「ああどうしよう……どうしよう……」
トイレから出て私はリビングにへたり込む。もう何度も見てるけど、スマホの管理アプリを開く。
(一週間……)
くるべきモノの印が一週間付けられず今日に至っている。ストレスや体調によっても一週間はまあ、かなり怪しいとはいえ無くはないだろうけど……
「身に覚えしかないもんなあ……」
そのままソファに突っ伏する。
「どうしよ……」
言ったって仕方ないけど、同じ事を繰り返す。
弾くんは気付いているだろうか。私が今、どんな気持ちでいるか、何を悩んでいるか。
「はあ……眠……弾くんも帰って来ちゃう、ご飯作らなきゃ……」
そう、もうこんな時間。ご飯作らなきゃ、弾くんがお腹を空かせて帰ってくるのに。
料理は家事の中でも結構上位の好きな家事。だって、やれば食べられるから。
だけど、このことを悩み始めたあたりから、なぜか全く作りたく無くなった。疲れてても「よーし、やるか!」って出来てたことが、どうしてもやる気になれない。
眠い。だるい。永遠に休んでいたい。
「どうしよ……」
私はもう一度同じセリフを呟いて、意識を手放したようだった。
-—*-—*-—*-—*
「真夢、おい真夢」
優しい声が聞こえる。大きくて男らしい綺麗な手が私の肩や頭、頬に触れる。大好きな匂いがする。
「真夢、起きろよ。こんな所で寝たら風邪引くだろ」
大好きな人に名前を呼ばれるのってこんなに幸せなことだったんだ。
それに気付いて自然と笑顔になる。
「……弾くん……」
「なんだよ、そんなに幸せか?」
そう言われてハッとして目を開ける。目の前には大好きな人が笑っている。
「目ぇ覚めたか?おはよう、真夢」
「はれっ!?弾くん!?」
「ははは、何だそれ」
弾くんは明るく笑いながらそう言って私の頭を撫でた。
「寝惚けてんのか?」
「え、あっ、うん……あれ?」
バッと体を起こす。なんで弾くんが!?
「うおっ、ビックリした」
弾くんが少し引いているがそれどころじゃない。
「……え、今何時!?ひえっ!八時!!?」
「おう。ごめんな、遅くなっちまって」
申し訳なさそうに弾くんは頭を撫でてくれるけど、違う、そうじゃない!
「ごめん!寝ちゃってた……まだ何も出来てなくて、ごめんね……今すぐご飯作るから!」
私は慌てて身体を起こそうとするけど、寝起きだからか眩暈を起こしてふらついた。
「わっ!!危ねえ!!」
運動神経抜群のハイパーイケメンである弾くんが支えてくれたお陰でひっくり返らずに済んだ。
「あ、ありがとう」
「おう。倒れず済んで良かったぜ。でもな、疲れてんのに無理すんな」
そう言って私の頭をポンポンと撫でる。安心する大きな手にうっとりしながら、私は首を横に振った。
「ううん……疲れてないよ」
「すぱだりの俺様の目を欺けるとでも?」
弾くんはにひひとイタズラっ子のように笑う。
「あは、バレた?」
私は白状するしかなかった。だって、弾くんの目を騙せるわけなんてないから。
「お前が料理に手抜きなんてあり得ねえからな」
そう言って弾くんは私の頬を優しく撫でた。
なんかくすぐったい……そしてちょっと恥ずかしい……けど心地良い……そんな感覚に襲われた。
「弾くん……」
「ん?なんだ?」
「……キスしたいです」
私がそう言うと、弾くんの目は見開いて、きょとんとしたあと、目が細められて笑顔になった。
「ああ……俺もだ」
顔が近付いてきて目を閉じる。ちゅっと音を立てて唇が重なると、胸の奥がキュンキュンする。そのまま何度も触れるだけのキスをしてからお互いに見つめ合ってふふと笑った。
「実はな。そんな気がして、弁当買って来たんだ。勝手にごめんな」
「え!?あ……ホントだ、あそこのお弁当屋さんでしょ?」
「おう。あそこのやつ、お前好きだろ。そんで、何となくだけど、いつものガッツリ唐揚げじゃなくて、野菜炒めにしたぜ」
「……そんなことまで分かるの、本当にスパダリじゃん……」
いつもなら唐揚げ一択!くらいの私が、今日は何だか野菜炒めのような少しは軽いモノが食べたいことまで弾くんはお見通しだった。
「そうか?」
「うん……嬉しいよ」
えへへと笑ってから顔を上げると、大好きな弾くんの逞しい胸板が目の前にあって、気づくと私は抱きしめられていてそこに頬擦りしていた。
「あれ?」
「どうした?甘えん坊かよ」
弾くんが笑う。私の髪を撫でてくれるその手は温かくて優しい。
「……うん、そうだよ……私は甘えん坊だし、ワガママだし、弱虫だし、泣き虫だよ……」
自分でも何を言っているのかよく分からなかったけど、とにかく本音を伝えなきゃと思った。甘えてる自覚は昔からあったけど、最近は特に酷くなっている気がするし……そんな私を弾くんは優しく受け止めてくれる。
「そっか……俺はそんな風には思わねえけどな。お前はいつも頑張りすぎてるくらい頑張ってるし、優しいし、しっかりしてる。でもまあ、俺様には確かに甘えん坊だな?」
「んもう!」
「ははは!でもな、そんなお前がするべきことは、料理なんかじゃ無くてコレだ」
そう言って弾くんは私を強く抱き締めてくれたあと、小さな紙袋を渡して来た。
「なにこれ?」
「開けてみろ」
弾くんに促されて袋を開けると、そこには小箱があり開けてみると……指輪が入っていた。シルバーのリングの真ん中にキラキラしたストーンがついていて、シンプルだけどオシャレなデザイン。
「……へ!?これって……!?」
ビックリして弾くんを見ると、照れたように笑っている。その笑顔がカッコよすぎて私の心臓はキュンキュンと締め付けられた。そしてそれを誤魔化すように私は叫ぶように言った。
「なんで!?」
思わず大きな声が出てしまった私を見て弾くんがククっと笑う。
「何つー顔と声してんだ」
「だって!!」
「それだけじゃねえ。下も見てみろ」
「え?」
確かに底の方にまだ何か入ってる。何だろうと取り出すと、そこには何かの用紙とまた茶色い紙袋に入った細長い箱。
「こ、これは……まさか!?」
「婚姻届……ってやつだ」
「こ!?婚?!?いん!?」
びっくりして思わず大きな声を出してしまった私の口を弾くんが押さえてくる。
「しーっ!声でけーよ!!」
そう言われてハッとして口を紡ぐと、今度は優しく頭を撫でてくれた。
「一番大事なもん見てねえなお前。っとに、天然カマトトなんだからよ」
呆れたように弾くんが笑う。
天然カマトト?それはどういう意味なのかよく分からなかったけど、一番底に潜り込んでしまっていた細長い箱を取り出してみると……
「んん?何これ……えと……に、」
声に出して読みかけた所で、くっと言葉に詰まる。『妊娠検査薬』、箱にはしっかりとそう書かれている。
ズキン!と心臓が痛くなって、冷や汗が出た。
「は、弾くん……これ……」
何とか絞り出した声は掠れていて、多分震えてる。怖くて下を向けなかった私の肩を弾くんが両手で掴んでしっかりと目を合わせて言い聞かせるように言った。
「真夢」
「……っ」
思わず息を飲む。どうしよう。目が見られない。何を言われるんだろう。もしも否定的な事を言われてしまったら……
そこで初めて気が付いた。どうして一番言わなければいけなかった弾くんに言えなかったか。
私、怖かったんだ。
妊娠してるかもしれないことよりも、それをもしも弾くんが拒むようなことがあったら。それが怖くて私は今日まで……
「真夢」
もう一度弾くんが私の名前を呼ぶ。優しい声。いつもと同じ、愛に満ちた声。でも怖くて目を合わせられない。
「真夢、こっち見ろ」
そう言って弾くんは私の頬を両手で包み込み、優しく目を合わせてくれた。その手は温かくて優しくて……涙が零れそうだった。
「真夢」
弾くんがもう一度私を呼ぶと、目に溜まっていた涙が溢れた。それを掬うように弾くんの唇が私の目尻にちゅ、と音を立てて触れた。そしてそのまま何度もキスをしてくれるから涙が止まらなくて、私は思わず抱きついた。
「ごめんっ!ごめんなさいっ!!」
私がそう叫ぶと弾くんは驚いた顔をした。
「えっ、何がだよ」
「だ、だって、だってコレ……」
「ん?」
「ご、ごめん……私……結婚もしてないのに妊娠なんかしちゃって……」
私がそう言うと弾くんは首を傾げる。
「何言ってんだお前?妊娠は一人で勝手にするもんじゃねえだろ」
「でも!!」
「相手が俺じゃねえなら話はアレかもだけどよ……」
「何を言うの!!?弾くん以外あり得ないでしょ!!?」
私が叫ぶように言うと弾くんは真剣な顔になった。そして私の頬を両手で包み込んで目を覗き込んでくる。真っ直ぐに見つめられて私は身動きが出来なくなった。
「真夢」
「……はい」
私が小さく返事をすると、弾くんは言った。
「なら、何の問題もねえだろ」
「………」
何の問題もない?何でだろう。
私達はまだ未婚だし、問題だらけだと思うんだけど……、あ、だから指輪と婚姻届を……って、そうじゃなくて……
「……何で知ってるの……」
「だって、来てねえだろ?」
「え……」
弾くんは真剣な表情のまま言った。
「生理」
ああ……バレてたんだ。分かってくれてたんだ。
「なん……」
「あのなあ。いっくら鈍い俺だって、そんくらい分かるぜ。もう半年お前とここでこうやって暮らしてんだし。カレンダーに印はついてないし、遅れてるな〜ってぼやいてるのも聞いたし、ゴミだって俺が集めたりもするだろ」
ああ……言われてみれば確かにそうだ。でも、それでも分かってくれるんだ。
「それに俺、身に覚えしかねえし」
「!!!」
それはさっき、私が一人で悶々としていた時に思っていた言葉そのもので。
「あれだけセックスしまくってりゃ、そりゃ妊娠してたっておかしくねえよ」
「でも、一応避妊してたし……」
「それだってしたりしなかったりだろ?世の中絶対はねえし、それに俺は……」
そこで弾くんは一度言葉を止めて。
「遅かれ早かれこうなるだろうと思ってた。そんで、そうなればいいと思ってた」
「……弾くん!!!」
その言葉に私は弾くんに思いきり抱きついた。嬉しくて涙が止まらなくて、そのまま声を上げて泣いた。
そんな私の背中を優しく撫でてくれる弾くんの手はやっぱり大きくて温かくて安心できて幸せだった。
「俺こそ、勝手にごめん、だよな。そんなこと思ってて。そんで、言ってなくて」
「ううん……」
「先に言ってりゃ、不安にさせなくてすんだ。子作りしてる、ってなつもりまではなかったけど、いつ出来てもいいと思ってたのは事実だ。俺は真夢と一緒にならない人生なんて考えられねえし」
「そうなの……?」
「そうだよ。だからもしかして、ってなった時、いい機会だと思って勝手に色々準備した。ごめんな。真夢は色々考えて不安になってたっていうのによ」
「弾くんんんん……!」
「ごめんな。こんな風に俺、全然至らねえ男だけどよ。お前の……、真夢の事を愛してるって事は嘘偽りのない事実で、誰にも何にも負けるとは思ってねえ」
「も、やめて……止まらないから……!」
嗚咽しまくって散々泣きつくして、しばらくして私が泣き止むと、弾くんはもう一度真剣な目で私を見つめたあとこう言った。
「真夢、俺の嫁さんになってくれ」
「……はい!!」
「色々順番間違えてごめんな」
「そんなの……私こそ、すぐに相談しなくてごめん」
「あ、それはそうだぞ!?何か不安や心配なことがあったら何でも一番に俺に相談するべきだ!八つ当たりでも何でもいいぞ!」
そう言って笑う弾くんの顔を見てると、何だかどんどん安心してきて、自然と笑顔になった。
「ん?どした」
「ううん、弾くんは素敵な旦那様だなあって」
私がそう言うと弾くんは一瞬目を丸くしてから笑い出した。
「ぷっ!はは!あはは!ったくお前ってやつは本当に……」
「な!?なに!?」
「いや?俺の嫁さん最高だなーと改めて思っただけだぜ?」
そう言って私を抱き締めてくれたから私も抱き締め返して……そのまままたキスをした。何度も何度もした。
「さて、普段ならこのままもつれ込む所だけどな。検査すっか」
「……怖いよう……」
「何だよ、何が怖いんだよ」
「だって……」
「ん?」
「……妊娠してたら……困る……でしょ」
私がそう言うと弾くんがまた笑う。
「何で困るんだよ」
「だって、弾くんの重荷になるもん」
私がそう言うと弾くんはやれやれという顔をした。そして……
「あのなあ!真夢!お前一人で妊娠したわけじゃねえんだぞ!?二人でしたんだろ!」
「え」
私を見つめるその目は真剣で、真っ直ぐで、迷いも揺らぎもない綺麗な瞳だった。
「お前と俺で愛し合った結果だろ」
「!!」
「それが俺には嬉しくて幸せでたまらねえ。なのに何が重荷だよ」
その言葉に私の目頭がまた熱くなって、それを誤魔化すように弾くんに抱きついた。そして私からもキスをした。何度も、何度も……そうして唇が離れると、弾くんが言った。
「だからな。結婚してくれるか」
「……うん」
私がそう返事すると今度は弾くんが私を強く抱きしめてくれたから、私も力一杯抱きしめ返した。
もう絶対離れないし、離したくないと思った。だって私達の人生はこうやって重なり合って続いていくんだって思ったから。
「まあ、怖えは怖えわな。体験したことねえことだし、一生のうちでもそうない体験だろうし」
「自分の中に別の人間がいるかもしれないと思ったら……怖くて……」
「おう」
「でも、私弾くんとの赤ちゃん絶対可愛いから……だから頑張る」
私がそう言うと弾くんは笑ってまたキスしてくれた。それは触れるだけの優しいキスだったけど、嬉しい気持ちが溢れ出た。
その後弾くんが立ち上がって私に手を差し伸べる。その手を掴むと優しく立ち上がらせてくれたあと……お腹をそっと撫でてくれて、それがまた心をあったかくさせた。
「まあ、まだ分からないんだし!こんだけやいやい言っててただの生理不順かもしれないしね!」
私が明るくそう言うと、弾くんは「まあ、そうだな」と頭を撫でてくれた。
(……でもまあ、出来てんだろうけどなあ……)
弾くんが心の中でそう呟いていたなんて、この時の私は知らなかった。
そうして、その後二人で検査薬を試すことになって……私はトイレの前で立ち止まる。
「吐きそう……」
「何だ、つわりか?」
「違うよ!!緊張しすぎて気持ち悪いの……それからまだわかんないって言ってるでしょ!?」
「んっ?んん、んー〜……そうだな?」
(だから多分結果は決まってると思うんだけどな……)
弾くんは始終優しく返事をしてくれるけど、心の中では妊娠の確定を確信しているみたいだった。
「おしっこひっこんじゃったかも……」
「真夢ー〜!」
「だって!尿検査とかもしなきゃ、って思うと尿意ってなくならない??」
「ビビりすぎだろ!?どっちにせよ結果はもう決まってんだからよ、どんと行けどんと!」
弾くんは始終優しいけど呆れたように笑ってハッパをかけてくる。八波だからかな、なんて冗談を言ってる場合じゃないか。
それでも二の足を踏んでいる私に弾くんは
「あんまり行かねえなら俺が一緒に入って一緒に検査するぞ!?」
「ええっ!!?」
「俺が棒持ってかけさせるぞ?それでもいいのかよ!?」
「ややややです!!難易度高すぎる、プレイにしても!!」
「じゃあ早く入ってさっさと小便ちゃっとかけてこい!!」
「うえええーー〜はい!!!」
私は弾くんに背中を押されてトイレに入った。
「……ったくよぉ……結果なんて分かりきってるだろうに……まあ、だから怖えのか。どっちにせよ、俺がついてるから心配すんな真夢」
トイレの前で弾くんがそう呟いたのは、やっぱり知らなかった。
数分後。
「あっ、真夢、どうだった?」
「………」
トイレから出た私は弾くんの問いかけをスルーして、手洗い場に向かい手を洗ってそのままソファに突っ伏する。
「おい、真夢?」
「……」
「真夢ちゃん?」
「……」
「……結果は?」
弾くんが私の肩を揺すって聞く。私はそのままソファに潰れたままトイレの方を指さしたのだった。
「ったく、しょうがねえなあ……どれ、見てくるからな?」
トタトタと廊下を歩く音が聞こえたと思ったら、弾くんがトイレから出てきて私のそばに来て座る。
「……見た?」
「いや、まだ。一応こっちで見るかと思って。じゃあ見るぞ?」
そう言って弾くんは検査薬を見たようだった。
「どれ、どっちが判定窓……とか言う以前に、両方ともに印があんな……」
「………」
「心の目でやっと微かに見えました!とかいうクチコミも見たが、俺の目にはくっきり見えるぞ」
「……」
「やっぱり妊娠してたな。おめでとう」
弾くんが嬉しそうに言う。私は突っ伏したまま頷くしかなかった。
「うん……」
「どうした?嬉しくねえのか?」
弾くんが私を覗き込むようにして聞いてきて、私はそのままの姿勢で答えた。
「嬉しいよ……嬉しいに決まってるじゃん」
「じゃあ何でそんな凹んでんだよ?」
「……だって……」
「ん?」
私が顔を上げて弾くんの顔をちゃんと見る。でも何て説明しようか分からなくて、結局は思った事をそのまま口にした。
「だって……弾くんとの赤ちゃん、嬉しいよ?嬉しいけど……」
「おう」
「私達の子供だよ?ちゃんと、生きて産まれてきてくれるんだよね?」
「……」
私がそう言うと弾くんは少しびっくりしたようだったけど、すぐに笑って頷いてくれた。そして私のお腹に優しく触れると言った。
「当たり前だろ」
「でも……」
「大丈夫だよ真夢。俺がついてるから。任せろ」
そんな弾くんの言葉に私はまた涙腺が緩むのを感じて、顔はますます緩んでぐしゃぐしゃになっていく。
「うええええーーー〜ん、弾くん、弾くうううんん……!」
「よしよし。頑張ったな」
「うええん、ぐすっ、何を……?」
「全部だよ。検査も、妊娠成立も、全部お前は頑張ってくれたな。えらいぞ」
弾くんはそう言って私の頭を撫でながら何度もキスしてくれた。唇が離れたあとも優しく抱きしめられて、私は安心しきってまた泣いた。弾くんの腕の中は凄く居心地が良かったから。
そうして、一頻り泣いた後……弾くんは言ったんだ。
「妊娠おめでとう、真夢」
「……うん!ありがとう!……で、合ってる?」
「ははは、合ってる合ってる」
ああ……やっぱり私の最愛の人は最高に素敵だなって思った。だからこの人が大好きでたまらないなあって、改めて強く思ったのだった。
「産む……でいいのかな」
「お前今までの話聞いてた?それ以外何があるんだよ」
「両親とか……大丈夫かな……」
私の言葉に弾くんは一瞬だけ考えてから、また微笑んでくれた。そして私を抱きしめていた腕を解いて膝を立てて座り直すと私の方に体を向けた。
「うちが万歳三唱なのは目に見えてる。お前の実家はどうだろう?」
「うちは……まあ驚きはするだろうけど、常々いつ結婚するんだって言ってたくらいだから……」
「じゃあ問題ねえな!」
弾くんはそう言って笑い飛ばした。だから私も同じようにして笑った。そうして笑っていると、ふと弾くんが言った。
「お前は?」
「え?」
「真夢は?赤ちゃん……妊娠してるって分かって、どうなんだ?」
私は笑うのをやめ、弾くんの顔を見る。すると弾くんはとても優しくて真面目な顔で私を見ていた。
ああ弾くん、あなたって、すごいね。
私と出逢ってくれて、私の事好きになってくれてありがとう。
私、私は……
「嬉しいよ」
「うん」
「弾くんの赤ちゃんを身籠もれたこと……すっごく幸せ」
「俺もだ。ありがとうな、真夢」
そう言って私達はまた抱き合った。今度は強く抱き締め合ってお互いの体温を感じた。
そして二人で笑いあったんだ。だから思ったのはただ一つ。
(あなたと一緒に居られて本当によかった。これからもずっと生涯一緒にいたい)
それだけだった。お互いに同じことを考えているのが、お互いに何と無く分かった。
そうして……それから私と弾くんは、この時の心がそう望んだように、数十年の長い年月を二人で共に歩いてゆくことになる。
でも今はまだ、普通の人間の私たちには分からないこと。
今はただ、この今が、幸せに満ちているということだけ。
「俺と一緒に、幸せになってくれ」
「うん、もちろん!」
あなたと出逢えてよかった。
あなたと共に歩いてゆくこれからが、私の生涯の中で一番の宝物になっていくことを確信しながら、私は弾くんの腕に包まれていたのだった。
「愛してるぜ、真夢」
「私も愛してるよ、弾くん」
「あーー!幸せだぜ!勿論お前も愛してるからな。父ちゃんと母ちゃんが絶対に守ってやるから」
そう言ってとても優しい笑顔で私のお腹を撫でる弾くんに。ぱたたっ、と涙が落ちていく。
「真夢は母ちゃんっていうよりママ、か?ははは、ママは涙もろいとこがあるからな。それも、パ……パ……、パ、父ちゃんが守ってやるから」
「ふふっ、パパでいいじゃない弾くんも」
ぐすっと鼻を啜りながら笑みが溢れる。
「だって!俺がパパとか小っ恥ずかしくて……でも真夢が笑ってくれたからいっか」
優しく、明るく笑い返してくれる弾くん。その笑顔に私はいつも救われてきたんだ。弾くんに会えて本当によかった。
「ありがとう、弾くん」
「ん?」
「私、今とても幸せです。……あれ?弾くん、泣いてる??」
「うぐっ……バレたか……ぐすっ、俺だって、俺だって……本当嬉しくて感動して……」
そう言うと今度は弾くんが顔をくしゃくしゃにして笑ったあと私を力一杯抱きしめてくれたのだった。だから私も同じくらいの力で抱き返したら……何だかものすごくホッとしたんだ。
「私が緊張したり不安がったりしてたから、我慢しててくれたんだね」
「そっ、そんなこと、ねえ……よ……!?」
「ふふ、パパも実は涙脆いんだよ。でも、嬉しい時に泣いてくれるの。素敵だよね。あなたに会えてよかったって、嬉しいって……私もとっても嬉しいよ」
「!!!!!……真夢〜……!!」
お腹を撫でる私に、お腹に障らない強さでギュッと抱きしめて嬉し涙を流す弾くんを。
ああ、大好きだなあって。思ったのは言うまでもないよね?
(これからもずっと永遠に)
幸せな日々を共に歩んでいこうね。

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