9月9日。真夢の誕生日。
俺が心底惚れ、どうしようもなく惚れ、もうめっちゃくちゃに惚れてる女の誕生日がもうすぐやってくる。
「真夢の誕生日……どうすっかな……」
どうするもこうするもねえんだけど。
俺がベッタベタに惚れてるだけで付き合っても何でもねえんだし。自分で言ってて悲しくなるぜ。
しかも今年の誕生日は日曜日。仕事がない以上事務所や現場で会う事はねえし、約束でもしない限り一緒に過ごすことができないだろう。
「どうすっか、どうすっか俺……?」
頭を抱えて畳の上でゴロゴロと転がる。
どうすっかな……。
「うだうだしててもしょうがねえか。しゃあねえ、聞くだけ聞いてみるか」
そう決めて電話をかける。相手はもちろん……。
《も、もしもし!》
「よう真夢」
真夢の番号をプッシュし、通話ボタンを押すと、向こうから食い気味に反応が返ってきた。
なんかちょっとドキドキするぜ。
うん、多分嫌われちゃいねえはずなんだ。いつも「弾くん大好き!」って言ってくれてるし。
ただこの「好き」が厄介で、真夢の言う好きは所謂likeで、俺の返す「俺も好きだぜ!」はもうゾッコンLOVEって事なんだ。その「好き」の意味合いが食い違ってるのが悲しい。
「今大丈夫か?」
《うん! 大丈夫だよ!》
嬉しそうな真夢の声。電話越しにも喜んでるのが伝わってくるぜ。まったく可愛いやつめ。
「そっか、実はちょっと聞きたい事があるんだがいいか? いやなら全然いいんだけどよ」
そんなこと言ってどうせ聞くくせに、いちいち予防線を張るあたりがまた女々しいよな。真夢相手だとこんなにも弱気になるなんてよ。
《聞きたい事? なになに?》
「9月9日……って予定空いてるか?」
《9月9日? うん、今のところ何もないけど。どしたの?》
「いや、その日真夢の誕生日だろ? 日曜だし、どっか二人で遊びに行けたらと思ってよ」
勇気を出して言ってみる。
まあデートの誘いじゃねえけどさ……。
いやどう考えてもそうだろ?ってツッコミは無視するとして。ただほら、遊びに誘っただけなんだから断られても全然大丈夫っつーか……
それでも真夢を誘うのは嬉しいし、緊張するしドキドキだってするんだよ。
《わ、私と弾くんがデート……?》
ほらみろ、色々脳内で言い訳してみたけど、秒でデートってバレたぜ。もう死にたい。
いや!生きてデート行きてえ!!
素直になったから頼むからOKしてくれ真夢……!
「まあ、その……あれだ。前『誕生日はいつも暇』って真夢言ってたろ? だからもしよかったらって事なんだが……」
《うん! 行く!》
食い気味に返答が来た。俺が言うのにちょっと躊躇っていたもんだから、すぐに返事をくれたんだろう。その声のテンションの高さがめちゃくちゃ嬉しいぜ。
「あ、ああ。じゃあ9日にどっか行くか」
《うん!》
「時間はまた連絡するわ」
《待ってるね!》
「おう、じゃあな真夢」
《うん、じゃあね……あっ、ちょっと待って弾くん!》
電話を切る直前で呼び止められた。どうしたのかと少しドキドキしながら待っていると……。
《誕生日覚えてるのにびっくりしたけど嬉しかったよ〜! えへへ、ありがと》
何だ?死にたいとか罰当たりなことほざいたから俺は死ぬんか??
《デート、すっごい楽しみにしてるね!》
「おう、俺も楽しみにしとくわ」
そう笑って通話を切る。
あ〜……緊張した〜!
まさか『真夢の事が好きだから誕生日を祝いたい』なんていきなり言えねえからな。しかも俺は別に真夢の彼氏でも何でもないわけだしよ。
いやまあでもこれはデカいぞ。誕生日に二人きりで出かけられるっつーのはかなりデカい。
これはもう勝ったな!そうであってくれ!!
「さて、後は当日のプランとプレゼントだな……うん?」
誕生日に思いを馳せながらスマホをポチポチしていると、電話がかかってきた。画面を見ると『月野真夢』の文字。
うえぇっ!?何でこんなすぐコールバックが来んだ!?まさか……やっぱり無理でした、とか?
やめてくれよそんな事だったら今度こそ俺間違いなく死んじまう!!
何で事務所で直接聞かずに電話でわざわざ誘ったかって、対面で断られたら泣くほど落ち込む自信があったからであってだな!!?
「はい、もしもし」
《あ、もしもし弾くん?》
ドキドキしながら電話に出ると、聞き慣れた綺麗な声。この声だけで俺は抜ける……いやそんな事考えるもんじゃねえ!!
「ど、どうした?まさかやっぱり無理だったとか……」
やべえ余計な先手を打つんじゃねえ!!うん、とか言われたら俺はこの部屋で即泣くぞ!?
《あはは!違うよ〜!超楽しみなのにそんなわけないよ》
「そ、そうか……ならいいんだ」
超楽しみ……真夢……泣きそうだぜ俺……じゃあ何だ?
そんな事を考えていると真夢が核心をついてくる。
《それでね、その日のことなんだけどさ?》
「あ〜そうだな。どこか行きたいところとかあるか?」
そうだ。とりあえずは当日のプランだ。ここで真夢の希望を聞いておかないとマジで当日何するかわからんぞ!何か色々考えてたけど全部頭から吹っ飛んだ!
《さっき、お兄がふらりと来てね。誕生日祝いでこれやるよ〜って、ドリームーワールドのペアチケットくれたのね》
「ドリームワールド!?」
ドリームワールドっつったら、家族連れから友達連れ、デートとして一番人気の超有名テーマパークじゃねえか。しかもその券っつったら、値段も倍率もかなり高いのに、ペアチケット!?
「そ、それは……いいのか?」
《うん!私は全然構わないんだけど……その……ちょっとハードル高いかな?って……》
「え!?」
《カップル……でもないのに、弾くんにそんなとこ付き合わすの悪いかなって……》
うっ!!カップルじゃねえって痛いとこ突かれたけど、俺は全然、むしろウェルカム以上だし棚から金塊レベルに嬉しいんだが!?
「何言ってんだ!俺は嬉しいぜ。真夢が嫌じゃねえなら是非そこ行こうぜ」
《本当!?良かった〜!じゃあそこにしよ》
「おう!幸夢さんによろしくな!」
真夢が気にしないならそれでいい。むしろ感謝しねえとな。ありがとうお義兄さん!!どさくさ紛れでお義兄さんとか言っちまった!
これで真夢の笑顔がまた一つ輝くぜ!!(ドドンッ!)
《やったね!今から楽しみ〜》
「そうだな、じゃあまた色々考えとくわ」
そう言って電話を終える。
ドリームワールド……マジか……あそこに真夢と二人で、しかも真夢の誕生日に……?
「やったぜ……!」
あ、思わず声に出た。でもいいよな?それくらい嬉しいってことだよ。
「っし……考えんぞぉ!!」
そう叫んで、俺は頭をフル回転させ始めたのだった。
翌日。現場の前に事務所に寄ると、真夢がデスクで事務仕事をしているのが見える。
「お、真夢おはよう」
「弾くん!おはよ〜昨日はありがとね」
キラキラのはにかみ笑顔で挨拶してくれる真夢。
もうそれだけで今日一日仕事頑張れるわ!!朝一発目からこんな笑顔が見られるなんて、俺ってやっぱツイてるぜ!
「これから現場?気をつけてね」
「おう、今の俺はノリに乗ってるから万事上手く行くはずだ!」
俺が上機嫌でそう答えると、真夢は何それぇと言ってコロコロ笑っている。
「じゃあ行くわ。真夢も頑張ってな……いやちげえな。お前の場合は頑張りすぎんなよ!」
「うん、ありがとね弾くん!行ってらっしゃい!」
真夢の笑顔に送られて現場入り。朝一のこの笑顔……マジ最高だわ。
しかも週末はドリームワールドに行くんだぜ?もうテンション天元突破してて、今日一日仕事頑張れるとか言ったけど、逆に緊張して上手くやれるか心配になってきた……
そして現場へ行くと。
案の定、俺は普段通りには行かなかった。
ボヤーー〜としてはハッ!としてグオオオとシャカリキに働いたり、またぼんやりしてハッと我に返り、またグオオとシャカリキに働いたり。
そんな挙動不審な俺を見る同僚達は、どうしたんだ弾の奴は、と首を捻っていた。
いよいよダイナマイトを手から落っことした所で見かねた源三とミカが、俺の側にやって来て肩をポンポンと叩く。
「弾、どうしたよ?」
「朝からおかしいよ、アンタ。いつもおかしいけど」
「あ……?ああ……いや別に何もおかしいトコはねえよ……」
明らかに挙動不審なのに強がる俺。まさか真夢の事が気になって仕事に身が入りません、なんて言えねえだろ?
「まさか真夢となんかあったのか」
源三の一言で手から全てのダイナマイトを落っことした俺を見て、ミカも叫ぶ。
「え!!?真夢に振られたのかい!?」
何なんだよ!!真夢関係ってことダダ漏れしてるし!何でコイツらはこんなに勘がいいんだよ!
「いや違えし、振られたって何だよ!?まだ振られちゃいねえよ!!」
俺がそう言うと、二人は「やっぱり何かあったんだ……」と呟き、顔を見合わせて頷いた。
そして声を揃えてこう言った。
「「真夢を泣かせたら承知しないからね(ねえからな)」」
その言葉には妙に力が入っていて、俺は思わずたじろいでしまう。何でいきなりそんなマジになってんだよ?
そんな俺に向かって、二人は聞いてくる。
「何があったんだい?」
「やっと告白したのか?」
いや、そこまでは出来てねえよ!先々に行くんじゃねえよ!
「いや……そこまでは……」
たじろぐ俺に二人は「なあんだ」とブーイングを飛ばす。ビビリで悪かったな!
「真夢の誕生日……どっか行こうって、誘っただけだ」
それを聞いた二人がガバッと身を乗り出す。
「え!?マジか弾!?お前にしちゃすげえじゃねえか!!」
「ホントホント!!ビビリのくせに、誕生日デートなんてやるじゃないか」
コイツらは俺をdisらなきゃ会話出来ねえのか?
「あ、あんまり大声で言うんじゃねえよ!まだ何も決まってもいねえんだから!」
「何言ってんだ弾!お前が誘ったんならもう決まったようなモンじゃねえか!」
「そうそう!真夢も絶対に喜ぶよ!!」
二人がそう言って、俺の背中をバンと叩く。いてえな!?何でそんなテンション上がってんだよ!! その勢いに押されて俺は頷いてしまう。
「そ、そっか……?」
「そうそう!それで?どこ行くのか決めたのか?」
「ああ、何か幸夢さんがドリームワールドのペアチケットくれて……」
「「ドリームワールド!!?」」
うわ、びっくりした!また声量上がったぞ!?テンション上げすぎなんだよ!!
「ドリームワールドって……あのドリームワールドかい!?超有名テーマパークの!?」
「ああ、そうだけど……」
ミカが信じられないという顔で聞いてくる。源三も続ける。
「今って日付指定してとかじゃないと土日は入れないよな?倍率も高いし金額も……」
そんなにすげえのかよ?真夢の兄ちゃんは一体どんな金持ちなんだよ?
「お前今年一番ついてる男だな」
源三までもがそう言って俺に肩を組んでくる。
いや、そこまでじゃねえだろ?まあ俺的にはそれくらい嬉しいけどよ。
「じゃあ真夢もめちゃくちゃ可愛い格好しないとね〜」
「いや、そんな気合い入れなくてもいいんじゃねえか?」
アイツが着てく服なんて何でも似合うし可愛いだろうからな。
しかし、ミカはそれを聞いて首をブンブン横に振ると、興奮気味に捲したてる。
「何言ってんのさ!女の子がデートに行く時、一番着ていく服を悩むのって、その日に一番可愛く見られたいからなんだよ?」
「何でだよ?別に普段と変わらねえじゃねえか」
「バカだね!デートの日の朝に鏡の前であーでもないこーでもないと服を合わせて、ようやく着ていくものが決まって女の子は出かけるんだよ!」
「はあ……そういうもんなのか?」
正直わからん。デートって言ってもいつも通りじゃねえの?
俺は真夢が何着てきても別に何でもいいけどな。真夢が可愛いのなんて普段からだし、空は青いってのと同じくらい当然のことだし。
「バカだな、弾。その真夢が、お前の為にあーでもないこーでもないと鏡の前で服決めてる姿を想像してみろ」
「……」
想像してみる。
……真夢が俺の為に?
そんな……そんなの……!
可愛すぎるだろうが!しかも俺のためにお洒落してくれた服でドリームワールドに行くだと!?
「ぐああああああああ」
丸まってしゃがみ込んだ俺を見て、二人は大笑いする。
「マジか弾!?おま……それでおっ勃てるのはヤバいぞ!?」
ゲラゲラ源三が笑いながら俺の股間を指さす。
うるせえぞ!?勃ってねえよ!!
「もう、弾は真夢のことになるとすぐコレなんだから〜」
ミカがやれやれと言いながら俺を小突く。
だから勃起してねえっつーの!!ただ想像しただけでこのザマなんだよ!
……でも、やっぱり嬉しいモンだな。だって俺が真夢にとって、そんな特別な存在なんだっていう証拠だからな。
そんなことを考えていたら、本当に勃ってるのがバレ……いや、勃ってねえからな!?
「で、何をそんなに悩むことがあるんだよ。もう万々歳じゃねえか。さっさと付き合っちまえ」
「バカ野郎!たかだか誕生日にデートしてくれるだけでそこまでOKって訳じゃ……」
「はあ……これだもんねえ……本当バカなんだから……」
また二人で俺を貶してくる。何なんだ。
「……プレゼント」
「うん?プレゼント?」
「あ、そっか!誕生日プレゼントね!」
二人は納得する。
「元々は皆んなで準備して渡そうって話だったけど、これなら弾は弾だけで直接用意した方が良さそうだよね」
「だな。弾、誕生日プレゼントもちゃんと用意しとけよ」
ミカと源三が口々にそう言う。
「だからな、それが何がいいか頭を捻らせてんだよ」
俺が頭をガリガリ搔きながらそう言うと、二人は顔を見合わせて後ろを向いちまう。
(そっか……もう本当なら告白どころか指輪渡してプロポーズでもしちまえばいいんだけどな?)
(だよね、真夢、アクセサリー大好きだし……指輪でいいんだけどな……)
何だ?ぼしょぼしょ何か喋ってるけど聞こえねえ。
(真夢もお前をガッチガチに好きだって言っちまったらダメか?)
(ダメでしょ!そこは当日二人で直接決めないと!)
二人で何か相談してるっぽいが、声が小さすぎて聞こえねえ。
「おい、何やってんだよお前ら」
俺が訝しんでそう言うと、二人はギクリとして振り向く。いや、別に何も悪いことやってねーのに何でビクついてんだよ?
「何も浮かんでねーのか?」
源三が聞いてくるので、俺も真面目に答える。
「いや、一応幾つかはあるんだけどな……真夢はアクセサリーとか香水とか好きだろ。だからその辺で何かな……って……」
俺の言葉に二人は
(いいぞ!珍しく勘が冴えてる!!弾、お前キテるぞ!!)
(弾!!すごい!敷居は高いだろうけど何とか指輪を……!)
なんて念を送っている事は勿論知るはずもない俺は。
「本当は……指輪を……プレゼントしたいとこだが……」
((すごい!!!弾!!!))
二人は心の中で拍手喝采だ。
源三はバシバシ俺の肩を叩いて、ミカは涙ぐみながら頷く。いや、何なんだよ!?
「でもアクセサリーとかなら真夢も自分で選びたいだろうしな……俺のセンスは壊滅的だし……」
((確かに!でも今回はそれでもいいんだ!!))
二人はもう念を送るようにガッツポーズを連発している。いや、マジで何なんだよ!?
「それに……彼氏でもない男から指輪なんて、気持ち悪いだろ」
俺が遠慮がちにそう言うと、二人は顔を見合わせる。
((違う!!まあ一般的には至極その通りだけど、真夢の場合それでいいんだよ!!))
二人はまた大きく頭を振ってジタバタしている。
「ピアス……位なら、許されるか……?」
「「それだ!!!!!」」
俺の発言に二人が身を乗り出す。
「真夢、可愛い顔して結構ハード系のやつつけてたりするもんな」
「そうそう、あんな可愛いのに7つも穴あいてるんだよね」
「……ミカはまだいいとして、源三、お前まで真夢を可愛いって言うんじゃねえ!」
盛り上がる二人に俺が睨みつけると、二人は呆れたような顔をする。
「これだもんなあ……」
「別にいいだろ!真夢は誰が見たって可愛いんだから褒めるくらい!ブスって言うよりずっと……」
「何だとテメーー!!真夢のどこがブスだ!!!真夢は概念イチ可愛いんだよ!!!」
「だあーーーー!!めんどくせえんだよオメーはよ!!!」
「まあまあ!!」
ミカが一喝すると、二人とも大人しくなる。
「……まあ、それは横に置いとくとして、真夢のピアスはいいんじゃない?皆んなからも選べばいいよ。でさ、一番大事な耳たぶの二箇所の対のやつを弾が選んでプレゼントすればいいじゃないか」
俺と源三がポカンとミカを眺める。
「な、なんだい……二人して」
ミカがたじろいで、後ずさる。
「……いや、ミカお前……」
俺が言いかけた言葉を源三が引き継ぐ。
「お前……天才か?」
いや、だから何でお前はいちいち人を褒めんの一つで惚れさせようとすんだよ?コイツに関わった女は皆んなコイツに軒並み惚れてくんだからな。
真夢は今のところそんな事は無さそうだけど、そして一生そんなことが起こってくれるなよ……!?
そんな俺の心配を余所にミカは頬を赤らめて嬉しそうに笑う。
「えへへへ、そ、そうかい?」
そうだよな!ミカは源三の事が好きだもんな!!嬉しいよな!
「本当は前日の土曜に誕生パーティーやりたいとこだけど、大事な予定の前日だもんね。金曜とかなら空いてるかな?それまでに用意しとこう!」
「ミカ、今日はとことん冴えてんな!そうしようぜい!昼飯の時真夢に聞いてみようぜ。弾、プレゼントは皆んなで選びに行こうぜ。そんでお前も自分の分選べばいいぜ」
「お前ら……ありがとな!!」
俺は思わず二人に礼を言う。コイツら、こんなにいい奴らだったんだな……目から汗が出そうだぜ!
「な、なんだよ気持ち悪いね」
「ここまでお膳が立ったんだ。絶対日曜決めてこいよ!?」
源三にはハッパをかけられ、ミカにはしっしと手で払われる。コイツ、人がせっかく礼言ってんのによ!?
でも、これでようやくプレゼントの目処が立ったな、後はまずは土曜までに用意するだけだ!!
待ってろよ真夢、今まで生きてきた中で一番幸せだと思えるような一日に出来るように頑張るからな!!
真夢に予定を確認すると、金曜日も大丈夫だと言うので、皆んなで店を押さえたり、プレゼントを買いに行ったりした。
「どんなのがいいんだろう……女物はサッパリだぜ」
「まあな。でもこればっかりはお前が選んでやんねえとな。おいら達は三人で選ぶからお前も決めろ!」
源三にそう言われて店を見渡しても、どれが真夢に似合うかと言われれば間違いなく全部だろうが、どれが真夢が喜ぶかはまた別問題だ。しかも俺のセンスは厨二臭いってよくdisられるしな……
うううん、と頭を捻っていると、ミカとカンナが助け舟を出してくれる。
「弾くん。真夢ちゃんなら、きっと何を選んでも喜んでくれるはずだよ」
「……そんなもんか?」
「そうだよ。アンタだって真夢から貰えるなら何だって喜ぶだろ?」
「……それは俺が真夢に惚れてるからであって……まあ友達でも嬉しいは嬉しいけどよ」
真夢に何かプレゼントを貰えるのなら何だっていい。
現に俺はほぼ一ヶ月前に誕生日プレゼントにそれは超カッケェキーチェーンを貰った。それが俺の好みにもドンピシャで、しかも真夢からもらったとあればもう使う事が出来ないレベルで未だ家に飾ってある始末だ。
(((もどかしいっっっ!!!)))
俺以外の三人が頭を抱える。
(言いたいっ、真夢ちゃんも弾くんの事が死ぬ程好きなんだよって、言いたいっ!!!)
(カンナちゃん、おいらもだぜぃ!!言ったらダメなのか!?)
(二人とも!!ダメだよ!!気持ちは分かる!あのエンゲージリングのコーナーに突き出してやりたいよ!)
三人がヤキモキしてるのも知らずに俺はフラフラと店内を見て回る。
と、ふと何か俺を呼ぶようにキラリと光るピアスが目に入った。
それは真夢の耳たぶを飾っているかと思うような、見ただけで良く似合いそうなイメージピッタリのピアスだった。
(真夢のイメージにすげえ合ってるような……でも俺のセンスだしなあ)
俺はそのピアスを手に取ると、しげしげと眺める。
「お客様、プレゼントですか?」
店員にそう聞かれて、慌てて手に取っていたそれを元の場所に戻す。
「ご家族ですか?それともご友人や恋人の方への……」
うっ!!痛い所を突かれた……
「いや、恋人って訳では……」
口ごもる俺に店員さんはにこやかに話す。
「大切な方への贈り物にもピッタリです」
それを聞いて俺は嬉しくなる。空気読んでくれる店員さんだな。真夢は彼女ではないが、彼女になって欲しい俺の大切な人だ。
「何か気になるのあったか?」
「あ!それ、真夢のイメージピッタリじゃないか!」
「本当だ!弾くん、やるう!」
目処をつけた三人が後ろから合流する。
「本当か!?」
「ホントホント。ヤバいね、ここ数日のアンタは神がかかってる」
「弾、当日を前に運使い果たすなよ!?」
上げんのか下げんのかどっちなんだよ!!
源三とミカが揶揄う中、カンナがそのピアスを見て言う。
「これ、ピンクとブルーと両方のサファイアが入ってるんだね。誕生石ってお守りにもなるって言うし、真夢ちゃんすごく喜ぶと思う!」
「本当だ。しかもプラチナじゃん。ちゃんと良いやつだね。これなら間違いないよ、弾。真夢めちゃくちゃ喜ぶよ」
女子二人にそう言ってもらえると心強いな。どれ値段は……
「……結構すんな」
源三のセリフに俺も一瞬たじろぐ。
確かにそこそこいい値段だ。でも、コレを買わなかったら後悔する気がする。
「……日曜まで無事終われば、俺はしばらくもやしを主食に生きていく。コレにするぜ。コイツが俺を、真夢を呼んでたんだ」
「偉いっ!!!お前それでこそ男だ!!きっとうまく行くぜい!」
源三が俺をバシバシ叩く。
「弾、頑張んな!」
ミカも併せてバシバシ叩く。
カンナも少し心配そうにしながらも、俺にエールを送ってくれた。
「じゃあコレにするぜ!」
俺は皆んなにそう伝えてレジを済ませた。
当日の金曜日まで皆で集まって色々話し合ったりした。
皆んなからということでまずは三つのピアスを渡す。俺の選んだ奴は日曜当日。
真夢は三つのピアスを四人が合同でくれたと思うだろうから、当日びっくりするかな。喜んでくれるといいな。
そして迎えた真夢の誕生日パーティーの金曜日。
とはいえ、店を予約して皆んなで楽しく飲み食いした位だけどな。
それでも真夢はすごく嬉しそうだった。
皆んなでケーキも食べて、すごく楽しい時間を過ごすことが出来た。
そして、いよいよ誕生日パーティーは大詰めを迎える。
「じゃあそろそろプレゼントタイムと行こうか!」
ミカのその掛け声に皆んながワッと沸く。俺もドキドキしながらその時を待つ。
日曜日に俺からの単独プレゼントがある事をサプライズにする為に、カムフラージュとして皆んなが渡し役を俺にしてくれた。
「真夢、誕生日おめでとう。これ、皆んなから」
そう言って箱を渡すと、元々大きい真夢の目がますます大きくなって、
「ええ!?ありがとう!開けていいの?」
と嬉しそうな声を漏らす。俺以外の皆んなもニコニコして見守っている。
真夢は大事そうに箱を机の上に置いて、開けるねと言った後丁寧に包装を剥がす。
そして中から出てきたピアスを見て、また一層嬉しそうに微笑む。
「わあ!すごくキレイ!!可愛い〜!三つもある、どれもすごく可愛い……嬉しい……ありがとう、皆んな……」
真夢は若干うるっとしつつも、満面の笑みを皆んなに向けた。
「あ、あれ、おかしいな……嬉しいのに……ぐす……」
真夢は小さく鼻をすすりながらも一生懸命笑おうとするが、その目には涙が滲んでいた。
そんな姿もとても可愛くて、俺は胸がキュッとなる。
「ごめんね、そんなつもりは無かったんだけど……これ見てたらすごく嬉しくなってきちゃって」
ミカが優しく肩を抱くと真夢は「ミカちゃ〜ん」と言ってミカに抱きつく。
クソ!!羨ましいなミカの奴!!
「真夢、7つも穴空いてんだろ?ハード系から綺麗系まで色々つけてっから色んな種類にしてみたぜ!」
「そうそう。一つ売りの中から選んだから手持ちのやつとかと合わせてね!」
源三やカンナも嬉しそうに話し、真夢は感極まってミカの胸に顔を埋める。
だから羨ましいんだって、ミカ変わってくんねえかなそこ!!?
「……皆んなで選んでくれたの?四人で?忙しいのにありがとう……」
「いいってことよ!誕生日なんだし!」
源三が気にすんな!とニカッと笑う。
おいやめろ!!真夢がお前に惚れたらどうすんだよ!?
「ところで、誕生日は日曜日だよね?予定はあるの?」
ミカがにやにやして真夢に質問し、源三とカンナもにやにやして見ている。
真夢の奴はミカの腕の中で「へ!?日曜日?」とキョトンとした声で言う。そしてみるみるうちに真っ赤になって、口をパクパクさせる。
クソ!可愛すぎんだろその顔!!俺もそのアングルから見たいわ!ミカ頼むから変わってくれ!
「え、えっとね、えっと……日曜日は……」
真っ赤であたふたしてる真夢を見てると胸がキュンキュンしてくる。それが臨界点に達した俺は
「日曜日は、俺とデートだ!!!」
と大声で叫んだ。周りは皆んな驚き、
「知ってるよバカ!お前に聞いてねえよ!!」
「真夢から聞きたかったのに、バカだねアンタは!」
「弾くん〜」
と盛大にブーイングを飛ばしてくる。
「え!?皆んな知ってたの?」
更にあたふたしている真夢の頭を撫でながらミカが答える。
「あはは!ごめんごめん、真夢の口から聞きたくてさ!イケメン兄さんすごいね、ドリームワールドのペアチケットなんてさ」
「本当〜!もうちょっと前にその予定が分かればウチも取れたかもしれないけど、ごめんね気が利かなくて……」
謝る社長令嬢のカンナに真夢は慌てて否定する。
「そんな!ほら、お兄はあんな感じの人だからさ。誰も捕まらなきゃ俺が行ってやるよ〜とか言ってさ」
「……やべえなそれは、パレード並に人だかりできそうだぜい」
「まあね〜、美形の兄を持つと苦労するよ」
真夢はやれやれというジェスチャーをするが
((((いや、真夢、アンタも同じ顔した美形だからね(な)!?アンタ達美形の二人組の破壊力すごいからね(な)!?))))
と俺達四人は総ツッコミを何とか胸の中で収めるのに必死だった。
そんなこんなで楽しい誕生日パーティーが終わった。
俺は真夢を家まで送って行く。パーティーの出来事やいつもの他愛のない話をしているうちに、気づけばすぐ真夢の家の前に着いた。
「今日は本当にありがとう、弾くん」
「何言ってんだよ。楽しかったな!」
「あはは!そうだね。あとは……その……」
真夢が頬を染めて俯く。
可愛い……分かってはいるが本当に可愛い……こういうのを本当に愛おしいというのだろうか。
今すぐ抱きしめて好きだと言いたいのをグッと堪えて笑顔を向ける。
「分かってる。明後日だよな!天気も平気っぽいし楽しみだな!」
「うん!すごい……すごい楽しみ!」
夜なのに、ぱあっと周りを明るく照らしそうな笑顔に、俺は胸が大きく鳴るのを感じる。
「じゃあ、また明後日……おやすみ弾くん」
「ああ、おやすみ真夢」
名残惜しいがそのまま背を向けて歩き始めた俺の背中に
「弾くん!」
と声がかかる。
俺が振り返ると、そこには顔を真っ赤にしながら満面の笑みで俺に手を振る真夢がいた。
ああ……俺はもう、どうしようもなく真夢の事が好きだ。
この想いをもう抑えきれない程に、俺は……。
真夢の姿を見て幸せを噛み締めた俺はもう一度手を振り返した後に背を向けた。
そして決戦の日曜日がやってきた。
デートプランはこの数日間にちゃんと練ったが、正直めちゃくちゃ緊張している。いや、マジで。
当日朝、いつもよりも早く目が覚めた俺は、念入りに洗顔や歯磨きを済ませてから朝食をとった後に再度歯を磨きシャワーを浴び着替える。
(よし!)
よしじゃねえええええ!!!
何だこの童貞丸出し行動は!?
もう色々期待してんの見え見えじゃねえか!!?
自分で自分にツッコミを入れた後一呼吸し、真夢に電話を掛ける。
「もしもし?早くにごめんな、おはよう真夢」
《もしもし!?おはよ……どうしたの当日の朝に電話なんて、!! まさか行けなく……》
「なってねえよ!!行くよ!!何があったって今日は行くっつーの……あ」
スマホ越しでも真夢が赤くなったであろう事がわかる。俺も恐らく同じくらい赤くなってるだろう。
《ご、ごめん弾くん!私変なこと言っちゃって!!》
「いや、俺の方が変な事言ったわ、すまん」
《……ぷっ、あははは!!何これ!?》
「な!何笑い転げてんだよ!」
ひとしきり笑った後、俺は大きく深呼吸をする。そして少し緊張した声で真夢に言う。
「誕生日おめでとう、真夢」
《弾くん……ありがとう》
日付が変わってすぐメッセージも送ったが、実際に家族以外の誰よりも早く、直接そう言いたかった。
《えへへ、今日弾くんに一番にお祝いされて良かった》
ああ、クソ!めちゃくちゃ抱きしめてえ!!
「じゃあ真夢、支度できたら連絡くれるか?迎えに行くから」
《え?駅じゃないの?》
最初はその予定だったのだが……
「いや、車借りた。ボロい実家車で悪いけど、迎えに行くぜ」
《え、でもそれじゃ弾くんが疲れちゃう……》
「お前、ドライブデートに憧れるって言ってたじゃん。道中はそれにしようぜ!」
そんな俺の提案に真夢は最初は遠慮していたが、 《じゃあお言葉に甘えちゃっていいかな?》と遠慮がちに承諾した。真夢の折り返しを待つことにして、電話を切る。
(やべえ……!)
スマホ越しに真夢の声を聞けるだけでこんなに幸せな気持ちになれるなんて、こんなんもう拗らせもいいとこじゃねえか!!
俺は大きく深呼吸をし、それから待ち合わせの真夢の家へと車を走らせるのだった。
真夢の家に着き、電話をかける。
「あ、真夢?家の前着いたぜ。ここ停めといて大丈夫か?」
ありがとう、すぐに出るという返事を貰って、運転席から降りようとすると……
「弾くん!おはよう!」
と、勢いよく家のドアが開き笑顔で真夢が出迎えてくれる。
「…………」

俺はハンドルにゴトッ……と頭を沈ませ、その勢いでクラクションが「パパーー!」と鳴った。その様子を見ていた真夢が飛び上がって俺の元に駆けつけてくる。
「弾くん!!!?どしたの!!?」
いや、どうもこうもねえよ。クラクションなんて鳴らしちまってヤベェことこの上ねえが、それ以上にヤベェのが……
「……いや、おま……そのカッコ……」
「え!!?そんな変だった!!?」
馬鹿野郎真逆だよ!!真逆すぎるよ!!
いつもオフィスで見る真夢の格好は、まあいろんなテイストの服を見るがやっぱりOLさんというような格好だ。髪型もいつも違うが、どれもべらぼうに可愛い。いつも。
でも、今日の格好は……
「えへへ、弾くんにちょっと寄せてタンクトップ着て来ちゃった」
真夢は笑顔でそう答える。
会社では出来そうもない、黒い変形のタンクトップに、ダメージデニムのショートパンツに生足という攻めた格好であった。そして、いつも巻いてる髪はあえての?超絶綺麗なストレート。極め付けには腹が……ヘソがチラ見えしている。
「どうかな?似合う?」
そう言いながらクルッと一回転する真夢は、完全にただの超絶美人だった。
「……可愛い」
俺がそうぼそりと呟くと、真夢は照れたように笑う。
何だ?俺はやっぱり死ぬんか??
何だよこのとてつもない可愛さは!!
そんでこんなにスポーティー?ヘルシー?な感じなのに、クソほどエロいじゃねえか。
そして待て、俺に寄せたって言ったか?それはペアルック的なアレか?
「えへへ、弾くんに寄せたコーディネートなんだよ一応!」
……もうやめて!俺のライフはゼロよ!!
運転席から降りた俺はその場に膝から崩れ落ちて、手をつき天を仰いだ。
そんな俺を心配そうに覗き込んで来る真夢。
クソ!そんな可愛い顔見せんじゃねえ!あ〜顔がニヤけちまう!!
もうダメだ……俺、こいつのことマジで好きだわ!!知ってたわそんなの!!
ああ並んで歩けっかな、この真夢の横で歩いて俺スキニー履いてっけど大丈夫?一日勃たせるなという試練なのか??
「真夢〜これも持ってけよ……あ、弾くん!おはよう!どしたの……いや分かってるけどね?」
地に伏している俺を見て、家の中から出てきた超絶イケメンが大笑いしている。
「幸夢さん……」
そう、この人こそ今回俺と真夢のドリームワールド行きの切符をくれた、真夢の兄、幸夢さんだ。
よく見なくても一秒かからず分かる誰もが振り返る超絶イケメンで、実は真夢とほぼ同じ顔をしてるが、真夢は女なので幸夢さんほど目立たない。
……いや、こんな美人を同じ顔してて目立たないって逆に何?とは思ったが、まあとにかく真夢の身内だけあってとんでもない美形だ。しかも大工のエリート、宮大工をしている。
どこまでハイスペなんだよ辛いぜ!
でもそんな完璧に見える幸夢さんも実は根深い業を抱えている。
「おはようございます、幸夢さん。この度は素晴らしいお品を頂きまして……」
俺が息も絶え絶えに御礼を言おうとすると、そんなことは気にしない中身もいい男の幸夢さんは笑顔で返す。
「あはは!いいよ、いつも通りで!ねえ、さっきのクラクションも弾くん?」
「……すんません……」
「あーーはははははは!!やっぱり弾くんサイコーー、俺本当弾くん大好きだわ……真夢、早く弾くんと結婚してくれ」
「!!?」
「何を言うのお兄!!?」
幸夢さんは大笑いしたあとトンデモ発言をし、真夢は大慌てだ。
真夢は超絶美人でブラコン、それに対して超シスコンのこじらせ系ハイパーイケメンなのだ……
「弾くん!お兄が変なこと言ってごめんね!!」
「……いや、悪いのは俺だから気にしないでくれ……」
「ははは!ごめんごめん、そんでこれ。車なら一応持ってけ。いいかな?弾くん、トランク入れといて?」
幸夢さんはそう言いながら、紙袋をトランクに入れようとする。
「勿論いいっすよ。でも、何すか?」
俺が幸夢さんに聞くと、真夢は兄ちゃんをキッ!と赤い顔で睨む。
「これ?これは、着替え。今さ、あそこ水系のアトラクションとかパレードとかやってるみたいなんだよ。暑いからすぐ乾くとは思うけど、もしものために持ってっといて。ごめんだけど弾くんの分も俺のやつ勝手に入れてあるから。あ、安心して、下着は新品だから」
そう言ってまた楽しそうに笑っている。
「いや、そんな……本当何から何まですんません」
「……お兄、だから私はいらないって言ったのに……!」
「いいじゃねえかよ。写真見たら結構ビッシャリ行く場合もあるみたいだからさ。あ、弾くん!もしこの服がダメそうとかだったら言ってな?ちゃんと新しいやつ用意するから」
「それは自分で買いますから……マジで気にしないでください!」
もうここまでくると申し訳ないを通り越して申し訳なくなるぜ……!
何だそれ、元々ない語彙力が更におさらばしていく。
「じゃ、楽しんできて!行ってらっしゃい!」
「……ありがと。行ってきます」
「ありがとうございます。真夢さんをお借りします」
なんだかんだ幸夢さんが大好きな真夢も照れたように挨拶していたが、俺の言葉を聞いてますます顔を赤くした。
出発しようとすると、コンコンと運転席の窓を叩かれる。
「何ですか?」
窓を開けると、幸夢さんは俺の耳元で俺にだけ聞こえる声で言う。
「もしも、ここだ!って、思うことがあったら、あの紙袋の下に入ってる箱見てみて。じゃあ、真夢をよろしく!」
「……はい、幸夢さん、ありがとうございます」
俺がそう言うと幸夢さんはニヤリと笑って手をヒラヒラと振って見送ってくれる。
……やっぱこの人には敵わねえな。
そんなことを考えつつ、俺はアクセルを踏んだ。
「ちょっと!お兄、弾くんに何を言ったのよ!?」と真夢はキャーキャー騒いでいるが、お兄さんはにこやかに笑ったままだった。
ドリームワールドに向かう道中も、それは楽しいものだった。飲み物や軽食を買いにコンビニに寄ったり、話をしたり、好きな曲を歌ったり。
対して上手くもねえ俺の運転でしかも実家のイモい車だけど、真夢は終始楽しそうだった。勿論俺も。助手席に真夢が乗っててくれるだけで運転の精度も上がるし、癒されるし、楽しい。
「弾くんとドライブ出来るなんて夢みたい」
そう言って笑う真夢を、心の底から可愛くて愛おしいと思った。
「そんなの俺の方だぜ」、照れ隠しのためにわざとぶっきらぼうに答えた頃、ドリームワールドの看板が見えてきた。
「いよいよだね!楽しみ〜!」
「な!やっぱりワクワクすんな」
二人でそう笑いながら駐車場へ車を停めるのだった。
そして、ようやくドリームワールドに入場した俺と真夢は、そのあまりの凄さにまたテンションをあげながら、パーク内に入って行く。
この前売り券、優先入場や駐車料金免除なんかも付いているらしく、俺はますます幸夢さんに感謝した。と同時に末恐ろしくなった。一体この券、幾らなんだ……?
「さて、最初はどこに行く?」
真夢にそう聞くと、
「んふふっ!最初はねえ、決めてるの。あそこっ!」
フンス!と意気込んで、パーク内前方を示す。
何だよそれめっちゃ可愛いじゃねえか。俺は何回可愛い可愛い言えばいいんだ。
でも真夢が指差したのって……
「お土産屋?」
そこはテーマパークのお土産が限定品含み色々置いてあるどでかいショップだ。
「何だ、もう土産買うのか?最後でいいんじゃ……」
「お土産は最後でいいよ。でも、ここに来たなら最初にアレを買わなきゃダメでしょう!」
真夢はルンルンでそう言いながらショップの方へ歩いて行く。
「何だ?アレって」
「それはね……」
と、真夢が向かった先にあったのは……!
「……耳?」
「そう!耳だよ!」
各キャラクターをあしらった耳付きカチューシャがずらりと並んでいる。
「え、これって」
「そう、耳付きカチューシャ!ここでしか付けられないけど、それがいいんだよ〜」
真夢はカチューシャを手に取ると、頭につけて見せる。それはテーマパークのキャラクターの一つ、不思議の国の女の子のものだった。言わずもがな可愛い。
「お前……こういうの好きなのか?」
「うん!可愛いでしょ?ねえねえ私も弾くんのやつ付けてあげる!」
いや、俺はいい……とは言えず、真夢は俺の頭に無理やりカチューシャをつけてくる。
「う〜ん……バンダナとの干渉がちょっとアレだねぇ」
そう言って首をひねっている。
「じゃあ俺も真夢の選んでやるよ」
そう言って次から次へと付けてみるが、どれもこれも可愛くて似合うから困っちまう。
「ねえ、これ可愛くない?」
と真夢が持ってきたのは、メインキャラクターの横にいるキャラのものだった。
「あ〜これは確かに可愛い……真夢に似合いそうだな。でも真夢、メインキャラのあれにすんのかと思ってたぜ」
「んふふっ!私、王道ヒロインよりも、その横にいる女の子キャラが好きなとこあるから。じゃあこれにしよう!」
そう言って嬉しそうにカゴに入れる。
何だこれは。もう周りから見たらただのラブラブカップルじゃねえのか?
俺がそんな余韻に浸っていると、真夢は一転して不満そうに言葉を漏らす。
「でも弾くんの耳が決まってない」
「いや、俺は……」
そう言いかけて、俺は言葉を飲み込んだ。
今日は真夢の誕生日なんだ。真夢の好きにして、付き合ってやりてえ。耳だって、別に付けるのがイヤなわけじゃねえんだ。ただちょっと小っ恥ずかしいだけで……
「……弾くん、乗り気じゃないよね……」
ホラ鋭いんだよコイツは!そんで別にイヤじゃねえんだって!
そんなに鋭いんなら何で俺のダダ漏れの好意に気付いてくんねえワケ??
「違えよ!俺はただ……」
「本当は私の選んだキャラの、彼氏キャラの耳を一緒に付けて欲しいのに……」
そう言って少し不貞腐れた感じの真夢はもうイヤんなるくらい可愛かった。
もうこの可愛さは何なんだろう……俺を殺す気か?
「そんなん、付けるに決まってんだろ」
俺はそう言って真夢の耳元に口を寄せる。そして、小さな声で言った。
「お前とお揃いなら何でも嬉しいから」
普段は恥ずかしすぎて言えねえセリフだが、まあこんな所でなら許されるだろう。
俺の言葉に真っ赤になった真夢はもう天使じゃねえか!ってくらい可愛かった、やっぱり殺す気なのか??
その彼氏キャラカチューシャをカゴに入れようとした所で、真夢が「あっ!?待って!?」と何かを発見したようだ。
「どした?」
「ねえ!弾くん、耳よりこっちの方が好きなんじゃない!?」
真夢が嬉しそうに手に持っていたのは……買おうとしていたカチューシャのキャラの尻尾だった。
「!!!!!」
言葉を失う俺に真夢は期待を込めたようなキラキラした目で俺を見て、返事を待っている。
「……ケェ」
「え!?」
「超!!カッケェじゃねえか!!昔のヤンキー?のキーホルダー見たいで超イカすぜ!!!」
「でしょーー!!やったー!!」
大興奮の俺に真夢も喜んでくれる。
何だこれは?やっぱり俺は……いや超生きるぜ!!
「じゃあ私はこの耳。弾くんは尻尾ね!でね……あのさ……」
「何だ?」
「パスケースだけは……お揃いのやつでも……いい?」
上目遣いで、不安げにそう聞く真夢に俺は思わず「当たり前だろ!!」と叫んでしまった。
俺が叫ぶと、周りの客や店員が驚いたように見てくる。
ちょっと恥ずかしいわ!!
でも、それくらい嬉しかったんだ。
好きな子が自分と同じこと考えてくれてて、しかもそれを望んでくれてるなんて男冥利につきまくりだろ!
真夢も周りを少し気にしつつも「良かった嬉しい」と言って頬を染めて微笑んでいる。
もう何なの??俺は今日真夢を連れて帰っていいんか??
幸いパスケース売り場はすぐ近くで、まずはお互い好みの物を選び合う。二人で付けるならどれだろう。それを加味しながらそれぞれ見て回ると、同じ品の前で立ち止まる。
「真夢、もしかしてコレ気になってんのか?」
「え?弾くんも?」
お互いのカチューシャや尻尾に負けない派手なパスケースを、二人して手に取る。
「だって、弾くんっぽいなって思っちゃったから」
「そうか?!俺は何となくお前っぽいなって思ったぜ」
「本当?へへ……嬉しいな」
そう言って真夢は恥ずかしそうに笑う。その表情がとても愛おしくて、俺は思わずその頭をクシャっと撫でていた。
ああもう、このまま連れ去りたい。
いやダメだろ!さっき買った耳と尻尾付けてデートを楽しまねえと!!
「じゃ、これにしよう!」
そんな俺をよそに、真夢はカゴにパスケースを二つ入れてレジに向かおうとする。
「ちょっと待て」
「え?」
「それ、俺が払うから」
そう言って俺は真夢の手からカゴを取り上げる。
「え?だ、ダメだよ……!私が勝手にやりたいだけなんだから……」
「いーんだよ。俺が払いたいんだから」
俺がそう言っても真夢は申し訳ないと食い下がってくる。
「じゃあ、割り勘にしよう?私、ポニーとかも見たいから」
「何だ?ポニーって……馬しか浮かばねえけど、何でもいいから選んでここ入れろ!お前の誕生日だろ」
「でも、こないだもプレゼント貰ったし、今日も付き合ってもらってるし、車だって……」
まだ食い下がってくる真夢に、俺は少しムッとした。
何だよ?俺ってそんなに甲斐性無しだと思われてんのか??
別にそれは構わねえが、気の遣いすぎも良くねえ。良いやつ過ぎんだよな、真夢は。
「お前は、俺とデートしたくなかったのかよ!?」
俺がそう言うと、真夢は目をまん丸にして驚いていたが、「ううん」と首を横に振って笑顔になる。
俺はそんな真夢の笑顔を見ながら改めて思うのだ。やっぱりコイツのこと大っ好きだわ……と。
「付き合わされてると思うくらいなら最初から来ねえよ。そもそも誘ったの俺だし。誕生日くらいプリンセス気分でいればいいぜ。笑顔でアリガト、って言っときゃいいんだ!」
俺がそう言うと、真夢はようやく納得してくれたらしい。嬉しそうな顔をして「うん!」と頷くのだった。
可愛いんだよ!この笑顔にどんだけの人がやられてきたことか!しかも今日はこれに加えて耳付きカチューシャだぜ!?俺のHPはとっくにゼロだよ!!
「ふふ、ポニーはお馬さんじゃなくてコレだよ」
「ん?ああ、頭のゴムの飾りのことか」
「そう!そのために今日は髪をストレートでおろしてきたんだよ〜」
結んだり自由にできるでしょ、そう言ってCMみたいに髪をふぁさっ!っとかきあげる。
長いのに痛みなんてなくツヤツヤキラキラした真夢の髪がサラッと揺れて、信じられない良い匂いが鼻腔に……コイツは俺を公然猥褻かなんかでお縄にさせたいのか??
「ああ、綺麗だな……」
俺が無意識にそう言ってしまうと、真夢は照れ臭そうに笑って「ありがとう……じゃあこれもお願いします!」と言った。
レジで会計を済ませると、早速付けて回ることにする。
お互いカチューシャと尻尾を付け合って歩くのは、正直ちょっと恥ずかしかったが、それもまたいい思い出だろう。
「弾くん似合うねそれ!」
「お前もな。ったく、周りの野郎がチラチラ見てやがる」
「え?なに?」
後半をぼそっと言ったので真夢は聞き取れずに聞き返していたが、何でもねえよと答えて歩く。
こんだけ綺麗で可愛くて、しかもコス要素に露出まですげえんだ。そりゃ見るよな。俺が守れば良いだけの話だ。
「なあ、ちょっと写真撮っていいか?」
「うん。私も撮りたい!あ、じゃあツーショも撮ろうよ!」
そんなやり取りをしつつ、スマホで互いの写真を撮る。
真夢はスマホを見つめ、
「えへへ……弾くんとの写真だ」
そう言いながら嬉しそうに俺に見せてくる。俺はそんな真夢を自分の腕の中へ閉じ込めたい衝動を必死に抑えていた。
ったく天然カマトトはこれだから困るんだ!!他の奴にはこんな事してくれるなよ!?
俺はもう一度自分の理性を奮い起たせて、真夢に声をかける。
「あ、キャストの人だ。ちょっと待っててくれ」
「うん?」
俺がキャストさんに近づいていくと、真夢もちょこちょこと着いてくる。
「あの、誕生日の何とかってやつ、ここで貰えたりします?」
「はい!大丈夫ですよ!お誕生日なんですね、おめでとうございます!」
キャストさんは笑顔で俺たちに対応してくれる。
「お兄さんがお誕生日ですか?それともこちらのお姉さんですか?」
「あ、こっちの彼女です」
「可愛い猫ちゃんカチューシャのお姉さんですね!お名前は?」
「あ、まくら、です」
お名前まで可愛いんですね〜!とキャストさんに褒められ、真夢は照れながらも「?」と言った様子で俺とキャストさんを見つめている。
「お誕生日は何日ですか?」
「今日です」
「あらーー〜!それは本当におめでとうですね!お兄さんは猫ちゃんの彼氏の尻尾なんですね、センスあるカップルコーデですね!」
キャストさんは真夢のカチューシャと俺の尻尾を見比べ、そしてニッコリ笑ってそう言った。
「……え?あ……ありがとうございます……!」
カップルコーデ発言に俺と真夢は、耳まで真っ赤になってお礼を言う。
そうか、やっぱりそう見えてんのか……!俺はクソほど嬉しいが真夢はどうなんだ……?
「お待たせしました〜」
しばらくしてキャストさんが真夢に何かを手渡す。
「え!?これ……!」
そこには、「happy birthdayまくらさん♡9.9」の文言と共にパークキャラの模様などを描いてくれたシールがあった。
「すごーーい!!可愛い〜!!」
「これをどこかに貼っておいて頂けると、見たキャラやキャストがお祝いしてくれますからね!記念になりますよ〜、楽しんでくださいね!」
そう言ってキャストさんは笑顔で手を振ってくれた。
「あ、ありがとうございます!」
俺達も会釈して歩き出す。
「すごーい、こんなのあるんだー!弾くん、調べてくれたの?」
「ん?まあな」
「ありがとう!すごいね、記念になったよ!」
嬉しそうにシールを見つめる真夢。
そんな真夢を見て俺も嬉しくなるのだった。
こんなとこあまり来る機会もないし、真夢と来るんなら、って焦ってめっちゃ調べたなんて言えやしねえぜ。
「どこに貼ろうかな?」
「目立つとこがいいんじゃねえか?」
どこが目立つだろう、と真夢は考えている。
目立つところ、言ったもののどうしても一部分が頭に浮かぶ。
隠しきれずに目立ちまくってる部分があるよな……?
そんな俺の思考を知ってか知らずか、真夢が選んだのは……
「えーい、もうここにしよ!」
ぺた、とシールを貼りつけたのは、どでかい真夢の胸元だった。
ですよねー!!目立ちますよね、そこ!!クソデカくてクソエロいですもんね!!
「弾くん見て!ここなら目立つでしょ?」
幼稚園児になった気分!と、真夢は自分で貼りつけたシールを俺に見せ、笑顔でそう尋ねてくる。
いや、確かに真夢の胸元を合法的?に拝める機会なんてそうねえし、いやだからって……!
「そうだな」と平静を装って答えるのが精一杯だった。
その後、シールの効果はてきめんで、キャストさんやパーク内のマスコットキャラ達におめでとうと声をかけられて写真を撮ってもらったり、コールされたりするのだった。

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