桐島組で新しい仕事をすることになり、そのプロモーションの一環でメインキャラ社員達でダンスのMVなるものを作成した。
それに伴い、新しい仕事仲間も増えることになり、可愛くて元気そうな女の子が加入したようだ。年齢は弾や真夢と同じ二十一歳。
「MV出来たってよ!見てみようぜ!」
源三達がワイワイとパソコンを開いて動画鑑賞を始める。
「へぇ、結構いいじゃねぇか!」
弾も一緒になって画面に見入り、新キャラの紹介やメインキャラ達のダンスに目を奪われていた。
そんな時、事務所内のドアが開き、真夢が姿を現す。
「……あ!真夢!真夢も見てくれよコレ!」
源三が真っ先に挨拶をし、弾はそんな源三を睨みつける。他の皆もそれぞれ挨拶をしていく。真夢は
「なになに?あ、こないだ言ってた動画?」
と言いながら、パソコンの前に座る。そして、動画を再生した。
「ほら、弾もキレキレで踊ってるだろ?張り切っちまってコイツ!」
「うるせえな!?別に普通だよ!それにお前に言われたかねえよ!!」
「なんだよ、お前だってノリノリで踊ってたじゃねえか?なぁ?」
と、源三は真夢に話をふる。すると、真夢は動画を眺めながら、弾に言った。
「確かにキレキレだね。すごいね……わ、片手で立ってる!」
「ねーー、真夢に褒められたくて張り切っちゃったんじゃない?」
ミカも源三同様弾をからかう。弾は
「あ!?そ、そんなんじゃねーよ!!」
と、ミカに怒鳴ったが、次の真夢の一言で黙ることになった。
「すごいね、かっこいいじゃん」
「お、おう……」
真夢は笑顔で弾を褒める。
だが、なにか、ほんの少しだけ違和感があった。
(な、なんだよ、これ……)
弾はパソコンの前で真夢の隣で固まったまま動けなくなっていた。
真夢に褒められたのはすごく嬉しい。固まっちまうくらい。色んなところが。それでも……
普段なら「わあすごい!!弾くん、かっこいいいい!!!」と明るく褒めてくれるのに、この動画では少し大人しい。
「なぁ、真夢……なんかあったか?」
弾は違和感の正体を探りながら、真夢に問いかける。すると、真夢は少し驚いた顔をして、弾に言った。
「……なんにもないよ?皆んな本当にカッコ良かったね!動画も超良い感じだし、新しい子もすごく可愛いね!……じゃあ、私、デスク戻るね!」
そう言って、逃げるようにパソコンから離れた。
「良かったな、弾!真夢に褒めてもらえて!」
源三達がにこやかに弾に言う。彼らは真夢の違和感に気づいていないようだ。
確かに「良かった」と言ってくれた。真夢は怒ってたりはしていない。それは間違いない。でも、何かがおかしい。
(後でそれとなく聞いてみっかな)
弾は一旦深く悩むのをやめて、自分も仕事場に戻る事にした。
今日はこのまま事務所作業だし、後で真夢と一緒に帰る時にでも聞いてみればいい。どうせ、同じ家に帰るんだし───そう、二人は恋人同士なのだ。
だが、弾が廊下に出たところで、すぐにそんな悠長なことを考えていられない事態が発生した。
たまたま女子トイレから出てきた真夢を見つけると、すぐに声をかけようとした弾はハッとする。
真夢は、泣いている。
というか、泣いてきた、という感じだろうか。
「ま……真夢?」
思わずたじろいでしまい、声が震える。弾が声をかけると、真夢はハッとしたように涙を拭った。
「あ、弾くん……どうしたの?」
「いや、どうしたの?って、お前……」
明らかに泣いていただろうに。
なんでそんなことを聞くんだ?
しかも、なんでそんなに普通通りに振る舞おうとしてるんだ?全然できてねえぞ!!
と心の中で叫ぶ。しかしうまく言葉に出来ない。
「まく……何で、泣い……」
「あーーー!これは違うの!えっとね、えと……とにかく違うの!」
そう言って真夢は弾の前から逃げるように立ち去ろうとした。
「おい!!真夢!!」
弾は反射的に追いかけた。そして、走りながら必死に声をかける。
「待てよ!何で逃げるんだよ!?」
「……逃げてない」
真夢はそう言って、明らかに走る速度を落としてはくれたが、止まったところでこちらを振り返ろうともしない。
「なんかあったか?俺なんか悪いこと言っちまっ……」
「違うの!弾くんは何も悪くない!!」
腕を掴むと真夢はポロポロと涙をこぼしだした。
「ち、違うの……わ、悪いのは……私だから……」
(はぁあぁ!?なんで真夢が悪いんだよ!?)
弾は混乱しながら、とりあえず泣き顔を周りに見られたくないだろうと思い、廊下の隅まで真夢を連れて行った。
そして、人気のない非常階段で話を聞くことにする。
「何でも良いから言ってくれ。俺とお前で隠し事なんて野暮にも程があんだろ?」
二人は長く両片想いを拗らせた末に結ばれた、他を寄せ付けない程のバカップルなのだ。それが、隠し事をしているなんて、ありえない。
「……言えない」
「なんでだよ?」
「だって……だって私……最低だから……」
真夢は泣きながらそう言った。その涙を見て、弾の心が痛む。
(もしかして、他の奴と何かあったのか?)
そんな考えが頭をよぎったが、すぐに打ち消す。
そんな奴がいたら絶対に俺が気づくはずだし、そんな奴……出来るわけない……と思いたい……、弱気が顔を出してくるのが煩わしい。
「さっきの動画……」
「え?動画?」
「うん。弾くん、すごく、すごくかっこよかった。他の皆んなも。私、すごく嬉しかったの」
真夢は泣きながらも弾に話し始めた。
弾が新しい仕事として頑張っていて、しかもダンスを踊っている動画を見て、本当に嬉しかったのだと。
「でもね……でも……」
そう言ってまた涙を流し始めたので、弾は慌ててハンカチを渡す。すると真夢はそれを受け取って涙を拭いた後に続けた。
「……でも、皆んなカッコいいって思ったけど、それが何だかすごく悲しかったの……!」
真夢は涙を拭いながら、そう小さく叫んだ。
その言葉に弾はハッとする。
(ああ……そういうことだったのか……)
理由はまだハッキリとはわからないが、真夢が悲しんでいることには変わりない。弾にできることがあるとすれば、それを取り除くことだけだ。
「なあ、真夢」
「な、なに?」
まだポロポロと涙をこぼしながら、真夢は弾を見る。そんな愛しい人を安心させるように、弾はギュッと真夢を抱き締めた。
「俺は……お前だけのもんだ」
「……うん?」
「他の女なんか興味ねぇよ、バカ」
その言葉で、真夢は少し落ち着いたようだ。まだ涙と鼻を啜って顔がぐちゃぐちゃだが、嬉しそうに笑った。
「俺も、お前が俺のものだってわかってても、他の奴から褒められる動画とか見てたらスゲー嫉妬するんだろうな……」
「弾くん……!」
「けど、大丈夫だ。お前の可愛さは万人共通だが俺が一っ番わかってるし、俺の魅力を分かってくれるのも真夢だけだからな」
弾は真夢の頭を撫でながら、言い聞かせるように話した。すると、また瞳に涙が浮かぶ。その涙を舐めてやりたい衝動に駆られたが、さすがにそれは我慢した。
それでも愛しい気持ちは抑えきれずに溢れ出てくるので、気持ちを込めてキスを送った。
「お前はもう俺のもんだし、俺はお前のもんなんだ。これは天地逆転しても覆らねえことだ」
「私……、私……!あの動画で感動すると同時に、皆んなが遠い存在だと思い知って……」
「はあ!?何だそりゃ!?」
「だって、皆んなすごくキラキラしてて、楽しそうで……。弾くんもすごくカッコ良く踊れてて!私だけの弾くんなのにって思っちゃって……!!そしたら、すっごく悲しくなってきちゃったんだよぉ……!」
そう言って真夢はまた涙をポロポロとこぼし始めた。
「新しい仲間の子もすごく可愛かったし……人気もすごくありそうで……」
「バカだなぁ……俺がお前以外の女になびくわけねえだろ!?そんなこともわかんねえのかよ!?」
「だって、だって!皆んなやっぱり部乱目町の有名人なんだなあって思ったら、フツーーーの私なんかが弾くんの彼女だなんて、嘘みたいで……!」
真夢は泣きながらそう言って、またグズグズと泣き始めた。
(ああ……そうか)
やっぱり真夢は自分のせいでも何でもないことなのに、自分のせいにして一人で泣くんだ。本当にお人好し……いや、優しすぎる女だ。
「皆んな、当然だけど、私なんかの手の届く人じゃないんだなあ……って思い知って。弾くんも、きっとまた人気がすごく出るよ」
「馬鹿も休み休み言えよ、真夢」
「な、なんでそんなこと言うの!?」
弾はまた真夢の涙を拭う。そして、優しく笑った。
「俺がお前を手放せねえから、俺がお前以外の女になびくわけがねえんだよ!他の奴等だって同じことだ!」
「男の人は?」
「男だって当たり前だ!男だろうが女だろうが、お前以外の人間に惹かれることは前世からだってねえっ!!!」
(やっとわかった……)
弾はホッとしながら思った。真夢の涙の意味を今やっと理解したのだ。
真夢は自分の立場を気にしていたのだ。
「え……?そ、それは弾くんが優しいからで……」
「あのなあ!俺は超がつくほどのお人好しで優しくていい女のお前にしか優しさなんて見せたことねえよ!!他の奴になんか絶対こんなに優しくしねえからな!!」
真夢は弾の言葉を頭の中で反復する。
(……ってことは、つまり……)
そこまで考えて、真夢がハッと顔を上げると、そこには優しい目をした弾がいた。
「わかったか?俺は昔から……いや、初めて会った時から、真夢以外の女は眼中にねえんだよ」
そう言って弾は真夢の頬に優しく触れた。
(ああ、やっぱり……)
真夢は思う。やはり弾は優しいんだと。それなのに、そんな優しさを自分だけに注いでいるのだと言ってくれるのが嬉しくて仕方ないのだ。
「お前こそどうなんだよ?」
真夢が自分の考えに浸っていると、弾がそう問いかけてきた。
「どうって?」
「お前はどうなんだ?俺を……俺だけを好きか?」
「……うん」
真夢はコクンと頷いて笑った。もう涙は止まっている。それを見て、弾も嬉しそうに笑って、軽くキスをした。
そして、またギュッと抱き締める。もう離さないと言わんばかりに。
「ったくよ。そんなに心配なら、お前も一緒に踊れば良かったじゃねえか」
「そ、そんなこと出来るわけないでしょ!?有名人でも何でもない事務員の私がさ」
「カンナも踊ってたじゃねえか」
「カンナちゃんは社長令嬢様でしょ!?私はしがないイチ派遣社員!!」
「……お前が踊ってたら、俺マジでヤバかったかも」
弾は笑いながらそう言って、真夢から体を離した。それを見た真夢の頬が染まる。そして、優しく手を引きながら、非常階段の出入口に向かう。
「事務所に戻るぞ」
「うん!」
二人は手を繋いで階段を駆け降りる。
「でも、あの子可愛かったよね……年も同い年だし、ゴーグルも何か弾くんのバンダナとさ……」
なおも不安そうにする真夢に、弾は向き直る。
「あのなあ」
「え?」
階段の踊り場で弾が足を止めたので、真夢も足を止めて見上げた。すると、弾は些か不機嫌な顔をしながら言った。
「俺の恋人はお前だろーが」
その言葉に、真夢は思わずキュンとして胸が苦しくなる。
(ああ……やっぱり好き)
そう思いながら、今度はこちらから抱きついた。弾はそれを受け止めてから、ギュッと抱き締め返す。
「事務所戻ったらキスするからな」
「何で!!?」
「皆んなに見せつけてやればいい!」
弾は明るくケラケラと笑う。
「もう。そんなんしたら事務所クビになっちゃうよ!」
そう言って真夢はまた泣き笑いのような表情を見せたが、弾はそんな彼女を愛おしく思うばかりだった。
「あとな……イチ派遣社員。それもうやめろ」
「え?」
「真夢は、俺だけのもんだし、俺が一生面倒みてやるから」
そう言うと、弾は再びキスをした。そしてまたギュッと抱き締める。
(やっぱり、こいつを手放すなんて未来永劫俺には無理なんだ……!)
「弾くん」
「働きたいなら仕事は続ければいい。でも一番の肩書きは俺の、八波弾の嫁さん♡にしろ!」
真夢が信じられないくらい綺麗に笑う。
(ああ……やっぱりこいつは綺麗だ。見た目も、中身も)
世界一の女の子。
俺だけのもの。
そう思いながら、また弾はキスをした。今度は深く、長く……。
そして真夢もまた誓ったのだ。もう余計な事は気にしないと。こんなにも自分を愛してくれる人がいるんだから、自分の立場や周りの目なんか関係ないんだと……。
(真夢は、俺のものだし、俺は真夢だけのもんだ)
弾は心からそう思ったのだった。

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