「なあ真夢、この後寄りてえ所あんだけどいいか?」
「え?うんいいよ、勿論!」
真夢の誕生日の食事を終えて、弾は真夢にこの後の予定を尋ねる。
「じゃあ、ちょっと歩くけど行こうぜ」
「うん!」
弾と真夢は手を繋ぎ並んで歩き出す。
「ねえ弾くん」
「ん?」
真夢に名前を呼ばれ、弾は真夢の方に視線を向ける。
「今日は本当にありがとう。私、今すごく幸せだよ」
「そうか……良かったぜ。そんで、俺もだ!」
真夢が幸せだと聞き、弾も嬉しそうに微笑む。そして2人はそのまましばらく歩き続けた。すると。
「あれ?ここって……」
「おう」
それは、とあるフレグランスの店だった。
「弾くん」
「いや、まあ……な」
真夢が目を丸くして驚いている中、弾は真夢の手を引いて店内に入って行く。そして店員に声をかけ、2人はカウンターに案内される。
「いらっしゃいませ……あっ!?お客様のお連れのお姉さん……!」
「えっ?あっ!あの時の!?覚えてて下さってるんですか!?」
若いが落ち着いて感じのいい女性社員が真夢を見て、驚いたような、しかし嬉しそうな表情を浮かべる。
「それは勿論!その節は大事なプレゼントをお選び頂き、ありがとうございました。あの時お選び頂いたのは確かこちらの品番のものでしたよね……」
「はい、彼に……」
そう言って真夢が弾の方を向くと、店員は目を輝かせて弾を見ながら歓声を上げる。
「わ、本当にお兄さんにピッタリですね!」
「本当ですか!?わー嬉しい!」
「あの時ご自分用に買われていたこちらのボトルもお姉さんピッタリで、お姉さんの為にあるみたいだなと思ってましたけど、お兄さんもすごくピッタリで感動です!」
真夢と店員はキャーキャーと盛り上がっている。
(真夢のやつ……一回の来店でしっかり店員さんまで籠絡してやがんのかよ……)
天然人誑しの真夢に、弾は密かに感心する。
「失礼しました!お客様を放っておいてしまって申し訳ありません。今日の予約はお兄さんの方ですのに」
「いや、慣れてますから平気っすね」
店員と弾のやり取りに真夢は「え?」と弾の方を振り向く。
「え?弾くん、予約してくれたの?」
「おう、まあな」
きょとんとしている真夢と照れくさそうな弾を、店員は微笑ましそうに見ている。
「これ。補充してもらえるんですよね?」
「はい、勿論です!お持ちいただきありがとうございます」
「え??あっ!」
弾は店員に香水のボトルを二本渡す。それは……そう。
去年の弾の誕生日に、真夢がプレゼントした香水と真夢が自分用に買った香水のボトルだ。
「両方ともかなり減ってますね、お使い頂きましてありがとうございます」
そう言って店員は嬉しそうに弾から香水のボトルを二本とも受け取る。
「何かな。ここ、ボトル持ち込むと同じ奴詰めてくれるんだってよ」
「え!?そうなの!?」
弾の話に真夢は驚く。ボトルの持ち込みで同じ香水を詰めてくれるとネットで調べたらしい。
「詰め替えの場合、ボトル代がかかりませんので少しお安くできるんです。それに何より、こういったお誕生日プレゼントでお送り頂いた場合など、ボトル自体にも思い出がある時には詰め替えをお勧めしてるんですよ」
確かに、と真夢は納得して頷く。と同時に、去年自分がプレゼントしたものを大事に思ってくれている弾の気持ちが嬉しくて、頬を染める。
「俺もお前も気に入って結構使っちまったじゃねえか。もうほとんどないだろ。お前のボトルまで勝手に持ってきてごめんな」
「ううん、嬉しい!」
二人の仲睦まじい様子を見て、店員は目を細める。
「こちらの二品は香りの相性抜群ですしね。それに、ここまでイメージぴったりなお客様もなかなかいませんよ!?」
そう言うと手際よくそれぞれのボトルに香水を詰めてくれる。
「これからもお使い頂くなら大ボトルもございます……けど、大事な記念のお品なら、これからもまた詰め替えにいらして下さいね」
「ありがとうございます!わー、またたっぷりになった、嬉しい〜!」
嬉しそうに満タンのボトルを手に取る真夢を見て弾も嬉しそうだ。
「ありがとうございます。今日は他のお品も見られますか?」
「お、どうする?真夢、香水好きだもんな。見てみるか?」
「うん、見させて貰おうかな!」
上機嫌で弾と真夢はフレグランスのブースに入っていく。そこには何十種と色とりどり、いや香りとりどりの香水がぎっしり並んでいて二人は驚く。
「うわーー〜、沢山あるな〜!」
「すげえな、あれ、でもお前去年見たんだろここ?」
「あっ、そうでした」
そう言って笑い合う二人を見て、店員は「本当に素敵なカップルだなあ」と微笑んでいた。
「へえ、これなんか可愛いな〜、ちょっとつけてみるね!」
そう言うと真夢は細い手首に香水をシュッとひと吹きして、そのまま手首の匂いを嗅ぐ。
「……うん!これすごく良い香りだよ弾くん!」
そう言うと弾の方に近寄り、今度は真夢の手首を弾の鼻に近づける。
「……おう」
「でしょ〜?」
普段の家での彼らなら、そのまま真夢の手首をあぐあぐ齧ったりしてベタベタイチャイチャするところだが、出先なのでそこはグッとこらえる。
「お二人はお付き合いされてるんですか?」
どこからどう見てもバカップル全開だが、一応業務上丁寧にお伺いを立ててくれる店員に、二人ははいと返事をする。
「去年、ここの香水贈ってキメました!」
「おい、言い方!?」
ニカっと笑って言う真夢に弾は照れるが、店員は大喜びしてくれる。
「ええ!?そうなんですか!!?それは私もすっごく嬉しいです!!」
ノリもいい店員とキャーと再び盛り上がっている真夢を、弾はやれやれと笑いながら見ていた。
「あ!!?じゃあ、待ってください。これ、こちら、どうぞこちらへ!!」
何かをハッと思い出した店員さんは、弾と真夢をブースの奥まで連れて行く。そして綺麗にディスプレイされた棚から、あるボトルを持ってくる。
「あのですね。ここの香水は重ね付け出来るってお話ししましたよね」
「そうですよね!覚えてます、だからよくお互いの重ねて付けてたりしますよ」
「さすがですお姉さん!でですね、こちら、これ、お二人の香りにぴったりかなと思いまして!」
「「え?」」
店員が持ってきたのは、真夢と弾のイメージカラーを足した様なボトルの色の香水だった。
「お二人にぴったりな香りだと思うんですよ。単品でも勿論ですが、お二人のお持ちの香水と相性抜群なんです」
「え、三つも香り合わせても平気なんですか?」
「そうなんです!勿論香りの相性はありますけど、三つ四つを重ねるお客様もいらっしゃいますよ」
「へーーすげえな。それで、これが俺たちの持ってるやつと相性がいいのか?」
弾がそう言ってボトルを手に取ると、店員さんは興奮気味に頷く。
「ええ!それも、お客様がご購入された香水のどちらの香りとも相性が良いんですよ!それだけじゃなく、三つ合わさった時の香りはすごく素敵なんです!」
弾と真夢は顔を見合わせる。
「へぇ……そりゃすげえな」
「すごいね!」
店員さんは単品から順に、重ね付けした香りを二人に嗅がせてくれる。
「まずはお兄さんのものとこちら」
「わーいい匂い!」
「本当だ、何かこう、マイルドになる?みたいな……」
「すごいですねお兄さん!?香水詳しいですね」
「いや、真夢が香水好きなんで慣れたって言うか……」
それでもすごいですよ!と続けて真夢の香りとの重ね付けを嗅がせてくれる。
「はわーいい匂い!……何か私語彙力消失して本当に香水好きなの?って感じだね??」
「あーー、何かこう、いい女感が増したって感じの匂いだな」
「ちょっと弾くん何なのすごくない!?」
三人は笑いながら香りを試す。そして。
「これが、三つ全てを合わせた香りです。いかがですか」
その香りを嗅ぐと、二人は息を飲む。
「なんつーか……すげーいいぜ、これは。な?」
「うん!すごくいいね!!」
その香りは、真夢の優しくて甘い香水と弾の力強いエネルギッシュな香水を足しても喧嘩せず、それらを調和してより良いものにしてくれているようだった。
「カップルになられたお二人に、一つ要素が増えたような。お二人を繋ぐような、共通点のような。そんな香りに、私には感じるんです」
店員は自信を持ってこの一本を勧めてくれていることがわかる。
弾は真夢の方を見て、真夢の目も真っ直ぐに見つめながら頷く。
「うん、俺もそう思うぜ。これいいな!なあ真夢!」
「うん!これにします!!」
二人は顔を見合わせて笑い合うと、店員も嬉しそうに笑ってくれる。そしてその香水がどんなものなのか、どういった人に合うのかなどを丁寧に説明してくれる。
「この香水はですね、お二人のようなカップルさんに特にぴったりだと思うんですよ。明るいけど落ち着く、幸せな香りです。いや、こんなにバッチリハマるものをお勧め出来るなんて店員冥利につきますよ本当に」
真夢と弾はもう一度目を合わせて微笑み合うと、店員に向き合う。
「ありがとうございます!大事に使います」
「ああ、俺たちを幸せな気持ちにさせてくれる香りだからな。これからずっと大事にするぜ」
「すぐ無くなっちゃうかもね」
「本当だな」
「ふふ、そしたらまたお二人で詰め替えにいらして下さい!その時にまたぴったりな一本もまた選ばせて下さい」
二人の笑顔を見て店員も嬉しそうに笑う。
「じゃあお会計……」
「お前、ワザとなのか??今日はお前の誕生日なんだから、どう考えても俺がプレゼントするだろ」
「え!?今日正に、なんですか!?おめでとうございます!!えと、ち、ちょっと待ってください!?」
そう言うと店員は慌てて何かを持ってくる。
「こちら、今、私が直感で選んできたお二人に似合いそうな香りのサンプルです。またお宅などで試して見て下さい!」
「え!?そんな、申し訳ないです……」
「真夢、そういう時は素直にありがとうって喜ぶもんだぜ」
「でも……」
「流石です、ご主人にお似合いなイケメンの香りももう少しサンプル付けますね」
テンションアップして旦那になってしまった弾へと店員は更にサンプルをねじこむ。二人は目を丸くして、そのあと満面の笑みで「ありがとうございます!」と礼を言った。
そうしてお会計を済ませ、商品を受け取る。その間も二人はずっとニコニコ笑顔で店員に見送られたのだった。
「弾くん!あの店員さんすごかったねえ!気さくで知識豊富で、香水への愛を感じたよ〜」
「そうだなあ……うん、本当にすげえ人だよな」
帰り道、真夢はずっとはしゃいでいた。それだけ今日のお店での体験が楽しかったのだろう。弾も心から賛同する。
「また一緒に詰め替えに行こうね」
「勿論だ」
弾はそう言うと、真夢の肩を抱き寄せる。
いつもそうだが今日は特にずっと機嫌良くニコニコと笑顔でいる真夢につられて、弾の笑顔もいつもより三倍マシでデレている。
「さ、じゃそろそろ帰ろうぜ……って言いたいとこだけど、ちょっと疲れたな。茶でも飲んでくか」
「え?大丈夫だよ。家帰ってなんか飲もうよ、その方が安いし」
既に同棲してる二人は、帰る場所も生活する場所も同じなのだ。こういうしっかりしている所も抜け目ないところも、真夢の凄いところだよなと弾は思うが。
「いや……その……」
「?」
「今日はお前の誕生日だろ!?いつもはそれでいいかもしれねえけど、今日くらいは外でいいお茶飲んで締めたってバチは当たらないと思うぜ?」
弾のその申し出に、真夢は目をぱぁっと輝かせる。
「弾くん……!そっか、そうだよね、ありがとう!」
素直に今日だけは甘えちゃおう!と真夢は弾に腕を絡ませる。その仕草に、弾も嬉しそうに微笑む。
「とか言って、そこのモールの中のカフェとかだったら……俺振られる?」
「んーん!惚れ直す♡」
「そいつは光栄だ」
弾と真夢は顔を見合わせると、くつくつと笑ってカフェへと向かった。
「いらっしゃいませ〜こちらのお席へどうぞ!」
店員に笑顔で案内されながら二人は奥のソファ席に通される。窓際で外がよく見える席だった。
「素敵〜!ね、見て、あれ何だろう!?」
窓の外を指差す真夢の無邪気な笑顔を見て、弾も微笑む。
そんな弾の顔を見てまた嬉しくなったのかニコニコする真夢を眩しそうに見た後、弾はメニューを手に取る。
「よしっ!今日はお前の紅茶まで俺がエスコートしちまおうかな?」
「ええ〜選ばせてくれないの?」
「……真夢〜〜!」
「あはは!うそうそごめん、お願いします♡でもここすごいね、紅茶のメニュー多いんだ……ね、一応私も選んでおいて答え合わせしていい?」
「よっし!任せろ!」
楽しそうにやりとりした後、弾はうむむとメニューと睨めっこする。そして数分後。
「よし、決めたぞ。今日のお前はこれだ!」
そう言って弾がメニューの中の紅茶名を指さすと、真夢は目を丸くして驚く。
「すごーーい!!それが良かったんだよ、弾くんさっすがー!なんだかんだダージリンなんだよやっぱり!」
「ふっ……まあな。じゃ、注文しようぜ」
(うん、それよく家でも言ってるしな)
弾が店員を呼び注文する。楽しそうにメニューを見る二人を見て店員もニコニコと嬉しそうだ。
そして数分後、二人の頼んだ紅茶が届く。
「うわーーーすごい!いい匂い!」
「だなー!!」
二人は目を輝かせて香りを楽しんでいる。
「……ねえ弾くん」
真夢が少し声のトーンを落として言うので、弾は首を傾げる。
「ん?」
「弾くんはコーヒーでもよかったのに、合わせてくれたの?」
「ん、まあな。俺だって紅茶嫌いじゃねえんだし、たまには一緒もいいじゃねえか」
「はあーーー〜何だよーーーー〜、こんなに幸せな誕生日で、私はもういんじゃうの??」
「バカ言え。いぬな。いなねえよ。お前は俺と生きるんだ」
え?と聞き返した真夢に弾はしまったと口元を抑えつつ、話題を変える。
「でもよ、紅茶って利尿作用があるよな?ワリ、トイレ行ってきてもいいか?」
「あはは!わかる〜、どうぞどうぞ、あ!いなないでよ!?」
「いなねえよ!!キッチリ三分で帰ってくるわ!!」
「やはは!!やだそれどうなの?長いの短いの??」
二人は笑いながらお茶を飲み、弾は宣言通りトイレへと向かう。
本当に三分で帰ってくるのか、真夢は笑いながらスマホで時間を見ながら来ているメッセージなどに目を通す。やがて三分は過ぎ、真夢はふふっと笑う。
「やっぱ三分は無理なんじゃん!まあ、ここ店外行かないといけないタイプのとこだからな〜」
など冗談まじりで呟きながら、続けて何となくネットサーフィンをしたりして時間を繋ぐ。
しかし。五分経っても、十分経っても弾は帰ってこない。だんだんと真夢は焦り始める。
「ええ?ホントに戻って来ない……電話……はトイレならウザいか、何だろ、何かもよおしちゃった……?」
十五分経っても戻って来ない所でいよいよ真夢も心配になり、電話をかけてみるが出ない。店員に事情を話して一度店から出してもらおうかと店内を見渡していると……ふと窓の外に大きな花束が高速で移動しているのが目に入った。
(何あれ??大きな花束……持ってる人見えないくらい、ふふ、それですごい速さ)
席からは持ち主の身なりはあまり見えなくて、大きな花束が高速移動してるように見えるのだ。そのコミカルな光景に真夢の不安な心がふっと緩む。
(いけない、ほっこりしちゃった……弾くんを探しに行かないと……ん??)
その花束が店の方にどんどん近づいて来るなと思っていると、店の前でピタリと止まった。
(え??)
そう思うのも束の間、その花束は店内に入って来たのだ。そしてそのまま真夢の席に近づいてくる。
「うそ……」
思わず独り言が漏れる。花束から生えているジーンズとブーツでその持ち主がわかる。
「だ、弾くん!?」
「すまねえ!思ったより花屋が遠くて……いや違え、違くねえけど、そんでお前に渡すのが申し訳ねえくらいデカくなっちまった!」
汗を滲ませ息を切らしている弾に真夢は驚きつつ、とりあえず席に座るよう促す。
「ほらよ!」
「あ、ありがとう……!」
そう言って花束を渡されるが……大きくてかなり重いので二人で抱えるような感じになってしまう。
「すまねえ。俺が持って帰るからよ」
「ちょっと弾くん!これすごくない!?いくらなの??」
「野暮なこと言うんじゃねえ!お前の誕生日だろ」
それは真っ赤とピンクの花を基調とした、とても綺麗で、とにかく豪華な花束だった。
「すごい……綺麗」
真夢はうっとりとその花々を見つめる。
「とか言ってな。実はそれ、俺だけの力じゃねえんだ」
「え??どういうこと?」
弾の言葉に真夢は驚くが、弾はため息まじりにことの経緯を教えてくれる。
-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*
「はあはあはあ、やべえ、花屋がモールの一番遠いとこだったなんてな」
弾は花屋を目指し、迷惑にならない程度に爆走する。
年に一度の、愛妻にするべき恋人の誕生日なのだ。サプライズで花束を渡してやりたい。
「色は俺の赤と真夢のピンクで決まりだな!あとは……店員さんと相談だな!俺センスねえから!」
ハハハと笑いながら、弾は花屋へと到着する。
「いらっしゃいませ」
「あ、すんません、誕生日のプレゼントに花束作りたくて……でも俺全然そういうの詳しくなくて……相談乗ってもらっていいっすか?」
「あら!素敵ですねー!じゃあどんな感じがいいですか?お相手の方のイメージカラーとかありますか??」
「イメージカラーか……」
実は決まってる癖に一応うーんと考える様子を見せる弾の顔を見て、店員もニコニコとしながら提案してくれる。
「……ピンクですかね。あと赤も入ってたら嬉しいかもっす」
「まあそれは同系色で素敵!お兄さんが赤だからお相手の方がピンクなんですね」
(うっ、バレてる!!)
内心焦るが、平静を装う。
「そうっす……ね。うん、まあ……」
店員は手際良く色んな花を選んでくれる。それを見ながら弾も自分なりの想いを花束に込める。
そんな時だ。
「おい、お前一人か爆弾」
「!?!」
店の外から声をかけられ、弾は驚いてそちらを見る。そこにいたのは……
「お、お前……!」
「ああん!?大龍社長にむこてお前とは何様や!?この爆弾男!真夢はどうした!?あ!!別れたんか!?」
「別れてねえわ!!!そんで誰が爆弾だ!!」
「ねえ、まくたんはどこにいんの〜ダサヘアバンドタンクトップ〜」
「ダサ……!?このやろ……」
「やめなさいよ、これで真夢さんの大切な人なのよ」
「一番ひでぇな!!?」
「……自分用か?」
「真夢のだよ!!!!」
声をかけられた順に、大龍、颯、凪、愛梨沙、嵐の鬼頭組御一行だった。
「ここはお前らがいるような場所じゃねえだろ!?何でいんだ!!」
「ふん、お前の許可が要るとでも?大体このモールも鬼頭組グループのものだ。市場調査もかねてな……時に月野真夢への花束だって?」
散々ディスられて大声を出す弾に、大龍は飄々と答え、更に質問する。
「うわあ、これ見よがしに赤とピンク選んでる、ダサ〜い!」
凪にバカにされ図星の弾がギロと赤面で睨むと、
「でも、真夢さんなら喜ぶわね」
愛梨沙がそうフォローしてくれる。
「お客様、こちらで……!?」
花束を仮完成させた店員さんが確認しに来てくれると、その派手すぎる面子にギョッとする。
(だ、大龍社長!?そ、それに鬼頭組幹部の方が沢山!?)
唖然とする店員をよそに、大龍が口を開く。
「何用の花束だ」
「うっせーな!何だっていいだろ!?」
「大龍くん、今日九月九日、まくたんの誕生日だよ!」
ぼやかそうとした弾に、真夢の親友の凪が秒で答えを披露する。
「そうか……そうだったな。オレとお前の誕生日の一ヶ月後は、あのおでこの誕生日だったな」
そう言う大龍と弾の誕生日は同じ八月八日なのだ。
「そや。俺はしっかりもうお祝いの連絡したけどな」
(知ってるよ!!お前からのメッセージも喜んで読んでたわ真夢!)
ぐぬぬ、と歯ぎしりする弾を見て、大龍は唖然とする店員の花束に目をやる。
「はあ……誕生日でこれか」
「何だと!!?」
「おい、店員」
「えっ!?は、はい!?」
「基調は悪くない。ただあまりにも貧相だ」
「な!!?大龍テメー!!」
花束をバカにされたと取った弾が大龍に食ってかかろうとするが。
「……違う」
「え?」
嵐に止められる。愛梨沙も「素直じゃないわね」と呆れている。
「量を二倍、いや三倍に増やせ。あと三倍派手にしろ」
「えっ!?」
大龍は店員にそう指示する。弾も店員もあっけに取られるが、凪や颯も横から注文をしている。
「そんで、紫のお花も入れてね!」
「そやな!赤より多く入れてもええな」
「ダメに決まってんだろ!?」
やいやい騒ぎ出す連中に呆然とする店員に、大龍が念押しする。
「いずれウチの仲間になる人間の誕生日用だ。とはいえ、一応このうだつの上がらない男の注文を基本にさっき伝えた通りに頼むぞ」
その言葉に店員は笑顔で「はい!」と返事をすると、店の中に戻りまたすごい勢いで花束を作り始める。
「え……どんな展開だよこりゃあ……」
弾が驚いていると、大龍はフンと笑って言う。
「安心しろ。費用はこちらで持つ」
「ざけんな!!誕生日のプレゼントだぞ、俺が出す!!」
「払えるのか?アレは言っちゃ何だが相当な額だぞ」
「!!?」
慌てて店内を覗くと、中で店員がとてつもない大きさの花束を作っているのが見える。
「まあ……数万コースですわね」
「数ま……!?花で!!?」
「知らないの?お花は高いんだよ?」
女子二人が弾にトドメを刺してくる。
「……」
「お前から出すなら、別で祝いの品も用意するんだな」
「うるせー!!それももちろんあるぜ!!」
大龍はそんな弾を見てクックと喉奥を鳴らす。
「……素直じゃない……」
そう言っている嵐に凪が突っ込む。
「キャハハ!手痛いね〜♪」
そんなこんなで十分後、店員が大きな花束を抱えて笑顔で出て来る。
「お待たせしました!」
その大きさに思わず弾も驚くが、すぐに笑顔になる。
「……すげえな、俺一人じゃ到底無理な花束だ……」
「当たり前でしょ!大龍くんだから出来るんだよ!」
そんなやりとりをしていると、大龍が店員にカードを渡そうとする。
「あっ!!?だから大龍、ここは俺が……!」
「ほう、お前にそれが出来るのか?」
そう言って店員の電卓を見るように促すと、弾は言葉を失う。
「……!!??」
「フン、無理なことは言うな」
その言葉に弾はまたカチンと来て……首を横に振る。その様子に愛梨沙がやれやれと助け舟を出す。
「全く、素直じゃありませんわね。色をつけた分だけこちらが払う、って素直に言えばいいじゃないですか」
「そやそや!真夢の誕生日なんや、ウチからもお祝いってことで」
「大龍社長……ツンデレ」
「キャハハ!今日は嵐くん冴えてるね~!」
鬼頭組幹部からもそう言われ、大龍はフンと鼻を鳴らす。
「やかましいわ。そうだな、一派遣のおでこにここまですることもないか……お前が払え爆弾」
「え!!?とはいえ、流石にこの額は今払うのはちょっと厳し……?」
焦る弾の目に、大龍の後ろから幹部四人が目配せをするのが飛び込んでくる。
(……そうか)
それを見た弾がうんと頷き、大龍に向き直る。
「すまねえ、流石にこれは計算外で予算オーバーだ。悪いが今日は、半額貸しといてくれやしねえか?」
カラッとした笑顔でそう頼む弾に、大龍もフンと笑う。
「いいだろう。だがこちらは大人数だ、貴様はそうだな……三割でいい」
そう答えたかと思うと、カードを店員に渡す。弾は提示された額を大龍に渡し、頭を下げる。
「助かった、ありがとな。俺一人じゃ買えねえ立派な花束が出来た。真夢も喜ぶぜ!」
「フン、礼を言われるまでもないわ」
そんなやりとりをしていると、店員が大きな花束を持ってくるので、弾は慌ててそれを受け取る。
「お待たせしました!」
「!!? 豪華なだけじゃなく、重いな!!?」
「ふむ……やりすぎたか、これは月野真夢には持てんな……爆弾、お前が持ってやれ」
「すごいな!?前が見えへんやんけ!?誰だかわからんぞお前」
「キャハハ!本当だね〜、あんまり遅いとまくたん心配するから早く戻んなよクソダサバンダナくん!」
何だと!!?と食ってかかりたいところだが、クソダサバンダナは置いておくにして、確かにかなり時間をかけてしまった。
「やべえ!!トイレに行くって出て三分で戻るって言ったのに!!」
「……腹を壊したと言えばいい」
「カッコ悪う!」
「うるせえ!!……でも」
弾は鬼頭組に向かって頭を下げる。
「今日はありがとな。ちゃんとお前達からもだって真夢に伝えるから」
大龍はまたも鼻を鳴らして吐き捨てるように言う。
「そんなこと言わんでいい。お前からの花束にすればいいだろうに、カッコつけおって」
「ははは!そうはいかねえよ。大体、金借りて買った花束送ってる時点でカッコはつかねえだろ!ありがとな」
「……月野真夢によろしく。おめでとう」
「また電話するって伝えといて〜!」
「俺も俺も!またどっか連れてってやるって言うとけ!」
「早く行ってあげて。おめでとう」
なんだかんだバカにしたり揶揄ったりしながら、皆んな真夢の誕生日を祝ってくれていることが分かる。
「おう!!ありがとよ!!」
弾はもう一度頭を下げ、花屋を後にし大急ぎでショッピングモール内を駆け巡った。
-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*
「……とまあ、こんな感じだ」
「そうなんだ……」
「だからな。これは俺からだけじゃなく、鬼頭組一行のお祝いも詰まってる」
そう言って二人で大きな花束を見る。店内のお客さん達も、その豪華な花束に思わず見入ってしまう。
「すごい……綺麗なお花。見た目だけじゃなくて、皆んなの気持ちが詰まってて、本当に綺麗で嬉しい……ありがとう弾くん」
真夢は涙目になりながら、花束を愛おしそうに眺める。
「だからな、俺からだけじゃねえんだって。カッコ悪いだろ」
そう言って苦笑する弾に真夢は首を振る。
「そんなことない!カッコいいよ」
「そおかあ?だって……」
「弾くんだから。弾くんだから、きっと大龍さん達も声をかけたんだと思う。弾くんの人柄がそうさせたんだよ」
真夢の思わぬ言葉に、弾も赤くなる。
「……そうか」
「うん!……そんなのって、すごくカッコいいよ!ありがとね、弾くん!」
そう笑顔でお礼を言われて照れるが、やはりこうして真夢に喜んでもらえるのが弾は一番嬉しいのだ。
「ありがとな。でもな、俺は逆だと思ったぜ」
「え?」
逆とは?と、真夢はキョトンとする。
「アイツらも、お前の人柄に惹かれてるんだと思うぜ。お前だからこんな大きな花束になったんだ。アイツらをこんな気持ちにさせるなんて、お前はやっぱすげえな」
弾の思わぬ言葉に真夢は驚くが、そのおかげで自分の行動が肯定されたようで嬉しい気持ちになる。
「……そっかな?」
「ああ、そうだぜ!ったく、どんな籠絡の仕方したんだ?」
「しっ、してないよ!普通に働いてただけだよお!」
「本当かぁーー〜?」
「本当だってば!!」
真夢を揶揄うように、弾は「うりゃ」とまたも真夢の鼻をつつく。
「ふがっ!」
そんなやりとりをしている二人はまさに幸せ絶頂のバカップルといった感じだが、周りの人たちには、迷惑だとかうわあ……といった負の感情はなく、その幸せそうな雰囲気でほっこりしている。
「お茶が冷めちまったな、申し訳ねえ」
「いいよ!冷めても美味しいもん」
そう言って顔を綻ばせる真夢を、弾は再度キュンとしながら見つめる。
「なあ真夢、俺……お前と出会えて本当に良かったぜ」
「……弾くん……」
「自分以外の誕生日でこんな幸せな気分になれるなんてよ。ありがとな、真夢」
そう言って微笑む弾は、いつものおちゃらけた感じではなく、本当に心からそう思っているのだとわかる。
「そんな〜、大袈裟だよぉ」
うるっときた真夢が逆に少しおちゃらけて返すと、弾はまた幸せそうに微笑む。
「だからな」
「?」
「改めて、誕生日おめでとう」
「あ……ありがとうっ!!」
弾の優しい眼差しに、真夢はまたも涙が零れそうになる。そんな涙を弾が指で拭ってくれる。
「それでな?」
「??」
「これは、俺が一人で用意したもんなんだけど……」
そう言って弾は大きな花束の影から小さな紙手提げを出して真夢の前に置く。
「これは?」
「受け取ってくれるか」
「うん……それは勿論だけど、なあに?」
もう沢山貰ってるはずなのに、と、真夢がその小さな包みを開けると、そこには……
「……え?」
中に入っていたのは、赤いリボンがついた白い箱だった。
「弾くん……」
「開けてみてくれ」
弾に促されるまま、真夢はその箱を開ける。すると中には……
「……っっ」
真夢は息を呑む。そんな真夢に弾は落ち着いて告げる。
「真夢、俺と……結婚してくれ」
それは、宝石の付いた指輪だった。
「……!?」
弾が用意した小さな箱は、自分の給料数ヶ月分の婚約指輪であったのだ。
「……!!!!」
言葉にならない真夢に弾は続ける。
「俺、こんなだし、まだまだ稼ぎも少ないけど。でもな、俺はお前を手放したくない。一生懸命働くし、必ずお前を幸せにするよう努力する。だから、ずっと側にいて欲しいんだ」
そう言って真夢の左手を取ると、薬指に指輪を嵌める。
「真夢、俺と結婚してくれないか」
その言葉に……真夢の涙腺は完全に決壊し、ポロポロと大粒の涙を流しながら弾を見つめる。
「!? 嫌か?そ、そうだよな!いきなり困るよな!」
慌ててしまう弾に、真夢は必死で首を横に振る。
「違うのっ!!すごく嬉しくて……!胸がいっぱいで……本当に私、幸せ……」
「真夢……!」
「喜んでお受けします。どうぞよろしくお願いします」
そんな真夢の手をギュッと握り、弾も泣きそうな声で言う。
「……良かったあ……」
「ありがとう……弾くん、本当にありがとう」
「とんでもねえよ。なんて事ねえ、こんくらい!」
「……可愛い指輪だね」
「そ、そうか?俺、センスねえし。一緒に選んだ方が真夢の好きなの買えたんだろうけど、流石にこういうのは自分で選んだ方がって……気に入らなかったらどうしようかと思ったぜ」
「そんなわけないよ……嬉しい。すごく嬉しいのに、私また泣いちゃって……ごめんね」
真夢の涙を指で拭ってやりながら、弾は優しく微笑む。
「謝ることねえよ。それだけ喜んでくれたってことだろ?俺こそありがとうな」
「え?」
「お前が俺のプロポーズ受けてくれた今、俺は世界一幸せだ!」
そう言って笑う弾に真夢も笑顔で答える。
「残念でした。世界一幸せなのは、私だよ!」
その言葉に弾はまたも泣きそうになるが、グッと堪える。
「そか……良かったぜ……」
「……でも、どうする?」
「??」
「もう、弾くんを離せない!」
真夢はそう言ってにぱっと笑う。そんな真夢にいよいよ弾は大粒の涙をぱたたっと溢す。
「!? 弾くん!?」
「……いや、嬉しくてな……真夢がそんなこと言ってくれるなんてよ……」
「だって!もう本当に私、弾くんのいない人生なんて考えられないもん」
泣き笑いしながら真夢はぱあっと花が咲き乱れるような笑顔になる。
「俺もだ……だから、一生側にいてくれよ」
「……うんっ!!」
そんなやりとりをしながら二人は見つめ合うと、どちらからともなくキスをする……雰囲気ではあるが、カフェの中なのでグッと堪える。
しかし周りは二人の幸せムードにあてられ、「いいなあ……」「お幸せに……」と祝福してくれる。
「……私、貰ってばっかり」
「え?だって誕生日なんだから当然だろ」
ぽつりとつぶやいた真夢に弾はケロッと答えるが、真夢は首を振る。
「違うよ!いくら誕生日だからって、貰いっぱなし」
香水も、食事も、お茶も、この大きな花束も、それに指輪まで……
真夢は鼻を啜りながら、弾の手を握る。
「私に、何が返せるだろう」
「何だそんなことか。バッカじゃねえの真夢」
軽口で突っ込まれた真夢は「なあっ!?」と声を上げる。
「何言ってんだよ、お前俺にさっき言ったろ?」
「え?私何か言ったっけ……?」
さっきの会話を思い出しながら考えるが、心当たりがない真夢に弾はニヤリと笑う。
「そうだぜ〜、この流れで言ってくれねえとか意地悪だよなあ」
そんなやり取りを周りのお客さんたちが聞き耳を立てているのも気づかず、真夢は必死に思い出そうとする。そんな真夢を周りも内心応援しているが、弾は優しく微笑むと真夢の代わりに口を開く。
「俺と結婚してくれるって言ったろ。それで十分だ」
「弾くん……」
(良く言ったお兄さん!!!)
感動する真夢と、内心スタンディングオベーションのお客様さん達に、弾は続ける。
「それにな、真夢も俺に沢山のものをくれたぜ」
「え?」
「一緒に飯食って、話して、笑って……こんな幸せな時間をくれてよ」
そう言って真夢の手を握ると、優しく微笑む。
「……弾くんのスパダリ」
「はあ?何だそりゃ」
弾はケラケラと笑うが周りもうんうんと納得せざるを得ないほど、真夢に対してのみ弾は紛うことなきスパダリなのだ。
「そろそろ行くか!」
「うん。弾くん、ありがとう」
周りにニコニコ見送られながら、弾は馬鹿デカい花束を周りにすみませんすみませんと謝りながら会計を済ませて店を出る。
「今日の全てが宝物だよ」
「真夢」
「あ、違うな。弾くんと恋人になれた時から、いや、それも違う。弾くんに出会った時から、私は毎日が宝物なんだからね!」
「真夢〜〜!!」
二人はきゃははと戯れながら家路につく。家に帰り、二人でお風呂に入り、同じ布団に入り、しっかり愛し合う。
「ふふ……」
「どうした?」
「ん……私、世界一幸せ者だなって」
真夢はそう言うとギュッと弾に抱きつく。そんな可愛い仕草に弾もついニヤけてしまうが、真夢の頭を優しく撫でてやる。
「俺もだぜ。でもな」
そう言って真夢の額にキスをすると、真夢は擽ったそうに身をよじる。
「俺は世界一、いや宇宙一幸せだ」
「……んもう!」
二人は見つめ合うと笑い合い、そのままキスを交わす。
「婚約指輪は俺が選んだけどさ」
「うん?」
「結婚指輪は一緒に選びに行ってくれよ」
「センスないから?」
「うぉい!!はは、違えねえ!」
「んふふ、嘘だよぉ。うん、一緒に行こうね」
「……今も一緒にイッていい?」
「あっ、こらぁ……んん」
「今日はこのまま、ナカに……」
真夢は紅潮したままこくんと首肯すると、胎内に弾の熱いものが放たれる。
「真夢……愛してる」
「……私も、だよ……」
二人はそのまま抱き合って眠りにつくのだった。
それは幸せな真夢の誕生日であり、これからの弾と真夢の一生もまた幸せであると決める日となったのだった。

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