「いいかい?真夢、こんな感じでいくんだよ」
「わ、分かった……」
「はは、まあそんな気張らなくてもきっと、いや絶対大丈夫だぜい」
ミカちゃん、源さんの二人と私はこんな話をしながら飲み会へと臨んだ。
「でもさ、やり過ぎかな?酔わせて二人きりなるなんて、輩のすることだよね?」
「輩って!!いいんだよ!もうアンタ達はこれくらいの荒療治が必よ……あ、いけない」
ミカちゃんは口を押さえるが、私は「?」とよく分かっていない。
「そうだぜい、真夢。弾だって、自分で自分の気持ちに気づいてないだけなんだ」
源さんがそう言うと、ミカちゃんも頷いて言った。
「そうそう!真夢とのことを真剣に考えて悩んでるんだから!鈍いからそれにすら気付いてない、っていうか、気づかないふりをしてるっていうか……」
「そ……そうなの?」
私は戸惑うが、二人は続ける。
「まあよ!二人になるくらい、バチ当たんねえだろ!酔った弾の介抱する、至極真っ当なこった。とはいえ潰しすぎると真夢が本当に世話が大変になるから、ほどほどにな」
「大丈夫かなぁ……二人きりって分かったら弾くん嫌がるんじゃ……」
「だああ、もう!そうなった時は連絡しな!!助けてやるから、そんな風にはならないし!」
そんな事をヒソヒソ、退勤後の休憩室で話していると、明るい声が聞こえてくる。
「おーう!お疲れ!早えなお前ら!」
「あ、弾くん……」
振り返るといつものニコニコ顔で弾くんが私たちを見ている。
「これで全員揃ったのか?」
「うん、カンナ今日無理だって」
「じゃあ行くか!いつものとこでいいんだろ?」
そんな事を言いながら、私達四人はいつもの食事処へ向かったのだった。
……のだけれど。
「ぷはぁーーーーー!!」
「ま、ま、真夢?!?」
「ちょ、おま……飛ばしすぎだぜい!」
飲み会が始まるや否や、テンパってペースを上げて飲みすぎたのは、私だった。
(ちょ、ちょっと真夢!!?アンタが潰れてどうすんだい!)
(こりゃちょっと計算が狂ったな……弾はまだ全然普通だよな)
「何だ?真夢のやつ、もう酔っ払ってんのか?」
弾くんの問いかけに、ミカちゃんと源さんは自然に答えてくれる。
「うん、そうみたいだね。疲れてんのかな?」
「まあ、今日はまだ早いから大丈夫だろ」
そんな二人のフォローも耳に入らずに、私はグイグイとビールを喉に流し込む。そしてまたお代わりを頼む。
「おい、大丈夫か?お前そんな飲んで……」
「だーいじょぶだよ!今日私が飲まないでどーするの!」
「今日?何か飲まなきゃならねえワケでもあんのか?」
私を心配した弾くんに、盛大にボロを出した私。己の失言にギクッ!としつつ、慌てて取り繕う。
「あ、いや!その、ほら!折角の飲みの席だしさ?」
私がそう言うと弾くんは心配そうな顔をした。
「そうだけどよ……あんま無理すんなよ?飲みっぷりいいのはいいけど、ハイペースで飲むの真夢らしくねえぞ」
「そうだよね、あははは」
私は何とかギリギリでそう誤魔化していたつもりだけど。
今日は決めたい!!
何とか二人きりになりたい!!
その為にも私が頑張って弾くんにも楽しく飲んでもらって……
そんな緊張をかき消す為に、まずは自分がハイペースで飲んでしまって……呆気なく撃沈したのだった。
「真夢!お前飲みすぎだって、そんな無理すんなよ!」
ふわふわ気持ちいい心地のなか、弾くんの声が聞こえる。
酔っ払って潰れた私の耳には届かないけど、源さんとミカちゃんも小声で相談していた。
(どうしよう源の字、真夢が潰れちゃったよ……)
(ったく仕方ねえなあ……まあそんだけ力入ってたんだろ。まあいい、ならプランBだぜい!)
「おい、弾。お前、真夢ちょっと介抱してやれるか?」
「えっ!?俺が!?」
あれ?源さん、何言ってるの??
私が酔った弾くんを介抱するんでしょ??
あれ、でも今酔っ払ってるのは私で、弾くんはピンピンしてる……
「アタシと源の字、ちょっと都合悪くて。今日この子、家でも一人らしいんだよ。一人で留守のなか潰れてるのも可哀想だろ」
「そうなのか?家族留守なのかよ……」
何言ってるのミカちゃん??
うち、今日お兄以外はみんないるよ??
あ、でも今日は帰りませんかもです!!って高らかに宣言してきたんだっけ……本当何やってんだろ私……
「まあ俺は帰っても暇だけどよ、俺んち連れて帰るわけにも……」
弾くんの家!!!?
あの社宅の、何度かだけ、みんなで宅飲みで入ったことのあるお家!!?
行きたいよぉ……でも弾くんが難色示してるよ……
「あのな、真夢が俺に介抱されるだなんて無理だろ?介抱ならむしろミカが」
そんなこと言わないで弾くん……今日だけでいいから、難しく考えないでいいから、私を弾くんのお部屋に連れてって!!
「……だからさ、アタシも真夢は心配だしみてやりたいけど。この後アタシ、実家行かなきゃなんないんだよ」
「おいらもな〜、ちょっとな。つーか、おいらが一晩介抱してやっても、お前いいのか?弾」
源さんの言葉に、弾くんはピクッと反応する。
「あ?源三が真夢を一晩介抱するって?」
「ミカが女同士でベストなんだろうが、無理なら仕方ねえじゃねえか。おいらか弾がみてやんなきゃ」
「そりゃそうだけど……」
弾くんは歯切れ悪そうに言葉を濁す。そんな弾くんにミカちゃんも説得してくれるけど。
「だって!真夢の家誰もいないし、一人じゃ可哀想だろ!?」
「だからってよ……俺ん家は無理だろ……」
弾くんがそう言ってる間に、私はムクっと起き上がった。そしてフラフラと立ち上がる。
「真夢?」
「おい、大丈夫か?」
「……る」
「え?」
「わたし……帰る」
私がそう言うと、弾くんが慌てて駆け寄ってくる。
「真夢?大丈夫かよお前?」
私はそんな弾くんに構わずに言う。もうこうなったらヤケクソだよ!
「私、一人で帰るから!」
「え!?おま、何言ってんだよ!危ねえぞ!?」
弾くんは私の腕をグイッと掴む。
「大丈夫だってば!」
掴まれた腕を振り解くけど、その拍子によろけた私を弾くんは抱きとめた。
「あぶねっ!だから無理すんなって!!」
「無理するよ!!!!」
私は大声をあげた。皆んなはびっくりして私を見る。
「だって……弾くん、嫌なんでしょ」
「え?」
「私と二人は嫌なんでしょ!」
私はもう恥ずかしさも何も無くて、その勢いで言った。すると弾くんは頭を抱える。
「……別にお前と二人が嫌だってわけじゃ……ただ、俺は……」
そんな弾くんに、私はゆっくりと顔を向けると、弾くんはギョッとする。
「迷惑……かけてまで……嫌がってるのに……っ、介抱なんていらない、私帰る……」
ぼろぼろと涙を零しながら言う私に、弾くんは慌てる。
「あっ!?だから違くてだな!!」
そして源さんとミカちゃんも慌てて駆け寄ってくる。
「おい真夢!ちょっと落ち着けって!」
「そうだよ真夢!!落ち着いて話しな!ね!?」
二人がそう言っても私はもうパニックでどうにもならなかった。すると源さんとミカちゃんが顔を見合わせてうん、と頷いた。
「分かった、真夢。今晩はおいらと一緒にいようぜい」
「え?」
んん???何がどうしてこうなった??
だって、源さんを好きなのはミカちゃんなのに、ああそっか、私が作戦を台無しにしたから話を合わせてくれてるのね?
全くどこまで私は迷惑をかけて空回りすればいいんだろう。ただ私は、弾くんと一緒にいたいだけなのに。
「げんさ……」
(いいから。真夢、おいらに任せとけ)
(え?)
源さんが周りには聞こえない声で私にそう伝えてくれる。ミカちゃんもうん、と頷いている。
「おいらの家にくるか?それとも真夢の家に行く?どっか店で過ごすか?明日の朝までおいらが責任もって一緒にいるからよ」
「でも、私……そんな……」
ミカちゃんが言葉を挟んでくる。
「真夢?アタシらは仲間だよ。嫌なんてことあるわけないんだよ?」
(真夢、弾がアンタを他の男と二人きりで過ごさせるなんて、出来るわけないんだから)
その言葉を聞いた瞬間だった。
弾くんが私の手を引っ張った。そしてそのまま出口に向かって歩き出す。
「あっ!?」
源さんとミカちゃんに視線を向けると、二人は私たちを見送ってくれた。
「俺が送るから」
弾くんはそう言って、私の手を引いて店を出た。
「あの……弾くん、ごめんね」
「何がだよ?」
「……その、私……」
「もういいよ、気にすんなって」
緊張の糸が切れたのか、足がガクッと崩れ落ちそうになる。そんな私を抱きとめて弾くんが言った。
「お前、飲みすぎなんだよ」
「……ごめんなさい……」
「いーよ別に。お前が無理すんの、今に始まった事じゃねえだろ?でもこんな無理の仕方はやめろ。つーか、そんなに無理すんな、何においても」
「……ごめん……」
「だから謝んなくていいって。でも、お前が苦しむのを見るのは嫌なんだよ」
そう言ってくれたけど、私は悲しくなった。
今日はこんな風になるはずじゃなかったのに……
そんな風に落ち込む私に、弾くんは優しい声で言う。
「もう歩くの辛えんだろ?おぶってやるから乗れよ」
「……」
弾くんの優しさが身に沁みる。筋肉質な逞しい身体が、軽々と私をおぶって歩き始める。
「お前、前言ってたよな。一人の家で夜過ごすのが怖くて苦手だって」
言ったね……何それ、私かっこわるう……!
「なら、仕方ねえな。もう諦めて俺んち来い」
「えっ!!」
「安心しろ。友達なら何も起こり得ねえだろ」
弾くんは明るい声でそう言って笑ったけど。
私はその言葉が胸に突き刺さって……弾くんの肩口で泣いた。
夢にまで見たおんぶなのに、こんなにも悲しくなるのは何でだろう。
こんなにも幸せな状況なのに、泣きたくなるほど絶望的なのはどうしてだろう。
弾くんの首元に顔をうずめて、私は泣いた。
私の恋は叶わないのだと、改めて突きつけられた気がした。

-—*—*—*—*
「今頃、友達だから何も起こらねえとか言ってんだろうな、弾の奴」
「だろうねえ……それ聞いて真夢、泣いてんだろうなあ……可哀想に」
店に残った源さんとミカちゃんが二人でそんな話をしているなんて、私は夢にも思わなかった。
「あいつ、そう思い込むことで自分を保ってるつもりでいるんだからよ。真夢への気持ちは友情だって」
「友情ねえ……それならあんな源の字のカマかけになんてあっさり乗るはずないのにね」
「本当は真夢が欲しくて仕方ねえのにな。でも弾は優しすぎっからよ、真夢のこと怖がらせないようにって一生懸命なんだよ」
「本当はお互い好き合ってんのに……その気持ちが絡み合っちゃってわけわかんなくなってんだろね」
「だな……」
そんな会話が繰り広げられているなんて、私は知る由もなかったのだけれど。
「真夢にはちょっと可哀想だけど、少しだけ耐えて頑張って貰おう」
「そうだな。真夢なら大丈夫でい!きっと今晩でケリつけるだろうよ。アイツほど弾を想ってやれる奴はこの世にもどこにも居ねえんだから」
二人はそう言って合って、社宅の方を見やったのだった。

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