真夢が事務所で倒れた。
その一報を受けた俺は、現場から転がるようにして事務所へと向かった。全力疾走で事務所のドアを開ける。
「まくるああああぁぁあああ!!!」
俺の叫び声を聞いて、真夢と同じ事務員で社長令嬢のカンナが驚いてこちらにやってくる。
「弾くん!?現場からもう来たの!?ものの数分で!?」
「まっ、まくっ、真夢は!?倒れたって何だ!?」
息を切らして捲し立てる俺に、カンナは落ち着いてとなだめてから答えた。
「真夢ちゃんなら医務室にいるよ。倒れたって言っても……」
「医務室だな!!わかった、サンキューな、カンナ!!」
「あっ!?弾くん!?」
カンナの言葉も遮って、俺はまた走り出した。
そして勢いよく医務室の扉を開けると、そこには……ベッドに横になっている真夢の姿があった。
良かった……無事だった……のか!?
「弾くん!?どしたの!?」
「どしたって……、おま……」
俺は真夢の言葉を聞いてベッドの横にへたり込む。
でも、真夢が無事なら……いや、まだ聞いてねえよな!?
「倒れたって聞いて、現場から吹っ飛んで来たんだよ、弾だけに」
「なあに、それ」
コロコロ笑う真夢はいつもの真夢のようで、少し安心したが、まだ油断は禁物だ。
「倒れたって言っても、めまい起こしてその場にへたり込んじゃっただけなんだよ。バターン!!って倒れたわけじゃないの」
「何だ……ならよかっ……たって言っていいのか!?」
俺の言葉を聞いて真夢は少し表情を変える。
「弾くんにとってはどうだろう……」
「何だそれ!?」
真夢は俺の顔をじっと見る。
「ねえ、何か心当たりない?」
「心当たり??……お前に過度なストレスをかけたのか……俺が……」
俺の返事に真夢は心底呆れた顔になる。
「はー……、やっぱりね。弾くん、鋭いのに鈍いよね。私デスクに戻るから弾くんも現場戻って?」
「いや、そんなわけにはいかねえだろ!?お前は俺の大事な嫁さん……になる人なんだから」
その言葉に真夢は目を丸くしたあと嬉しそうに微笑む。
「ふふ……ありがと。じゃあ、帰り買い物に付き合って?」
「勿論だ。あと、この後は俺も事務所にいるからな。なんかあったらすぐ言えよ」
「弾くん……ううう、会社じゃなければ今すぐちゅーしたい」
そう言いながら真夢は両手で顔を覆う。可愛すぎか!!!
「そうだな、医務室でちゅーなんてもってのほかだ」
そう言って音が立たないようむにゅっとキスすると、真夢はジト目で「困った人」と伝えてくる。舌を入れたところで頬を優しくつねられた。
「ありがと。弾くんが居てくれたら私も安心して仕事できるよ。一緒に下りよう?」
「真夢、愛してる」
「もう!!」
真夢の照れ笑いを見て、俺はまだ早いと思いつつ、とりあえずは安堵した。
二人で並んで階段を降りると、カンナが待っていた。
「真夢ちゃん大丈夫?弾くんたら説明も聞かずに行っちゃうんだもん。源さんが慌てて伝えて大袈裟に伝わっちゃったんだねきっと」
「ああ、悪い悪い。ったく源三の野郎、あとで文句言わねえと!でもまあ、俺たちを心配してくれてのことだからな、大目に見てやっか!これから俺も事務所に残るから。何かあったら言ってくれよ」
二人ともはあい、と笑顔で持ち場に戻って行った。
そして、退勤時間。
「真夢、帰るぞ」
「弾くん!?まだ鐘鳴ってる所だよ!?」
「いいんだよ!お前は今日は早く帰るべきだ!」
俺たちのやりとりを聞いてカンナがやって来た。
「真夢ちゃん、私もそれがいいと思う。早く帰って検査したほうがいいよ」
検査!?検査って言ったのか!?真夢はやっぱりなんかの病気なのか!?
死にそうな顔の俺を女二人が呆れ顔で見ている。
「うわあ……私でも弾くんの考えてることわかるよ」
「でしょう?」
真夢がはあっと軽くため息を吐いてカンナに同意する。
「ちょっと待て、何の話してるんだよ!?」
「「はーーあ……」」
今度は二人してため息を吐く。何なんだ!?
「真夢ちゃん、早く帰ってあげて。薬局閉まる前にさ」
「薬局!!?」
俺の酔狂な叫び声がフロア中に響いた。
真夢は「わあ!弾くん、静かに!」と慌てて帰り支度をして、カンナにごめんね、と言いながら申し訳なさそうに退勤する。
「何言ってんの、定時でしょ!何の問題もないから早く帰ってあげて」とカンナは笑顔で送り出してくれた。
そうして転がるように退勤した俺達。真夢の手を引いて夕方の商店街を歩く。
「真夢、俺に出来ることがあったら何でも言ってくれよ!?」
「うん、ありがとう。でも本当に大丈夫だから」
「本当か!?」
「心配性だなあ、もう。多分病気じゃないから。ほら、着いたよ薬局」
見上げるとドラッグストアチェーン店の看板が見える。
「……薬じゃねえか……」
「もう、わかってて言ってるの?病気じゃなくてもお世話になること、ありますよね??」
「?? すまん……何か変なこと言ったか??」
「もー、仕方ないなぁ」
そう言うと真夢は店の中へ入っていった。
真夢はキョロキョロして売り場を見て周り、目的の場所を見つけたようだ。俺は大人しく着いて回るが、そこは……
確かにお世話になる場所だった。
だけど真夢、それならストックがまだ三箱はあるぜ?
「真夢、それならまだ……」
「そっちじゃないの。こっち」
「え……?」
真夢は呆れながらも真剣な表情だった。彼女が指差す先には……妊娠検査薬のコーナーがあった。
「………?」
「………」
「え?」
「うん」
俺は真夢の顔をポカンと口を開けながら見る。
「え……?え……?」
「……え……じゃないよ。まったく……」
これ、名前の通り妊娠してるか検査するやつだろ?真夢はこれが必要なのか?……てことは……
「え?真く……誰の……」
「子だ?なんて聞いたらぶっとばしだよ?」
真夢は怖い顔で俺の顔と股間とを交互に睨んでいる。そりゃそうだ。寧ろ相手が俺じゃなきゃ俺はこの場で死ぬ自信がある。
「どれがいいんだろ?当然だけどこんなの使うの初めてだから全然わかんないや」
真夢は使い物にならない俺を置いてけぼりにして、商品を選び始めた。俺は真夢の様子をぼんやり見ながら頭の中を整理する。
真夢は妊娠検査薬が必要らしい。相手は俺だと言っている。てことは、てことは……!?
「真夢、俺との子ども……が出来たってことか!?」
「まだそんなこと言ってたの?ほら、わかんないから一緒に選んでよぉ」
俺の袖……はタンクトップで無いから、二の腕をくいくいと掴む真夢をギュッ!!と抱きしめる。
「ぎゃあ!?」
「真夢……真夢!!マジなのか!?やった!!」
「ちょっ、ちょっと!!人前でしょ!?」
「あ、ああ、いけね。ごめん、つい」
あまりの嬉しさに人目も憚らずに真夢に抱きついた。幸いこのコーナーには人はおらず、恥ずかしい思いをせずに済んだ。
「それにね、まだわからないでしょ?だから検査するんだよ。この一番安いのでいいかな」
「ばか言え。こっちの高いやつにしろ!折角なんだから」
「ええ!?んー、じゃあ間をとってこれにしよう」
真夢は中間価格の検査薬を手に取り会計に行こうとするが、俺がそれを取り上げる。
「あっ、弾くん!?」
「いいんだよ、これは俺が買うべきだ。な?」
「うー……、ありがとう」
真夢は少し頬を赤らめて素直に俺に会計を任せてくれた。
帰り道で今日の出来事を聞く。
「最近、眠くって眠くってさ。ちゃんと夜寝てるのに」
「ああ、そうだな。最近お前疲れたって言ってすぐ寝ちまうよな。寝落ちしてたりもして……風邪引くからやめろよなアレ」
「うん、ごめんごめん。でね、事務所でも眠くて、必死に何とか仕事してたんだけど、それでも寝ちゃいそうだから少し動かないとと思って、書類でも探しに行こうと思ったの。そしたら、立ち上がった途端ふらついて、その場にしゃがみ込んじゃってさ」
「そんな……大丈夫だったのか?」
「うん、たまたま近くにいた人が支えてくれて。でもその人の腕を掴もうとした瞬間、目の前が真っ暗になって倒れそうになったの」
「危なかったな……」
それを見ていたカンナが具合が悪いのかと心配してくれて、一緒に医務室に行ったのだと言う。
「医務室の先生に色々聞かれて答えるうちに、月野さんそれ妊娠してるんじゃないですか?って言われてね。もうびっくりしたよ」
「それであの検査薬か……」
「うん。私もまさかとは思ったけど、一応ね。でももしそうなら……嬉しいなぁ……」
「俺だって、俺だってめちゃくちゃ嬉しいぞ!」
「ふふ……ありがと」
俺は嬉しくなって真夢の肩を抱く。
「あれ……でも避妊はしてたのにおかしいな?まあ、それも100パーではないだろうし」
俺の発言を聞いて真夢がジト目で俺を見る。
「ひょっとして弾くん……忘れてない?」
「……何を?」
真夢は周りを見回して、あまり人気がないことを確認してから小声で言う。
「……思いっきり、漏れちゃってた事、あったでしょ?」
そう言って自分の下腹部をさすった。
「あ……あー……そう言えば、あったな……」
俺は真夢の言わんとしていることを理解して、急に恥ずかしくなる。
「そもそも毎日のように、その、してれば、避妊してても弾くんの言う通り100パー防げるって訳じゃないかもだよね。あの日はさ……」
「ああ、あれか……申し訳ねえ……」
その日も何度か身体を重ねて。もちろん避妊はしてた。けど……何だかその日はお互い凄くいつもに増して気持ち良くて、興奮して……思いっきり射精した後引き抜くと、量が多すぎてコンドームから溢れてしまったことがあった。
「今思えば、排卵の時だったのかもしれない。だからいつも以上に敏感になってて……避妊してるからってあんまりそのこと考えてなかったかも。油断しちゃって、ごめんね……」
「何言ってんだお前……真夢のせいじゃねえだろ。俺だってちゃんと把握しとかなきゃいけなかったし、その、そもそも漏れるくらい出すなっつー……」
数ヶ月ぶりのセックスとかならまだわからなくもないが、毎日というほどしてるのに、そんなに盛ってたのが恥ずかしくて頭を掻く。
「それは全然問題ないでしょ。量まで管理できるわけないんだしさ。それほど気持ちよかったのなら私は嬉しいし、それに……弾くんも無意識に何となく分かってたのかもよ。種の保存みたいな感覚でさ」
まあ確かに真夢の言う通り、精液の量まではコントロール出来るわけじゃない。真夢とのセックスはいつでも最高だが、特にあの日はすげえ良かった。真夢の排卵を本能的に察知して、子を成したかったのだろうか。
真夢のお腹の中に俺たちの子がいるかもしれないと思うと、愛おしさがこみ上げてくる。
「真夢……」
「えへへ……今更照れ臭いね」
そう言ってはにかむ真夢はまた惚れ直す程可愛かった。が、その後ちょっと強張った顔になり、何かを言いたそうにしている。何だ?
「真夢?」
「えっ!?」
「何かあんのか?言いたいこと」
「えーっとね、その……」
真夢は強張った顔のまま俯いて言い淀んでいる。その後、顔を上げ俺をじっと見て、口を開いた。
「あのさ……」
「うん?」
「あの……、もし、本当に妊娠してたら……どうする?」
どうする??どうする?って何だ?
真夢は緊張した面持ちで俺の答えを待っている。
「どうする、って何だ?」
俺は思ったことをそのまま口に出す。すると真夢は
「まずは……産むか、産まないか……かな……」
と俯いて呟いた。
おいおい真夢、お前何言ってんだよ?
そういや医務室でも「弾くんにとってはどうかな」とか言ってたな。俺が予想外の妊娠を受け入れないと思ってるんだろうか。
「真夢」
声をかけると真夢はビクッと身体を震わせ、恐る恐るこちらを見た。
「あは、はは、まだ気が早いよね!検査しないと妊娠してるかもどうかも分からないのに。先走ちゃってごめ……」
泣きそうな愛想笑いで取り繕おうとしてる真夢の言葉を遮って、俺は話す。
「俺にとっちゃ、大歓迎だよ。そりゃ身に覚えアリとはいえ突然だったし、最初は戸惑うかもしれねーけどさ。でも、真夢と俺との新しい命なんだぜ?喜んで産んでもらいてえよ」
「ほんと?」
「当たり前だろ。お前は?どうなんだ?」
真夢の意見も聞かねえと。俺は嬉しいだけだが真夢はそうじゃないかもしれない。
「私は……もしいたら、凄く嬉しいし産みたい。でも……」
「うん?」
「まだ結婚もしてないのに……」
何言ってんだ、お前はよ。
そんな事で心配させたくないし、する必要なんてないんだよ。だって俺は。
「あのな、真夢。俺は結婚するのも子ども作るのも、全部真夢としか考えられねえ。まあ順番としては前後したかもしれないってだけだ。それが少し早まっただけなんだよ。未婚の状態で妊娠したかもっていうのは確かに不安なのかもしれないけど、お前が心配することなんて何もないんだ。だって俺は……」
立ち止まって真夢と向き合う。
「真夢、俺は、俺の人生の全てをお前にかけるって決めてるんだぜ。愛してるから。重いだろ」
そう言って笑うと、真夢も微笑み返してくれる。
「ふふ……重いね。でもね、嬉しい。それに、私の愛も重くて深いよ」
「知ってるよ。一緒だろ。だから安心しろって」
真夢はようやく笑顔を見せてくれた。
「ありがとう、弾くん。ここまで言ってて違ったらごめんね」
「いいよ。もう色々悩むのめんどくせえからどっちにしろ俺と結婚して下さい」
「ええ!!?今!!!?」
「今じゃなくていつ言うんだよ。結婚しよう、真夢」
プロポーズの言葉を口にすると、真夢は感極まって目を潤ませている。
「はい……お願いします」
涙声で返事をするその姿はとても綺麗だった。
「ああ……泣くなって。本当涙脆いんだからなお前……あ、何かそんなの聞いた事あるぞ。妊娠してるとそうなるって。やっぱりいるんじゃねえの」
真夢は慌てて自分の目元を拭う。
「どうなんだろ……検査するの怖くなってきたよ」
「何も怖くねえよ!とりあえずさ、帰ったらやってみて、後日一緒に病院行こうな。それから役所にも行かなきゃな」
「うん!」
嬉しそうな表情の真夢を見て、俺も幸せな気分になる。
「生理遅れてんだっけ?」
「うーん……五日くらい?」
「もう確定じゃん」
「やめてー!もう緊張して吐きそう!何よお、弾くんなんてゴム漏れしてたことさえ忘れてたのに余裕でさー……!」
「だって、どっちにしても俺は幸せだもんよ。そりゃ気付いた時は驚いたけどさ、今は心の底からそう思ってるし、絶対後悔しねーから」
真夢は恥ずかしそうに笑って、また俺の腕に抱きついてきた。
「弾くん……大好き」
「ああ、俺もだ」
そうして俺と真夢は、俺の部屋へと帰って行った。
しばらくビビった後、真夢は意を決してトイレへ向かい、しばらくゴソゴソしてると思ったら中から「ひいい!」とか聞こえてきて、思わず吹き出しちまった。
「おい真夢、何だよそりゃ。そんな感想あるか?」
俺がドアの外から声をかけると中からふらりと出てきて、俺の胸に顔を埋めて震えていた。
「……だって……かけたら暫く横に置いておきましょう、とか書いてあるのにさ……へーそうなんだあなんて思ってかけたらさ……もう検査窓に到達するや否や……」
「どれ」
真夢を抱きしめたまま中を覗くと、検査薬が律儀に水平に置かれていて、そこにはくっきりと陽性反応の線が浮かんでいた。
「心の目で見ないと見えないくらい薄い場合もあるってネットには……」
「俺の目にはこんだけ離れててもあの線くっきり見えるぞ」
「私も」
真夢はまだ呆然とした様子で俺の腕の中で一緒に検査薬を見つめている。そんな真夢の頬を両手で包んでこちらを向かせた。
「ありがとな。いたな、赤ん坊。真夢、お前はお母さんだ」
真夢ははっとした顔をして、すぐに俺の胸にぎゅっと抱きついた。
「弾くん……ありがとう……本当に……」
「俺こそ、だよ。俺を選んでくれて、俺と一緒にいてくれて、ありがとう」
「……もう、あんま泣かせないで」
「はいはい。おう、お前もありがとうな。俺と真夢のところに来てくれて」
そう言って真夢の腹を撫でると、真夢はますます泣いてしまった。
「ううう弾くんのばかあ……ありがとう……好きだよ……愛してる……」
「ばかでいいよ。お前と居られるなら何だっていい。ああ、早く会いてえなあ」
それを聞いた真夢はまた泣いた。
そうして俺たちは、二人でソファに腰掛けて、まだ膨らんでもいない真夢の下腹部に手をやりながら語り合った。
男の子かな、女の子かな。
あいさつにも行って、籍も入れないと。
職場にも色々報告しないといけない……けどまずは病院でしっかり診てもらわないと。
これから忙しくなるけど、幸せな忙しさだな。
数日後、病院で無事真夢の妊娠が確認された。まだ初期だが今のところ何の問題も無いそうだ。
これからもきっと何の問題もなく順調に育って生まれてきてくれる。勿論俺と真夢もきっと元気で幸せでいる。根拠を聞かれればそれまでだが、俺にはそんな確信があった。
さらに数日後の週末には、お互いの家に挨拶に行った。元々お互いともにお互いの家から気に入ってもらえていたのもあって、けしからん!なんて言ってくる人は一人も居なかった。
いつ結婚するんだ、なんて常々言われてたもんな。別にいつだって良かったんだ。だから今回の事はいいきっかけになったとしか思えねえ。
真夢の妊娠を皆んな喜んでくれた。特に俺の両親の喜びようったら無かったぜ。母ちゃんは飛び跳ねて喜んで、親父は言葉を無くしてた。妹も嬉しそうにはにかんでた。
真夢のご両親も大層喜んでくれた。親父さんは内心怒るんじゃ……?とか実は思っていたが、ニコニコしてくれていた。真夢そっくりの妹LOVEな兄ちゃんも同じようにニコニコしていた。
だが俺は、この二人を怒らせたら地獄に落ちることを知っている。
まあそんなことにならないよう、俺がしっかりやっていけばいいだけの話だ。私だってそうだよ、と真夢が一緒に歩んでくれるって、言わずともお互いに伝わっていたようだった。
「何かあっけなく全部終わっちゃったね」
「そうだな。でも式とか指輪とかそういうのはまだだしさ」
「急がなくたっていいよ。戸籍はもう夫婦なんだし。式は、後でだっていいもん」
「指輪は?」
「あはっ、バレた?ちょっと欲しい」
冗談冗談、と言って真夢はコロコロ笑ってた。
「買うよ」
「え?冗談だってば」
「俺が欲しいんだよ。順番逆で申し訳ないけど、結婚指輪がまず欲しい」
「弾くん……仕事場じゃつけられないでしょ?」
「仕事中はこいつに通しとく」
いつものネックレスを摘んで見せると真夢は笑って、それから泣き出した。
「真夢……?引いたのか??」
「ううん、違うの。嬉しくて……幸せ過ぎて……どうしよう……」
「俺もだよ。真夢はずっと付けとけよ〜?あ、でも妊娠のむくみとかあったら無理すんな、赤ちゃんの世話もあるもんな」
真夢は涙を拭って頷いた。
「付けるよ。弾くんも私と一緒の時は付けてね」
「バーカ、仕事以外の時はいつでも付けるぜ!仕事にも支障なかったら外さねーし。あ、でも俺のセンスアレだから一緒に選んでくれよな?」
笑いながら真夢は俺の腕にしがみついてくる。
婚約指輪も絶対金貯めて買ってやるんだ、それはセンスがアレでも俺が選びてえな。デカい石のやつ。頑張って働かねえと。
俺たちは幸せだ。微笑む真夢の見た目は一人でも、俺の愛する二人分の温もりを感じる。こんな幸せな事が他にあるだろうか。
「愛してる」
「私も」
これからも、どんな事があっても、俺たちは二人で支え合って生きていく。
これからも、いつまでも、二人で。
「三人でしょ?」
「いや、それもわかんねえぞ?何人生まれるかなんて、まだまだわからねえ!」
あはははそうだね、と真夢が笑う。
この先彼女が元気な子を三人も産んでくれて、楽しい家庭が築けることは、今の俺たちには知るはずもない事だけど、俺と真夢は満たされていた。
とりあえず今のところは二人で手を繋ぎ、三人寄り添いながら家路につくのだった。

コメントを残す