ハッピーバースデーを君と②

「さて。いよいよアトラクションでも行くか?どれにする?」
「ねえ弾くん、あれ!あれ乗ろうよ!」
真夢が指差したのは、ジェットコースター風のアトラクションだった。
「おっ、いいじゃねえか。真夢ああいうのイケるクチだっけか?」
「うん、私絶叫系結構好き!でもあれって急旋回とかすごいんでしょ?ちょっとドキドキしそう……弾くんは?」
「俺は、見たまんま!ああいうの大好きだぜ!んじゃ行ってみるか!」
そう言って二人でそのアトラクションを目指す。
「日曜だし、やっぱり結構人多いね」
「だなー。おっと、あぶね!」
真夢が人混みに流されそうになり、俺は慌てて腕を掴む。
「びっくりした〜、弾くん、ありがとう!」
「大丈夫か?当たったりしてねえ?」
「うん、大丈夫だよ」
俺は真夢の無事を確認してひとまず安心して、そのまま腕を離そうとする。が……
「……また流されると危ねえから……その……移動の間だけでも……手を繋がねえか?」
そう言って手を真夢の腕から手のひらに握り変えると、
「ふふ、そうだね……ありがとう弾くん」
真夢は俺の手をぎゅっと握ってきた。
そんな俺たちを、周りの人たちが『可愛いカップルだな〜』って顔で見てくる。
 ああ……俺、一生分の幸せ使い切ってねえか?!大丈夫かよ!!??
 パーク内でも1.2を争う人気のアトラクションは、やはり結構な人数が並んでいた。
「これでこっちの優先ルートから並べるのかな?」
「マジか……半端ねえなこのチケット……幸夢さん何者だ??」
「あはは!まあ、変わり者だけどフツーの私の兄ですよ」
真夢はコロコロ笑っているが、ぜってぇ普通ではない。それだけは言える。
「でもまあ……こんなチケットをポン、ってやれちまうくらい、真夢の事が可愛いんだろうな。俺だって妹はまあ……生意気だけど可愛いは可愛いからな。でもここまではやってやれねえよ」
「アザミちゃん可愛いよね〜!私大好き!弾くんの愛情だってきっと伝わってると思うよ。お金とかスケールの問題じゃないもん」
 俺は真夢のこういうところが本当に好きだ。
見た目の良さだけでなく、中身がすげえ真っ直ぐで綺麗で、その優しさに俺は何度も救われてきた。
「アザミが誰にでも懐くと思うなよ?アレでいらん心配しいで、モテもしねえ俺に近づく女は嫌い!とか言うような奴なんだから」
「え?でも私には初日から仲良くしてくれたよ……、!! もしかして私、心配する余地なし!?アウトオブ眼中!?」
「古!!違えよ!逆だ、逆!」
逆??と真夢は首を傾げているが、そんな「俺に近づく女は嫌い!」と言うアザミを真夢は初日で籠絡した。
この時の俺はなぜアザミが真夢に懐いたかまでは詳しくは知らなかったが、後から聞いた話では、ガルガル全開のアザミに「お兄さんに全く相手にしてもらえません……千回好きって言ってもダメなんです。世界一カッコいいお兄さんにどうしたら振り向いて貰えるようになれるか、ほんの少しでも教えてもらえませんか?」とべそをかいて泣きついた真夢に、アザミはほだされたらしい。
アザミも負けじと「兄のどこが好きなんだ」と詰め寄ったらしいが「全部です。頭の先から足の先まで、中身も全て」と言う真夢に完全ノックアウトされ、「この女性ならいいや……」と籠絡されちまった。
 我が妹ながらなんて簡単な奴だ!!まあ、真夢の涙目のおねだりは本当に可愛いが……
「でもよかったよ〜!!私、実の姉妹だったらすごく仲良くなれる自信あるし!アザミちゃんみたいな妹も欲しかったもん!」
またサラッとこういう事を言う。
「ならなってくれよ」
俺がカマをかけてみると、真夢は微妙な顔をする。
「ええ……弾くんと兄妹になるの……?それはちょっと違うんだよなぁ……」
 違えわい!!誰が俺と本物の兄妹になるって言ってんだ!?いやそれもアリっちゃアリだが、いやいややっぱねえよ!!兄妹になったら結婚できねえじゃねえか……ったくコイツは本当鋭いくせに鈍いんだからよ!!
「あ、そろそろ俺たちの番だぜ」
色々と悶々としながら長い列で待つこと一時間弱。やっと順番がやってきた。
俺と真夢はアトラクションに乗り込み、安全バーを下ろされるといよいよスタートだ。
さすが人気アトラクションだけあって、なかなかにスリリングなコースを進んでいく。
「きゃーーー!!」
「すげー!めっちゃ!」
二人で絶叫しながら、なんとかゴール!!
「なかなか面白かったぜ!真夢はどうだった?」
「すごく楽しかった!絶叫系ってちょっと怖いけど、でもやみつきになっちゃうよね!」
真夢は、俺に笑ってそう答える。
出口付近まで行くとさっきのコースターの写真が映し出されている。
「見て!弾くん、さっきの写真だ!」
「お、ホントだ。真夢、変な顔してんな〜」
「何ぃーー〜!?弾くんだって!ほら!めっちゃ目瞑ってる!」
二人で大笑いしてモニターの写真を撮ったりする。
俺が写真を見ていると、真夢は何やら少し考え込んでいる。
「どした?」
「あ、うん……さっきの写真がね、すごい幸せそうな笑顔なの」
弾くんは変な顔って言ったけどね、そう言って真夢は嬉しそうに笑う。
「私、今心の底から嬉しい!って思ってて……すごく幸せ。本当にありがとう弾くん!」
変な顔、って茶化した写真だって、本当はすごく可愛くて嬉しそうに笑っていた。
 俺はその笑顔を見て改めて思った。
 この笑顔を一生をかけてでも守りたい、俺の人生をかけて幸せにする、その権利が欲しい。今日プレゼントを渡す時、告白まで出来るだろうか。
 ん?まてよ……プレゼント……ヤベ!車の中に置いてきちまった!
車から降りる時、荷物整理の最中に幸夢さんに貰った紙袋の中に入れてきちまった。
(まあ、帰りに車で渡せばいいか……)
そんな事を思いつつ、写真を見ている真夢に呟く。
「ちぇっ。じゃあ買わなきゃじゃねえか」
「え!?いいよ、こういうとこのはすっごく高いんだよ」
真夢がコソっと教えてくれるが、値段を見ると、本当に高っ!! でも……
「要らねえならいいけど」
俺が拗ねたフリをすると真夢は慌てて、
「いる!買ってください!」と敬礼して答えた。
「ふふ。やったぜ」
ガッツポーズをして喜ぶ俺の横で、真夢は微笑んでいる。
「ほらよ」
「ありがとう……私が貰ってもいいの?」
「勿論だ。でも俺も欲しいな?」
「あ!じゃあさ、また後で乗りにこよう!その時は私が買って弾くんにあげる!」
「おう。よろしくな!」
俺が渡した写真を、真夢は大事に胸に抱えて微笑む。
「とはいえ、今は待っててやるよ。ほら俺のリュックん中いれとけ」
「うん、分かった!折れないように入れないとね」
真夢が丁寧に写真を俺のリュックに入れる。そしてまた嬉しそうに言う。
「ありがとう」
「写真一枚でそんなにかしこまんなって」
すると真夢は首を横に振る。
「違うよ。写真もそうだけど。弾くん、普段はこんなに大きなカバン持ってこないでしょう。……荷物の為に持ってきてくれたんでしょ?」
確かに俺は近場だといつもほぼ手ブラだ。リュックには二人分の飲み物や軽食なんかが入っている。真夢の荷物も預かっている。
「だから、ありがとうなの。私、とっても嬉しいの」
重いのにごめんね、そう言って真夢は笑う。
 ああもう……なんでこいつはこんなに可愛いんだ!!クソッ!俺死ぬぞ!?死因キュン死だわこれ!
俺はこの不意打ちに心臓をバクバクいわせながらもなんとかカッコつけて返事を返す。
「ま、まあな!せっかくのデートで手ブラじゃ味気ねえだろ?筋肉の見せどころだしな」
 うん、我ながら訳がわからねえ。筋肉関係ねえ。
だが真夢は嬉しそうに笑うから、まあいいとしよう。
「よし、じゃあまた次のアトラクションに行こうぜ!」
「うん!」
 そして俺たちは、色んな乗り物に乗って笑い合ったり絶叫したりしながら、デートを思う存分楽しむのだった。
 お兄さんの言う通り水系のアトラクションは水増しで、通りがかりに見たパレードでも水を撒き散らしていて少し濡れたりもしたが、まだまだ残暑がきついのと二人してタンクトップなのですぐに乾いて着替えまでは必要無かった。
それなのに用意して持たせてくれるなんて、さすが出来る男は万全の構えだぜ。
少し多めに水を被った時に真夢の胸元が濡れて、俺の目線も同時に濡れたのは真夢には内緒だ。
「ほらよ」
俺は、さっき買ったばかりのペットボトルを一本渡す。暑いから手持ちはすぐ飲んじまって、買い置きしていたもう一本の方は冷たくないだろうが仕方ない。
「ありがとう!」
真夢が笑顔でそれを受け取ると、早速飲み口に口をつける。それを見て妙にドキッとする自分がいる。真夢の唇が……うおおおおぉぉぉーー!!
そしてペットボトルから口を離した真夢が一言。
「あ、これすごい美味しい。パーク限定のやつ?」
「適当に買ってきたけどそうなのかな?美味いならよかったぜ」
「飲んでみる?」
「えっ」
 いや……普通に考えたら友達同士で回し飲みとか普通だし、別に何もやましいことはねえ!しかし!!
俺が固まっていると真夢もハッとしたようで頬を染める。
「あ、ご、ごめん!気にしないで!」
そう言って再びペットボトルを口につける真夢を見ながら、俺はそっと自分の水を飲む。
(……間接キスとか……別に気にしねえつもりだったけどよ……)
 さっき見た、真夢の濡れた胸元が脳裏に蘇る。
 クソッ!やっぱ意識してんのは俺じゃねえか!! ああもうカッコ悪りい!!何なんだよ俺!!
「やだよね、回し飲みなんて。ごめん」
少し寂しそうに言う真夢に、俺は……
気づいたら真夢からペットボトルを奪ってごくごくと飲んだ。
「うん、美味えな。ありがとよ」
 嘘だ。味なんて全く分からなかった。でも真夢が飲んでたから甘い気がする……ってどんだけ拗らせてんだよ変態か!?
一応自分が口をつけた部分はサッと拭いて真夢に返す。真夢は一部始終を目を丸くして見ていたが、それを受け取った。
「う、うん……どういたしまして」
そして少し照れたように微笑む真夢を見て、俺はもう限界だった。
 よし!決めた!!告白しよう!! タイミングは?ムードは?どんな言葉がいいだろう……
「ねえ見てよ弾くん!あれカワイイ!!」
 ああ、クソッ!!またタイミングを逃しちまったじゃねえかよ!?なんだよあのクマ!ふざけんな! 確かにカワイイな!!

 その後も色んなアトラクションを回って楽しんだ。昼時のレストランはどこも混んでて入れなかったりしたが、ワゴン軽食を回るのだって楽しいよ!と真夢は笑って、食べ歩きや塀に座って簡単に済ます食事休憩を一緒に楽しんでくれた。
細いくせにアホみたいによく食うんだ。そのカロリーはすべてそのデカい胸や尻にのみ回ってんのか?
嬉しそうに美味そうに食う真夢を見てると、俺も幸せな気分になる。
「おい真夢。ほっぺにケチャップついてんぜ」
俺がそう言って顔を見ると、少し恥ずかしそうにしている。こういうところはやっぱウブだよな。
「ったく、子供じゃねえんだからよ……拭くから動くなって」
「うん……」
大人しくされるがままになる真夢の頬についていたケチャップを指で拭うと、ついそのままぺろ、と自分の口にはこんじまった。
「!!!」
「!!?」
真夢は目を見開いて驚いている。
「わ、悪りい!あんま考えずについ……!!」
そう言って謝る俺に、何故か真夢は真っ赤な顔で俯くと……
「ううん。大丈夫……な、なんだかちょっと嬉しかったから……」
おあいこだね、と言って微笑むのだった。ついでに食べる?と自分の食べ物を勧めてくれて、俺は内心照れつつももう変な否定はせずに真夢の食い物にかぶりついた。
「あはは!弾くんもケチャップ付いたよ!」
「マジか。これはケチャップが付く食いもんなんだな」
真夢もまた俺の頬に付いたケチャップを指で拭って、ちゅっと口に入れた。
「ふふ、美味しい」
 何つー破壊力……そんでエッッッロ……多分俺がやったのとは全然違って、百倍は色っぽいんだろうな。
 なんか……幸せだな。やっぱこいつは最高の女だぜ。
 
 こうして、楽しい時間はあっという間に過ぎてしまう。
その後も全ての乗り物も、飲み食いも、パレードなんかも、待ち時間さえ全て楽しかった。マジであっという間に時間が過ぎて、もう夕方近くになってくる。
道中も真夢は、何かを落とした人がいれば拾って声を掛け、はぐれたような子供がいれば一緒に親を探してやり、パレードではたまたま貰った風船を羨ましそうに見ていた子どもに嬉しそうに渡してやっている。
そんな様子を見て、俺はますます真夢に惚れ直していく。
 いつも思っていた。
 きっと、こいつはこういう風に生きてきたんだ。自分の損得なんて考えずに、誰かの為に行動できる人間なんだ。
そんな真夢の生き方に、こいつのそんなところに心底惚れているんだと思う。
 アトラクションに並んでいる時、不意に真夢が尋ねてくる。
「ねえ、カップルでここに来ると別れるとかっていうの、聞いたことある?」
 何だそれ、超不吉じゃねえか!?待てよ、まだカップル未満だからセーフか!?
 しかし何でまたそんな事を……
「俺とはカップルでもないのにもう来たくねえってことかよ」
わざとブスくれたように俺が言うと、真夢は笑って否定する。
「違う違う!何でもね、待ち時間が長いから、疲れちゃったりして喧嘩になっちゃったりするみたいだよ」
「ああなるほど、そういうことか」
確かにどのアトラクションも人気で、待ち時間もそこそこ長い。でも俺は……
「でもね。私、待ち時間でも楽しいの。弾くんといられる時間、全て楽しい」
真夢はそう言って笑う。
 本当にこいつは、こういう事を平気で言うんだよな。天然で言ってるのか狙ってんのか、分からねえけどよ。
俺もその笑顔に釣られて思わず微笑む。
「先に言うんじゃねえよ」
「えっ!?本当!?」
「おう、勿論だ!」
そう答えると、真夢も嬉しそうに笑ってくれる。
 ああもう……マジで幸せだぜ!!

 そのアトラクションが終わり、お互いトイレ休憩にと別々になる。
珍しく男トイレの方が混んでいて、俺が個室に入るのと入れ違いで手洗い場に行った男連中がワイワイと騒いでいるのが耳に入った。
「なあ!さっきトイレの外でカンワイイ子がいたな!」
「マジで!?俺見てなかった……どんな子!?」
「見てなかったのかよ!?バカだな〜……ネコ耳カチューシャの子だろ!?」
それを聞いてピクッ、と俺の耳が反応する。
 ネコ耳カチューシャ……?
俺はそっとその連中の話に耳を傾ける。
「でも一人で待ってたぜ。男連れだろ」
「だよな〜。でも分かんねえぜ?ワンチャン声かける?」
「すっげえ、その、巨乳だったよな!?誕生日シールが目立つこと……!」
巨乳のあたりで声を落としたが、間違いなく真夢の事だ。奴らの声が遠くなっていく。
俺は慌てて個室から飛び出して何とか手を洗い、トイレから出て行くと……ギリギリ奴らが声を掛けるより先に真夢の手を摑んだ。
「えっ!?弾くん!?」
驚く真夢に、俺は無言で歩き出す。
「ちょっ、ちょっと弾くん!?どうしたの!?」
そしてそのままズンズンと歩いて行く。
「あ!ちぇっ!やっぱり男連れかあ」
奴らの声が聞こえてくるが、真夢は気付いていない。訳もわからず引っ張られるままの真夢は戸惑いながら俺に尋ねる。
「ねえ!どこに行くの!?」
もうかなり人のまばらになった道で、俺の足はようやく止まる。周りを見渡して無事を確認すると、真夢と目が合い、思わずそのままその細い身体を抱き留めた。
「きゃっ!?」
驚きながらも俺に抱かれたままの真夢に、話しかける。
「悪い真夢……大丈夫だったか?」
え?と腕の中で声を上げる真夢の体温を、匂いを感じる。
「真夢の事を狙ってる男達がいた」
「ええっ!?」
腕の中で目を見開く真夢の仕草が、たまらなく愛しい。今俺の腕の中に、世界一可愛い女がいるんだ。そう思うと胸が熱くなる。
「もしそういう奴らに声かけられたら、俺が彼氏だって言っていいんだぜ?」
そう言うと、俺の言葉に少し驚いた様子の真夢は、ふっと微笑んで答える。
「弾くんが彼氏のフリしてくれるの?」
「俺じゃ役不足だけろうけどな?一人のとこナンパされるよりはマジだろ」
「あはは、そんな訳ないでしょ。でも嬉しいよ」
そして真夢は、俺の胸に顔を当てるように、俺に身体を預けて呟く。
「……本当にそうなったらいいのになあ……」
 それは俺のセリフだっつーの!マジでもう告っちまうぞ!?あーー!!もう何だこれ!?すっげえ好き!!好きだーーーー!!!!
 ……よし!言うぜ!!告白するぜ俺えええぇぇぇ……
「もう今日はこの後、トイレも必ず俺が出てるの見てから出てこい。外に俺がまだいなかったら女子トイレの中で待っててくれ」
 俺のヘタレ!!!ヘタレすぎるぞ俺!!
告白するぜって言って……何なんだよコレ?!こんなんだから源三にもミカにもバカにされんだ!
「わかった。ありがとう弾くん、守ってくれて」
 ヘタレの俺に真夢が優しく微笑む。
「綺麗だね、ここ。プリンセスのお城みたいだよ」
「え?あ……本当だな」
真夢の言葉で周りを見渡すと、色とりどりのパステルカラーの可愛らしい建物が目に入る。確かにお姫様のお城みたいだな。
「あ!写真撮ろうよ!」
そう言って俺の腕から抜けて駆け出す真夢を見て、俺も慌てて追いかける。
「あはは!弾くんもおいでよ!」
俺に手招きする真夢も、めちゃくちゃ可愛いぞちくしょう!!お前がプリンセスなんだろ?知ってるよ!
 キャストさんに写真を撮ってもらったところで、ドッと疲れた事に気づく。
「真夢、ちょっと休憩しねえ?ちゃんと腰据えて。最後もうちょい周んだろ?」
「そうだね。ちょっと疲れたよね。カフェとか空いてるかな?」
そう言う真夢の手を、指を絡めて繋ぐ。
「あ……」
「もうお前は離しとくと危ねえから」
この繋ぎ方を恋人繋ぎとは知らなかった俺は、そんな事を言って歩き出す。
「何だよ?歩きづれえか?」
そう尋ねると、真夢は赤くなって俯くと……小さく首を振った。そうか、なら良かったぜ。
「俺から離れんな。俺も離れねえし離さねえ」
「分かった」
俺が手を離さねえから、真夢も素直についてきてくれる。ああもうクソッ!超可愛いなこいつ!!
 たまたまタイミングがよく、パークを見渡せる半外の席に座る事が出来た。
「ここならパレードとかもチラッと見えそうだね!」
「だな。夕方だから涼しくなってきたしここでも丁度いいな。寒くはねえ?」
「うん、大丈夫。ありがとう……あれ、電話?」
真夢のスマホが鳴っている。コールの主はカンナのようだ。
「カンナちゃんから電話?どしたんだろ」
「いいぜ。出ろよ」
俺の了解を得た真夢は、電話に出る。
「もしもし?どうしたのカンナちゃん?」
《真夢ちゃん?今大丈夫?楽しんでるのにごめんね》
「ううん、大丈夫だよ。今ちょうどお茶して休憩中」
そう言って楽しそうに談笑している。しばらくうんうん、へえ、の相槌や真夢からの応答をしたところで急に真夢が声を上げる。
「うん、うん……え!?そんな……本当に?でも……それじゃ……」
俺の顔もチラチラ見ながら電話をしている。するとカンナから頼まれたのかスピーカーにして俺にも聞こえるようにして通話を続けた。
《もしもし、弾くんも聞こえる?》
「おう、聞こえてるぜ。どうした?」
《ふふ、あのね。私からも、社長令嬢の職権濫用プレゼントをと思って!》
「は?何だよ、プレゼントって」
俺には全く話が見えねえ。するとカンナのやつは意外な事を提案してきた。
《弾くんと真夢ちゃんは明日の月曜は有休を使って下さい。社長令嬢命令です!》
「……何だと?」
真夢と顔を見合わせているところで、カンナが話し始める。
《二人とも有休余らせてるでしょ。このままじゃ消滅しちゃうだけだから、明日は休んで。だから、明日の仕事は気にしないでうんと楽しんできて!HP1になるまで!》
「カンナちゃん……」
何でありがてえ申し出だ。残念ながら真夢にキュン死にRushキメられて俺のHPはすでにゼロだけどな!?
《弾くんの仕事も源さん達に了承もらってるし、真夢ちゃんの仕事も大丈夫だから。逆に出社してきたらクビだからね!?ふふふっ》
「分かった。ありがとな、カンナ!」
「そんな……いいのかなあ……」
申し訳なさそうにしている真夢に言う。
「こういう時は笑ってありがとうって言うもんだぜ!」
《そう!弾くんいいこと言った!そういう事だから、この後も明日もゆっくりしてね!また写真とか見せて〜!えーーーと、二人とも、頑張れ〜!!》
そう言ってカンナは通話を切った。
「サンキュー、カンナ」
「カンナちゃん……もう……でも頑張れって何?」
「さあな」
二人して、笑うしかなかった。
 いや、笑ってる場合じゃねえけどな?HPゼロだぜ?HPゼロ。笑えねえっつーの!
 しらばっくれたが俺は頑張んなきゃなんねえことがまだあんのに!
「弾くん、私嬉しいよ」
「だな。明日の分まで楽しむか!」
そして俺達は笑い合ったのだった。
 あ〜あ……何かこんな幸せでいいのかなあ。
「この後はどうする?何か大きなパレードやるんだっけ」
「真夢、パレード見たいか?」
「弾くんは?」
 俺は正直どっちでもいい。真夢がパレードを見たいなら一緒に見たいし、違うならそれでいい。
「今日はお前の日だ。お前に合わせるぜ」
「私は……パレードもいいけど、その空いてる時間にアトラクション乗りまくりたい派なんだけど……引いた?」
「え?全然。ぶっちゃけ俺もそっち派だ」
 むしろ真夢のこういうところ、結構好きだぜ?一緒に色んなこと楽しめる奴って貴重だ。
「えへへ……色気なくてごめんね?じゃあコレ飲んだらまた周ろっか!」
「そうだな!そしたらメシも今度は店で食えるかな。ファミリー層が減ってきたから空いてるかもな」
そう言って二人で笑い合っていると、ふと真夢の顔色が変わる。俺の腕を掴んで、顔を隠して身を寄せてくる。そして不安そうに俺に尋ねてくる。
「弾くん……向こうから来る人たち……」
「うん?」
見ると、正面から男女……とはいっても女一人に男三人連れのグループがこちらにやってこようとしている。この店に入ろうとしているのだろうか。
「私、知ってる人かもしれない」
「え?そうなのか?」
俺がそう言うと、真夢は相変わらず俺に隠れたまま言いにくそうに言う。
「昔、ちょっとだけ職場が一緒だった人。どうしよう、私、ちょっと苦手なの……!」
 こんな真夢は珍しい。俺に心を許してくれるようになったのは最近の事じゃねえが、それでもここまで恐怖心というか、苦手意識?みたいなのを見せるのは初めてだ。
 誰にでも分け隔てなくにこやかで、どんな相手でも笑顔で接する真夢が……
理由なく人を嫌ったり、悪口なんて言うような奴じゃないことはとっくに分かってる。その真夢がここまで怯えるなんて……
「店出るか。別で休憩すりゃいいぜ」
「弾くん……」
「心配ねえよ、何かあっても俺が守る!」
そう言うと、真夢は俺の身体から離れて席に座ると、深呼吸して答える。
「うん……ありがとう」
そして俺達は席を立とうとしたのだが。
「あれ?ねえ、もしかして、真夢ちゃん?」
例のグループが、店の外側から俺達に声を掛けて来た。
「あ……」
真夢が一瞬俺を見て……俺が頷くと、俯いて小さく頷いた。
「お久しぶりです、先輩」
真夢は本当に苦手なのかと思うくらい、ごく自然ににこやかに挨拶をした。
 それでも、俺には分かる。その笑顔が、少し引きつっている事に。
本当に親しい間柄にしかわからないような違和感だ。このグループには気付かれていないだろう。
「やっぱり!すごい偶然ね、久しぶり〜!どうしたの?」
そして隣にいる俺をチラッと見ると、何かを確認するように頷く。
「あ〜……その、彼氏さん?とデート中?」
「いえ、その……」
真夢が回答に迷っていると、先輩と呼ばれた女は俺達二人を交互に見て苦笑いしながら言う。
「そっかー!真夢ちゃん可愛いから彼氏くらいいるよねー!でも真夢ちゃん、好み変わった?もっとこう、エリート系?みたいな男が好きだったよね?」
 うん、真夢が苦手だって言うのも理解できる。何だか嫌な感じの女だな。連れの男達もニヤニヤして真夢を舐めるように見てやがるし……
「そんな、私は別に……それに、彼は友達なんです」
 さっきの今だし、俺を彼氏役にしたっていいのに、それを回避して彼氏じゃないって……彼氏って言ったら嫌な奴相手で俺に迷惑がかかるとか思ってんだろうな。
 だが、それを聞いた女の態度が変わった。
「へえ?友達なんだ。でも……それなら誕生日に二人でここに来る?」
真夢の胸元の誕生日シールを見て、わざとらしく言う。真夢はグッと唇を噛み締めて、俺に申し訳なさそうに言う。
「それは……彼は優しいから、誕生日に暇してる私を連れ出してくれたんです」
そう言って尚も笑顔で女達に向き直る。そんな真夢を男達がさらにニヤニヤと品定めするように見るのにイライラする。
 こんな奴ら相手にそんなに無理してニコニコ笑いやがって……
「そうなの?そんな張り切ったカッコしてるからてっきり彼氏なのかと……でも彼氏じゃないならダメよぉ?思わせぶりな態度取っちゃ……前だってかわいー声とかわいー笑顔で色んな男を誑かしてたんだから」
「そんな……私は……」
真夢が泣きそうな顔で俯いた。
 もう……我慢の限界だ!!
俺が前に出ようとすると、真夢が腕を掴んで止めた。
「真夢?」
俺が振り返ると、真夢はふるふると首を振る。そして無理矢理に笑顔をつくった。
 何でそんな我慢してんだ。
真夢は人誑しだが、誑かしてなんかいない。気配り上手で分け隔てなく皆んなにニコニコ笑って人当たりがいいから、皆んなから好かれているだけだ。
ちょっと甘めの声だって自前のモンで、それを鼻にかけて使っている訳じゃない。
「あ!分かった!じゃあ彼は彼氏じゃないけど、今狙ってる男なんでしょ!?」
「!!?」
真夢が身体を強張らせて、俺の腕を掴む手に力が入る。いよいよ笑顔も崩れてきて、手のひらが冷たくなって震えている。
 本っっっ当に失礼で胸糞悪い奴らだな。女一人で男三人引き連れて、何とかの姫って奴か……でもそんな姫、全く羨ましくねえな!
 連れの男達の下品な笑い声もカンに障る……あれ、でもこの声、どっかで……?
もうこんな奴らを相手にするのはやめて、無理矢理真夢を連れ出そうかと思った所で、その女は決定的な一言を口走った。
「やっぱりそうなんでしょ?真夢ちゃん、狙ってるのバレバレだよ〜!もう、気合いの入れ方が処女丸出しなんだから〜!」
「!!!」
真夢が、一瞬固まった。そして赤面しながら小刻みに震え始め、目には涙が浮かんでいる。
 なんて事言うんだこの女。
 事実はどうであれ、こんな事を知らねえ奴やましてや知ってる俺の前で言われて気分を害さない奴なんていねえ。
それなのに周りの男達はそれを聞いて更に騒ぎ出す。
「ええ!?マジで!?こんなモテそうなのに無いの!?」
「うっそーー、勿体な!!」
「そうなのよ。その気にさせまくる割に、男がその気になると逃げちゃうの。あ、でも私がそうだって聞いたのはちょっと前だから、その間に何かあれば今は違うかな??」
最低で下劣な会話で盛り上がるこいつら。もう……我慢の限界だ!!
「真夢」
涙を溢さないように必死に唇を噛んでいる真夢に俺は優しく声を掛けて、そして真夢の肩をギュッと抱いた。
「弾くん?」
真夢は驚いているようだが、俺は力を入れて抱きしめる事で黙らせる。そして耳元で囁くように言う。
「泣かなくていい」
「……!!」
真夢は震えながらも、俺に身を任せた。そして俺の肩口に顔を埋める。その頭をゆっくり撫でながら、口を開く。
「なあ真夢、もう隠さなくていいんじゃねえか?」
「え……?」
真夢も周りの奴らも「?」と言った面持ちで俺を見ている。
「恥ずかしい、とか何か理由があって隠してんのかな、と思って話合わせてたけどよ。ハッキリ言えばいいじゃねえか、付き合ってますって」
「弾くん……!?」
真夢は驚いて俺を見る。そして周りの奴らも驚いている。俺は周りを気にせず続ける。
「真夢はああ言ってましたけど、付き合ってますよ。俺達」
真夢は相変わらず驚いて俺を見ている。そして周りの奴らもまだポカンとしている。俺はそいつらに言う。
「だから俺は誑かされてもないですし、気合いがどうのってのも関係ねえっすね」
「何それ!?証拠はあんの?どうせ口からでまかせでしょ!?」
俺の言葉に女が敵対心を剥き出しに吠える。自分の優位性が崩れるのが許せないんだろう。下らねえ。
「アンタも言った通り、誕生日にここで二人でいるのがまず何よりの証拠だろ。それに俺たちはこの後ここのホテルに泊まりますしね」
勢いでは負けねえが、口が上手いわけではない俺は、つい余計な事を言って自分たちをピンチにしちまった。女が意地悪そうに小馬鹿にして笑う。
「ここのホテルぅ!?嘘言わないでよ、ここがいくらするか分かってんの!?二人で泊まるなら10万超えるのよ!?」
 うっ!?そんなにすんのかよ!?
 ならせめて違うとこに泊まることにすれば良かったか……さっきの、その、処女だなんだってのを打ち消す為に泊まりだってことを強調したいだけだったんだが……
女の反論で窮地に立たされた俺が言葉に詰まっていると、俺の腕の中で平穏を取り戻した真夢が落ち着いた様子で口を開く。
「本当です」
「「!??」」
俺もその女も驚いて真夢を見ると、真夢は綺麗な笑顔で続ける。
「今日は私の誕生日で、彼氏の弾くんがお祝いしてくれてるんです。そのついでに、このホテルに泊まるんです」
「だからそれには……」
食ってかかる女に真夢はペアチケットを取り出して見せる。
「裏のバーコードの下三桁。赤字になってますよね?」
見せられた女の顔が引き攣っていく。
同時に俺も驚きと焦りで心拍数が急上昇していくのを必死に隠す。
「先輩ならご存知ですよね、これがルームナンバーだって。弾くんの言ってることは本当です」
そう言って真夢はチケットを女に見せると、女はそれを食い入るように見て、そして悔しそうに俺を睨む。
「でも!証拠として弱くない!?部屋が取れただけでしょ!?」
 まだそんな事言ってくんのか……もうどうだっていいじゃねえか。余程自分が一番じゃないと気に入らないタイプの女で、可愛い真夢のことが心底気に入らないんだろう……
「本当に付き合ってるって証拠を見せなさいよ!」
「証拠か……」
 俺は考える。
 俺も足が震えるほど驚いてる所だが、どうやらここのホテルに泊まるという事はこのチケットで実証できたようだ。
 あとは、ここでどう見せれば、この女を一泡吹かせられる……?
ふと浮かんだことは、真夢にも迷惑になる事だろう。それでも、散々真夢をコケにしやがったコイツらを完膚なきまでに叩きのめしてやりてえ。
外ではちょうど大きなパレードが始まったようだ。みんなそっちに注目してるし、店も空いている。一瞬でそれを確認した俺は……
 真夢に強く口づけた。

「!?!!?」
女どもが驚いているのがわかる。そしてごめん、真夢も。
ちょっとチュッとした程度のキスじゃ、ガキくせえだなんだとアイツらはどうせ騒ぐだろうと踏んだ俺は、キスしたまま真夢の唇を無理やり開いて舌を差し込み真夢のものを探す。
くちゅ……と、俺達の舌が絡む音が周りにも届いただろう。そしてそれは、真夢に深いキスをしているという事実を知らしめただろう。
俺の腕の中で身を硬くしていた真夢から力が抜けていって、探し当てた舌からも完全に力が失われていくのが分かる。俺は角度を深さを変えて、真夢の口内を犯していく。
 ぴちゃ、れちゅ、ちゅっ、にちゅっ、くちゅ、んちゅ……
唇と舌から、唾液の合わさる卑猥な音が響く。されるがままになっていた真夢が俺に応えてくれて、その事に気付いた俺は、それが真夢の答えだと信じてさらに真夢を求める。
「んんっ!……ふぁ……ん……」
真夢の鼻から抜ける色っぽい声が更に俺の欲情を煽る。
どれくらいの時間だろうか、俺達は夢中で舌を絡め合っていた。周りの奴らの声などもう聞こえないし、周囲の音も何も聞こえない。
「……んぅっ……はっ……」
俺は名残惜しい気持ちを抑えて唇を離すと、最後にちゅっと上唇を吸うようにして離れる。その際に真夢の下唇に俺の唾液で出来た橋がかかったのを見届けた後に、そのまま女の目を見据える。女は呆然と俺達を見ていたので、そのまま静かに告げる。
「見ての通り、俺達は付き合ってる。だからアンタの言ってることは全部デタラメだ」
俺の言葉を受けて女がハッとする。そして真夢を見た。
 女は、今までとは違って怯えた目をしていた……優位性が完全に砕かれた今、真夢が怖いのだ。後ろの野郎どもは若干前屈みになってるじゃねえか。
「嘘よ!こんなの……こんなの認めない!」
女はそう叫んで真夢を憎悪の籠った目で睨むが、当の真夢はうっとりとした表情で俺に身体を預けている。それを見て女はワナワナと震え始めた。
「行こうぜ、真夢」
真夢もハッとして慌てて席を立とうとするのを、尚も奴らは突っかかってこようとする。
「待ちなさいよ!」
ヒステリックに言う女に言い渡す。
「何すか?流石にこれ以上はこんなとこで見せらんないっすよ。捕まっちまう。それとも部屋まで見に来るんですか?やめて下さいよ」
そう言ってやると女はますます悔しそうに、男どもはますます前屈みになっていく。
 やべえだなんだとざわつく奴らの声を聞いて気付く、そうか、こいつら……!
「あと、お連れの男達?俺と真夢のキスを夢中んなって見てましたけど、いいんですか?あ、それはアンタもか。アイツら、さっき真夢の事ナンパしようとしてましたよ。アンタだけに夢中でいるよう、しっかり管理しといて下さいね」
俺がそう言うと、女は怒りと羞恥で顔を真っ赤にし、男どもをキッ!!と睨みつける。男どもは「マズい!!」という顔をして、すぐに取り繕う。
「そんな訳ねえだろ!な!?」
「そうそう!初めて見るよ、あんな猫耳カチューシャの子なんて……あ、やべ!」
男どもが必死にアレコレ言うのを女のヒステリックな声がそれを遮った。
「アンタ達!?どういうこと!?」
奴らが内輪揉めし始めた所で、俺は真夢の手を引いて店を出た。
 パレードの間を縫って追いついて来られないように、急いで歩く。しばらく歩いて、穴場の休憩スポットのような場所に辿り着いた所で、俺達は足を止める。
「真夢、大丈夫か」
真夢ははあはあと息を切らしながら俺の顔を見ると、ガクッと膝を着くように脱力した。
「真夢っ!?」
「あ、はは……腰抜けた……」
そう言って情けなく笑う真夢を見て、俺も少し笑って。
「真夢……その……ごめん」
「なんで謝るの」
真夢は、今度は下を向いたまま言う。
「いや……その……無理矢理キス、したし……」
真夢の肩に手をやると、真夢はそれを取って立ち上がる。
「俺、真夢がバカにされるのがどうしても許せなくて。気付いたら勝手に……ごめん、やりすぎたよな」
「弾くん、他の子にも同じようにするの?」
真夢が、俺の目を見つめて、少し怖い顔で言う。
「他の女の子でも、キスした?」
「しねえよ!あんな事……真夢だけだ」
俺は必死で否定する。例えばミカやカンナが同じような目にあったとしたら、そりゃ庇ってはやるだろうけど、抱きしめたりキスしたりまではするはずがねえ。
そう言うと真夢の目から涙が一筋伝っていき、俺は焦ってしまう。この涙は何の涙なんだ……?
それでもなんとか気持ちを奮い立たせて、もう一度伝える。
「俺がキスしたい、抱きしめたいって思うのは真夢だけだ。俺は……」
「私も、弾くんとしかしたくないよ」
俺が最後まで言う前に、真夢が遮る。そして俺の胸にトン、と頭を預けてきた。
ツヤツヤした柔らかい髪が、甘い匂いが、俺の理性をこれでもかと煽ってくる。俺は真夢の肩に手を置くと、顔を近付けてまた唇を奪う……
「んぅっ……」
俺が求めると、真夢もそれに応えてくれる。もうさっき何度もキスしてるのに、未だに胸が高鳴ってくるのを感じる。そしてもっと、もっと深く長く味わいたくなる。
一度唇を離して真夢を見ると、とろんとした目で俺を見上げていた。この小悪魔め、そんなに俺を煽ってどうするつもりなんだ……?
 息がかかりそうなほど近い距離で、目を見つめてハッキリと告げる。
「真夢……俺、お前のことが好きなんだ」
「……本当なの……?」
真夢は、俺が今言った事を信じられないといった顔で言う。でも俺だって信じて貰えないなんて心外だ、もう何度も言ってるのに。
「本当だよ」
だから俺はもう一度そう告げると、また唇を近付ける。今度はちゃんと、俺の気持ちを分かってくれと思いながら……そして唇を押し付けると、今度は向こうからも応えてくれる。
真夢の全てを味わいたい俺は、自然と舌を伸ばして唇を舐める。真夢も俺の意図を察したのか、唇を開けると舌を出して迎え入れてくれる。
「んむ……んっ……」
お互いの舌を絡ませ合い、求め合って貪り合うと、もう止まらない。もっともっと味わいたくて、もっともっと欲しくて……俺達はお互いを貪り合う。
俺が真夢を上から見下ろす体勢になって、夢中でキスしていると少し苦しそうな声が聞こえる。
「んっ、ぷは……likeの好きじゃなくて……?」
「LOVEの好き、だ……100%性的だぜ」
「ふふっ、もう、台無し……それに捕まっちゃうよ、こんなとこで……」
ハッとして周りを見ると、カップルが多いとはいえ明らかにイチャイチャしまくっている俺達を皆んなチラチラと見ている。
「ヤベ……!とりあえず行くか!」
「ふふっ、そうだね」
俺と真夢は今度こそ恋人繋ぎでその場を後にする。薄暗いからスキニーパンツでもギリギリセーフなはずだ、勃ってねえけど!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA