かれた。
 可愛いな……所作の一つ一つ、真夢の仕草全てが可愛く見えてどうしようもなくなっちまう。
「……いいの?」
「おう。一人でホールケーキ食うより……いや、違えな。真夢と一緒に食いたい、誕生日のケーキなら尚更」
小っ恥ずかしすぎるセリフを吐いた自覚はある。
真夢の反応を見るのが何となく怖くて、俺は視線を逸らして頬を掻いていた。
真夢がクスッと笑う声が聞こえる。
「ホントに?……嬉しい」
真夢は、本当に嬉しそうな顔で笑っていた。
その笑顔を見た瞬間に、俺はもう我慢が出来なくなってしまったのだ。
 ちゅう……っ!
俺は真夢の頭を引き寄せて、再び唇を重ねていた。
今度は少し長めに……数秒間。
「んむ……」
真夢が息苦しくなったようで顔を離そうとするが、俺はそれを許さず更に強く抱きしめて、何度も唇を押し付ける。
「んっ!むぅ!?……ぷはぁっ!」
真夢は観念して口を開けてくれた。その隙を逃すまいと舌を入れる。
「んむ……!ふあっ……ちゅる……んん……んちゅ、好き、好きだ真夢……ずっと、ずっと……友情なんかじゃなかった……!」
「んん……ちゅる……れろ……ちゅ……」
最初は驚いていた真夢だったが、やがておずおずと俺の背中に手を回してきた。そして告げる。
「私も……私もだよ、ずっと、男の人として弾くんのことが好きなの……!」
俺達はお互いの唾液を交換し合うような深い口付けを交わし合う。
俺達の身体はいつの間にか密着していて、俺の状態までわかるんじゃないかとしまうくらいだったが……
 ガチャ、と上の方で扉が開く音がして、俺たちは飛び上がって離れる。そして、顔を見合わせて照れくさそうに笑い合う。
「こんなこと、夢にも思ってなかったから……汚ねえ部屋だけど、上がってくれ」
「んふふ……ありがとう」
出て来た住人とすれ違いながら挨拶して、俺と真夢は俺の部屋へと入って行った。

-—*-—*-—*-—*

「お邪魔します」と言って真夢が俺の部屋へ入ってくる。
いつも見ている光景なのに、今日は何かが違う。
真夢の様子がいつもと違って見える。勿論、俺も。
その違いが俺の心を落ち着かせてくれなくて、心臓がバクバク鳴っている。
俺が座布団を勧めると、真夢はテーブルの前にちょこんと正座した。
 ぐああああああああ可愛い、可愛いがすぎるぞおおおお!!
 いかん、まだ部屋に入って座っただけなのにこんなんでどうする、俺。
とりあえずお茶でも入れようと思い、ポットのお湯を見て思い直す。
「あれ、暑いから冷たいモンの方が良いか?」
「ううん、ケーキだし、あったかいのがいいな。ありがとう。ごめんね、突然来ちゃって……」
「いや、全然問題無いぜ。むしろ大歓迎だ」
「そう?それなら良かった」
そんな他愛もない会話をしながら、俺はキッチンでお茶の用意をしようとすると、手伝うよ、と真夢が隣にやってくる。
「別に気にしなくても大丈夫だぞ?すぐ出来るからよ」
「ううん、私が手伝いたいの。ダメかな?」
「あー……」
 全然ダメじゃない。ダメなはずがねえ。
 だけど、正直、今の真夢との距離感はヤバい。
 さっきの続きがしたい衝動が抑えられなくなりそうだ。
「弾くん、コーヒー?紅茶……あったりする……?」
そうだ、真夢はコーヒーが苦手だ。そして紅茶が大好きなんだ。至極残念なことに、この部屋に茶葉なんて置いていない。
「あ、悪ぃ……緑茶しかねえわ」
「そうなんだ……じゃあ、緑茶でいいよ!」
「そうか?じゃあ俺もそうすっか」
「んふふっ!お茶にケーキ、和だね!」
ニコニコキラキラ笑う真夢……ああもう俺、お前とこの部屋で誕生日ケーキ食えるなら、水道水でも何でもいいよ……!!
 そんなこんなで欲望を何とか堪えながらお茶を用意してテーブルに着く。
「弾くん、お誕生日おめでとう!こんなもので申し訳ないですが……開けてみて」
真夢に促されてケーキの箱を開けると、そこにはシンプルな小さいデコレーションホールケーキがあった。
「ちっこくて可愛いな……」
「ホント?ふふ、良かった。どうする?1/4に切る?」
「いや、ちっせえから、あ、悪い意味じゃねえぞ?半分でいいだろ。お前よく食うし」
「失礼な〜!!なんてね、へへ、バレてるよね」
 ダメだ、可愛すぎて鼻血出そう。変態か!!
俺は一旦深呼吸して落ち着きを何とか保ち、真夢は半分に切ったケーキを皿に載せてくれた。
「改めまして、お誕生日おめでとう、弾くん」
「ありがとな、真夢……」
 ケーキよりもキスしたい……だからダメだっつーの!!
 まずは、まずは?!この真夢が買って来てくれたケーキを二人で食うんだ!!
「えっと、じゃあ……いただきます」
「はい、召し上がれ」
フォークで小さく切り分けた一欠片を二人で口に運ぶ。
「ん……美味しい……!!」
ぱあっと輝く笑顔に、俺の心は満たされていく。
「ホントだな、うめえな。どこで買ったんだ?」
「駅前のあそこ、前気になるね〜って言ってたとこ」
「そっか……よく覚えててくれたな、嬉しいぜ」
「覚えてるよ。だって……弾くんが言ってたことだし、大切な日なんだもん」
「……っ!」
その一言だけで俺の心臓は高鳴り、同時に下半身の一部分が反応してしまったのを感じるが、そこは必死に収める。
顔を赤くした俺を見て真夢も頬を染める。
「え、えーと、ケーキ美味しいね!」
「あ!?あ、ああそうだよな!」
二人して赤くなりながらケーキを食べるという謎の状況になってしまったが、ケーキは確かにとても美味かった。
「ご馳走様でした!」
「ご馳走様。ケーキ、マジで美味かったよ、サンキュ」
「うん!」
「……」
「……」
 どうしよう。会話が続かない。いつもならこんなことねーのに。
何を話せば良いのか、話題が出てこない。いつも他愛無い話で笑い合ってるのに、普段どんな話をしていただろうか……?
「あの、さ」
「うん」
「……好きだぜ」
「!!!!!」
ボッ!!!と音がしそうな程真夢が赤くなった。
「俺と、付き合ってくれるか」
「勿論だよ」
即答だった。
「真夢、こっち来い」
そう言うと真夢は素直にちょこちょこと俺の横にやってくる。
 知っちゃいるが、コイツの天然カマトトは留まるところを知らねえな??持つかな俺??
嬉しくなって思わず真夢を抱き締めると、真夢からもぎゅうっと抱き返してくれた。
「……真夢、さっきの続き、しねえか?」
「うん……私も、もっと弾くんとくっつきたい……」
お互いの身体が密着して熱くなる。すると、体温が上昇してさっき付けた香水の匂いが漂ってくる。
「弾くんいい匂い……いつもの弾くんもいい匂いだけど、やっぱり弾くんによく合うや、この香水……」
弾くんは本当に苦手じゃない?と、とろんとした顔で聞いてくる真夢。
「ああ、すげえ気に入ってるよ。ありがとな」
そう答えると、真夢は再び口付けてきた。今度は先程の続きのような濃厚なものでは無く、軽く触れるだけのものだった。
「ちゅっ……」
「ふふ……」
しばらく見つめ合い、また唇を重ねると、真夢からもいい匂いがしてくることに気付く。
真夢は香水が好きだからいつもいい匂いがするし、真夢本人の匂いも俺にとっちゃ媚薬のように感じられるくらいいい香りだが、今はそれ以上に甘いような気がする。
「真夢……何か今日、すっげえイイ匂いすんだけど……何だこれ?」
「え?本当?弾くん、すごい……」
 すごい?何だろ、俺何か言ったかな。もしかして下腹部の事情バレてたりすんのか??
「実はね……この香水、重ね付けが出来るの」
「へ?」
「ほら」
一プッシュだけ貸してね、と言って真夢は自分の手首に俺の香水をプッシュして俺に嗅がせる。すると、真夢が付けていた香水と俺が貰った香水の匂いが合わさって、また違う匂いになった。
「わ!マジだ!すげえ!俺の単体、真夢の単体でもすげえイイ匂いだけど、二つが合わさった時の匂いが一番好きだな」
そう言うと真夢は目を丸くした後、それは嬉しそうにふにゃん、と蕩けるように笑う。
「すごく嬉しい……あのね……」
真夢はスマホを取り出し、カメラロールを見せる。そこには俺と同じ香水瓶に、真夢のイメージピッタリの装飾がされているものが映っていた。
「すげえな、コレ、真夢って感じだ」
「ホント!?嬉しいな……自分でもそんな気したんだ。それでね……コレ……弾くんの香水と、すごく相性がいいんだって」
「え……」
真夢は赤くなりながら、話を続ける。
「弾くんのやつを見た時、すぐにこれは弾くんだ!って思ってプレゼントに決めたんだけどね。その時、これも見つけて……自分用に買っちゃったの」
ドキドキしながら自分の香水を指差すと、真夢は恥ずかしそうに俯いた。
「それって……」
「うん……いつか弾くんと一緒につけられるようになればいいなって……相性のいい香りを二人で持ってたら、いつか弾くんとも……って……えっと、気持ち悪いよね……ごめんね」
「んな訳あるか!!嬉しいに決まってんだろうが!!」
俺はとうとう堪えきれなくなって、真夢の頭を撫でてそのまま引き寄せた。
「あ……んむ……んん……」
「んっ……ちゅっ……んん……っはぁ……んんぅ……んっんっ……」
何度も角度を変えてキスをして、舌を絡ませる。
「ただな、ごめん」
「え……?」
「もう、止まれないかも」
「……!!」
俺は真夢をソファに押し倒した。
「あっ……ああんっ!!は、弾くんっ!!」
「はあ……っ真夢……可愛いよ……真夢……」
「やっ、ああっ……!!弾くん……えと、あの」
「ん?どうした?」
やっぱいきなりガッつきすぎたかな。
「えーと!あの!あれ……持ってる……?」
 アレ……?アレ……、!!!
「この部屋にあったら、お前どう思う?」
「……泣くね」
「でも大丈夫だ。あるはずねえ。……コンビニ行ってくる」
俺が真夢の上からどこうとすると、真夢も慌てて一緒に起き上がる。
「あ!ま、待って!!私も行く……!」
「二人で行くのかあ!?モロじゃねえ?」
「えへへ、だめかな?」
「いや、イイぜ。行くか。あ、紅茶も買っとこう」
「やった〜!嬉しい!」

 どうせなら、と二人でちょっと足を伸ばしてドラッグストアに行って。紅茶やアレなるものを買って来て。
 ケーキよりも甘くて幸せな時間を過ごした。

 後日、俺と真夢が揃って同じ香水を付けていることがバレて皆んなから祝福されるのはまた別の話だ。

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